軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

黒猫の本音

私は正直に答えているだけなのに、騎士様達は何~故~か、一様に疲れた顔になってきた。

時々、お仲間同士でひそひそと言葉を交わしているあたり、やはり、この場は私の見極めとかそんな扱いなのだろう。

……だからと言って、『お仕事、大変ですね』なんて思ってはやらないが。

何だよ、話を聞きたいと言ってきたのは、そっちじゃないか。

騎士寮面子なんて、私が説教食らう様を笑顔で見てるんだぞ!?

なお、そういう時の騎士寮面子は暇を持て余しているのかと思っていたら、実はそうでもないらしい。

騎士s曰く、『仕事を後回しにしても、お前と殿下の遣り取りが面白いんだろ』とのこと。

たまに、どこから聞き付けるのか乱入者が居る場合もあるので、そこらへんから噂が飛び交い、今回の拉致に繋がったと思われる。

……『娯楽一歩手前の説教って、なんぞ?』と。

ただでさえ不思議な評価と噂が飛び交っているのに、更なる混乱を招いたわけですね。

……。

なんか、ごめん。騎士様達だって忙しいだろうに。

「いやぁ……君、殿下に懐いてるんだね」

騎士様の一人が、何とも言えない表情で呟いた。同意するように頷く騎士様も数名居り、彼らの総意と言うか、現在の心境なのだろう。

そんな言葉にも、彼らが私をどういう風に認識したかが窺えた。

『慕っている』とか、『忠誠を誓っている』という表現ではない。

『懐いている』ですよ! 『この猫、飼い主が大好きなんだね』的な意味ですな。

よって、私も彼らの認識を肯定すべく、頷いた。

「そりゃ、敬愛する親猫様ですし」

「親猫……」

「色んな人から言われるんですよね。魔王様の私への接し方って、『愛猫を持つ飼い主』か『愛情深い親猫』だって」

「……」

呆れるでない、騎士様よ。ただ、戸惑う気持ちも判るんだけどね。

誰だって、最初からそのように認識していたわけではない。しいて言うなら、『よく面倒をみている』という認識が大半だった。

『可愛がっている』という言葉って、元から非常に曖昧なものなのですよ。

『目をかけている』とか『期待している』という意味にも受け取れるし、『期待しているからこそ育てようとしている』とか、『厳しく接し、成長させようとしている』という解釈もできてしまう。

なまじ魔王様の教育がスパルタだったため、直接接したことがない人達は『どういった意味で【可愛がっている】のか?』と疑問に思ってしまったわけですね。

言い方は悪いけれど、魔王様の立場だと『駒として使うために、手懐けている』という解釈もできてしまうから。

寧ろ、悪意を以て魔王様を見ていた人達はこちらの認識が大半だったろう。一度、『悪』と思い込んでしまうと、行動全てが悪く見えるって言うし。

なお、『ろくに情報を伝えず、飼い殺す』と考えた人はゼロだった。

誰が見ても、ただ甘やかすだけの愛玩には見えなかった模様。

あのティルシアでさえ、戸惑った様子で『貴女はエルシュオン殿下が大好きなのね……?』とか口にする始末ですよ。

魔王様の愛情はその成長も込みなので、甘やかしだけではない。ただ、それは異世界人に対する接し方ではないので、周囲が混乱したらしい。

余談だが、それらの反応を見て、秘かにほくそ笑んでいたり、優越感に浸っていたのが、騎士寮面子である。

奴らは自分達が真実を知っているにもかかわらず、黙ってやがったのだ。

曰く、『これまでのエルへの態度を反省する意味も含め、自分で気付いてほしいから』とのこと。

もっと言うなら、『自分で気付いた時、これまでの認識が逆転し、罪悪感を抱くだろう。ざまぁ! 海より深く後悔しやがれ!』という心境だったらしい。

性格が悪いこと、この上ないです。

こいつらにだけは『性格悪い』と言われたくはないぞ、私。

「まあ、結局のところ、皆さんは実際に自分の目で見て、『飼い主』とか『親猫』っていう解釈が一番近いと感じたわけですよ」

「君が騙されているとか、忠告した人は居なかった?」

「居たとしても論破していますし、そもそも、私がそんな表面的な嘘に騙されるような性格に見えます?」

「……」

「……」

「……。無理があるね」

暫しの沈黙の後、騎士様は納得したように頷いた。

ですよねー! そもそも、私と直接、そんな言葉を交わす機会なんて、『私がお仕事で派遣されている状況』が大半なのですよ。

つまり、私は絶賛、やらかし中。

そんな状況を目の当たりにしていたら、誰だって『綺麗な顔と、優しい言葉で騙されてます』なんて展開はないと気付くだろう。

その後、魔王様が私に説教を食らわす光景を見て、誰もが痛感するのだ……『この人、本当に保護者として面倒を見ているだけだわ』って。

「そこは素直に、殿下の忠臣とか言っておけばいいものを」

「魔王様に忠誠心を抱くのは、騎士寮面子で十分です。彼らが居るから、私は自由に動けるんですよ。だから、望む決着のためならば、敵対だって有りですね」

「……君自身の評価が悪くなっても?」

「どうして、そんなことを気にする必要が?」

「え?」

私の言葉が意外だったのか、問いかけてきた騎士様が呆けたような表情になった。

「だって、私は『この世界の部外者』ですよ? 気にする必要なんて、あります?」

「し……しかし」

「私が『異世界人であること』は変わりません。勿論、魔導師であることも。それにね、勘違いしている人が多いですが、私は別に『この世界に価値は感じていません』よ?」

事実である。私にとっては、単に自分が生きている場所という認識でしかない。

そもそも、この世界の人達だって、そういった認識が大半だろう。『当たり前のようにあるもの』なのですよ。一々、価値なんて感じるかい。

「『部外者』である私にとって、大事なものは『この世界』ではなく、『私が自由に生きられるよう、手を差し伸べてくれた人達』です。博愛主義者でも、正義の味方でもないんですよ。動くのは単に『自分のため』か、『お仕事』か、『大事な人達を害されることが気に食わないから』ですね」

自己中、外道と、言われたい放題ですが、私が反論したことはありません。

だって、事実だし。

「じゃあ、殿下に忠実なのって」

「野良猫だって、可愛がってくれた人に恩を感じるでしょう? 魔王様は一度もそういったことを求めないけれど、私は自分に与えられた愛情や恩恵がどれほどのものか、気付けないほど愚かでいるつもりはありませんよ」

『馬鹿は嫌い』と公言するからこそ、『愚かでいるつもりはない』。

与えられた愛情と居心地の良い場所を知るからこそ、そこを守るために牙を剥く。

「最初から言っているじゃないですか。『私は自己中ですよ』って。だから、ルドルフあたりには『お前、判りやすい』って言われています。私にとって損か、得か。そして、どのような結果が望ましいか。お貴族様同士の腹の探り合いよりも、ずっと判りやすいと思いますけどね」

ただ、『その決着までもっていく思考回路が意味不明』とも言われているので、多くの人はそこで勘違いをするのだろう。

難しいことを考える必要はありません。重要なのは『私がどうしたいか』。

そのために知恵を絞り、状況を整え、あらゆる障害を壊している。原動力となるものは勿論、『私による、私のための、状況改善』という強い意志。

それを『忠誠心や優しさ』といったものに誤解しているから、私の行動が訳の判らないものに見えるんじゃないのか?

たまに言われるしねぇ……『我らに向ける優しさはないのか!?』って。

『ねぇよ!』としか言いようがありません。何故、よく知らん奴にそんな感情を抱くのさ?

私と親しい人々はそれをよく理解しているので、誰も非難の声を上げないのです。

自分に置き換えたって、そんな都合の良いものを向けるはずがないと思っているだろうしね。

それに。

非難の声を上げたり、期待する人って、結局は私のことを『都合の良い駒』だと思っているだろうから。

無意識だろうと、これは確定。だって、他の人に同じことなんて求めないじゃん!

「魔王様の教育は善意や優しさからきていますが、私は全く別物ですよ。だから、『自由奔放な子猫』やら『野良猫』って言われているんじゃないですかね?」

「あ~……君が猫扱いされるのって、そういう意味もあったのかい」

「そもそも、『本来、居ないはずの者に期待するな』っていうだけなんですけどね」

――だから、『お仕事は魔王様経由』なんですよ。

にこりと笑ってそう締め括ると、騎士様達は顔を見合わせ、深々と溜息を吐く。

「……つまり、『懐いている飼い主からのお願い』が重要であって、問題そのものに興味はないと」

「私はそういった物を解決する立場にないじゃないですか」

「……。エルシュオン殿下が君の飼い主になってくれて良かった。野放しは危険だ」

だから、最初からそう自己申告していますし、魔王様達だってそう言っているじゃないですか。