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作品タイトル不明

罪人の末路 其の一

『罪人の末路~グラント侯爵家の場合~』

グラント侯爵とその一味の皆さんは取り調べがあるため、一旦は牢に入れられることになった。

なお、グラント侯爵達は『今は』一応、貴族用の牢である。

これらの措置はグラント侯爵家の家宅捜査がまだ終わっていないことと、取り調べが残っていることが主な理由。

はっきり言ってしまうと『未遂』ってことが大きく響いているのだ。行動してしまった後ならば一発アウトで罪人扱いだけど、今回のような場合は確たる証拠が必須。

ここでいい加減というか、感情や利点優先の行動に出てしまうと、その他の貴族達から盛大に警戒されてしまうだろう。

そうなってくると非常にやりにくい。後ろめたいことがあると自覚する故に、彼らは益々、尻尾を出さなくなってしまう。

そこに加えて、『王家は他国の後押しを得たのを機に、強硬手段を取るようになった』なんて思われると、必要以上に敵を作ってしまいかねないじゃないか。

そんなことになれば、他国からの評価は一気に下がる。

どう考えても、虎の威を借る狐状態です。

……そんなわけで。

他国の目があるからこそ、サロヴァーラ王家としては処罰確定までの道のりを堅実に歩まなければならんのです。

一つ一つ証拠を揃え、明らかに非があることを明確にしていく。……それを成し遂げることこそ、サロヴァーラ王家の力を証明することになるのだから。

『他国や魔導師が居なければ何もできない』と貴族達に思わせないためにも、これは必要なことなのです。ある意味、サロヴァーラ王家に課せられた試練ですな。

私が持ってきた証拠はあくまでも『魔導師個人の手土産』という扱いなので、それだけでは決定打にはなるまい。もたらされた情報の裏を取るのはサロヴァーラのお仕事です。

まあ、クソガキ様のおかげでグラント侯爵家を不敬罪には問えるため、かなり有利に進んだ印象だ。

クソガキ様の『あの』発言がなかったら、『とりあえず牢にぶち込む』(=関係者一同の拘束)という状況すら危うかったしな。

で。

そんなわけで、私は取り調べその他に関わるわけにはいかないのだよ。それでも戦力扱いを了解した手前、良い子で待機中というわけ。

今後、出番があるかもしれないからね! 逃亡とかするかもしれないからね……!

……。

まあ、ティルシアは『遊んでいい』って言ってたけどな。

なお、『遊ぶ』(意訳)であることは言うまでもない。

他の人も居る場合、王女が率先して魔導師をけしかけたりできないので、『言葉の裏を読み取れ』ということですな。

ただ、その場合は双方の解釈に違いが出てしまっても不思議はない。ないったら、ない。

「あの、魔導師殿? 彼らは本当に傲慢なので……その、貴女に向かって暴言を吐く可能性もあるのですが」

「ああ、大丈夫! それくらいは想定内だよ」

心配そうに、それ以上に申し訳なさそうに声を掛けて来る見張りの騎士に対し、私はひらひらと手を振って答える。

うん、それくらいは私も予想済み。ただ、騎士様としてはこれ以上、自国の恥を晒したくはないのだろう。

まあ、その気持ちも理解できますよ。私が他国と繋がっている以上、各国に今回の出来事を馬鹿正直に暴露しかねないもの。

そんな人物に対し、不快な思いをさせれば……どうなるかはお察しだ。普通に考えて、各国のサロヴァーラに対する印象は悪くなるわな。

しかし、騎士様は思い違いをしているのだ。

私はこの国の貴族に期待なんてしていない。

評価はすでに底辺なので、何があろうと『今更』としか思わん。

失望とか期待って、ある程度は改善の余地があることが前提なのである。馬鹿が馬鹿なことをしても平常運転と言うか、特別珍しくはないだろう。

いきなり賢くなることもないので、唐突に冴えまくった行動をしだしたら、お馬鹿を傀儡にした黒幕の存在を警戒すべきだ。

優れたブレインの存在が仇となる場合もあるのだよ……まさかそんな理由でバレるなんて、黒幕だって思わないだろうけど。

私はティルシア達には期待するけど、王家を嘗めていた貴族達には『全く!』『欠片も!』期待していないので、何があろうとも『想定内』なのだ。多分、各国の皆さんも同じ心境。

……そうは思っても、国の現状を憂う騎士様に本音は語れないので。

「ティルシア達だけじゃなく、今回、動いた騎士達だって居る。あの手際の良さは事前に調査済みだってことでしょ。そういった良い点も報告してるから、サロヴァーラの評価がそこまで落ちることはない」

ちょっと慰めてみた。

大丈夫、これも嘘ではない。ただ、サロヴァーラ王家サイドの評価は上がり、ただでさえ地を這っていた愚か者達の評価がさらに下方修正されるだけだ。

それでも騎士様は安心したのか、少しだけ泣きそうな顔になった後、「ありがとうございます」と言って頭を下げた。

――後に、ヴァイスにこの出来事を語ったところ、『評価してくれている人がいる、という事実が嬉しかったのでしょう』とのお答えが。

王家派の騎士は王族達の盾になることも多く、忠誠心や愛国心で己を奮い立たせていても、あまりの理不尽さに、心が折れかけることもあったらしい。

王家派の騎士達が私に好意的なわけですね!

どうりで、何をやらかしても見逃されると思ったよ!

そんな事情を聞かされた以上、私も頑張らなければいけませんねぇ……!

「魔導師殿、ここがグラント侯爵の牢です」

「民間人からすれば、牢って言うよりホテルの一室かな」

「まあ、確かに……。それでも侯爵家からすれば狭いらしく、当初は文句ばかりでしたよ」

「そっかー」

雑談をしつつ案内してもらった、グラント侯爵のいる貴族牢。ええ、存じております。グラント侯爵一派の牢は私が『心を込めて』準備させていただきました。

案内してくれた騎士様は知らないようだが、私はティルシアの許可を得てすでに行動している。

つまり、仕込みは既に完了しているのですよ。ふふ、楽しんでくれればいいのだけど。

だって、マジでホテルの一室みたいなんだもの。

出られないだけの部屋なんて、罪人達には贅沢過ぎるだろ。

……なので、私もその贅沢さに一枚噛ませてもらいました。

騎士寮面子あたりならば大興奮であちらこちらを調べて回ること請け合い♡ の奴をな!

私が追加した『贅沢要素』って、『魔導師的な贅沢』(意訳)なのよね。特定の人には大受け、みたいな?

その仕込みの一環として、騎士様達には奴らを牢に案内する際、『おかしなことが起こるかもしれないが、命に関わるものは【今のところ】ない』と伝えてもらっていたりする。

ぶっちゃけると、現在の貴族牢は心霊現象(笑)が多発する事故物件。

鏡に人影が映るとか、金縛りとか、ラップ音とか、定番物をセレクトしました。

なお、その効果はイルフェナで実証済みである。試しに使ってみたら、オカルトに縁のない世界的には効果覿面だったらしく、牢に居た太々しい罪人に泣かれた。

これを面白がった……いやいや、あまりの効果に喜んだクラレンスさんにより、イルフェナでは口を割らない罪人用として導入が検討されている。

今はテスト中だが、本採用になれば報奨金が出るそうな。お役に立ったようで何より。

「ここから中が覗けます」

「へぇ……」

早速とばかりに覗いた室内は、私が入った時と変わらない。

……。

いや、ベッドに腰かけたグラント侯爵だけは違うか。彼は私と遣り合った時と比べて、かなり憔悴しているようだった。

それだけではない。視線を部屋のあちこちに彷徨わせては、怯えた表情で頭を抱えている。気力は完全に削がれたと見て間違いない。

「効果あったわねー……これなら素直に色々と喋りそう」

「ですが、罪を認めれば最悪、爵位の剥奪に繋がります。それもあってか、一応はまだ、気力でもっているようです」

「意外と頑張るねぇ」

夫人や家令、使用人達はともかく、グラント侯爵は後がないと判っているのだろう。だからこそ、まだ頑張れている模様。

「あと一押しは必要かな?」

騎士様を見上げれば、騎士様は暫し、沈黙し。

「……可能であれば、お願いしたいです」

許可を出した。よしよし、それじゃあちょっとだけやってみましょうか。

私は魔道具を操作する。すると、グラント侯爵の居る部屋に、透けた亡者達が時折、見えるようになった。それらを目撃したグラント侯爵の顔が恐怖に引き攣る。

ちなみに、この幽霊役は王家の皆さんだったり。

『先祖と顔が似ていれば、より怖がるかも?』という気持ちのままに提案したところ、ティルシアが大いに乗り気になったんだもん。

ちなみに、これは前回、サロヴァーラに来た時に撮影した。ここまで怖がってくれると、わざわざ持ってきた甲斐があったというものだ。

王女二人の母親はある意味、貴族達の被害者と言えるので、メイクを施した王女二人は亡きお妃様の亡霊に見えなくもない。

そんな幽霊が悲しそうに俯いたり、睨み付けたりすれば、ねぇ?

「よせ……こっちに来るな……!」

グラント侯爵が怖がっているのは、単純に『幽霊を見てしまった』という事実に加え、その幽霊を亡きお妃様達と思っているせいだ。

怪奇現象は耐えられても、自分に原因のある幽霊だけは心当たりがある分、怖かろう。

「やめ……止めてくれ! 悪かった! 全部話すから……っ、罪を償うから……」

「……」

心底、怖がっているグラント侯爵の姿を確認し、私は――

「じゃあ、戻ろうか。ティルシア達にもこの成果を教えてあげなくちゃ」

「……。そうですね、戻りましょう」

シカトして、ティルシア達の元に戻ることにした。

ショックで死んでも困るから、この怪奇現象は割とソフトなものである。それに加えて、罪人は自殺防止用の魔道具を着ける義務があるらしく、死ねない状態だ。

今回はそこに上級の治癒魔法を組み込んだ魔道具を用意した――怪奇現象を発生させる魔道具と同時に使われる予定――ため、心労やショックでお亡くなりになることも不可能なのだ。

よって、心配することは何もない。単に、罪人が軽い怪奇現象に悩まされるだけである。

勿論、これはティルシア達にも通達済み。騎士様もそれを聞かされているらしく、それほど心配していないような印象を受けた。

――その後。

映像を見たサロヴァーラ王とリリアンは呆気に取られ、ティルシアは素敵な笑顔で握手を求めてきた。

まさかここまで怖がるとは思っていなかったらしく、胸がすく思いだったそう。

「これから何人がグラント侯爵と同じ目に遭うのかしら……」

貴族どもよ、大人しくしてろ。女狐様は次もやる気だぞ。