軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔導師、お友達の所に遊びに行く 其の六

――サロヴァーラ王城・ティルシア達が待つ一室にて

「ただいまー♪」

元気いっぱいに扉を蹴破ると、ひんやりした空気が流れ出す。

勿論、その原因は私が部屋中を凍り付かせていたからである。ついでに王族+α以外も凍り付いて身動きできない状態だけど、気にしないー♪

だって、別に怒られなかったもん。

サロヴァーラ王あたりは怒るタイミングを逃しただけのような気がしなくもないけど、ティルシアは故意犯だ。

絶対に、判っていて口を挟まなかったに違いない。女狐様、見逃すほど甘くないもの。

ぶっちゃけ、『要らない』と判断したわけですね?

そのまま死んでも問題ないと、思っちゃったわけですね……?

凍り付いて動きが阻害されていると言っても、服を着ている上、そこまで長い時間の拘束ではない。

多分だけど、精々が体調不良になるくらいだろう。

……が。

これは『ある意味、私からの優しさ』なのであったりする。

……。

うん、マジで優しさなんだわ。ヒントは『体調不良を引き起こしても不思議ではない状況』ってとこ。

体調不良ならば、暫く登城できなくても仕方ないよね?

その原因が魔導師なんだから、王族達も無理強いはできないよね?

その間に反省して、己の行動をあれこれ見直してもいいよね、暇だもん!

まあ、そんな感じでしてね? 少しくらい慈悲の精神を見せて、お時間を差し上げようと思ったわけですよ。

今回、痛い目を見たのはグラント侯爵家なんだけど、他の連中も他人事ではないのであ~る!

ぶっちゃけると、『大きな動きを見せたのが、グラント侯爵家だった』という一言に尽きる。

それも王家に対し、何かをやらかしたわけではない。(限りなくアウトだけど)『一応は』未遂と言ってしまえる状態なのだ。

行動してしまえば一発アウトながら、ギリギリセーフ。ただし、こちらが先手を打ったからそうなっただけであり、『ごめんなさい』で許されるはずもない。

……が。

そういった事情は勿論考慮されるべきなんだけど、『実行した』と『未遂』では、処罰に非常に大きな差が出てしまう。

どれほど野心満載で下準備をしていようとも、未遂は未遂。被害も出ていないので、処罰というより『警告』や『お叱り』程度で済んでしまうだろう。

私兵の皆さんが賢く立ち回ったせいで、家宅捜査に向かった騎士達にも被害は出ておらず、何とも決定打に欠ける状況だった……のです、が!

やらかしてくれましたよ、クソガキ様。物心がついていないと言える年齢ではなく、かと言って賢い立ち回りができるほど学んでもいない、甘やかされたお子様が!

『僕達は王家なんかよりもずっと偉いんだ! あんなお飾りの連中なんかに、何の価値があるって言うんだよ!?』

これを聞いた時、私は内心、大フィーバーでしたとも。

どこをどう聞いても不敬罪まっしぐらな発言の上、それまでのセリフも『人に教えられたことを反論に使っている(=戦犯であり、実際に口にしたのは周囲の大人達)』ようなもの。

そこに加えて、とどめをくれましたからね。あのセリフ、どう考えても十歳程度のお子様が言い出したものじゃなかろう。

そんなわけで、クソガキ様は間違いなく本日のMVP。

本人にそのつもりがなくとも、グラント侯爵家が王家をどう思っているか知れたもの。

……誘導した? そう口にするよう煽った……?

あはは、嫌ですね! 私が誘導しようと、煽ろうと、無実ですよ。だって、『クソガキ様自身に指定した台詞を言わせたわけではない』もの!

つまり、あれは紛れもなく『グラント侯爵家発のお言葉の数々』なのですよ。

クソガキ様は迂闊にもそれを口走り、私達に『グラント侯爵家は子供にすら、そういった認識が根付いている』という『事実』をもたらしてしまったわけだ。

そこを利用するのが大人というものです。

大人としての嗜みですよ、た・し・な・み!

王族・貴族なんざ、人を陥れてなんぼという階級だろうが。お貴族様だ、侯爵家だと口にするなら、その階級に相応しい扱いをしてあげようじゃないか……!

グラント侯爵家の敗因は間違いなく、クソガキ様の教育を怠ったことにある。こう言っては何だが、泣き喚くなり、怯えるなりしているだけだったら、ただのお子様扱いだった。

それに気付かず、感情的に振る舞ったクソガキ様ってば、お・馬・鹿・さ・ん♡

心底、教育って大事だなって思いますよ。家名を名乗る以上、自分だけで済まないもん。

「お帰りなさい、ミヅキ」

そんなことを考えていると、にこやかにティルシアが迎えてくれた。王家メンバー+α――この+αは王家支持の家だろう――はちゃっかりと薄掛けを羽織り、寒さを凌いでいる。

「あ、自分達はしっかり寒さ対策をしたんだ?」

「あら……だって、凍り付いている人達には無駄でしょう?」

「……。まあねー」

思わず突っ込むと、にこやかに返すティルシア。その言葉に悪意が滲んでいるのは、決して、気のせいではあるまい。

そっかー、女狐様は秘かに嫌がらせをして、時間を潰していましたかー。

状況だけなら、ティルシアの言っている通りである。ただし、『難を逃れた王家と王家派の貴族達だけはぬくぬく』という現実を見せ付けられた連中は皆、顔色が悪い。

これ、女狐様からの隠されたメッセージに気付いてしまったせいである。

『王家と王家派の貴族達だけはぬくぬく』=敵は見捨てる気、満々。

つまり、私や他国が何かしようとも、助ける気はないと言っているのだ。

そもそも、凍り付いた時点で、私に『冷えるから許してやれ』的なことを言えば、解放される可能性があったじゃないか。

ここはサロヴァーラなので、王族であるティルシア達の発言を完全に無視はできないのだから。

……が、実際にはにこやかに送り出されている。

己の手を汚さず、あくまでも『魔導師を怒らせた奴が悪い』という言い分の元、言葉と態度で甚振る高度な嫌がらせである。

この場であからさまなことをやらないのは偏に、溺愛するリリアンの『素敵なお姉様』というイメージを壊さないためだろう。

やるじゃないか、ティルシア。それでこそ、溺愛する妹や父の報復に燃える女狐様。

「そうそう、グラント侯爵家に居た人達の拘束は無事に終わったよ。今は騎士達が家宅捜査しているし、叩けば何か出てくるんじゃないかなぁ?」

「あら、どうして?」

楽しそうに聞き返してくるティルシアも人が悪い。判っているくせに、私の口から言わせ、この場に居る全員に聞かせたいのだろう。

「うーん……家令が怯えて挙動不審になったのは想定内。まあ、いきなり騎士達が家宅捜査に来たら怖いだろうしね」

それは問題ない。戦闘訓練を受けている奴でない限り、家令なんて秘書業だ。デスクワークだけとは言わないが、人を動かしたり、指示を出す側であって、武闘派な人は稀だろう。

「雇われていた私兵も中々に賢かったよ。あくまでも『雇い主に忠実』っていう姿勢を見せて、こちらが事情を説明した後は必要以上に暴れなかったもん」

「あらあら……」

雇われている以上、無抵抗でいることはできない。仕事であり、それが彼らの評価に繋がるからだ。

だが、サロヴァーラ王家や他国を敵に回してまで任務に忠実かといえば……さすがにそれはないのだろう。

仕事はこなすが、共倒れするほどの忠誠心はない。あくまでも『金で繋がっている雇い主』という認識だった。

彼らが即座に、自分達にとって最良の対応をしてきたのも、事前にいざという時を想定していたからだと思われた。

「だけどね……最後に面白い子が居たのよ」

「あら……?」

「とっても元気が良くてね? いやぁ、お子様って素直だわぁ……」

そう言いつつ、グラント侯爵へと視線を向ける。グラント侯爵は誰のことを言っているか判ったのか、即座に顔色を変えた。

「まさか、末の息子のことかっ!」

「ああ、末っ子らしいクソガキぶりだったわね」

「クソガキ……?」

リリアンが首を傾げながら、小さく呟く。リリアン、君はそんな単語を知らなくて宜しい。

「随分と、侯爵子息だってことが自慢みたいでね? 私達への見下しは勿論、王家をどう思っているかまで暴露してくれたわ」

「な……」

そこまで言うと、私が何を言いたいか理解できたのだろう。息子を案じていたはずのグラント侯爵の顔色が変わった。

そんなグラント侯爵に近寄り、私はにっこりと笑う。

「グラント侯爵家は自国の王家を『お飾りだ』って教えているみたいね? ああ、教えていなくとも、子供は周囲の大人達の言葉で勝手に学ぶから。ちなみに、こんな感じ」

そう言って、魔道具を操作する。録音された音が再生され、先ほどの遣り取りが室内に流れた。

うん、どう考えてもグラント侯爵家はアウトな感じです! クソガキ様、マジででかした!

「お、お前、子供にまで容赦なく……」

それでも子供が心配なのか、グラント侯爵は私の行ない――これはクソガキ様への誘導も含まれると見た――を批難する。

そんな彼に、私はキョトンとした後……わざとらしく笑みを深めた。

「手加減なんて、必要ないでしょ」

「なっ……、人としてどうなんだ!」

「貴方達には言われたくないわね。だぁって……」

そこで一回言葉を切り。私は蔑んだ目を向けた。

「あんた達が幼い王女二人にしてきたことって、何よ? 常に、悪意の塊をぶつけてきたじゃない」

「そ……それは……」

「言い訳なんていらない。もう『知ってるから』。あんたの息子より幼かったリリアン王女に、いい歳をした大人達は何をしてきたの。……その過去がある以上、自分達を気遣えなんて言えないはずでしょ」

「う……」

私の視線はグラント侯爵に向けたまま。けれど、言葉はこの場に居る貴族……心当たりがある者達への警告だ。

「だから言ったでしょう? 『大人しくしていなさい』って。これまでサロヴァーラ王家に対し、嘗めた態度を取ってきた過去がある以上、誰からも同情なんて向けられないのだから」

そこには当然、ティルシアも含まれる。ゆえに……慈悲を期待するだけ間違いなのだ。なにせ、王女に罪人となる道を歩ませるに至った元凶なのだから。

それに気付いたグラント侯爵は、がっくりと肩を落とし。心当たりがある人々は益々、顔を青褪めさせたのだった。