軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外編 たまには秘密のお茶会を 其の三

シャル姉様との会話の後。

とりあえず魔王様の許可を貰うかと、私は魔王様の執務室を訪ねた。

「魔王様ー、シャル姉様から秘密のお茶会をしないかと、お誘いと言うか、お願いが来てるんですけど、許可くださいな」

「ああ、先日のバラクシンでのことを話すのかな?」

「いや、私もそう思っていたんですけどね? 単に、『旦那様や弟達と同じものを食べてみたい!』っていう、可愛い我侭だったみたいです。ちなみにハンバーガーをリクエストされたんですが」

「は……?」

ぽかんとする魔王様は大変珍しい。

だけど、そうなる気持ちも判ります。って言うか、ついさっきの私もそうなりましたからね……!

「え、何でそんなことを!?」

「話を聞く限り、どうやらアルが騎士寮での食事を自慢していたみたいです」

「え゛」

「ついでに言うと、クラレンスさんも騎士寮で食べてますからね。それで羨ましくなったと言うか、興味が湧いたみたいです」

魔王様は微妙な表情で黙り込む。あれですね、『アルならやりかねない』っていう気持ちと、『そんなことで?』という気持ちが入り混じっているんでしょうな。

「確かに、ミヅキ提供の異世界レシピを使った料理が出て来るけど……その、気を悪くしないで欲しいのだけど、あまり貴族向きではない、特に女性には受けない気が」

「ですよね!」

「……。何故、そんなに力一杯頷くのかな?」

「だって、食材はともかく、問題なのは食べ方なんですもん!」

貴族が身に付けなければならないものの中には当然、『食事のマナー』というものが存在する。

元の世界だって、それなりのレストランでは必須だもの。王族や貴族といった階級では必須事項でしょうよ。

それを前提にすると、私が作る異世界料理の中には『それはちょっとマナー違反かなー?』(意訳)となってしまう物が存在するのだ。

庶民の料理と言うか、家庭の味と言うか、『美味しくて楽しければ良し!』的な、お気楽・お手軽な料理が身近だったゆえの弊害です。

だって、庶民だもん。テーブルマナーが必要な食事なんざ、家で作るかよ。

そういうものが食べたかったら、素直に本職の所に行きます。プロの味は偉大なのであ~る!

……そんなわけで。

私が騎士寮で作る物はほぼ、お洒落な感じのものではない。ぶっちゃけ、『味と量が良ければ問題なし!』という、騎士達だからこそ可能だったりする。

騎士達は野営なんかも経験するため、貴族階級出身だろうとも、必要に迫られない限りは割と何でも受け入れる。

好き嫌いなし、珍しい物への偏見なし、よく食べ、調理する人達に感謝も述べるという、料理する側からすればありがたい人達なのですよ。

だからこそ、丸ごと南瓜のグラタンなんかが作れたわけですね! 他でやったら、間違いなくドン引き案件だろうさ。

「シャルリーヌはそういったものを食べてみたい……いや、普段はしない食べ方をしてみたいってことかい?」

「それが理由の半分ですね。後は純粋に、旦那様や弟と同じものを食べたいんじゃないかと」

「うーん……ま、まあ、シャルリーヌは好奇心が旺盛だからね。興味を持っても不思議はない」

魔王様の反応から察するに、イルフェナの女性貴族であっても珍しい考え方なのだろう。

特に、シャル姉様のように外交を担う立場だったりすると、食事のマナーなんかは完璧のはず。

そんな美女が『ジャンクフードを食べたい』とか言い出したら、困惑するわな。『秘密のお茶会』という扱いにも納得です。

「だけど、それでいくと……男性は参加不可だよね?」

魔王様が少々困ったように口にする。『護衛が必要』と直接言わないのは、私を監視対象と認識させないための優しさだろう。

勿論、私もそこは気になっていたので、シャル姉様にきちんと聞いておいた。

「……コレットさんが参加してくれるそうです」

「は? ええと、もしかしなくても、それってブロンデル公爵夫人……」

「ええ、そのコレットさんです。解毒魔法は絶対に必要ですし、私の監視という意味でも、適任じゃないですかね」

さすがに、魔王様が唖然となった。言いながらも、私も聞いた時の驚きを思い返して遠い目になる。

『何やってるんですか、コレットさーん!?』と突っ込みましたよ。それでいいのか、クラウス母。

ただ、シャル姉様は楽しげに『あの方だって、好奇心旺盛なのよ』と笑っていた。

それに加え、魔術師として活動することもあるため、こういったことを楽しむ柔軟な思考をお持ちだと。

……。

確かに、コレットさんなら普通の公爵夫人よりマナーに煩くなさそうだ。理解ある小母様、という感じ。

必要な場ならばともかく、ちょっとしたお遊びの場ならば、その場だけのことと割り切ってくれそう。

って言うか、すでにメンバーが決まっていたのには驚いたんだよねぇ。後は私を巻き込むだけになっているあたり、根回しの良さはさすがです。

「ええと……コレットさんに私の監視と解毒魔法を担当してもらって、もしも館が襲撃された時は私とコレットさんが護衛役になりますね。他の面子はシャル姉様と、以前お世話になったシャル姉様のお友達だそうです」

「以前世話になった……?」

「あれです、クリスティーナのデビュタントの時! あの時、シャル姉様と一緒に彼女の護衛紛いを担ってくれた方達だそうで」

……実際には、護衛役を通り越し、周囲を圧倒する頼もしいお姉様達だったようですが。

そもそも、シャル姉様からして公爵家の人間なので、そんな彼女に付き合っていける『仲の良いお友達』が、無能であるはずはない。

ここはイルフェナ、実力者の国と呼ばれ、身分に相応しい実力を求められる国。

下手な男など返り討ちにする、素敵なお嬢様(=女傑)がいっぱいさ。

「ああ、彼女達か。なら、ミヅキに対する偏見もないだろう」

思い出したのか、納得したように頷く魔王様。その姿はどこか、安堵したように見える。

多分、私のことを心配してくれたのだろう。そこそこ馴染んできたとはいえ、異世界人に対する警戒心が完全に消えたわけではない。

私が呑気に暮らせるのは、生活圏内や周囲に、そういった人達が殆どいないから。

その采配をしたのは当然、魔王様だろう。騎士sが基本的に私と一緒に行動していることを顧みても、その認識は間違っていまい。

「そこまで準備されていると、反対はし辛いね。まあ、シャルリーヌ達が言い出したことだし、大丈夫だろう。場所はバシュレ公爵家とかだろう?」

「らしいです。アルに送ってもらえって」

弟には送迎だけを任せ、秘密のお茶会には参加不可だそうな。どこの世界でも、姉は強いと知る一コマです。

まあ、今回はささやかな意趣返しも含まれていると、私は思っている。

……アルがシャル姉様に自慢しなければ、この計画は立ち上がっていないからね。

多分、アルは後日『女性だけの秘密のお茶会をしましたの!』と、上機嫌なシャル姉様から自慢されることだろう。

お互いにマウントを取り合う、微笑ましい姉弟ですね!(笑)

個人的には、旦那様がどちらに付くのか非常に気になったり。

「じゃあ、大丈夫かな。一応、外出扱いになるから、報告書だけは出してもらうけど」

私がそんなことを思い浮かべ、仲良し姉弟にほっこりしているとは知らず、魔王様は許可を出す。

ただのお茶会に報告書が必要というのもあれだが、私の状況を考えると仕方ないのだろう。

細かいことの積み重ねと言うか、突かれる要素を徹底的に潰すことで、私の日常は守られているのです。

いくら『お仕事』とはいえ、これまでの所業を顧みれば、この程度で済んでいるのが奇跡に近い。

他国に平気で喧嘩を吹っ掛け、敵(意訳)を撲滅してくる魔導師なんざ、警戒対象扱いが妥当だもの。

元の世界を基準にしても、私にはかなりの自由が許されていると判断できるだろう。この世界的には『最終兵器・魔導師』だもんな、割とマジに。

「了解ですー。じゃあ、シャル姉様に伝えておこうっと」

「はいはい。女友達と遊ぶ機会も少ないだろうし、楽しんでおいで」

苦笑する魔王様だが、私はその言葉に首を傾げた。

「いや、割と遊んでますよ?」

「ん?」

「え、だって、セシル達でしょー、ティルシア達でしょー、性別を問わなければ、各国に遊び仲間は割と居ますって」

魔王様襲撃の報を聞き、駆け付けてくれる人達だっていますよ! と明るく言えば、私が何を指して『遊んでいる』と言ったのかを理解した魔王様は青筋を立てた。

「それは遊び仲間とは言わない!」

「仲良く『玩具』で遊んでいるじゃないですか。猫だって、生きたネズミを玩具にしますし、似たようなものですよ」

「玩具じゃない! 仕事を依頼している私が言うのもなんだけど、君が敵認定した人間を玩具扱いするのは止めなさいっ!」

いいじゃないですか、魔王様。玩具で遊んだ後は、結果という『お土産』を持って帰って来るんですから。