軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

親猫様、微妙に拗ねる(エルシュオン視点)

茶を口にしつつ、目の前に居るファレルの姿を盗み見る。……どうやら、彼は困惑しているようだ。そんな姿に、少しだけ留飲を下げた。

唐突な招待……という名の拉致は十中八九、父上の意向だろう。王としての父を知っているため、これには確信があった。

まあ、それも仕方ない。ハーヴィスの一件において、ミヅキは人脈その他をイルフェナの者達に見せ付けているのだから。

これまでもミヅキに協力してもらったことはあれど、関わったのは限られた者達のみ。つまり、ミヅキの所業(好意的に解釈)を、初めて目にした者も多かった。

興味を持つな、という方が無理だろう。

たとえ、私の庇護を受ける異世界人であったとしても。

そういった者達の中において、最も地位が高い者こそ、私の兄である王太子。

同時に、『これまで殆どミヅキに関わってこなかった者の中で、最も地位が高い者』であることも事実。

言い方は悪いが、兄自身がミヅキの見極めを行なうことで、同じ立ち位置に居る者達は安心するのだ。

何より、王太子自身が『あの子は無害だ』と言い切ってしまえば、それ以上の不満を口にできるはずもない。

父上の狙いは恐らく、こちらだろう。

何のことはない、父上はミヅキの安全を確保したかっただけなのだ。

ミヅキへと警戒心を募らせる者達を私が黙らせた場合、間違いなく、その不満は私へと向くだろう。

それだけではなく、私とミヅキが必要以上に仲が良いと噂され、どちらにとっても良い結果にはならないことが窺えた。

父上達はその対処の一環として、兄を焚きつけたのだろう。『異世界人の魔導師と接してみないか?』と。

……。

まあ、次代のイルフェナ王である兄とミヅキを会わせたかったことも、本音だとは思うけど。

判っている。父上の打った一手は、最善であったことなど。

兄上や彼を支える側近達が、ミヅキを警戒する気持ちも理解できる。

……しかし。

気に食わないことは事実なのだ。

保護者である私をよそに、勝手なことをしないでくれるかな!?

一言でも相談してくれれば、私とて、このようには思うまい。

場を整えるなり、ミヅキに話を通したりと、協力はしただろう。勿論、『素のミヅキと接したい』と言うならば、詳細を本人に伏せたまま。

……が、現状は御覧の通り。

ミヅキは強制的に、兄上の騎士――多分、兄本人も関わっている――からの招待を受け。

ご機嫌伺いと軽い謝罪のために、ファレルが派遣されてきたのだ。

なお、ファレルの役目は『私の抑え役』だろうと推測。

すぐに私が迎えに行っても困るため、ファレルを犠牲……いやいや、足止め役に任命し、私の行動を封じようとしたのだろう。

こう言っては何だが、それは正しいやり方だと思う。ミヅキの保護者を自負する以上、私は即座に行動しただろうから。

しかし、そんな気遣いは不要ということらしい。『私が何故、そんな行動を取るか』という理由を、相手が盛大に勘違いしていたとしても、だ!

……。

そうか、そうか。そっちがその気なら、私も付き合ってあげようじゃないか。

うちの子は『絶対に』、そちらの精神を削ってくるだろうけどね。

文句を言われる筋合いなどあるものか。勝手なことをしたのは、そちらなのだから。

まあ、精々、心を抉られる貴重な体験をするといいさ。普通に考えて、王族やその側近たる騎士達にそんな経験をさせる子なんて、居ないだろうから。

現に、アルは私の気持ちなどお見通しらしく、私を諫める気配など欠片もない。寧ろ、あれは確実に面白がっているだろう。

双子は……私の不機嫌を察しているであろうファレルへと、気の毒そうな視線を向けている。

ミヅキと一緒に居る時間が長く、私の性格にも馴染みつつある彼らからすれば、貧乏くじを引いたとしか思えないファレルが気の毒でならないのだろう。

そうだね、確かに彼は気の毒だ。無意識に漏れる私の威圧は、どう考えても八つ当たり。

それに加え、一人だけミヅキの被害を受けずに済んでいるのだ。……仲間達からも後で、八つ当たりされるだろう。

あの自己中娘がまともな思考回路などしているものか。逆に言うなら、『まともな思考回路をしている人間にとって、非常に疲れる存在』なのだ。

一部どころか、常に斜め上の思考をしている馬鹿猫の所業は『一応』、報告書に纏められている。

ただし。

隠すところは隠すと言うか、多少の軌道修正をしてあることも事実。寧ろ、ミヅキの思考そのままのものなんて、イルフェナに残せるはずもない。

『貴族を【玩具】扱いして弄ぶ』なんて、書けるはずないだろう?

『ウザい』の一言で、家を存亡の危機に立たせる子なんだよ、うちの馬鹿猫はっ!

なにせ、聖人殿を初対面で押し倒して脅迫する『ろくでなし』だ。

いくら協力者が欲しいからと言っても、真面目な聖職者に対して冤罪を吹っ掛けるなんて、鬼畜外道の所業である。

……勿論、聖人殿には誠心誠意、謝罪させていただいた。快く許してくださった聖人殿の心の広さに、ただただ感謝してやまない。

兄上達はそれを『秘された情報』のように感じただろうが、現実はこんなものである。『隠された情報』というより、『別の意味で、表に出せない情報』と言った方が正しい。

恐ろしいことに、それで結果が出てしまっているのだから、笑えない。ミヅキは『必要なこと』と言っていたので、ある意味、それは正しかったというわけだ。

……だからと言って、素直に受け入れられるかは別問題なのだが。

どうして表に出せると思うんだ、こんなろくでもない所業の数々を……!

なお、ミヅキにとってこれらのことは受け狙いとかではなく、平常運転である。

冗談抜きに、元から思考があの状態なので、ミヅキ自身に隠す気など皆無であった。

今現在、ミヅキは聞かれるまま、様々なことを馬鹿正直に答えているのだろう。勿論、悪意など微塵もなく。

そして、その度に話を聞いている騎士達の精神的な疲労は増していくのだ……何という罰ゲームであろう。

まあ、それでも始めたのは彼らなので、同情するつもりは欠片もない。一人だけ無事だったファレルが八つ当たりをされようとも、些細なことである。

全ては、保護者である私を無視したことに起因するのだ。迎えに行くまで、精々、心を抉られるがいい。

「エルも素直じゃありませんね」

喧しいよ、アル!