軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

騎士様の素朴な疑問 其の三

まだまだ続くぞ、灰色猫の暴露。

「そんな感じで、あっさりと両親に見切りをつけたシュアンゼ殿下ですが、敵は王弟派だけじゃなくてですね」

微妙に暈した言い方をすると、騎士様達は顔を見合わせた。その表情に、私はそれが公然の秘密であったことを悟る。

ああ、この反応……報告書に書かれていなくても、ある程度は察していたな。

まあ、ある程度の情報を持っていれば、シュアンゼ殿下の立場が超絶微妙なものであると察することができるだろう。

別に、『シュアンゼ殿下が表舞台に出てきていないこと』が理由ではない。条件が悪過ぎたのだ。

王弟の実子だと、当然、王位継承の順位は高いよね。

しかも、王弟って、先代の王妃様の実子だもんね。

本人にその気がなくとも、親が勝手に後ろ盾だと吹聴するかもしれないよね。

って言うか、シュアンゼ殿下本人の性格その他が他に知られていないから、偽物を立てても、王弟夫妻が認めれば、本物で通っちゃうよね……!

誰がどう見ても、ヤバイ立場です。本当にありがとうございます。

そんな立場の人を『守れ』と命じる、魔王様のスパルタ振りよ……!

……で。

そういったことを察せちゃう人達からすれば、私は『得体の知れない生き物』認定待ったなし! なのですよ。

『こいつ、何であっさり引き受けちゃってるの……。何で、成し遂げられてんの!?』って感じだろうさ。

テゼルト殿下を筆頭に、ガニア国王夫妻までもが私の味方のようになったのは、『シュアンゼ殿下を罪に問わずに生かす』ということが、Sランク難易度だったからである。

……要は、『自分達には不可能なので、任せる』ってこと。

王弟夫妻をバッサリ処罰したところで、王弟一派はすでに『遣り過ぎていた』。

王に忠誠を誓う国王派の貴族達だろうと、『元凶と、何かしら遣らかした連中を処罰しました』で済ませてはくれないほどに。

少なくとも、王弟の実子であり、継承権を持つ男性王族であるシュアンゼ殿下の連座だけは、どう頑張っても免れなかったはず。

『早めに王弟夫妻をすっぱり殺っておけよ』と、誰もが思ったことだろう。

だらだらと先延ばしにした結果、被害が拡大したじゃねーか!

そんなわけで、私はガニア国王夫妻をあまり信頼していなかった。本来、王になるはずだった王弟に仕えるよう、教育が徹底されていたとしても。

テゼルト殿下もシュアンゼ殿下を生かす方向に動くことが予想されたため、私は最後の断罪をガニア勢には伝えなかったのだ。

「正直に言って、王弟一派が遣り過ぎていたんですよ。だから、国王派の貴族達も、シュアンゼ殿下の存在を無視できなくて。『シュアンゼ殿下は何もしていない』って判っていても、不安要素は消しておけって感じになっちゃったんです」

「まあ、テゼルト殿下の対抗馬になるのは仕方ないと思うよ」

「ですよね。そこに加えて、私が味方しちゃったものだから、余計に危機感を募らせてしまいましてねー……」

「ああ……」

認めたくはないが、私が国王派に行動を起こさせる一因になってしまったのは、紛れもない事実なのである。

……が。

私が来なくても、シュアンゼ殿下は『危険視されて暗殺』か『王弟がこれ以上の行動を起こす前に暗殺』の二択だったと思われる。

だから、当時の灰色猫は身の危険を顧みなかったわけですね!

お前はそれでいいかもしれんが、叱られるのは私だっつーの!

「そういった雰囲気を私以上に感じ取っていたのが、テゼルト殿下とシュアンゼ殿下なのですよ。そして、彼らはシュアンゼ殿下を囮にすることを思いつきました」

「ま、まあ、そうなった事情も仕方な……」

「私を巻き込んで。間違いなく、私は番犬替わりか、牽制要員。忠誠心溢れる愚か者達が行動した場合、ガツン! と叱れるよう、巻き込まれたイルフェナの猫」

『え゛』

「直接言われてませんけど、絶・対・に! この計画を立てたの、シュアンゼ殿下です。テゼルト殿下なら、私を巻き込まない」

視察と言いつつ、襲撃された際は落ち着きまくっていたじゃないか。

頭脳労働職である以上、疑おうってものですよ……『計画立てたの、お前かいっ!』って。

よって、私も『遠慮なく』やらせていただいた。

「巻き込まれるのは仕方ないにしても、利用されるとムカつくんですよね。なので、子供の悪戯を何倍にも悪質にした、所謂『大人の悪戯』で迎え撃たせていただきました」

「ええと、それって……」

思い出したのか、顔を引き攣らせる騎士様。そんな騎士様に対し、私はいい笑顔で頷いた。

「ご覧になったと思いますよ? 阿鼻叫喚の地獄絵図、もとい『いい歳した大人達が、魔導師の玩具と化す爆笑映像』。なお、元凶であり、最も狙われるだろうシュアンゼ殿下にも、ご協力いただきました」

「あの、報告書には『シュアンゼ殿下を守りつつ、魔導師が応戦』って書かれていたんだけど」

「それで合ってますよ。いやぁ、狙われるのが私か、シュアンゼ殿下か判らなくって! 『じゃあ、一緒に居ればいいや』と判断し、シュアンゼ殿下をこう……こんな感じに抱き上げましてね」

腕を使って、お姫様抱っこを連想させる動きを見せると、多くの騎士様達がドン引きした。

しかし、中には冷静な騎士様もいらっしゃるらしく。

「いやいや、君は非力だから無理だろう」

当然の疑問点を口にしてきた。まあ、私が非力ってのは事実ですからね。

「大丈夫です! シュアンゼ殿下の重さを限りなく軽くする魔道具を持ってましたから」

「何故」

「非力なので、よく使うんですよ。その応用って感じですね」

「……応用技術と発想は素晴らしいと思うのに、素直に誉め言葉が出て来ない……!」

喧しい。

「勿論、不敬罪とか言われて、借りを作りたくなかったので、ちゃんと事前に前述した必要性を説いて、許可を得ましたよ? 『男としてのプライドを捨ててください』って」

「……何だって?」

「『男としてのプライドを捨ててください』って、正直に言いました。だって、私は報告の義務があるじゃないですか。……各国にばら撒かれるんですよ、それ」

ニヤリと笑えば、騎士様達は今度こそドン引きした。悪質さが理解できたようで何より。

ただ、それだけではないと気付く人もいる。

「君さぁ……それ、シュアンゼ殿下への嫌がらせも入ってない?」

「さぁ?」

「あと、勝手なことをした忠臣達をコケにしたかったとか」

「あらあら、何のことやら~♪」

知~らない♪ と笑顔でスルーする私に、騎士様は深々と溜息を吐き。

「遊ぶんじゃありません」

「嫌」

「こら!」

「だって、真面目にやってられなかったんだもん!」

起こった事柄だけを見ると、かなり厳しい状況だった。そして、私が頼れる人は傍に居ない。

……シュアンゼ殿下? 彼は共犯者ではあるけれど、国王一家が最優先なので除外。

そんな状況になると、誰だってこう思うだろうよ……『やってられるか!』と!

「魔王様も呆れてましたけど、私は当事者でしたからね!? って言うか、私の役目は『シュアンゼ殿下の護衛』であって、『国王一家の手駒』じゃありません。それを理解していただく意味でも、ちょくちょく反撃はしてましたよ」

「それは!」

「都合よく勘違いしないで欲しかったんですけどねぇ……」

呆れたように肩を竦めると、さすがに騎士様達もそれ以上の文句を言う気にはならなかったのだろう。

顔を見合わせると、仕方ない、というように首を横に振った。そんな姿を視界に収めつつ、私は当時を思い出して怒りが込み上げる。

私が他国でお仕事するのは『依頼があったから』であって、手駒になりに行くわけじゃないんだけどねぇ?

たまに誤解する人が居るけど、『手駒として貸し出されている』わけじゃないからね?

『こんな状態にしてほしいんだけど』的な依頼を受けて動くけど、基本的に策を組み立てるのは私です。他の人達は情報収集といったお手伝い。

判りやすいのが、カルロッサでジークに恋する女性騎士を〆たことだろうか。

あの時は『求められる決着』が判りやすかった上、私は依頼主代表の宰相閣下に情報提供くらいしか求めていなかった。

……『あちらの指示に従ったわけではない』のですよ。キースさん達はお目付け役扱いで一緒に居ただけだし。

「そんなことがありまして、私は北での異世界人の扱いを学んだわけですよ。無意識だろうと、悪意がなかろうと、南では考えられない失態ですね」

「……なるほど。それで君は、ガニアは『シュアンゼ殿下と仲が良いだけ』って感じなんだね」

「ええ。あの人はそれを理解できているから、利用するなら、交渉を持ちかけるでしょうしね。それに、自分が利用される側になることも納得しているんですよ。だから、協力を仰ぐなら、シュアンゼ殿下一択です」

頷きながら理由を口にすれば、騎士様は何とも言えない表情で溜息を吐いた。

「……エルシュオン殿下の教育は正しかったんだね」

当たり前じゃないですか。自慢の親猫様ですよ!