軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

白騎士さんは微笑みの裏で考える(アルジェント視点)

「……あの」

「何かな? ファレル」

「本当に……本当に、こんなことをしていて宜しいので……?」

「はは、気にすることはないよ。ゆっくりしていけばいい」

「そ、そうですか……」

優雅にカップを傾けるエルに対し、ファレル殿は困惑しているようでした。

そんな彼の姿に、笑いが込み上げます。……まったく、噂とは面白いように広まってくれるものだと。

エルに関して流れる噂がこれまでとは全く違うものになってきたからこそ、ファレル殿達は行動したのでしょう。

今のままでは、ミヅキとの接点もありませんしね。『自分達の目で見て、判断したかった』と言ったところでしょうか。

そもそも、この国の王族の皆様は、たやすく噂に流されるような可愛げ……失礼、愚かさなど持ち合わせておりません。

そのような無能さを晒せば、即座に『不要』という烙印を押され、徐々に表舞台から遠ざかっていくでしょう。

……これは別に、非情というわけではありません。

はっきり言ってしまえば、『王族として生きていくことが困難』なのです。そのような方ですと、守護を担う忠義者も『それなり』でしょうから。

我が国イルフェナは『実力者の国』と呼ばれるほど、能力重視の傾向が強い。

また、爵位に伴う責任も重く、爵位が高い者ほど有能であることを求められることが当然なのです。

そして、王族の側近となる者には、それなりの身分が必要になってきます。

これは差別というわけではなく、他国の方を相手にした場合に対する措置として必要でした。

身分を盾に、主の傍から遠ざけられたり、発言を退けられたりしては、困るでしょう?

自国内だけならば、身分は問わなくとも問題ないのかもしれません――『王族の側近』という地位があるためです――が、他国ではそうはいきませんので。

よって、必然的に高位貴族にある者が選ばれることになっておりました。私やクラウスがエルの幼馴染となったのも、側近候補という意味合いが強かったのです。

――もっとも……エルを主に選ぶか、否かは、私達に委ねられていたのですが。

『側近候補となる者達から、主に選ばれる存在であれ』。

忠誠心を抱くに相応しい存在であると、我が国の王族達は示さねばならないのです。

こういった暗黙の了解があるため、王族の血を持つだけでそれなりに認められる他国の方が、よほど緩いのでしょう。

……だからこそ。

それらを知る他国の王族や高位貴族達は、イルフェナの王族達を警戒するのです。見せている姿が全てではない、と。

外交に『イルフェナの王族』として出てきた場合、無能振りを晒すことなど有り得ませんからね。

生まれ持った魔力による威圧があったにせよ、エルが過剰に恐れられたのは、こういったイルフェナ王家の一面も影響していたと思います。

まあ……エルも結果を出すことに執着しておりましたので、若輩と侮っていた方達はさぞ、恐ろしい思いをしたのでしょうけど。

そして、今はミヅキがエルと同じ道を辿っているのです。

異世界人と侮られ、見た目で小娘と軽んじられ、それすらも利用して、結果に繋げる黒い子猫。

ミヅキ自身の努力も相当ですが、エルを昔から知っている者達は一様にこう思ったでしょう……『親猫の背を追ったか』と。

そういう意味でも、エルとミヅキは『猫親子』と呼ばれているのですよ。エルに自覚はないようですが、そっくりなことをしておりますので。

なお、ミヅキの方がエルの数倍凶暴であることは言うまでもありません。

ここらへんは、個人の性格の差が出たということでしょう。まあ、自己中心的な性格をしているミヅキとエルでは、差が出て当然と言いますか。

ミヅキへの過保護やルドルフ様への情、ジーク達への気遣いといったものを見ても判るように、エルは大変善良な性格をしておりますので。

余談ですが、ミヅキ曰く『私はやるか、やられるかの状況なんだから、手加減する必要性を感じない』とのことでした。

……。

つまり、『お互い様だから、相手も文句を言えない立場』ということですね。

過保護な保護者様が聞いたら、激怒必至です。詳細を報告したがらないのは、こういったことも理由の一端なのでしょう。

エルとて、さすがに終わったことを蒸し返す気はないでしょうが、何らかの機会にその『お相手』に会ってしまったら……チクリと遣り返すことはするかもしれません。

エルは誰の目から見ても、過保護な親猫様ですので。

……そのような現実を知っていますと、目の前のファレル殿が感じているだろう、居心地の悪さも納得です。

警告を伝えに仲間達の下に行きたくとも、逃がしてもらえず。

エルの威圧と怒りの籠もった笑みを、正面から受けねばならず。

エルによる、アフターフォローも絶望的。

正直、彼らがどれほどミヅキに心を抉られているかが気になりますし、己の目で見られないことが非常に残念なのですが、これはこれで楽しいですね。

そもそも、エルに一言断りを入れておけば、何の問題もなかったわけですから。

ただ……確証はないのですが、何となく、陛下の暗躍があったような気がしてなりません。

あの方は忙しい立場に加え、様々な要因で息子達と接する時間が少なかったものですから。

ミヅキという接点を見付け、嬉々として息子達に構っているように思えてならないのです。

ミヅキはアルベルダ王陛下を『少年の心を持つ親父様』と言っていましたが、我らが陛下も大概です。

滅多に親を頼らない息子達との時間を作るべく、画策しても不思議はありません。

そもそも、エルの(無自覚な)スパルタ教育は、陛下譲りのような気が。

顔こそ母親似ですが、今のエルは微妙に陛下に似ているような気もする……んですよね。

これまで真面目と言うか、隙がない息子だったエルの本性が表に出るにつれ、陛下達は構いたくて仕方がなくなったのかもしれません。

……エルは本当に、幼い頃から『手が掛からな過ぎる良い子』でしたから。

それが緩和されつつある今、王太子殿下は皺寄せと言うか、巻き添えになる形で、陛下の掌の上で転がされているのではないかと思います。

王太子殿下の性格を考えますと、絶対に自分の目でミヅキを確かめようとすると思うのですよ。勿論、彼の騎士達も。

そこを突かれ、今回の『強制的なご招待』に繋がっているような気がしてなりません。

――まあ、それも『楽しき日々』なのでしょうけど。

既にエル達は幼い子供ではなくなってしまいましたが、これからは同じ目線での言葉が交わせると思うのです。

エルとて、今回のことを抗議するという名目で、兄上様と遠慮のない遣り取りができるでしょうし。

そのうち、ミヅキも当たり前のように、皆様に構われるかもしれません。

……。

エルの愛猫として。