軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

一方その頃、執務室では

――エルシュオンの執務室にて

「……あの」

微妙な表情のまま、ファレルは目の前の人物に問いかける。そこに居るのは、『魔王』という渾名を持つ自国の第二王子。

その傍で、何~故~か給仕紛いのことをしている騎士とて、この国の公爵子息だったはずである。

何故、騎士が当たり前のように茶の準備をしているのだろうか?

ファレルの疑問はまず、そこからであった。少なくとも、彼は呑気にお茶を頂きに来たわけではない。

……が。

そんな疑問を抱く方がおかしいのかとさえ思えてしまうのが、今現在の周囲の状況であった。

休憩とばかりに、ソファに移動してきた第二王子殿下。

良い香りの茶葉を用意する、彼の側近であるはずの公爵子息(騎士)。

双子の片方は、かなり大きな猫のぬいぐるみを殿下の隣へと移動させ。

もう一人に至っては、慣れた手つきで、お茶菓子を用意する始末。

……。

ファレルでなくとも、こう思う者が大半だろう……『あんた達、何をやってるんですか?』と!

それほどに呑気……いやいや、穏やかな午後の休息と言える一時が演出されている。寧ろ、困惑気味に視線を巡らせるファレルの方が場違いなほど。

「ええと……休憩に入ろうとする時に、ここを訪れた自分も悪いんですけどね? その、貴方達は一体、何をなさっておいでで?」

微妙に引きつつも声をかけると、彼らは揃ってファレルの方を向く。

「何って……休憩だけど。ああ、勿論、君も一緒にどうかと思っているよ」

「ミヅキが先日、サロヴァーラから良い茶葉を頂いてきましてね。ファレル殿は運が良いですよ。是非、ご堪能ください」

「殿下に仕事をさせないための、見張り兼癒しアイテムを置いてます。ちなみにミヅキ発案です」

「ミヅキが休憩用に、焼き菓子を作り置きしてるんですよ。これはただの休憩用なので、栄養価までは考えていないらしいですけど」

「そ、そう……」

次々と返って来る言葉に、ファレルは若干、引いた。そして、こう思った……『いや、何を普通に休憩に入ろうとしてるんですか!?』と。

勿論、休息を取るのは構わない。ファレルも王族の忙しさを知っているからこそ、寧ろ、適度に休んでいただきたいとは思っている。

……が。

今現在、『魔王殿下の黒猫』と呼ばれる異世界人の魔導師は、王太子殿下の騎士達から強引な招待(意訳)を受けているのだ。

双子の騎士とて、その招待には難色を示したし、思うことがあるからこそ、ここに駆け込んできたのではないのだろうか。

多少困惑している程度に見えて、ファレルは中々に混乱中である。そもそも、彼の持つエルシュオンに対するイメージは、突然やって来た輩と呑気にお茶をするような、平和ボケしたものではないわけで。

結果として、先ほどの疑問に繋がるのであった。寧ろ、それしか言えなかったとも言う。

そんなファレルの様子を察しているだろうに、エルシュオンは優雅にお茶を楽しむことを促すのだ。

「ファレル、君とて疲れているのだろう? 丁度、私達も休憩に入るところだったんだ。折角だし、君もどうかな」

「あの、そんなことをしていてもいいんですか……?」

自棄になったとは思えないが、正気とも思えない。そんな気持ちで投げかけられた疑問に、エルシュオンは悟ったように、ふっと笑う。

「今更、少しくらい遅れても変わらないさ。……『手遅れ』って言葉、知ってるかい」

「は……?」

「だからね、今更、少しくらい急いだところで、どうにもならないってことだよ」

「いや、手遅れも何も、心配しているのは殿下達の方なのでは……?」

「心配したところで、起きてしまったことはどうにもならないからね!」

妙にわざとらしい笑顔――ファレルはエルシュオンのこんな表情にも驚いた――で言い切るエルシュオン。

すると、今度はアルジェントが苦笑しながら言葉を紡いでくる。

「ファレル殿。人間、諦めが必要なこともあるのですよ」

「え? いや、それは判るが……この場合、一体、何に対してなんだ?」

「それは勿論、貴方達の浅はかな行動についてですよ。もっと言うなら、ミヅキの言動全般でしょうか」

さらっと告げられた言葉に、ファレルは困惑するばかりであった。

そもそも、今回は王太子殿下直属の『翼の名を持つ騎士』――彼らもまた、『最悪の剣』と呼ばれる騎士達である――の方が、一人の女性を囲んでいるはずなのだ。

いくら魔導師と言えども異世界人、しかも年若い女性。その威圧感や探るような言動に、さぞ心細い思いをしているだろうと、ファレルは思っている。

これはファレルが特別ミヅキを案じているとかではなく、彼らの騎士寮に暮らす騎士達の大半が思っていることだった。

ゆえに、多少の罪悪感と言うか、申し訳ない気持ちはあるのだ。後で何かを贈ろうという話が、自然に出る程度には。

……だが、しかし。

どうにも、エルシュオン達の反応は『可愛がっている子を案じる保護者』には見えなかった。

寧ろ、僅かに感じるピリピリとした威圧感は……彼らの怒り、ではなかろうか。

「ミヅキのことはこれまで、報告書を読んでいただけだったのでしょう? それが今回のハーヴィスの一件で、実際に目にする機会を得た。興味を抱く気持ちも判ります」

うんうんと頷くアルジェント。そんな姿は、彼の言葉をそのまま表しているようだった。

「ですが……そもそも、それが間違いなのですよ。いえ、『最初から間違えている』と言った方がよろしいでしょうか」

「え゛」

ピシリと固まるファレルをよそに、アルジェントはなおも言葉を続けてくる。

「貴方達が読んだ報告書、エルの監修後のものですから」

「ん……? 話を盛っているとか、そういったことか?」

「いえいえ、そのようなことは致しません。しいて言うなら……ミヅキの言動を常識的な方向に収め、極力、ミヅキのトンデモ思考を省いた物、ということです」

「?」

意味が判らず、首を傾げるファレル。そんな彼の反応を哀れに思ったのか、今度は双子がフォローするかのように言葉を紡ぐ。

「あいつ、超自己中思考のトンデモ娘ですから。それこそ、『気に入らないから潰した』『喧嘩を売られたから買ってみた。超楽しかった!』くらいは平気で言いますよ。砦一つを平気で落とすし、その事実を利用するんです。ご存じでしょう?」

「結果を求める行動と、それに伴う理由が間違っているわけじゃないんですけど……何て言うか、それに伴う個人的な感情がろくでもなくてですね。そういったものを省いて、極力まともな報告書に仕上げたものが、ファレル殿達が目にしているものかと」

「いや、それって模造……」

「嘘は吐いてないんです! 数々の行動とその理由、何より最終的に求める決着『は』合ってます!」

「ただ、そうするに至った行動理由とか、個人的な感情がろくでもないことばかりなんです! だから、『異世界人凶暴種』なんて言われてるんですよ!」

「ええ……」

力説する双子に、益々、困惑するファレル。そんな彼らの遣り取りを眺めながら、エルシュオン達はひっそりと笑みを深めるのであった。