作品タイトル不明
『イルフェナであった怖い話(?)』其の一
ある日、とある王子様がこう言った。
『ミヅキ曰くの、【オカルト】とやらを試してみたいんだよね』
どうやら、彼の庇護下にある異世界人の魔導師から、元の世界の文化を聞いたらしい。
なんでも、一部屋に集まった者達で順番に怖い話をしていくのだとか。
中には七つ目を知ると恐ろしい目に遭うという、『七不思議』とやらも存在するという。
『魔法との違いが判らないと、黒騎士達も興味を示していてね』
呪術にも等しいように思えるそれに、殿下直属の騎士達もまた興味を示し、それを試してみたいと言われてしまったようだ。
そして、私にもそこに同席し、聞き手として記録をして欲しいという。
……まあ、私はずっと『先生』――魔術師に助手として仕えていたので、殿下の言う『魔術とオカルトの違い』とやらも、それとなく文章に纏められると思われたのだろう。
何のことはない、私が適任だっただけ。
魔術の知識があり、かの魔導師への偏見も接点もない私ならば、第三者としての見解を持てると踏んだのだろう。
勿論、断ることはない。それに……亡くなった『先生』も、そういったことに興味を持っていたのだから。
ただ、『先生』の場合はそこまで興味がなかったか、相性が悪かったらしく、きちんとした研究ではなく、興味程度で終わってしまったようだったが。
ま、まあ、死霊術などに傾倒されるくらいならば、平和的でいいと思うけど。
『では、今夜騎士寮で行なうよ。私も参加するし、食堂で行なうから、そこに暮らしている騎士達も聞きに来るだろうけど……事前に頼んでいるのは数名だ』
『万が一、何かあっても、私の騎士やミヅキが居るから大丈夫だと思うよ』
……。
殿下は己の騎士達だけでなく、かの魔導師を随分と信頼しているようだ。その表情と言葉からもそれは窺える。
そんな関係は、私と『先生』を嫌でも思い起こさせた。自然と、胸が温かくなっていく。
『先生』との時間は、私にとってかけがえのないものである。学のない私に、『先生』は多くのことを教えてくださった。
やがて『先生』の仕事を手伝うようになり、『先生』が亡くなる頃には家族のような信頼関係を築けたと思っている。
きっと、殿下にとって、あの騎士達や魔導師殿もそういう存在なのだろう。まして、殿下が居るなら、危険な目に遭うこともあるまい。
そう認識すると、私の緊張もゆるゆると解けていった。たとえ呪術紛いのものだったとしても、これならば大丈夫だろう。
『じゃあ、夜にね』
そう言われて、部屋を後にした。
そして、約束の時刻となった現在――
「おいでませー! さあさあ、七不思議の会が始まりますよ♪」
「ミヅキ、煩い」
「酷ーい、魔王様! 私は最高のエンターテイナーとして、場を盛り上げたいだけですってば!」
騎士寮を訪ねた私を出迎えたのは、楽しそうな魔導師らしき女性と呆れたようなエルシュオン殿下。
初めて目にする遣り取り、そして殿下の姿に、呆気に取られていると……今度は双子らしき騎士達の声が聞こえてきた。
「ミヅキが居るだけで、怖さが薄れるよな」
「何かが出ても、クラウス殿達やミヅキに玩具にされる未来しか見えん」
……。
私 は 一 体 、 何 を し に 来 た の だ ろ う か ?
はて、『オカルト』とやらは所謂、怖い話だったはず。それが『玩具』とは。
……。
あれか? 魔導師が世界の災厄と言われるように、この騎士寮に暮らす魔導師の日頃の行ないが恐ろしい……とか?
「ふふ、騒がしくて申し訳ございません。ですが、いつもの微笑ましいじゃれ合いですから、ご容赦を」
『は、はあ……』
「どうぞ、ご着席ください」
冷や汗を流す私を見兼ねてか、物腰穏やかな青年――アルジェント殿が席を勧めてくれる。
食堂は意図的に薄暗くしてあるらしく、夜ということもあって、人がそれなりに集っているというのに、どこか不気味に感じた。
「それじゃあ、始めようか」
やがて、殿下から開始の合図を受け。
――『七不思議の会』とやらが始まった。
※※※※※※※※
第一話『誇り高き騎士ならば』(語り手:アルジェント)
おや、私が一番手ですか。
そうですね……私は魔法が使えませんので、少々、不思議なことが起きても、その違いが判らないのですよ。
今回、話して欲しいと仰っているのは、ミヅキ曰くの『オカルト』という分野なのでしょう?
ご満足いただけないかもしれませんが、私自身が不思議に思っている出来事……というものなら、多少はありますよ。
それでも宜しいですか?
……そうですか。それでは、お話し致しましょう。
ご存じのように、私は騎士としてエル……エルシュオン殿下に仕えております。
ですが、騎士となるためには数年、騎士学校にて学ばねばなりません。
これはどれほど才能があろうとも、どのような身分の生まれであろうとも、絶対なのです。
……ええ、身分を問わず、騎士を志す者全てが通わなければならないのですよ。
他国はともかく、イルフェナは実力至上主義ですから。
勿論、身分を問わずに優れた才を持つ者にチャンスを与える……という意味もあります。
ですが、どちらかと言えば、騎士となった後のことを想定しているのだと思っております。
先ほども申し上げたように、イルフェナは実力至上主義なのです。
ですから、貴族の身分を持つ者の上官が元民間人……ということもあり得るのですよ。
騎士となった時点で騎士爵は持っておりますし、上官となられるくらいですから、功績もそれなりにあるでしょう。
ですが、生粋の貴族というわけではありませんし、時には見下す者もいるのですよ。
……まあ、そのような輩は圧倒的な実力差を見せ付けられ、己の不甲斐なさを痛感する羽目になるのですが。
それ以降もくだらない戯言を口にするようでしたら、貴族階級出身の騎士に諫められますけどね。
『実力至上主義のイルフェナにおいて、貴族階級に生まれながら、その程度の実力しかないなど、恥ずかしくないのか!』と。
大抵はこれで大人しくなりますよ。騒げば騒ぐだけ、恥を晒すことになりますし。
まあ、ともかく。
そのような状況で学び、騎士としての在り方を身に付けていくのです。教師や先輩達からの厳しさは『生き残れ』という、無言の応援と思っております。
今でこそ比較的平穏ですが……ほんの二十数年ほど前までは忌々しい戦狂いが猛威を振るっておりましたからね。
当然、我がイルフェナも無傷では済みません。多くの同胞が国を守り、散って逝ったと聞かされております。
ですが、彼らの命を賭した意地があってこそ、今があるのです。騎士として、また貴族としても尊敬できる、偉大な先輩方ですよね。
そのような血塗られた歴史があるせいでしょうか……国境にある砦は特に、不思議なことが起こると言われているのです。
曰く、『誰もいないはずの見張り台に、人影が見える』。
曰く、『転寝をしていると、誰かから【油断するな】と声を掛けられる』。
曰く、『捕らえた賊が【殺せない奴がいた】と怯える』。
他にもありますが、この三つがよく言われているものですね。
……え? 『恐ろしくはないのか?』ですか?
どこに恐れる要素があるのでしょう。少なくとも、この三つは先輩方……騎士として散っていった偉大な先輩方だと思っております。
事実、これらの出来事に遭遇した者達は恐怖よりも安堵を覚え、それが噂に聞く怪異だと知ると、いっそうの鍛錬に励むと聞いておりますからね。
だって、そうでしょう? 死してなお国を守り、後輩達を気にかけてくださる英霊達ですよ?
そのような方達の片鱗に触れる機会を得たならば……それほどの忠誠を見せ付けられたならば。
奮起するのが騎士というもの。偉大な先輩方の背を追い、彼らに恥じぬ騎士であろうと思うでしょう。
そのように考える者が大半なせいでしょうか……『偉大な先輩方』は有事の際、再び舞い戻り、共に戦ってくれるという噂があるのです。
実のところ、これは過去に砦が襲撃された際、捕らえられた賊の証言にも登場しているのです。
――『暗闇をものともせず、応戦した騎士達が居た』と。
当時、砦の守りを担っていた者達は剣戟の音を聞き、即座に応戦態勢を取ったそうです。
……後日、『誰も』その剣戟に参加していなかったことが判明したそうですが。
私の話はこれで終わりです。恐ろしいと言うより、誇らしい話になってしまいましたが……まあ、一応『オカルト』ではありましたよね。
さあ、次の話へと向かってください――