軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

騎士様の素朴な疑問 其の二

「……色々と予想外なんだが、まだ聞きたいことがある」

頭痛を堪えるような表情の騎士様はそう言って、再び私に向き直った。

「ガニアのシュアンゼ殿下についてだ」

「シュアンゼ殿下……ですか?」

「そう。今回、シュアンゼ殿下は未だに足が不自由という状況にも拘わらず、イルフェナに来た」

「……私とも仲は良いですし、それだけ過去の一件のことで、魔王様に感謝しているということでは?」

無難なことを言えば、騎士様はじっと私を見つめた。

……。

疑 わ れ て い る よ う だ 。

失礼な! 『私の側から見たシュアンゼ殿下』は、それで合ってるんだから、いーじゃん!

と、言うか。

シュアンゼ殿下は今まで歩けなかったということもあって、表舞台に出たことなど皆無だろう。

そうなると当然、騎士様達は疑問に思うわけですよ……『自分の欠点を晒してまで、イルフェナに来る価値があったのか?』って。

はっきり言って、普通ならば来ない。シュアンゼ殿下へと好奇の視線が向けられることは想像に難くないし、探りを入れてくる輩の的になってしまうから。

常識的に考えた場合、『ガニアの第二王子、それも【あの】王弟の実子が、【足が不自由】という姿を他国に晒すか?』と訝しむのが普通。

『他国から知り合いが押し寄せている』という情報は、彼らがイルフェナに来て、初めて知ったはず。

つまり……『他国の人々との交流は、イルフェナに来ることを決めた時点で予想外だった』ということ。

これがなければ、シュアンゼ殿下にとってはデメリットの方が大きい。外交慣れしていないことも含め、ラフィークさんが止めるだろう。

……ただし。

シュアンゼ殿下が、見た目通りに大人しい性格だったならば。

「君は何も聞かされていない、と?」

「聞いていませんし、聞くこともないですよ」

――だって、私は私で動いていましたもん。

素直に言うと、騎士様達は事件の初期における私の行動を思い出したのか、納得した表情になった。

ただし、多大に呆れの滲んだものではあったけど。

い……いいじゃん! ちゃんと重要人物の聖人様を連れ帰って来たし、襲撃犯達を煽って喋らせ、心に傷を負わせたんだから!

「あ~……すまない、聞き方が悪かったね。では、こう言い変えようか。シュアンゼ殿下の行動を、君はどのように予想する?」

「……」

目を眇めれば、騎士様は笑みを浮かべたまま、無言で促してくる。どうやら、引く気はないみたい。

そんな彼らの姿に、私は内心、溜息を吐いた。

畜生、やっぱり賢いな?

王太子殿下付きの騎士っていう役職は、伊達じゃなかったか。

これ、非常に有効な聞き方なのですよ。『君はシュアンゼ殿下から何か聞いていたか?』と問えば、『知らない』としか返しようがない。

勿論、色々と話はしたけれど……それってあくまでも『個人的なこと』であって、『魔王様襲撃事件におけるガニアの動きについて』じゃないのよね。

今後の展望とか、友好を深めることはしたけれど、『襲撃事件についての行動理由』は本人の口から聞いていませんから。

屁理屈と言うなかれ。私は灰色猫の味方なのだ。

いきなり拉致した騎士様達に恨みはないが、聞かれたことしか答えない。

……だけど、そこは修羅場慣れした有能な騎士様であって。

前述した私の思惑を察し、聞き方を変えてきた。こういった対処が即座にできる相手というのは、非常にやりにくい。

「あくまでも私個人の予想なので、事実とは違うかもしれませんよ?」

「ああ、それで構わない」

確認を取れば、微笑んで頷く騎士様。……誤魔化せないようだ。まあ、困ることはないから、別にいいけどさ。

「……シュアンゼ殿下は『守られる側』でいる気がないみたいなんですよ」

「は?」

「『今は』足がまだ不自由です。ですが、それも数年のこと。だからこそ、『今しかできない方法』を取って、今後に備えるつもりだと思います」

「……」

騎士様達は揃って複雑そうな顔をしている。……当然かな、『歩けないからこそ、シュアンゼ殿下はこれまで他国の目に触れず、表舞台に立てなかった』のだから。

イルフェナには『魔力が高過ぎ、威圧を与えるため、外交に向かない』とされた魔王様が居る。

魔王様が悪いわけではないが、どうしようもないことだったのだ。これはシュアンゼ殿下とて、同じ。

騎士様としては、素直に信じられないのですよ。魔王様の評価が変わったのも、私という異世界産のアホ猫が投下され、飼い主としての責任に追われたせいだもの。

「その、シュアンゼ殿下は優秀な方だと思うけれど……」

信じられない、という気持ちは、騎士様の言葉にも表れている。

『優秀な方だと思うけれど……』って言ってるもんな。『優秀な方』と言い切るんじゃなくて。

……だが。

「見た目で騙されているのかもしれませんが、シュアンゼ殿下は大人しくないですよ」

ふっと笑って、騎士様達を見ると、何を思ったのか、騎士様達は揃って顔を引き攣らせた。

「会った当初はともかく、今となっては、私を都合よく使う気満々ですから、あの野郎」

「え゛」

騎士様達は絶句するが、私の暴露は止まらない。

「そもそも……あの人、ガニアの一件の時から大人しくはありませんでした。一応、幼少期には親の愛情を求めた期間があったらしいですが、見切りをつけるのも早かった模様です」

ラフィークさん情報なので、これは確実。ただし、今となっては完全に黒歴史。

少なくとも、私がガニアに滞在していた時には『自分ごと殺ろう』的な発想になっていた。

「自分ごと葬ろうと口にする輩が、大人しいなんてありえませんよ。嘆くことも、悩むこともなく、殺意向けてましたから。よって、私も心置きなく色々とできたわけです」

「そ、そう」

騎士様達はドン引きしているが、事実であ~る!

第一、シュアンゼ殿下が苦悩しているようなら、魔王様の命令――『シュアンゼ殿下を守れ』というもの――は、別の決着を選ばなければならなかった。

だからと言って、欠片も悩まず殺意一直線には驚いたが。

見た目が華奢で大人しそうだが、中身は割と私に近い。

「それにですね! あの人、既成事実を作ろうとしてきた令嬢に対し、杖でぶん殴ってますからね!? 体を支えることが第一の目的だから、強度だけはあるって伝えておいたのに!」

「……。ちょっと待ちなさい。ろくに身動きできないシュアンゼ殿下相手に、既成事実を作ろうとした令嬢が居たと?」

「居ました。と言うか、私が行く前から居たみたいですが、私が傍に居るようになって、王弟や彼の派閥の貴族が、様々な意味で危機感を抱いた模様です」

騎士様達は苦い顔だ。見たこともない令嬢に対し、嫌悪を抱いているのかもしれない。

……が。

ご安心ください! 私は超できる子なのです……!

今一つ危機感に欠ける人々に対し、経験を持つ友人達から話をしてもらい、その対策もきちんとしていたに決まっているじゃないですかー!

「あ、勿論、無事ですよ。なにせ、私が渡した杖は特別製で、仕込み杖になってますからね! 持ち手を捻って抜けば、牽制程度にしか使えないとはいえ、衝撃波が打てる魔法剣ですよ! なお、残りの部分は体を支える魔法が発動するので、立つことだけなら可能です。だから、普通の杖より長いんですけどね」

「……待って? 報告書には『治療の一環として、特注の杖を進呈』って書いてあったと思うけど!?」

「だから、特注品なんですよ。私だけじゃなく、シュアンゼ殿下も暗殺を狙われましたからね~。まあ、王弟一派だけじゃなく、王を支持する一派から見ても、シュアンゼ殿下は危険要素でしたから。治療以前に、命大事」

「……っ、それで、そんなに物騒な物を渡したと?」

「勿論、国王一家からは心配されました。最初は『遣り過ぎは拙い』的な意見もあったくらいです」

その言い分も間違ってはいないのだ。あの時、ガニアは王と王弟が揉めており、国を二分する事態になっていたのだから。

下手に怪我を負わせて、責任を追及されても困るとでも考えたのだろう。ただ、王弟派にとって不幸だったのは、私が来たこと。要は、相手が悪かった。

それに加え、当時の私とシュアンゼ殿下には敵を気遣う余裕などなく、気遣う気すらなかっただけ。

つまり、二人揃って『やっちまおうぜ☆』という心境でした。滅殺上等です♡

うっかり遣り過ぎても、こちらは王族と『世界の災厄』なので、仕掛けた奴らの自業自得。

「だから、他国の経験者達から魔道具経由でアドバイスを貰いまして。……ああ、大丈夫ですよ。匿名な上、音声のみだったから、証拠も残りません」

「……。ちなみに、その人達の国って?」

「ゼブレストとカルロッサです」

きぱっと言い切ると、騎士様達は沈黙した。カルロッサはともかく、ゼブレストは誰のことか判ってしまったのだろう。

「いやぁ、経験に基づく意見は説得力がありますね! 『絶対に過剰防衛ではない!』って言いきったり、『抗う姿勢を明確にして、王弟の味方ではないと見せ付けるべき。情報の拡散と当座の味方は魔導師担当』ってアドバイスしてくれたり」

「……それ、ルドルフ様と宰相殿では? って言うか、君も当たり前のように組み込まれているんだね」

「……」

「横を向かない」

「黙秘権を主張します! 匿名のままなので、この場でも匿名です!」

嘘ではない。本当に『Rさん』『A氏』『S』という名で通したもの。

いくら何でも、親しくもない他国の王族+αが、ガニア王家にアドバイスってのは拙いと思うんだ。

だから、匿名のままです。『似たような事柄を経験した、魔導師のお友達』でいいの!

「ちなみに、一番ぶっ飛んだ意見がSでした。奴は何の躊躇いもなく『殺ればいいのですよ』って言った後、『女性が隠し持てる大きさの短剣を用意しておき、自分を少し傷つけなさい。そして、叩き切った後はその短剣を【犯人】の近くに落とし、王族殺害未遂に仕立て上げろ』的なことを言ってましたからねぇ」

『え゛』

「くだらない輩達への見せしめとばかりに、一族郎党を破滅させることを提案しました。まあ、令嬢が単独で忍び込むには無理がありますし、部屋の周囲に協力者がいることが前提……って言ってましたよ」

「ああ、そういった意味も含めての『見せしめ』なんだね」

「ええ。警備をしていた騎士の証言……という意味でも、協力者は必須だったんでしょう」

騎士様達は同業者が共犯と聞き、嫌悪を露にした。自分達の職務に誇りを持つからこそ、そういった輩が心底嫌いみたい。

……が。

そうはならなかったのが、現実でして。

「そもそも、計画の時点で破綻してますよ。シュアンゼ殿下、大人しくないもん。シュアンゼ殿下の抵抗が、『襲おうとした令嬢の顔ぶん殴り』ですから、どう考えても、『シュアンゼ殿下からのお誘い』にはならないでしょ」

「う゛……ま、まあ、無理があるよね。ただ、呼び付けられなければ、王族の私室になんて行けないだろう?」

「そこらへんは親である王弟の暗躍では? 成功したら、口を出してきたと思います」

「はぁ……そんな手段を取られるなんて、本当に仲が悪かったんだね」

騎士様はシュアンゼ殿下の所業に引いているが、この一件で面白いのはこれからであ~る!

「私とテゼルト殿下が駆けつけた時、犯人の女は顔を押さえて蹲ってましたからね。で、今度は私に敵意が向きました。……シュアンゼ殿下のせいで」

「は?」

「シュアンゼ殿下は私のことを『特別な人』と言ったらしいんですよ。勿論、『【足を治す】という奇跡を見せてくれた特別な人』という意味なんですが、誤解させるように省略したらしく」

「……。当時の君はシュアンゼ殿下と一緒に居ることが多かっただろうし、部屋に入り浸っていたわけだろう? 味方という意味でも、勘違いした人を責められない気が」

ですよねー! ええ、これについては灰色猫が悪いと思います。間違いなく、奴は『仕掛けた側』です。愚か者達が利用されただけ。

だって、事前に『そういった事態を逆手に取って、追い込め』ってアドバイス受けていたし。

灰色猫なシュアンゼ殿下は人々の善意から来るアドバイスを真摯に受け止め、個人的な感情――嫌悪――もあって、実行に移したわけですな。

その結果が、『令嬢の顔、ぶん殴り』である。『死ななきゃいいや』という感情が滲み出た実力行使……素直と言うか、容赦がないと言うか。

「で、彼女は私を責め出したんですが。『全部魔道具に記録されてるよ♪』って教えてあげたら、奪い取ろうとしてきたんですよ。そこで『ついうっかり、条件反射で』彼女の勢いを利用し、壁にぶち当てました」

『おい』

騎士様達、突っ込みありがとーう! でもね、物凄く綺麗に決まったと思うの……コントみたいに。

と言うか、魔法を使わなかっただけ偉いと褒めるがいい。

「そうは言っても、動ける状況にしておきたくなかったんですよ」

「何故」

「室内には、テゼルト殿下とシュアンゼ殿下。二人とも男性なので、ろくでもねぇ女だろうと、『非力な女性』じゃないですか。情報操作で、被害者面されても嫌だなって」

「ああ、確かにそういうことをやりそうだよね」

そうだろう、そうだろう。そんな女を野放しになんて、しちゃ駄目だろう……!

「なので、私が部屋を出る前に顔面に膝を一発入れて、『何しやがる、この痴女! やる気か、喧嘩なら買うぞ!?』って、部屋の外にも聞こえるように怒鳴っておきました。勿論、王族二人も証人です」

「……え? ち、痴女!?」

「その後すぐに部屋を飛び出し、人の多いところを駆け回りながら、思っていることをぶちまけました」

「……。ちなみに、どんなことを?」

嫌な予感を覚えたのか、顔を引き攣らせる騎士様。そんな彼に対し、私はにやりと笑い。

「『真昼間から男性を襲う痴女が出た〜! 者ども、出会え〜! 顔と地位が揃った男は危険だ、警戒せよ〜!』」

「え゛」

「『気に入った相手を襲い〜! 既成事実を作るのがぁ〜! ガニアの貴族かぁ〜!』」

「ちょ、ま、待って!」

「『王族相手に色仕掛けをしてぇ〜! 拒絶されれば被害者面するのがぁ~! 淑女だっていうんですかぁ〜!』」

騎士様達はぎょっとしているが、事実である。私はこの事実を『正しく』認識してもらうため、大声で触れ回ったのだから。

「『この事実を〜! 他国の友人達に伝え〜! 警戒してもらわなきゃ〜!』」

「ん?」

「『明確な処罰がされない限りぃ〜! この国の貴族達はぁ〜! 痴女やその協力者と同類ぃ〜!』」

「……! 君、狙いはそれか!」

さすがに狙いが判ったらしく、騎士様達は呆れから一転、驚愕の表情だ。

はは、私は『イルフェナから来た異世界人』。ガニアの人間じゃございませんよ、身分も柵も関係ねぇっ!

しかも、他国に友人達が居ることもガニアに知られている!

そんな人間が、各国にこのことを触れ回ったらどうなる?

いくら否定しようとも、ある意味、当事者の私の方に軍配が上がるぞ?

「最終的に『魔王様の所に帰りたい〜! 会って、このことを全部暴露するぅ〜! 翼の名を持つ騎士達に泣きつくぅ〜!』って喚いてたら、城中の人間が冗談では済まない事態だと悟ったようです」

「うん……うん、そうだろうね。君は本当にやるだろうからね」

「私視点且つ、私に都合の良い解釈で報告されると、理解できたでしょうからね。だから、『シュアンゼ殿下の醜聞』ではなく、『ガニアの常識を疑う、魔導師の思い込みを正す』という方向で認識されました。報告書と差があるのは、そのせいです」

そう締め括ると、騎士様達も納得してくれたようだった。

報告書に書かれている内容も嘘ではない。嘘ではないが、より重要な方――この場合、『ガニアの品位が疑われること』――が重要視されたため、騒動の詳細までは書かれていないのだよ。

報告書の中では『事の発端は、シュアンゼ殿下を害そうとした者達が云々』となっているだろうけど、実際にはこんな馬鹿な騒動が起きているのである。

そりゃ、騎士様達も吃驚ですね!

突っ込みどころ満載、脱力するのも当然です。

「君さぁ……愉快犯と言うか、どうしてそこまでするの」

「必要だからですよ。そのためならば、私が道化になることも厭いませんし」

「必要……?」

私の答えに、訝しげな顔をする騎士様。王弟の追い落としはともかく、シュアンゼ殿下のためにそこまですることが意外だったのだろう。

……が。

私は超できる子なので、これは必要なことなのですよ。

「だって、魔王様から『シュアンゼ殿下を守れ』って言われてますし。様々な意味で守るならば、醜聞だってそれに該当するでしょう?」

「!」

驚くでない、騎士様よ。私は魔導師、ただでさえ『世界の災厄』扱いなのだ……悪評の一つや二つ増えたところで、今更じゃん?

って言うか、これまでの所業に比べたら、問題点をずらすことなんて可愛いものじゃないか。

「『悪戯好きな黒猫だけど、飼い主の言うことは聞く』って、こういうことなのか」

それで合っていると思います。……ただし、飼い主は普段苦労するだけで。