軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

騎士様達の雑談(王太子視点)

子猫のお迎えに来た者達を見送り、私は漸く、肩の力を抜いた。

騎士達も似たような状態になっているあたり、私達は揃って、魔導師殿に対する警戒心を少なからず持っていたらしい。

勿論、ある程度の情報なら事前に得ていた。

だが、それを踏まえても、あの子は規格外過ぎた。

「いやぁ……何て言うか、予想以上でしたね」

「まあ、な」

声を掛けてくる騎士にさえ、そう返すしかない。

と、言うか。

その『予想外』が全くの別方向だったことが、私達を疲労させたと言える。

「規格外でしたね。……その、『色々』と」

「……」

「黙らないでくださいよ」

「いや、すまん。まさか、情報が隠されていた理由が、その……予想外と言うか、予想の斜め上と言うか……」

「気持ちは判りますよ」

そう言うと、騎士は哀れみの籠もった目を向けてくる。彼も言葉に困るのか、『予想外だった』としか言えないらしい。

「まさか、魔導師殿があのような性格とはね……」

思い出すのは先のハーヴィスの一件、エルの望む決着のために尽力する姿。飼い主の願いが最優先とばかりに、彼女は言葉巧みに場を支配してみせた。

それを見た者達は、彼女の評価を改めたことだろう……『あれは危険だ』と。

元からある程度は評価されていたとはいえ、それでも『世界の災厄』と呼ばれる存在とは違うと、どこか無意識に思っていたのだ。

見た目と日頃の無害さが多大に影響していることに加え、彼女は何だかんだと各国の憂いを晴らしてきたのだから。

……が。

あのハーヴィスの一件で、その認識に疑問を覚える者が続出した。少なくとも、私と忠実な騎士達は危機感を抱いたのだ。

飼い主に忠実とは言うものの、あの子はエルの騎士達とは違う。

『エルの傍に自分が居なくてもいい』のだ、飼い主が望んだ決着が叶うならば!

普通は評価されたいと願うだろう。もしくは、主の傍に居たいと願うだろう。

だが、あの子にとって最優先となるものは……『飼い主の願いであり、それを叶えると決めた己の選択』。

良くも、悪くも、あの子は一度決めたことを忠実に守り続けているのだろう。

ルドルフ陛下が『野良猫が勝手に懐き、勝手に守っているようなもの』と言っていたが、まさにそれに近い。

周囲の者達どころか、忠誠を向ける相手からの感情さえ、どうでもいいに違いない。

だが、それは同時に危険な考えでもあった。言い換えれば、エルが止めようとも、勝手な行動を取る可能性がある、ということじゃないか。

ハーヴィスの一件の際、エルは魔導師殿に命令などしていない。それどころか、ろくに接触すらしていなかった。

それでも、ハーヴィスは散々な目に遭ったのだ……決着までの筋書きを考えたことと言い、あの子は立派に脅威である。

ただ、今までろくに関わって来なかった私からすれば、重要なのはエルの方だった。

世間的には、エルが魔導師殿の飼い主として知られている。実際には配下ではないのだが、魔導師殿が自称し、エルも訂正しないので、それが事実のように認識されていた。

――つまり、『魔導師殿が勝手に動くことを知らない者からすれば、エルが命じたように見える場合がある』ということ。

我々が危惧したのはこれだった。いくら可愛がっていようと、その行動がエルの願いに沿っていようと、責任を負わせられる可能性があるじゃないか。

その危険性がある以上、私は黙っているわけにはいかなかった。エルはもう、言い掛かりのような悪意を向けられる必要はない。

……が。

そう意気込んでいた私にとって、魔導師殿は非常に理解しがたい性格をしていたのだ。

『魔導師殿の世界ではあれが普通』という可能性がなくはない。ありえないとは思うが、魔導師殿自身が民間人と申告しているからな。

しかし、それが事実だった場合、その世界は修羅の国か何かだろう。恐ろしいことである。

そもそも、『年頃の女性が何の躊躇いもなく、聖職者を押し倒した』って、どういうことだ!?

まさか、『魔導師殿の策は予想がつかない』と言われているのは、『前提となる常識が違うから』ということではなかろうな?

「しかし、エルシュオン殿下も変わりましたよね」

エルの様子を思い出したのか、一人の騎士が苦笑する。

「アルジェント達にも言えることですけど、前はあんな姿なんて見ることができませんでしたから」

「……そうだな」

「だから、我らの主も弟君を心配なさったのだ。変わられたのは良いことだが、それに引き摺られ、必死に築き上げた足場を崩すようでは困る」

「……」

別の騎士からの指摘に、誰もが無言で頷いた。

今回のことは『異世界人の魔導師』と直接言葉を交わすことも目的だったが、同じくらいエル達の出方を見ることも重要視していたのだ。

「いくら可愛がっていると言っても、魔導師殿の破天荒さに引き摺られた挙句、エルが評価を落としては意味がないからね」

「その心配はなさそうで安堵しましたけどね。ですが、エルシュオン殿下の教育方針こそ、『魔導師を子飼いにしている』といった噂の原因では?」

「まあ、ね……」

思い出すのは、エルの幼い頃。どんな生き物にも怯えられ、寂しそうにしていた姿。それが今では、過保護な親猫様なのだ。

確かに、あそこまで懐かれれば可愛かろう。配下というより愛猫扱いのような気がしなくもないが、そもそもエルには動物を飼った経験がない。

賢く、主の危機には躊躇わず牙を剥く猫(仮)が可愛くても、誰が責められようか。

だからと言って、あの教育方針が許されるとは思わんが。

いくら生き物の飼い方が判らないからと言っても、あれはない。

「世間では魔導師殿の言動が原因のように思われているけど、エルの教育方針が多大に影響を及ぼしているからね。ただ……」

「まさか、飼い方が判らない……いえ、『接し方が判らなかっただけ』とは思いませんでしたけど」

「……言わないでくれないか。弟のポンコツぶりが浮き彫りになってきているんだから」

何のことはない、我らの心配など全くの杞憂だったのだ。エルは大真面目に、魔導師殿のことを考えていただけだった。

それが世間からどのように見えるかなんて、考えもしなかったに違いない。

「それに去り際の弟君……明らかに魔導師殿を自慢してましたよね」

「ああ、あれが『子猫の自慢をする親猫』とか言われている原因なんだろうな」

「いや、あの、お前達? 一応、私はエルの兄なんだが……」

『……』

「そんな目を向けないでくれないか!?」

騎士達から向けられる生温かい眼差し。言うまでもなく、魔導師殿を迎えに来たエルが原因だ。

ああ、言われずとも判っているさ……あの時のエルは誰が見ても、『うちの子自慢をする親猫』だと!

付いて来た二人の騎士も、どこかにやにやとした笑みを浮かべていたじゃないか。

今回のことで、私達の心配は杞憂だと痛感できた。だが、別の意味での心配は増した。

エルよ、お前は親猫じゃないし、魔導師殿はお前の子でもないからな?

あと、常に自分を基準にして教育するのは止めてやれ。

「ところで……あの子は我々にとって、無視できないことを言っていた気がするんですが」

「……ん?」

「シャルリーヌ嬢と……クラレンス殿のことです」

『あ』

思い出した途端、誰もが顔を青褪めさせた。

そういえば、あの二人にとって魔導師殿は『悪戯っ子だけど、とても頑張り屋さん』とかいう評価だったはず。

今回のことも、何かしらチクリと遣られるに違いない。

「……。覚悟だけはしておくか」