軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

報告は密やかに

――イルフェナ王の執務室にて(クラレンス視点)

「失礼します」

軽くノックして入室すると、部屋の主は私の顔を見るなり、待っていたとばかりに笑みを浮かべた。

そんな姿に、少しの呆れを覚える。この方は存外、楽しいことがお好きなのだ。

「やあ、待っていたよ」

「……ご期待に沿えるか判りませんよ」

「ふふ! まあ、エル達が隠している以上、そう簡単に探らせはしないだろうからね」

その言葉は『何かがある』と確信しているようなもの。だが、彼は意外と息子達……とその側近達を信頼しているので、彼らの好きにさせることが度々あった。

その最たるものが、ミヅキを勝手にゼブレストへと向かわせたことだろうか。

いくら後見人であり、第二王子であるエルシュオンであろうとも、そのような勝手が許されるはずはない。

……。

普通ならば。

それをあっさりと見逃してしまうのがこの王の困ったところであり、常人には計り知れない才覚が覗く一面でもある。

『エルにも何か考えがあるんだろう。今回は様子を見ようか』

そんな言葉と共に、放置しやがったのだ。後で聞かされた我々の反応を見て、楽しんでいた気がしなくもないが。

「君達、近衛が贈ったぬいぐるみが呪物、ねぇ……?」

報告書に目を通しながらも、王は心底、楽しそうだ。

「ここ暫くは悪意ある噂がなかったものですから、油断しました」

半ば、うんざりとしながら呟くと、王は呆れたように肩を竦めた。

「これまでに比べれば随分と大人しいじゃないか」

「それはそうですが……」

それは事実である。エルシュオン殿下も、彼の忠実な配下達も、そう簡単に潰されるような可愛げはない。

寧ろ、それらの悪意を逆手に取って、逆に潰しにかかるような連中なのだ。

身分的にもその筆頭が公爵家の二人であり、魔術に精通している者達も揃っているので、その報復は非常に楽し……いやいや、容赦のないものになってくる。

それらを見る度に思うのだ……『いい加減、学習しろ』と。

彼らの逆鱗に触れない限り、その凶暴性に気付くことはないのかもしれないが……多少は察してもらいたいものである。

だいたい、当のエルシュオン殿下はこの国の王族にしては非常に善良且つ温厚だ。

馬鹿の相手をしたくないだけかもしれないが、今更、多少の悪意ならば受け流してくれるだろう。

……が。

その反面、彼の配下である猟犬達は、この国を基準にしても非情に凶暴なのである。

なお、『翼の名を持つ騎士』が他国にまで恐れられている原因の半分はこいつらだ。

『実力者の国』と称されるイルフェナだからなのか、名誉ある称号を持つ騎士の中には時に、妙に凶暴な奴らが混ざるのだ。

エルシュオン殿下の場合、幼い頃からの境遇が災いし、その『妙に凶暴な奴ら』が揃ってしまっているのであった。

しかも、今では異世界産の黒猫までもが配下に加わった。

『異世界人凶暴種』などと言われているミヅキだが、そんな彼女があっさりと馴染んでいるあたり、かの猟犬達の凶暴性が知れよう。

つまり、ただでさえヤバい奴らに期待の新人が混ざっただけ。

ミヅキがイルフェナではそれほど凶暴扱いされなかったのは、元からヤバい生き物に囲まれていたせいなのである。

寧ろ、近衛はミヅキの方を案じたくらいなのだ……まあ、そんな心配はいらなかったようだが。

「その程度で潰されるような子達ではないよ。それに……今はエルに懐いている黒猫も居るからね」

「おや、ミヅキはとても良い子ですよ?」

「はは! お前が『良い子』なんて言うくらいならば、何の心配もいらないだろうね」

単純に『良い子』と思っていないのは、その楽しげな表情から知れた。

「使い勝手の良い子、飼い主に牙を剥く気がない子、我々の価値観に馴染める子……全て『良い子』さ。エルの傍に居る以上、安っぽい正義感を振り翳すようでは困る」

「……。そうですね」

寧ろ、それが一番問題視されたものだった。正義や人道的といったものは『恩恵を受ける側』からすれば素晴らしいものだろうが、『与える側』はそればかりではない。

重要なのは『結果』であり、『理想』ではないのだから。

もっとも、ミヅキに関してはその心配は皆無であろう。

どういった環境で育ったのかは疑問だが、何故かミヅキはその類の理解力が素晴らしい。

こちらが教えるまでもなく、それ以上のことをやってのける冷静さは称賛に価すると思っている。

あの子は綺麗事なんて言わない。必要ならば泥を被ることを厭わず、残酷な選択さえしてみせるだろう。……すでに数件、心当たりがあることだし。

「まあ、そんな子達だから……多少の『おいた』は大目に見ようじゃないか」

そう告げると、王は報告書を机に放った。

「……宜しいので?」

「自分達、それ以上にこの国に害があるならば、こちらが何も言わずとも、あの子達が排除するだろう。それをしないのは……」

「……敵意を持たない。もしくは利となる存在だから……ですか」

「そう考えるのが妥当だろうね。もしも害悪となるならば、いくら君達から贈られた物であろうとも、容赦はしないさ」

呪物疑惑が消えたわけではない。寧ろ、その可能性が高い可能性とてある。

だが、彼らの功績とこれまでの在り方が、『静観』という選択をさせたのか。

「それにね。呪物と言っても、対象を守る場合もあると聞いたことがある」

「ほう」

「長く大事にされた物、幸せを願って贈られた物……術式が組み込まれていたわけじゃないし、魔法の気配もない。だが、そういった『奇跡』も存在するんだ。確たる証拠があるわけじゃないから、一般的にはあまり知られていないがね」

――あのぬいぐるみ達は猫型のエル達のように認識されているんだろう?

そう問いかける王に対し、確かに、と思い返す。

元からあの二人を参考にして作られている上、名前も親猫(偽)と子猫(偽)。その扱いはぬいぐるみに対するものというより、あの二人が猫になったかのようなものだ。

ならば……そんな奇跡があったとしても不思議ではないだろう。高い魔力を有する者達に囲まれていることもまた、その可能性を高めるじゃないか。

「では、今回の件は」

「勿論、『ただの噂』だよ」

そう言って、王は笑う。その表情は一国の王というより、子供達を案じる父親のようだった。

「ところで、貴方の親友殿が親猫(偽)にライバル意識を持っているようなのですが」

「……面白いから放っておこう。何かあったら、報告宜しく」