作品タイトル不明
罪人の末路 其の二
『罪人の末路~クソガキ様の場合 其の一~』
クソガキ様はお子様である。
どのくらいお子様かと言えば、感情のままに喚き散らして、実家を窮地に陥れてしまうほど。
これが一般的なお子様――もっと言うなら、民間人であったならば、『年相応』という一言で片付けられてしまうだろう。
……が。
王族・貴族という階級は家単位で評価されるようなところがあるため、子供であろうとも許されないことが多々あるのだ。
理由は簡単、『その一言が没落を招く場合がある』から。
子供って無邪気ですよねー。
子供って感情的になりやすいですよねー。
子供って親の言動を意外と聞いていたりするよねー……!
『子供だから許される』じゃないのよ、『子供だから、よく判らずに迂闊な発言をする』と思われるの。
ある程度の年齢ならば『言って良いこと・悪いこと』の区別がつくだろうけど、十歳程度だときちんと躾けられていない限り、かなりの確率でボロを出す。
今回のクソガキ様がまさにそれ。
私から見ればMVP間違いなしだが、グラント侯爵家サイドからすれば『迂闊にボロを出した汚点』扱い。
グラント侯爵はクソガキ様のことを末の息子と言っていたから、末っ子として可愛がられていたか、上の子達ほど厳しく躾けられていなかったかのどちらかなのだろう。
厳しさが愛情に繋がる階級なのです、お貴族様って。甘やかされたお子様が大成することってまずないもの。
私としてもがっつり身に覚えのあることなので、クソガキ様にはそれほど同情していない。
私の評価って、親猫様の愛情深い教育の賜だもんなー……厳しく躾けてくれた魔王様には感謝していますとも。
喩え、それがイルフェナの貴族でさえも吃驚なスパルタ教育だったとしても……!
……そうは言っても、クソガキ様がMVPであることは事実なので。
ク ソ ガ キ 様 よ 、 喜 ぶ が い い 。
異 世 界 の ホ ラ ー を 体 験 さ せ て や ろ う 。
ホラーゲームって子供もそれなりに楽しむじゃん? 勿論、大人がやっても楽しいけど、フリーのホラーゲームなんかは年齢制限がないことも多い。
つまり、『その程度なら問題ない』ということだろう。グロがなければ問題あるまい。
なに、グラント侯爵の様に心当たりがあるゴースト――王家を虐げていた分、王女達扮するゴーストは効果覿面だった――じゃなければ、ちょっと怖いだけさ。
大丈夫! お子様だから、ギャン泣きしても許されるさ……!
……この世界にはオカルト文化がない分、私が思うよりも怖いのかもしれないが。
まあ、何とかなるだろう。元の世界でもホラー作品を好むお子様達は居るし、ゾンビとかじゃなければ『よく判らない異世界の産物』的な認識だろうさ。
……。
た、多分ね? クソガキ様が怖がりだった場合は何を出しても怖がるだろうし、所詮は幻影、実物じゃない。
と、いうわけで! クソガキ様にはゆっくり眠っていただきましょう。
目が覚めたら、始まりですよー♪
※※※※※※※※
――取調室? にて(クソガキ様視点)
「……ん」
不意に目が覚めて、違和感に気付く。自分の部屋ではなく、最低限のテーブルと椅子しかない粗末な部屋。
その途端、これまでの記憶が蘇った。
「そうだ……僕達は騎士に拘束されて……」
自分の家が何をしたのかは知らない。だが、突然やって来た騎士達に家族や使用人達は顔色を変えていたから、何らかの心当たりはあったのだろう。
ただ、僕にとっては突然やって来た無礼な奴らという認識しかなくて。
怒鳴り散らすも、あの女……魔術師? に良いようにあしらわれて、王家への侮辱を不敬罪とされてしまった。
そう思い出すと、この状況に怒りが込み上げる。
何故、こんな目に遭わなくてはならないのだ。
僕は本当のことを言っただけじゃないか!
そう言い返そうにも、あの女に魔法を使われてしまうとそれもできなくて。
結果として、僕は情けなく震えたまま、ここに連れて来られたのだった。
そこまで考え……僕はこの状況がおかしいことに気付く。
「何で……誰も居ないんだ?」
最低限、見張りの騎士が居るはずだ。僕が子供だから侮っているのかとも考えたけれど、それでもおかしいと考え直す。
だって、音が全く聞こえない。人の居る気配も……ない。
侯爵家には多くの使用人達が居たし、呼べば誰かが必ず来てくれた。
部屋に一人で居ることがあっても、庭や廊下には人の気配や音が聞こえていて。こんな風に音のない状況になることなんてなかったように思う。
しかも、部屋の中なのに薄く霧のような物が立ち込めている。どこか湿り気を帯びたそれに肌寒さを感じて腕を擦るも、不安は増すばかりだった。
「ふ、ふん! 子供だからって一人にするなんて……」
言葉にしたのは少しでも強がりたかったからだ。……そう信じたかった、のかもしれない。
それでもここに一人で居る気はなかったから、僕は意を決してドアに近づくと、音がしないように手を掛ける。
カチャ。
ドアにカギはかかっていなかったらしく、ここから出ることはできそうだ。
一瞬、喜びに顔が綻ぶが、同時に僕はこれからどうしたらいいのか考えてしまった。
僕を一人にしたのも、部屋に鍵をかけていなかったのも、騎士達の失態だろう。だから、僕が出歩いてしまっても、それほど怒られるとは思えない。
だって、誰も居ないのが悪いんじゃないか。誰かに見つかったとしても、『人を探していた』と言えば大丈夫だと思う。
ただ……問題なのはこの奇妙な状況だった。
この部屋の外まで似たような状況だったら、僕はどうすればいいのだろう? 音のない無音の世界で、僕の足音や息遣いだけが聞こえるなんて、ちょっと……いや、かなり怖い。
それでも、この部屋にずっと一人で留まり続けるのは耐えられなくて。
「大丈夫……人を探すだけさ……」
意を決して、ゆっくりとドアを開ける。そこには当たり前のように通路が続いていて……やっぱり、誰も居なかった。
しかも、室内に満ちていた薄い霧のようなものが通路にも立ち込めている。薄暗い通路に満ちたそれは、僕の恐怖をより煽った。
「こ、怖くなんかない。僕はグラント侯爵家の人間なんだから……!」
そう口にして歩き出す。だけど、それが何の意味もないことくらい、僕にはもう判っていた。
『グラント侯爵家』という家名を出せば、大抵のことは僕の思い通りに進んだ。父上に可愛がられていた僕には、大人でさえも媚を売ってきたのだから。
……だけど、あの魔術師……魔導師? にはそんなものが全く通じなくて。
拘束してきた騎士達さえも、『グラント侯爵家』というものに怯むことはなかったのだ。
「ひっ……」
霧の中に人影が見えたような気がして、肩を跳ねさせる。一瞬だけ見えたそれは騎士のような気がしたけれど……僕は声を掛けるどころか、口を押えて気付かれないようにするのに必死だった。
だって、あの影は足音が全くしなかった。
硬い床と建物の構造のせいか、ゆっくり歩かないと足音が響いてしまう。僕でさえそうなのだから、大人が歩けばそれなりに音がするはずだ。
それなのに、足音が全く聞こえない。いや、足音どころか……流れるように移動していた、ような。
その時、不意に連れて来られた時に聞かされた『ある話』を思い出した。
『牢って、【得体の知れないもの】が出やすい場所なのよ』
『冤罪で囚われた人は勿論、トカゲの尻尾切りで全ての罪を擦り付けられた人だっている』
『だからね』
『そういった人達の無念や恨みが留まっていても不思議じゃないでしょ』
『気を付けなさいな。歴史ある家ほど、恨まれている可能性があるのだから』
あの女はまるで事実のように僕に話してきた。聞いた時は鼻で笑っていられたけれど、この状況でそれを思い出してしまうと……『あれは警告だったんじゃないか?』と思えてしまう。
グラント侯爵家の歴史は長い。長い歴史の中、力ある家が蹴落としてきた家はどれほどの数に上ることか。
……その結果、グラント侯爵家を恨みながら死んでいった者達がここに居たのなら。
「違う! そんなこと、あるはずがない!」
どうにも恐怖に染まりがちな思考を振り払い、前を見据える。あれはあの女の作り話だ。そうに決まっている。
恐怖を押し殺し、僕は再び歩き始めた。……それしか、できなかった。