軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

七不思議の後日談 その後のお話 其の一

――ミヅキの自室にある浴室にて

「はいはい、サクッと洗っちゃおうね~」

『はーい』

子猫(偽)を連れて、浴室へ。性別的な問題もあり、私には個人の浴室があったりする。

魔法のある世界なので、いつでも使える仕様です。医療技術が発達していない割に伝染病とかの被害がないのは、こういったものがあるからなのだろう。

清潔にするだけでも、病気って結構防げるものね。伝えてくれた異世界人は偉大です。

騎士達は基本的に大浴場を使っているけれど、幾つか小さめの浴室もあるそうな。勿論、シャワーのみの個室もあり。

……。

『秘密のお仕事』があるせいだろうな、この配慮。

騎士とは『様々なもの』(意訳)で汚れるお仕事なのであ~る!

しかも、騎士寮面子は王族直属の部隊なので、見た目もそれなりに重要です。近衛同様、『王族の傍に控える人々』なのですよ。

結果として、『お仕事の汚れはすぐに落とそうね☆ 見た人に何があったか詮索させちゃ駄目だぞ♪』ということになるのだろう。

ま、まあ、奴らが今更、爽やかなキャラを気取ったところで時すでに遅しだろうが、魔王様のイメージを悪くするのは宜しくない。

私とて、ちょこちょこ洗濯魔法(自作)を使って、清潔に保ってますからね!

いくら黒い服で目立たないと言っても、人の顔に膝を入れたりするからねぇ……まあ、それなりに汚れます。反省なんて、しないけど。

で。

仲良くしてくれている近衛騎士達も当然、そういった事情は知っているわけですよ。

そして、子猫(偽)は私を模して造られたぬいぐるみ。

動くとは思っていないだろうけれど、な~ぜ~か『ぬいぐるみ用の洗剤』みたいなものも貰っていたり。

『ミヅキ、何でそんなものを持ってるのー?』

「……」

『いつもは洗ってもらってるよねー?』

「さ、さあ……?」

子猫(偽)よ、聞いてくれるな。『こういった事態を見越していた』とか言われたら、怖過ぎるだろう……?

なお、ぬいぐるみ用の洗剤をくれたのはやっぱりと言うか、クラレンスさんだった。

『汚れることもあるでしょうから』とは言っていたけれど、基本的には専門の人に頼むことになっているはず。

それなのに、『汚れることもあるでしょうから』ってさぁ……。

呪物疑惑を半ば、事実と確信していらっしゃいませんでしょうか……?

まさか、ぬいぐるみ用洗剤の減り方で判断しようとか、思ってないよ、ね!?

相手がクラレンスさんなので、『考え過ぎだよね☆』で済ませられない、恐ろしさよ。

猫親子(偽)が魔王様の守護者である以上、排除されることはないと思う。

そう、排除されることはないと思うんだけど。

……。

『利用すること』はありそうな気がするんだ。しかも、笑顔で『お仕事ですよ』とか言い出しそう。

そんなことを考えながらも、私は子猫(偽)を洗っていく。体を濡らして、洗剤を泡立てて。ウサちゃんの足型と足の裏の汚れは特に念入りに。

『わー、もこもこー♪』

ぬいぐるみなので、呼吸を気にする必要はない。子猫(偽)は見た目の通り幼い思考をしているせいか、泡で遊びたいらしい。

キャッキャとはしゃぐ姿に、ついつい、私も悪乗りを。

「ヒマラヤン」

『ひまらやん?』

「顔と耳と尻尾、足の先が焦げ茶っぽい猫。長毛だから、割と丸っこい印象」

『即席ひまらやんー♪』

……楽しんでいるようだ。泡で着ぐるみ状態なのが可愛らしい。

この子、着ぐるみとかも喜んで着そう。親猫ーズには生温かい目を向けられそうだけど、皆には受けそうだ。

いつかやろうと心に決めつつ、泡を洗い流す。しっかり洗ったせいでかなり水を吸っているから、いつもより重い。

「ちょっと待ってて。私もついでに洗っちゃうから」

『はーい』

よく考えたら、私も結構、暴れていたんだよね。ただ、時間も時間なので、簡単に。

子猫(偽)は濡れた体のまま、浴槽の中を覗き込んでいる。

そして、少し目を離した瞬間――

『わー』

ボチャン! という落下音。……そして。

『しーずーむー』

「!?」

慌てて掬い上げるも、子猫(偽)は楽しそうだった。

『ミヅキ、慌てる必要ないよー? だって、ぬいぐるみだもん』

「あ……そっか」

そういや、さっきの『しーずーむー』という声も何だか、楽しそうだった気が。あれか、子猫(偽)的には、アトラクションか何かのノリだったんかい。

呆れながら突くも、子猫(偽)は何かに気付いたように首を傾げた。

「ん? どした?」

『ミヅキ、ウサちゃんてさー、水に沈めたんだよね?』

「え? うん、そうだよ。最初は浴槽に沈めるからね。ナイフも刺さってたから、間違いなく沈んでいたよ。がっつり水分も含んでいるだろうし」

ぬいぐるみをそのまま水に落としたところで、すぐに浮かんでくるだろう。

ただ、その体がすでに水に馴染んでおり、がっつり水分を含んでいた場合は沈むかもしれない。

現に、子猫(偽)は沈んだ。いや、こっちは本人が故意にやらかしたのかもしれないけど。

『ウサちゃん……転ばなかったのかな?』

「え?」

『だって、お腹に米も入ってるんでしょー? 体は水をたっぷり含んでいるでしょー? その上、ナイフを持っていたから、バランスも悪いんじゃないかなぁ?』

「ああ……短足だもんね、ウサちゃん」

『そう、短足。歩こうとして、べちゃっといきそう』

「……」

『……』

子猫(偽)と私は暫し、見つめ合い。

「『ぶっ』」

盛大に噴出した。

「ウサちゃん……! ヤバイ、無様にすっ転ぶ場面がたやすく思い浮かぶ……っ」

『ミヅキ、映像とかないのー?』

「浴室に魔道具を仕掛けてあったはずだから、動き出すところくらいは映ってるかも。でも、どこでコケてるかは運なんだよねぇ……」

私達はすっかり『ウサちゃんは盛大にこけた』ということを事実にし、キャッキャと大はしゃぎ。

だって、あのウサちゃんですよ? ゴム紐とかのトラップにも盛大に引っ掛かってくれた、今一つ恐怖のキャラクターになりきれないお馬鹿な子。

本人の殺る気は感じ取れるのに、体に慣れていないせいなのか、笑える動きが多かった。私達の中で、ウサちゃんはホラーではなくコメディ扱い。

「明日、黒騎士達に聞いてみよっか」

『わーい! 何か映っていると良いなー』

こうして明日の予定も決まり、ほのぼのバスタイムは過ぎていく。魔法で水分を飛ばせる以上、おしゃべりしていても問題なし。

翌日、ふかふかになった子猫(偽)と共にクラウスに頼むと、騎士寮面子は大いに私達の予想に納得し。快く、飲み会用の映像編集を約束してくれた。

どうやら、昨夜はあちらもパニックになったりしていたらしく、映像全てに目を通せている者が居ないんだとか。

『お馬鹿』

「君達、あれは一応、オカルトとかいうものじゃないのかい……?」

そんな話題で盛り上がる私達へと、親猫-ズが呆れた目を向けていたのだった。

……でも、飲み会には参加する模様。