軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

七不思議の後日談 其の九

ウサちゃんが本気を出し始めてから、暫くして。

――『一人かくれんぼ』の現場は、怪異が連発する場となっていた。

……が。

「チッ、ポルターガイストがウザい!」

フライパンで応戦しながら、私は苛立ちを隠せずにいた。

憧れ続けたオカルトなのだ、『贅沢を言うな』と言われればそれまでだってことは判っている。

でもね……。

でもさ……。

ここまでポルターガイストが連発しなくてもいいんだよ!?

ちなみに、間違っても『怖い』という理由からそう思っているわけではない。単に、こちらを狙ってくる飛行物が多過ぎて、他のものを楽しめないからだ。

結界を張っていたとしても、当然ながら耐久度というものがあるため、やはり自分で撃ち落とす方が望ましい。

しかし。

次々に飛んでくる飛行物、もっと言うなら、憑りついているらしき輩には体力設定なんてものがあるはずもなく。

結果として、時間経過と共に増える一方なのだ。実に面白くない。

あのさぁ……私からすれば、憧れ続けたオカルトなわけよ?

なのに、飛行物を落とすだけって酷くない!?

こんなことを考えるのも、たま~に飛行物に纏わり付く靄みたいなものが見えたり、人の顔らしきものが視界の端を過るからである。

居るの……居るみたいなのよ、幽霊さんが!

それなのに、私はそちらを見る暇さえなく、ひたすら飛行物の撃ち落とし作業……。

ふざけんじゃねぇぞ!?

せっかくの機会なのに、じっくり観賞もさせない気か!?

腹立ちまぎれに、こちらに突っ込んできたウサちゃんを蹴り飛ばす。しかし、ウサちゃんも負けてはいなかった。

壁にぶち当たった体が床に落ちるなり態勢を立て直し、すぐに攻撃に移っている。

……。

こちらもタフだな。ぬいぐるみの体ゆえに痛覚がないのか、それを利点として捉え、有効活用しているらしい。

まあ、そもそも『お友達』……いや、『お仲間』かな? どう言ったらいいのかは判らないが、怪異達は私達を共通のターゲットにしているものね。

彼らをここに招いたのが『一人かくれんぼ』だとするならば、怪異発生の鍵は間違いなくウサちゃんだろう。

もしかしたら、そのせいで怪異達の司令塔のような立場になっているかもしれないと思う、今日この頃。

最初の『ステルス系殺人鬼』――こっそり近付いて、殺す――から一転、『数の暴力に頼り、そこに紛れて殺す殺人鬼』にウサちゃんは進化したのであった。

ウサちゃん……それなりに頭が使えたんだね。

賢いとは思わないけど、脳筋というわけでもない模様。

これでウサちゃんが馬鹿だったら、飛行物体に紛れることなく、只管、突進をかましてきただろう。

それがない、もしくは路線変更してきたあたり、時間の経過と共にヤバイ存在になっていくのかもしれなかった。

……そういや、『一人かくれんぼ』は二時間程度で終わらせる必要があるものね。

あれは『一人かくれんぼ』の成功率が高いのが丑三つ時という意味だと思っていたけれど、違ったんだろうか。

もしや、『時間経過と共にヤバい奴になるよ☆ 安全に終わらせるためには、時間をきっちり守ろうね♪』ってことだったのか?

そんなことを考えている間にも、ポルターガイストは元気一杯に襲い掛かってくるため、きっちり対処はしてるんだけどさ。

「だぁぁぁぁ! いい加減に、しろっ!」

『オォォォォォ……』

「あ!? うそ、ちょっと待って! 今! 今、はっきり人型が見えた!」

『……』

「黙るな!」

『……』

「消えるな! ほら! ほら、もう一回!」

私の期待も空しく、幽霊らしき人影は完全に消えていった。多分、魔道具にも微かに映った程度だろう。

しかも、何だか怯えていたような……? あれか、もしや魔力が籠もったフライパンで殴られたから、痛かった……とか?

「ちぇっ、次の機会にしっかり検証しなきゃ」

舌打ちしつつも、今後の課題として覚えておくことは忘れない。

この後、反省会と打ち上げを兼ねた飲み会があるのだ。どうせ皆も見ているだろうし、当事者としてきっちり報告しなければ。

『魔力が籠もった武器なら死霊、もしくはアンデッド系に有効』なんて、かなり重要な情報じゃないか。

これまでの『アンデッドは武器での攻撃が効かない』という定説が覆る上、対策だって可能になってくるもの。

と、言うか。

この定説って、『死体が動いている』という現象のみに該当する気がするのよね。だから、『生きていない体をいくら痛めつけても意味ないよ☆』ということになる。

そもそも、『燃やすことが最善の方法』って言われているのも単に、『死霊の器になっていた体が燃やされて消えるから』ってことだしね。

そう思いつつ、ちらりと相棒――子猫(偽)の方へと視線を向ける。

……私があれこれ考えている間も、子猫(偽)とウサちゃんの攻防は続いていたんですよねぇ。

ウサちゃんはよっぽど子猫(偽)に馬鹿にされたことが悔しいのか、ターゲットはほぼ子猫(偽)オンリー。たまに私。

『ふぎゃっ!? やったなぁ、馬鹿ウサギ!』

『……!』(何やら怒っているようだ)

『なーまーいーきー!』

頭を踏まれた子猫(偽)が、報復とばかりにウサちゃんの耳を咥えて壁に叩き付ける。ウサちゃんも怒っているらしく、即座に態勢を整えると、再度、子猫(偽)に向かっていった。

そんな二匹の遣り取りを、私は生温かい気持ちで見守る。

子猫(偽)……あんた、口はどうなってるの……?

疑問に思うも、子猫(偽)は時々、ウサちゃんの耳などを咥えている。しかも、私には聞こえないウサちゃんの言葉を理解しているような。

っていうか、さっき、ウサちゃんが舌打ちしたような気も。

……。

なるほど、二体とも呪物かそれに近いものになっているわけですね?

依代の姿に意識を引き摺られる可能性もあるため、同族嫌悪や縄張り意識めいたものでもあるのかもしれない。

それで、大乱闘アニマルズ(仮)が勃発している、と。

状況的には呪物VS呪物の、存在を賭けた仁義なき争い。

第三者的には『子猫とウサギの微笑ましい喧嘩』。

子猫(偽)は元から愛らしいが、ウサちゃんも赤く濁った眼以外は愛らしいぬいぐるみのまま。

血濡れにでもなっていれば印象は違うのかもしれないが、残念なことに、ウサちゃんはただ汚れていっているだけである。

しかも、ぬいぐるみのウサギの大半がそうであるように、短足だ。

怖く……はないな。ナイフを持っていることのみ物騒だけど、所詮はぬいぐるみのウサギさん。

殺人鬼のビジュアル、超大事。

怪奇現象連発しているのに、全く怖くないんだもん。

元の世界の『人形に殺人鬼の魂が乗り移って、殺人を行なう』的なホラー映画は、人形の見た目が不気味だったから話が成立したに違いない。

……乗り移ったのがぬいぐるみだった場合、燃やされれば即アウトなので、そういった意味でも不適切とされたのかもしれないが。

微妙な気持ちになりながら、二匹を見守る。楽しく(?)喧嘩をしている二匹には申し訳ないが、そろそろお片付けのお時間だ。

「子猫(偽)~、そろそろ終了だよ」

『う~……判った』

多少、不満そうにしているけれど、子猫(偽)は良い子のお返事です。よしよし、良い子だ。

そんな子猫(偽)を撫でてやりつつ、私はウサちゃんの方に向き直る。ウサちゃんは即座に私を警戒してくるけれど、そんなものは無意味なのだよ。

「さて、ウサちゃん。今日のところはもう終わりにしよっか」

言いながら、ウサちゃんに向けて複数の氷片を放つ。ウサちゃんも避けようとはするものの、周囲を取り囲むように次々と向かってくる氷片が相手では逃げきれない。

――やがてウサちゃんは、氷片によって壁に磔状態になってしまった。

外れないよう、氷を厚くしておくことも忘れない。それでもウサちゃんは戦意喪失していないらしく、睨み付けて来る根性に拍手喝采。

「つ・か・ま・え・た♡」

※※※※※※※※

――騎士達が待機している部屋にて

「あ、子猫(偽)が頭踏まれた」

「……まあ、即座に遣り返しているけどな」

映像を見ていた双子が、思わず口にした。彼らとしては、ついつい口に出てしまっただけなのだが――

ボフッ! と何か柔らかい物が叩き付けられるような音が響く。

思わず、誰もがそちらに視線を向けると、音の発生源は親猫(偽)が尻尾を叩き付けたようだった。どうやら、子猫が踏まれたことにお怒りらしい。

「……。はいはい、落ち着こうね」

『……』

溜息を吐いたエルシュオンが宥めるも、親猫(偽)の綺麗な目はどことなく険しいまま。

子猫に甘かろうとも、所詮は親馬鹿。やはり、許せないようであった。