軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第〇回保護者会

――イルフェナ・エルシュオンの執務室にて(アルジェント視点)

ミヅキがサロヴァーラへと向かったのと入れ替わるように、ゼブレストの宰相殿がエルを訪ねて参りました。

ハーヴィスの一件の際、ルドルフ様をこちらに滞在させた以上、宰相たる彼までこちらに来るわけにはいかなかった。

それゆえに、今更ながら当時のことを直接聞きたい……というのが今回の目的です。

……。

目的の半分ほど、ですけどね。

「今回のことは本当に申し訳なかった」

「いえ、ルドルフ様から庇って頂いたと聞いていますので……。それに貴方の騎士達も謹慎処分を受けたのでしょう?」

「それは当然だよ。私は彼らの矜持を汚すつもりはない」

当然のように言い切るエルに、宰相殿は暫し沈黙し。

「……そうですね、この国はそういう気質の者達が確かに多い」

そういって、黙って頭を下げました。これ以上の謝罪は不要だと悟ってくださったのでしょう。

事実、クラウスを始めとする謹慎処分を受けた騎士達とて、それに不満を抱いてはおりません。

実力至上主義という国の気質もありますが、王族直属の騎士ともなれば『守れなかったことは事実』と受け止め、己が力不足を恥じる者が大半でしょう。

『努力した』では駄目なのです。結果が伴わねば意味がない。

ミヅキが我々に受け入れられたのは、彼女も似たような考え方をするからであったからだと思います。綺麗事など言いませんしね、ミヅキは。

まあ、その分、手段を択ばない傾向にあるのですが……ミヅキ自身に身分がない以上、これは仕方がないことなのでしょう。

ハーヴィスの一件においても、それは発揮されておりました。自分勝手な行動を取ることが多いミヅキですが、必ずと言っていいほど、何らかの意味があるのですから。

ハーヴィスの砦を落としたことこそ、その最たるものでしょうね。

あっさりと砦が陥落した事実に、ハーヴィスの者達は『魔導師はいつでも国を落とせる』と認識し。

また、砦に居た者達を『特定の条件の下』に逃がしたことで、ハーヴィスからの反論を封じ。

そして、ある程度裏を読むことができる者達には『必要ならば兵の命さえも利用する』と理解させ。

表面的なことからすれば、『魔導師がハーヴィスの砦を落とした』というだけですが、そこには多くの意味が隠されているのです。

少なくとも、ハーヴィスの宰相殿と王妃陛下はその意味を正しく受け取ったことでしょう。……『これらは魔導師からの警告だ』と!

単純な力押し――これだけでもハーヴィスにとっては脅威だと思われます――だけでなく、状況を都合よく作り出せる者。

そんな人物が本格的にハーヴィスを荒らし始めたら、どうなることか――

……その唯一の抑止力がエルなのですから、ハーヴィスの者達は頭を抱えたことでしょう。なにせ、エルを襲撃しておりますしね。

同時に、ルドルフ様のことも脅威として認識したのではないかと思います。

今回、ルドルフ様はミヅキの良き協力者でした。ですが、ルドルフ様とて狙われた者――『ミヅキが打ち合わせできるほど会うことは不可能』なのです。

ルドルフ様の精神状態を考慮し、会うこと自体は許されましたが……それでも二人で何らかの企みをすることはできませんでした。

イルフェナを訪れたことも含め、ルドルフ様は一国の王としての滞在です。ミヅキの企みに巻き込むなど、許されることではありませんから。

……ところが、ルドルフ様はミヅキの良き協力者でありました。

逆に言えば、あの二人には打ち合わせなど必要ないのでしょう。方向性さえ判れば、お互いの考えていることが何となく判るというか。

セイルによると、ルドルフ様はこれまでも似たようなことがあったようですので、そういった点を含めて『双子のようだ』と思われているとか。

それらのことに気付けば、ハーヴィスがルドルフ様をどう思うかなど察することができるでしょう。

ハーヴィスはルドルフ様に縋ることはしなかった。いえ、『できなかった』。

あまりにも彼が『魔導師の共犯のような姿を見せ付けていたから』。

魔導師と仲が良いとは聞いていても、まさかあれほどとは思わなかったのでしょう。精々が国の立て直しへの協力を感謝している程度だと。

身分の差、状況の差、そして魔導師たるミヅキがかなり特殊な性格をしていることから、『仕事を頼めるほど気安い関係』と思っている方はそれなりにいらっしゃいます。

だから……読み違えた。『ルドルフ様が時には最高の協力者になる』なんて、思わなかった!

ハーヴィスの間違いはまずそこなのです。エルが負傷したことを怒っていたのはミヅキだけでなく、ルドルフ様も同じ。

ですから、セイルはあっさりとミヅキに同行したと思っております。それが『主の望むこと』だと判断したでしょうからね。

それに加えて、ミヅキはルドルフ様も大事に思っていますから、あの結末も当然のもの。今後、ハーヴィス王は自国の者達から己の不甲斐なさを突き付けられることになるでしょう。

……そのようなことを考えているうちに、エル達は恒例となった保護者会を始めたようでした。

「この頃、稀に『殿下はあの子にどのような教育を施されたのですか』って聞かれるんだよねー……涙目で」

「ああ……まあ、異世界人の教育は後見人が担うことが大半ですから」

「やっぱり、あの子の教育を間違ったかな?」

「ミヅキの場合、どのように育てても無駄かと。習ったことはきちんと身に付ける一方で、その利用方法がろくでもないのは本人の性格が原因ですから」

……まるで子育てに悩める新米の親のような会話ですが、これは割と恒例行事だったりします。

エルにはミヅキが、宰相殿にはルドルフ様以下数名の問題児がおりますので、同じ悩みを持つ保護者同士、似たような悩みを抱えているのでしょう。

と、言いますか。

結婚どころか、婚約者すらいないのですが、二人とも。

保護者と言ってはおりますが、実際にはそのような責任はないのです。守るべき子達を背に庇い続けた結果、周囲どころか自分自身もそのように認識してしまったようですね。

まあ、ミヅキはともかく、宰相殿は少々、特殊な状況にありました。彼が庇わねば、ルドルフ様だけでなく、エリザ殿やセイルといった者達さえどうなっていたか判りません。

宰相殿はクレスト家の者であり、宰相であり、年長者でありました。

そして……己が持つものを使いこなす能力も持ち得ていた。

セイルとて、最初から強かったわけではないのです。まして、彼の両親は政敵に殺されたと聞いています。その後も狙われなかったとは考え難い。

ならば、『彼が強くなるまで守り通した者が居たはず』なのです。

こう言っては何ですが、セイルは少々、普通とは言い難い性格をしております。あの微笑みに誤魔化されがちですが、守護役達の中でも一、二を争う物騒な思考回路をしているでしょう。

身内と呼べる存在達には甘いようですが、それでもただ守られることを期待するような者のことは守ろうとしない可能性が高い。

そして、強さを得た彼が宰相殿を守ろうとするならば……それはセイル自身がこれまで宰相殿に守られてきたことを理解しているからではないのでしょうか?

「そう言えば、以前、このようなことがありましてね……。ゼブレストにはミヅキ達が育てたカエルが居るのですが、まあ、さすがあの娘が育てたと言いますか、ルドルフ様の敵は容赦なく潰そうとするのですよ」

「ああ、聞いている。正直、その賢さを褒めたらいいのか、物騒な思考回路に驚いたらいいのか、よく判らない」

「ええ、そのお気持ちはよく判ります」

二人とも揃って微妙な表情になりました。まあ、話を聞く限り、カエルの知能の高さに驚きはしましたが、悪いことではないと思います。

育ててくれた者達に恩返しをするなんて、可愛いじゃありませんか。ろくでもない貴族達に見習わせたいほどですよ。

「それで、ですね。やはりと言うか、ある貴族が抗議してきたのです。『我らより、カエル達を信じるのか』と。丁度、ミヅキが居たからこそ、文句の一つでも言ってやりたくなったのでしょう」

「まあ、あの子の見た目では危機感を抱かないだろうしね」

「即座に、ミヅキに胸倉を掴まれてましたがね」

「……。あの子は、まったく……」

エルは頭痛を堪えるような表情で呆れていますが、それは学習能力がないその貴族が悪いと思いますよ?

宰相殿とてそう思っているのか、双方に呆れているようですし。

「そしてこう言ったのです……『カエル達の比較対象になろうなんて、なんて烏滸がましい!』と」

……さすが、ミヅキ。清々しいまでに自己中ですね。彼女にとってはルドルフ様を守ろうとするカエル達の方が正しいのであって、その貴族はゴミ以下の認識なのでしょう。

「当然、その貴族は怒り、ルドルフ様へと抗議したのです。それを受け、ルドルフ様はこう仰いました。『判った、お前の所業を調べよう。それで比較すれば、ミヅキも納得するだろうさ。まあ、お前にとって都合の悪いことがバレても仕方ないよな? そう仕向けたのは自分なんだから』」

「え゛」

「その貴族も賛同しかけ、続いた言葉に固まっていましたね。その時、見てしまったのですよ……ミヅキとカエルがにやりと笑ったのを!」

その場面が想像できてしまったのか、エルは微妙な表情になりました。

他国で勝手なことをしている以上、怒るべきではあるのでしょう。しかし、どう考えてもカエル込みでルドルフ様と共に誘導したような。

「ミヅキはその日、こちらに来たばかりで……当然、ルドルフ様と企む時間などありません。ですから、そいつも安心していたのだと思います」

「事前の遣り取りは?」

「ありませんでした。エリザなどはその様子を見て、『相変わらず仲が宜しいですね』と微笑みながら口にしておりましたので、即興かと」

「……」

さすがのエルも沈黙し、宰相殿は深々と溜息を吐いておりますね。まあ、その気持ちも判りますけど。

話を聞く限り、ミヅキ達は本当に即席で合わせただけなのでしょう。ですが、エリザ殿達にはそれが玩具で仲良く遊ぶ双子にでも見えていたのかもしれません。

……実際には、そのように微笑ましいものではないのですが。

それにしても、ルドルフ様も変わられたものですね。以前とは比べものにならないほど楽しげに日々を生きていらっしゃるようで、何よりです。

「……ミヅキの悪影響、かな?」

「結果だけを見れば良いことなのですが、素直に喜べません」

「ああぁぁ……やっぱり、うちの子は教育を間違えたか……」

「いえ、こちらも軌道修正を怠りましたので……。何より、こちらの面子も大概ではないかと」

「うん、まあ、そうは思うよね」

「否定のしようがないですよね」

揃って深々と溜息を吐く姿も見慣れたもの。保護者としての苦労が知れますね。

それでも見捨てるという選択肢はないのですから、お二方は揃って現状を楽しんでいるのかもしれません。

……ああ、でもこれだけは言っておきましょうか

「ミヅキ達の行動は当たり前だと思いますよ」

「え?」

「なに?」

突然会話に交ざった私を、お二方は咎めようとは致しません。

私が公爵家の人間であることも一因でしょうが、それ以上に、お二人にとって近しい存在――所謂、身内と呼べる立ち位置に居るのだと自負させていただいております。

「アル、どういうことだい?」

「『守られる』ということは、『守られた存在にとって、最も目にしてきたのは【守ってくれる者の背中】』ということです」

苦笑しながら答えるも、エルだけでなく宰相殿も意味が判らないようでした。

「ミヅキやセイル達は愚かではありません。自分に向けられた守りが得難いものだと、理解できているでしょう。ですから……強くなった。失いたくはないと思ったから」

「「!」」

その答えが予想外だったのか、二人とも驚いたようでした。

「その背を見て育ったならば、同じ守り方しかできないでしょう。ですが、彼らは違う。まして、ミヅキだけでなく、彼らも大概、自己中ですよ? 害されることが許せないと思っても、仕方がないことかと」

はっきり言って、ミヅキは凶暴です。異世界人凶暴種という渾名とて、決して過剰なものではない。

ですが、基本的にその凶暴さは報復限定。それ以外は……『自分にとって大切な者が害されるのが許せないから』。

そこで『恩返し』なんて言葉が出てくるならば可愛げもあるでしょうが、ミヅキは違います。

単に『己の価値観に忠実に従っているだけ』なのです。

エルが本当に魔王と呼ばれるような性格だったとしても、可愛がってくれた存在ならば、今と変わらず慕うでしょう。

また、セイル達もミヅキ同様に宰相殿に接すると断言できます。

「善や悪ではないのですよ。彼らの基準は『己にとってどんな存在であるか』というだけであり、自分達が失いたくないだけなのです。ですから、言うことなど聞かないのですよ」

「「……」」

苦笑しながらそう告げると、心当たりがあるのか、お二方は複雑そうな表情で黙り込んでしまいました。

まあ、仕方がないのかもしれません。だって、本当に『物騒な生き物を可愛がった挙句、懐かれただけ』ですからね。

――そこに響くノックの音。

「失礼します。軽食をお持ちしましたが、要ります?」

「軽食?」

持ってきたのが双子の片割れなので毒などの心配はないのでしょうが、そのような話は聞いておりません。

訝しげに問い返した私に、アベルは若干、遠い目になりながら答えました。

「ミヅキが送って来たんですよ。あいつ、サロヴァーラで調理したらしくって」

「ああ、そう言えば……大きめの魚を持って行ったような。だけど、王女達に異世界の料理を食べさせたいとか言ってなかった?」

「そうなんですけど、どうやらサロヴァーラ王家に好意的な奴以外に食わせる気がないらしくて。大量に作った挙句、こっちに送って来たんですよねー……」

そう言って、持ってきたトレイをテーブルに置くアベル。そこには紙に包まれた丸いものが数個、乗っていました。

「フィッシュバーガーです。魚のフライとタルタルソース、野菜が挟まれたパンです。まだ温かいですよ」

なるほど、これならば皆も喜ぶでしょう。それを見越して、ミヅキはこちらに送ってくれたのかもしれませんね。

エルは何とも言えない表情になると、トレイに乗った一つを手に取りました。

「温かいうちに頂こうか。宰相殿も宜しければどうぞ。ミヅキが作った異世界の料理だそうです。アル達も食べなよ」

「おや、我々も宜しいのですか?」

「ミヅキはそのつもりだろう」

そう言って、躊躇いもなく口にするエル。宰相殿も見たことがあるのか、食べ方は判っているようです。

……お二人とも微妙に嬉しそうな気がするのは、気のせいではないでしょう。可愛がっている子からの心尽くしの品は嬉しいものですよね。

毒見をしない――すでに騎士寮の方で行なわれているとは思いますが――あたり、ミヅキへの信頼を感じます。あの子が貴方達を害するなんて、有り得ませんからね。

さて、折角ですし、私もいただくとしましょうか!