軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

七不思議の後日談 其の六

――『一人かくれんぼ』が行なわれている館にて

――その男は血に魅せられた者だった。

生まれこそ貴族ではなかったが、それなりに裕福な家に生まれ、家族に愛された時間を過ごしていた。

……『ある時』までは。

情勢が不安定になれば当然、犯罪……盗賊や強盗といった者達の数も増える。

彼らの中には已むに已まれぬ事情があってそうなった者も居ただろうが、『他者から奪う』という行為自体に変わりはない。

そして、そのターゲットは当然、『それなりに裕福な者』になることが多かった。

下手に貴族を狙った場合、騎士団が捕縛に出て来たりする。勿論、捕まれば重罪は確定であろう。

お貴族様はプライドで生きる面があるため、『犯罪者如きに馬鹿にされた』ということが許せないのだ。

元から厳しい処罰が確定していることもあるが、その追及は民間人が被害者だった場合に比べて格段に厳しい。

ところが、民間人が被害者だった場合、出てくるのは自警団――勿論、王都などに居れば騎士が出てくる――が常。

ぶっちゃけて言うと、装備一つをとっても騎士達より劣る。

それだけでなく、騎士達を相手にした場合よりも格段に追及が温いので、『ちょっと小金を持っている民間人』は、犯罪者たちにとっては良いカモだった。

その結果、前述した男の幸せは幼少期に崩れさることとなる。

……だが。

家族を殺され、『幸運』にも生き残った――あくまでも『生き残った』ということを念頭に置いた場合――子供は。

『家族を失った』ということに涙する一方で、全く異なった感情を覚えていたのである。

少年は恐怖に震えながらも、見惚れたのだ。

切り殺される家族や使用人達の撒き散らす『アカ』に。

子供が一人で生きていけるはずもなく、彼はその後、養護院に預けられた。

そこで奉仕活動などをして過ごす一方、彼の中に芽生えた『ある衝動』は徐々に育っていき、やがて彼を支配するに至った。

勿論、表面上は控えめな性格の青年である。無自覚のまま、目立つことを嫌ったのか、その容姿も、性格も、『平凡』という評価だったろう。

だが、逆に言えば……それは『印象に残りにくく、特徴がない』ということであって。

やがて、彼がその狂気を剥き出しにした時、彼の周囲の者達は誰も気づかなかったのである。

それが彼の犯行を増長させたことは言うまでもない。

何も気づかぬ周囲の者達の反応もまた、彼を楽しませるものだった。

彼は周囲の者達が愚かに見えて仕方なかった。近くに殺人鬼が居るにも拘わらず、全く気付いていないのだから。

『凶悪な殺人鬼』という言葉の印象に、人々はまさかその正体が平凡で無害そうに見える青年とは思わなかったのだ。

……そして、そんな愚かな者達もまた、青年にとっては良い獲物だった。

そっと近づき、体を拘束し。

その命を刈り取る瞬間に獲物が見せた、驚愕と絶望の表情!

それはこの上なく彼を興奮させ、喜ばせるものだった。そもそも、彼の目的は『殺人』であり、被害者達の財産を奪うことではない。

彼は『純粋に』殺人という行為を楽しみ、命がもたらす血の赤に魅せられていたのであろう。

幼い頃の経験は、彼の内に眠っていた衝動を目覚めさせてしまったのだ。

彼が長い間捕まらなかったのは、前述した『凶悪な殺人鬼のイメージに合わない』ということが一点、もう一点は貴族を獲物にしていたことである。

通常、貴族が狙われた場合は、『財産を奪う』『政敵から依頼された暗殺』という二点が重点的に疑われるのだ。

ところが、彼の犯行は強盗というにはあまりにも物を取っておらず、どちらかと言えば、政敵絡みの暗殺の方が疑われていた。

何のことはない、対応に当たった者達も犯人像を大きく勘違いしていただけなのだ。

彼は質素な生活を好むうえ、散財するような行動もない。そんな金など、普通の民間人には必要がないからだ。

そうなってしまうと、彼という存在は益々、犯人像から遠ざかっていく。

――異常な衝動こそあれど、それ以外は特に問題行動もない民間人。

それが日頃の彼の姿であり、それらは決して偽りではなかった。ゆえに……彼の罪は長らく露見しなかったのである。

露見した切っ掛けは些細なことだった。彼が『己の身の安全』よりも『己の欲』を優先したからだ。

逃げていれば結果は違っただろうに、彼が優先したのは己が楽しみ。

この時点で十分、狂っているのだろうが……彼の中ではそれが正しいのだ。

結果として、彼は捕らえられ、世間を騒がせた殺人鬼として処刑された。

その姿に、冤罪ではないかと疑った者達も居たらしいが、全く罪悪感を持っていない彼の姿に、事件に関わった者達は戦慄したらしい。

こうして、史上最悪とまで言われた殺人鬼はその命を終えたのである。

なお、彼は『不安定な情勢が生み出した殺人鬼』と称され、国の在り方に一石を投じる結果となったのは余談である。

幼い頃の悲劇がなければ、生まれなかった殺人鬼。

政に携わる者達はそれが己が身に降りかかってくる可能性があると知り、自己保身の意識から、国の立て直しに尽力する者が増えたとか。

……そんな伝説級の殺人鬼である『彼』は。

今現在、どこぞの馬鹿猫(※人間・魔導師)に呼び出され、ぬいぐるみの中に宿っているのであった。

『彼』は浮かび上がる意識に、首を傾げた。その途端、『彼』の違和感は益々酷くなっていく。

自分は首を落とされたはずである。それも、凶悪な殺人鬼として。

そう思うも、違和感はそれだけではない。死んだはずの己に宿る、不可思議な力、その憎悪。

普通の人ならば恐れ、恐怖を感じるだろうそれを、『彼』は心地良く感じていた。

ああ、ああ! 何と素晴らしい……力が溢れてくるではないか!

『彼』は信じたこともない神などではなく、この奇跡をもたらした存在に感謝した。

そして思ったのだ……『これでまた殺せる』と。

当たり前だが、『彼』は生前の行為を全く反省していなかった。反省するような奴なら、呼び戻されはしないだろう。

そもそも、『彼』は次があるなど思っていなかったので、人生をめいっぱい楽しんだと思っている。

その後に向かうのが冥府だろうと、地獄だろうと、別のどこかだろうとも、『彼』は変わらなかっただろう。

そして今……『彼』は仮初の器を得、この世に舞い戻ってきたのである。

『ああ……獲物の気配がする。呼び戻してくれた恩人なのだ、丁寧に殺さなければ』

最初の獲物であり、恩人。そんな存在に対し、『彼』が向けるのは『丁寧に殺す』という殺意。

寧ろ、恩人だからこそ、美しく命の赤で飾ってあげなければ。誰より美しい死体にしてあげなければと、純粋に思っている。

この時点で、『彼』がまともではないことが判るだろう。決して、呼び戻してはいけない魂である。

そんな『彼』は、起き上がろうとし。

『……ん?』

起き上がることができなかった。視線を下に向けると、己の腹にはナイフが深々と刺さっているではないか。

『こんなもので俺の動きを封じるとは』

そう思い、『彼』はにんまりと笑う。依代の表情こそ変わらなかったが、思わぬ贈り物に『彼』は喜んでいたのだ。

ここが水中ということは判っていたが、まさか武器まで用意してくれるとは。

上機嫌で、『彼』はナイフが抜けるよう念じた。人だった頃は魔法すらろくに使えなかったが、何故か、今はそんなことができると『彼』は知っていた。

そもそも、『死者』である『彼』の意識が目覚めたこと自体が異様である。

この館内限定とはいえ、どことなく邪悪な気配が満ちているのだ……まるで自分の味方をしてくれているようだと、『彼』は感じていた。

やがてナイフが抜けると、『彼』はその場から脱出し。そこが浴室、そして己が沈められていた場所が浴槽であることを知った。

『……。なるほど、どこぞの魔術師が反魂の儀式でも試したのか』

『彼』は冷静に判断すると、ガラスに映った己が姿を目にし。

『……』

無言になった。

そこに映っていたのは、ぬいぐるみ。それも可愛いウサギさん。

何が悲しくてこんな依代に宿らねばならないのかと、『彼』は暫し悩み。

『ま、まあ、人に気付かれずに殺せそうだから、これもありだろう』

半ば無理矢理、自分を納得させていた。

死んでいるとはいえ、『彼』は男性、それも国を恐怖のどん底に突き落とした殺人鬼なのだ……己の体がウサちゃんでは思うこともあろう。

『彼』は腹の中に埋め込まれているらしい爪から、必要な情報を探った。

勿論、全てが読み取れるわけではない。だが、この爪の持ち主が親しくしている者、その声が判れば十分だった。

『ああ、この爪の持ち主の気配を感じる。彼女が、俺を呼び出した者か。……すぐ、会いに行くからね』

爪の持ち主は特定の人々に囲まれて生活しているらしく、より印象に残っている人物達はすぐに特定できた。

きっと、この暗闇で心細い思いをしていることだろう。親しい者達の声で呼びかけてやれば、すぐに姿を現すはず。

そう呟いて、歩き出そうとし。

べちゃっ! という音と共に、盛大にこけた。

お忘れのようだが、彼は今まで水中に居たのである。そして、ぬいぐるみは布と綿でできている……つまり、『たっぷりと水を吸っていて重い』。

そして、『彼』の依り代はウサギさん。ぶっちゃけ、短足なのである。

『……』

今度こそ完全に無言になった『彼』は、素直に体中の水を絞ることにした。

その光景はそれなりに愛らしいものだったのだが、残念ながら映像に映ることはなかった模様。

第一、『彼』にはこの先、とんでもない苦難が待ち受けているのである。

『狩る者』は『彼』だけではない。他にも居るのだ。

『異世界人凶暴種』とまで言われる黒猫が、嬉々として待ち構えているのである。

その黒猫はそれはそれは腕白で、愛情深い親猫ですら、叩いて躾けるしか方法はないと諦めるほど。

と言うか、今回の首謀者であり、『一人かくれんぼ』を教えた戦犯である。

『彼』はかつての記憶を元に『自分の方が強者』と思っているのだろうが、異世界出身かつ、ホラーゲームが大好きだった生き物が被害者になんてなるはずがない。

上げる悲鳴とて、全く意味が違うだろう。

「きゃぁぁぁぁぁっ!」(恐怖)

ではなく

「きゃぁぁぁぁぁっ!」(歓喜)

なのである。所謂、黄色い悲鳴というやつだ。全く可愛げがない。

憧れ続けたオカルトに、黒猫は心細い思いをするどころか、ワクワクしながらエンカウントの瞬間を待ち構えているのであった。

そして、その手には強化済みのフライパン。館にも罠が仕掛けられていたりと、殺る気満々であった。

そして……黒猫には愛らしい援軍が来ているのだ。

見た目はふかふかの愛らしい黒い子猫、ただし中身は元ネタにそっくり。

しかも子猫という外見に影響されているのか、無邪気さがプラスされ、時には元ネタ以上に残酷な面もあったりする。

『彼』……いや、ウサちゃんの苦難の時は、幕を開けたのだ。