軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

予想外の追い打ち

『グラント侯爵が罪を認めた』という報告を聞き、私はそれが事実かを確かめるべく、取調室に赴いた。

話を聞く限り、グラント侯爵は日に日に窶れていっており、以前の太々しさは見る影もないそうな。

……。

きょ……恐怖体験の効果を見たいとかじゃないぞ。

いや、それも半分くらいは期待してるけど!

こう言っては何だが、グラント侯爵が体験した怪奇現象(笑)って、かなり温い。

クソガキ様仕様とまではいかないが、ホラーに慣れた人からすれば『……怪奇現象、かもね?』程度のもの。

ぶっちゃけると、実害らしきものはない。

本当~に『幽霊を見た!』程度のものなので、元の世界の心霊スポット探索動画あたりの方が怖いと思う。

特に、ガチな幽霊屋敷――噂や気のせいとかではなく、イベントとして成り立っちゃうレベル――とかは洒落にならないので、正直、グラント侯爵がそこまで怖がるとは思わなかった。

それが! まさかの! 『幽霊が怖い』という理由で陥・落☆

……。

いやいや……マジでオカルト耐性低過ぎでしょ……?

騎士寮面子みたく『キャッキャ♪』とばかりにはしゃげるとは思わないけど、今回、グロ映像はないぞー?

第一、そこまで多くのパターンがあるわけじゃないので、慣れてしまう可能性とて十分にあったのだよ。

人は『慣れる』生き物なのである。

実害がなければ、『見ない』という選択とてあるじゃないか。

よって、今回は試験的に使ってみた程度とはいえ、魔王様の許可が下りたのだ。『この程度なら問題なし』と!

それがまさかの陥落です。一体、何がそれほど怖かったのか非常に気になるところですね!

「まさか、そこまで効果があるとは……」

思わず呟くと、隣を歩いていたヴァイスが軽く首を傾げた。

「あれが作られた物だと知っていれば、どうということはないのですが……知らなければ不気味に感じるのではないかと思います。やはり、こういった文化がないことが原因では」

「ああ、そもそもオカルト的なものがないんだっけ?」

「ええ。まあ、グラント侯爵の場合、彼自身の罪悪感と言うか、過去の所業に訴えかけるような物を用意したことも一因でしょうね」

あれですか、王妃様達への嫌がらせ(?)とかってやつ。

それをやらかしていた自覚があったならば……まあ、恨まれていても仕方がないとは思うかも?

そんな殊勝な性格をしているとは思えないけど、怖い思い(笑)をしたならば、多少は反省する気が湧くのかもしれないね。

「……そういえば、一つ気になることを言っていたな」

「……ん?」

単なる独り言だったのか、反応した私に、ヴァイスは「いえ、ただの独り言なのですが」と断りを入れてから話し出した。

「今回のグラント侯爵への『悪戯』は……魔導師殿曰く『オカルト』というものに分類されるものばかりでしたよね?」

「うん? そうだよ?」

「実は、グラント侯爵があれほど怯えるに至ったのは、ある悪夢を見たかららしいんです」

「悪夢……夢の中でも怪奇現象に見舞われたかな?」

この世界にオカルト文化が存在しないならば、舞台裏を知らないままの『悪戯』はさぞ、インパクトのある出来事だったろう。

ならば、それらを夢に見ても仕方がないのかもしれない。

しかし、ヴァイスからもたらされた悪夢の内容は少々、意外なものだった。

「なんでもギロチンに掛けられる夢を見たらしく」

「……怪異じゃないじゃん。え、平気そうに見えて、実は結構罪悪感があったとか?」

「さ、さあ……? 私からはそのように見えなかったのですが」

ヴァイスもそれは信じ難いのか、困惑気味だ。そう思うよねぇ。

しかし、ギロチン……ギロチンか。あれですね、体を固定されて、上から落ちてくる刃に首をスパッとやられちゃうやつ。

そこまで重い処罰になる例も稀だろうし、王家が弱体化していたサロヴァーラがそんな処刑方法を使っていたとも思えない。

あれー? グラント侯爵は一体、どうしてそんな悪夢を見たのかなー?

首を傾げる私とヴァイス。しかし、その答えはヴァイスが口にした『些細な情報』によって判明することとなる。

「処刑される恐怖ゆえでしょうか……刃物を研ぐ音や骨を断つ音が記憶に残っているらしいのです。夢という状況ゆえか、血の匂いまでしてくると」

「へぇ、それはまた現実的な夢だこと」

「ですが、実際にそのような処刑方法が使われるならば、罪人自身が刃を研ぐ音など聞くはずがありません。事前に準備は済まされているでしょうし、己の首が落ちるのも一瞬かと」

「……。刃を研ぐ音と骨を断つ音……?」

あれ? 私、それに覚えがあるような。

「……ヴァイス。私が調理する時に借りた部屋って、グラント侯爵が居た場所のすぐ近くだよね」

「え? ええ、そうですね。隣です」

「しかも、ここは罪人の様子が判るように防音はしていない……寧ろ、響くよね?」

「……ええ、そうですね」

ヴァイスも何となく判ってしまったのか、微妙な表情だ。う、うん、悪意はなかったもんね。

グラント侯爵は貴族用の牢に入れられていたが、そこはホテルの一室のよう。しかも、お貴族様なので食事もそれなりのものが出されるのだ。

そして、こういった場所は罪人だけが囚われるのではなく、証言者や関係者を守るためにも使われるらしい。

そんな状況を想定してか、同じフロアに小さめの厨房があったりする。ぶっちゃけて言うと、毒殺対策である。

牢に入れられると、魔道具は取り上げられちゃいますからね~……当然、毒殺や暗殺の可能性もあるわけで。

まあ、医療行為なども含め、すぐに対処できる状況になっているのだ。音が伝わりやすいのはそういった状況を想定してのことだろう。

トカゲの尻尾切りで罪を有耶無耶にしないための対策ですな。多分、魔道具がなかった頃の生活の知恵(?)と見た。

で。

私は今回、そこを借りて調理をしている。イルフェナから持ってきた大きくて新鮮なお魚を捌いているのだ。

城の厨房だと邪魔になりそうだったので、きちんと許可を取った上で、こちらの厨房を使わせてもらった。勿論、後片付けもちゃんとしましたよ!

なお、お魚さんは沢山のフィッシュバーガーへと変身し、『異世界の料理』として国王一家とその味方の人々に配られた。

初めて口にしたタルタルソースも口に合ったらしく、王女二人が慣れないながらも楽しそうに食べる光景に、ほっこりしたのも良い思い出さ。

……が。

多分……いや、確実に私のこの行動が原因で、グラント侯爵は悪夢を見たのだろう。

大きなお魚を捌く以上、念入りに包丁を研ぎますよね!

関節に包丁を入れれば割とあっさり断ち切れるけど、力技な時もあるよね!

って言うか、血の匂いはどうしても漂いますね!

……。

……。

百パーセント、私が原因じゃね? 物騒な音と血の匂いさせてますがな。

「ええ……これ、一応、報告した方がいい? 確かに音が響くとは思っていたけど、連想するものが処刑って……」

「ま、まあ、貴族は自分で調理などしませんから」

「そりゃ、そうだけど。……はっ!? もしや、私が包丁でも持って追い掛け回せば、自白は一発だった……?」

「止めましょう、魔導師殿。さすがにそれは陛下がお許しになりませんよ」

「ティルシアは?」

「ティ……ティルシア様は……」

そこまで言って、ヴァイスは視線を逸らす。今のティルシアならば大喜びで許可しそうなことを察しているのだろう。

そういや、使用許可を出してくれたのはティルシアだった。もしや、この展開を狙っていた……?

「……。私達は何も気付かなかった。いいね?」

「……! はい!」

顔を見合わせて頷き合う私とヴァイス。……結果として、良い方向に行ったのならば、いいじゃない!

ちょっとばかり演出が増えてしまっただけじゃないか。問・題・なし☆

……。

魔王様に提出する報告書、どうしよっかなー……。(※現実逃避)