軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

打ち合わせは重要です

食事会当日、ディーボルト子爵家には家人に加え私や守護役三人が集っていた。

ディーボルト子爵に騎士sのすぐ上のお兄さん、クリスティーナ、使用人の皆様。他にも兄がいるらしいけど残念ながら仕事で参加できないとか。まあ、双子の弟が騎士やってるくらいだから家の仕事は兄担当ですね。

黒騎士情報では天才ではないけど努力型の秀才だとか。ディーボルト子爵家は安泰な模様。

食事会は夜なので昼前に打ち合わせです。色々と準備もあるしね?

ですが。

冷え冷えとした空気が漂っているのは気の所為じゃありません。

ええ、私も発生源の一人ですがね?

原因は黒騎士達の努力の成果とも言うべき情報。

うふふ……誕生日に堂々とパートナー略奪宣言かます気だったんかい。

あと半月で新しい人を探せって難しいよね?

しかも最初から計画的だったみたいです。略奪じゃなくてパートナー予定の近衛もあちらの味方。

家の都合ってことにすれば逆らえないよね、確かに。

そーか、そーか、お前も同類か。ならば手加減は必要ないね。

十五歳の御嬢さんを弄ぼうとした罪は重いですよ?

私が女性恐怖症になる勢いで弄んでやるから覚悟しとけ。拒否権は無い。

「いやあ、予想通りですね」

「予想より酷いだろうが。これが騎士のすることか」

にこやかなアルと呆れるクラウス。そうだね、予想より酷いけどあまりにもありがちな展開なので馬鹿にするしかないよな。

予想通り過ぎて逆に笑えます。悪役には悪役なりの『お約束』でもあるんだろうか?

ゼブレストでは斜め上の展開ばかりで新鮮でしたが、これが普通か。

「その割には楽しそうに見えるのは気の所為か……?」

アベルの突っ込みご尤も。気の所為じゃないよ、アベル君。どうやって泣かせようかと考えているだけです。思いつく限りの報復と言う名の嫌がらせを実行しようと今決めました。

「ふふ、楽しいよ? 今夜が楽しみね〜」

「ええと……あの、私は大丈夫ですから危険なことはなさらないでください」

ショックを受けているだろうに私の心配をするクリスティーナ。その姿にお姉さんの殺る気は益々上昇ですよ!

……まあ、今夜はクリスティーナの誕生祝ということになっているので怪我人を出すつもりはない。

ただ、グランキン子爵一派が私の敵に認定されただけです。牽制に留めますとも。

「アル、デビュタントのエスコート役を御願いできる?」

「ミヅキ様!?」

「おや、私で宜しいのでしょうか」

「寧ろ適任。私も参加予定だからこっちはクラウス御願い」

「構わないが……何をする気だ?」

予想される事態だったので事前に話をしてあったのです。どちらに頼むかは決めてなかったけどね。

この展開ならアルにクリスティーナを任せた方がいいだろう。何があってもフォローできるし、クリスティーナを不安にさせるような事にはなるまい。

「顔も家柄も性格もあいつより上で何より信頼できる。どう? 嫌かな、クリスティーナ」

「不満などありません! ですが、ミヅキ様の婚約者をお借りしてしまうなどっ」

「気にしなくていいよ? 二人にエスコートされるわけにはいかないし」

そんな事をすれば注目の的です。白黒騎士の隊長二人を従えて――間違いなくそう見られるし、彼らもそう見えるようにするだろう――お姫様状態になった日には御令嬢の嫉妬が怖いです。

なお、何故元パートナーの顔を知っているかと言えば情報が齎された時点で見物に行ったから。訓練場に来るタイミングさえわかれば偶然を装って観察できるしね。騎士達の情報網を嘗めてはいけない。

それに私とクリスティーナでは参加の目的が違うのだ。

「私達は別にやることがあるからクリスティーナは自分の事に集中して?」

「別のこと、ですか?」

「ええ。ですから私は精一杯貴女をエスコートさせていただきたいのですが、宜しいでしょうか?」

にこやかに告げる私とアルにクリスティーナは戸惑いつつも納得したようだ。漸く笑みを浮かべて頭を下げる。

「わかりました。こちらこそ宜しく御願いします」

「はい、宜しく御願いしますね」

よし、アルに対して妙な緊張感もないようだ。これなら大丈夫だろう。

クラウスに視線を向けると心得た、というように頷く。この場でこちらの事情は明かせません、ディーボルト子爵家の皆様は自分の事だけ考えて下さい。

騎士sもそのあたりは理解している所為か家族を説得している。家族会議の場でこちらの面子を明かした際に気絶したらしいので、今更気絶することはないだろう。

慣れてください、ディーボルト子爵。騎士sが私の護衛と言う名のお付きになっている以上、今後も関わることになると思われます。

「ミヅキ殿……本当に宜しいのか」

若干青褪めているディーボルト子爵がすまなそうに声をかけてくる。隣に居るのは騎士s兄のヘンリーさん。お子さん達は全員母親似らしいけど、ディーボルト子爵は見るからに誠実そうですね。

コレットさんの言っていたことは事実だったんだな、と納得です。

「こちらこそ好き勝手にやらせてもらってますから」

「いや、息子達が迷惑をかけているのだろう? その点は気にしないで欲しい」

息子達ってことは騎士sですか。確かに話を持ってきたのは騎士sだけど魔王様がそれを利用してるからなぁ?

「友人ですし、日頃心労をかけまくっているのでお気になさらず」

「ほう?」

ええ、ゼブレストに行っている間は毎日先生と教会で無事を祈っていてくれたみたいですから。

平民で魔導師、更に凶暴だと知っている割に粗雑な扱いはしないしね、あの二人。大事な友人ですとも。

こちらの言い分にディーボルト子爵は少々驚いたようだが、すぐに嬉しそうに笑った。

「誰とでも仲良く付き合える所は母親譲りなのでしょう。本当にアリエルが居ない事だけが残念ですよ」

……グランキン子爵への拒絶も母親譲りっぽいですが。母親は居なくとも母親譲りの危機回避本能が発揮されてこの状態です。母の愛は偉大なり。

「今日は私達がいますし、デビュタントまではブロンデル公爵夫人が責任を持って預かると言ってくれていますから御心配なく」

「ありがたいことだね」

「ところで聞いておきたいんですけど」

和やかな雰囲気に水を差すようで悪いけど聞いておかねばならない事がある。

「何かな?」

「今夜ここに来る親族達はグランキン子爵側ですか?」

「……。何とも言えないね。ただ、基本的に無関心と言うか」

「傍観者なんですよ。どちらの味方にもならない……いえ、有利な方を向くといった連中です」

言い淀んだ子爵に対しヘンリーさんがズバっと言う。中々に思うところがおありのようですねー、ヘンリーさん。

ただ、私にとってはそう言い切ってくれる方が好都合です。

「では、最悪切り捨ててもいいと?」

「御自由にどうぞ。居なくても我が家は困りません」

「こらっ! ヘンリー!」

慌てる子爵の声も何処吹く風。ヘンリーさんは大変いい笑顔で言い切った。思わず硬く握手を交わしたり。

重要なのです、これ。守護役連中は全員公爵家の人間。ならば今回の事から繋がりを持とうとする輩が出るかもしれない。

その場合には勿論拒絶するけど、ディーボルト子爵家が敵視される可能性がある。

だから事前にどうするか聞いておきたかったんだけど、必要ないみたいだね。良かった良かった。

約一名を除きいい笑顔で会話する私達に使用人達は引いてるけど気にしない!

と、そこへ声をかける猛者が一人。

「ところで、ミヅキ。お前、今夜は何を作るつもりだ? 基本的に料理人達に任せるんだろ?」

「うん、クリスティーナのお祝いならそうするべきでしょう? 大丈夫、グランキン子爵家の分は私が作るから」

「あいつらの分だけ?」

「何を言われても私の責任でしょう? 異物混入されてもこの家を責めることは出来ないよ」

カインの呆れ顔も何のその。後宮で毒を盛られたりしたから疑うのは当然ですね!

死なない程度の毒だってあるのだ、注意するに越したことは無い。

疑うなら徹底的に。文句を言われても事件を仕立て上げられても対処できる自信がありますよ!

レシピが存在しないだけなので一度教えればとっても手際がいいのです、料理人の皆様は。

それなら純粋に祝いたがっているこの人達に作ってもらうべきだろう。

「と言うわけで料理人さん達が頑張ってくれるよ、クリスティーナ」

「お任せください! 御嬢様」

殺伐としたお食事会は私とグランキン子爵一派だけでいいんです、クリスティーナは楽しむがよい。

フォローは守護役連中がしてくれるから。

「メニューはねー、料理長の得意料理の魚介類のシチュー、トマトソースのロールキャベツ、カリカリベーコン入りサラダ、白身魚のムニエル、あとはメインに一品。パンは胡桃入りと蜂蜜入りの二種にサンドイッチかな」

「奴等用はどうなるんだ?」

「それにチーズを入れる。基本的に見た目は同じようになるよ。ソースやドレッシングを数種類用意して『お好みでどうぞ』とか言っちゃえばかなり融通利くし」

ファミレスレベルの料理なのです、その他の発想もファミレス寄り。

この世界にはドレッシングが無いし、個人の好みなんてのも不明。だったら基本だけ作って後から希望を聞けばいい。

何せサンドイッチに戸惑う世界なのですよ……日頃食べ慣れているものから離れ過ぎると手をつけないだろう。

そういったことを防ぐ意味もあって守護役連中は食事の席について貰う事になっている。

それに今回は誰が見ても材料が丸分かりなものばかりです。説明すれば問題ないだろう。

「ちなみに同じ物を本日の昼食として魔王様に作ってきました」

「ああ、あの方は来れないだろうしな」

「暴言を吐けば吐いただけ魔王様の好みを貶めることになります。ついでにゼブレストで生産される一級品も将軍の目の前で貶められますね。どうよ? 死角はなかろう!」

「「悪魔か、お前は!?」」

私の言葉にぎょっとしてハモる騎士s。魔王様の意味が判らない人々は首を傾げ、不幸にも理解できてしまった人達は固まった。

まあ、魔王様だけじゃなくグレンが来るから『折角だから食事でもどうよ?』と言ってみたのが思いついた切っ掛けだが。先生も交えて悪企みにはしゃぐ私達を見守っていておくれ。

なお守護役連中の反応は。

「エルの好物が入っている気がしますが……そういう手もありましたね」

「あの調査の結果にエルの好みを反映させたのか。報告の義務があるから間違いなく耳に入るな」

「おや、私も報告をしなければならないのですが……どうしましょうね?」

慌てていません。寧ろ面白がっています。

流石です、それくらいじゃなければ彼等の側近など無理ですね!

ええ、限りなく主犯に近い共犯者の皆様ですよ? どこぞの王族二名は。

気分だけでも味わわせてあげなきゃ気の毒じゃない? 身分的なもので参加できないんだからさ?

「やだなぁ、今回はお料理作るだけだよ? ただ、私達にとってはこれからが忙しくなるだけで」

「そして自分は最も楽しい場所にいるんですね」

セイルの言葉ににやり、と笑う。

私は食事の席にはつかないのです。給仕として参加。全体が見渡せるベストポジションですよ!

様々な事態に対処する意味でもこの役割が最適だ。

「恐ろしいですね、貴女に見張られての悪事なんて」

「あら、『何もしなければただ給仕をするだけ』だよ? 何かしたら対処って言ったじゃない」

「普通は何もありませんよね」

「普通はね。あ、でもあの近衛は後で〆る」

あんな騎士要らない! と言うとセイルは楽しそうに笑っただけだった。そしてアルやクラウスも止めなかった。

個人的な感情ですが、支持を得たようです。そうか、公認か。何かあっても権力で揉み消してくれるというわけですね?

彼等は騎士なのだよ……内心お怒りのようです。セイルの報告書に書かれるということは国の恥確定ですね。

「しめ…る?」

「クリスティーナ! 気にしなくていいから!」

「純粋でいてくれ!」

きょとんとしているクリスティーナに騎士sが必死に言葉をかけている。

おーい、騎士s。君達の私の認識はどんなものになっているか一度お話ししようか?