軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外編 たまには秘密のお茶会を 其の二

――イルフェナ・王城にて

「あ、シャル姉様発見」

アルの言葉に従い、魔王様の執務室を目指していたところ……あっさりシャル姉様と遭遇した。

この分だと、シャル姉様の方から騎士寮の私を訪ねてくれる予定だったのかもしれない。仕事に戻るなり、館に帰るなりするなら、方向が違うもの。

「ミヅキ様、丁度良かったわ」

シャル姉様も気付いたらしく、笑顔でこちらに足を進めてくれる。そんな彼女に、笑顔で手を振りかけ……一緒に居た騎士sが、一歩後ろに下がったのに気付いた。

どうした、騎士s。何だか、顔が引き攣ってないかい? そう言えば、目的がシャル姉様と言った直後も、こんな顔をしていたような。

首を傾げるも、まずはシャル姉様への挨拶が優先だ。折角、こちらに気付いてくれたものね。

「こんにちは、シャル姉様。……もしかして、アルから聞いたことについて、ですか?」

「ふふ、勿論よ」

シャル姉様は酷く楽しげだ。カトリーナは相当、面白い反応でもしたんだろうか?

……。

したんだろうな。カトリーナ、恋する乙女という名の道化だし。

誤解のないよう言っておくが、カトリーナは私達が何らかの裏工作をし、道化に仕立て上げているわけではない。

奴は素で、『恋する乙女という名の道化』なのであ~る!

そもそも、かなりの早婚とは言え、結婚できる年齢の子供がいる女性を『乙女』とは言わないだろう。

……が。

カトリーナはリアルに夢見る乙女だった十代の頃から思考がストップしているらしく、今も『素敵な王子様』――身分ではなく、素敵な男性の代名詞の方――を募集中。

『素敵な恋をしたい!』という願望を抱えたまま大人になってしまったらしく、今なお素敵な恋に憧れているのだ。

側室ではなくなったことも、カトリーナが願望を再燃させた一因だろう。

何だかんだ言っても、カトリーナは側室だった。この場合、カトリーナとの婚姻を望むならば『功績を立てて、側室であるカトリーナの下賜を願う』という方法しかない。

そういった展開はカトリーナも超絶好みだったろうけど、残念ながら、希望者ゼロのまま、側室期間は終☆了。

そんなわけで、実家に戻ったカトリーナは日々、素敵な王子様(笑)との出会いを夢見ているというわけ。

普通に考えても、物凄く無理のある展開ですね!

『いい歳をして【王子様】かよ!』とか、笑われること請け合いです……!

そもそも、バラクシンは現在、教会と王家が手を取り合う方向に話し合いが進められている。

『教会派』なんてものが王家と対立し、一大勢力になっている以上、容易くカトリーナの願いが叶うはずがない。平和ボケをしている場合じゃないのである。

と言うか、純粋に信仰を尊いものとして考えている一派はともかく、権力争いのために教会を利用していた貴族達からの反発は必至。

……改革が必要とは言え、それなりに荒れるのですよ。少なからず犠牲は出る。

だからこそ、家や利権を守ろうとする人達にとって、脳内お花畑思考なカトリーナと関わることは避けたい事態なのだろう。

ただ、『フェリクスの母親』という立場もあるため、カトリーナに嫌われるのも宜しくない。

そんなわけで。

多分、カトリーナは『何となく希望があるような状態』になっていると予想。熱烈な求婚者は居ないけれど、それなりに繋がりを求める人はいる、みたいな?

だからこそ、カトリーナもお花畑な思考回路でいられるんだろうけどね。

「『楽しい人』だったでしょう? カトリーナは」

「ええ、それに『とても可愛らしい方』だと思ったわ」

シャル姉様は楽しげに笑っている。そんな姿に、『とても可愛らしい方』という言葉の意味を悟った。

「アグノス様は周囲の大人達の思惑を察し、『御伽噺のお姫様』を演じていただけ。だけど、カトリーナ様は、ねぇ……」

「あれは本気で、『素敵な王子様』の訪れを待っていますからねぇ……」

「とりあえず、『ご自分を磨きなさいませ』と助言はしてきたのですけど」

意外なことに、シャル姉様は割とまともな話ができたらしい。少なくとも、シャル姉様のアドバイスは間違っていない。

……が。

それ、『カトリーナが愛を乞われるような淑女になるまでにかかる時間』という落とし穴があることを、忘れてはいないだろうか。彼女、もういい歳なんだし。

何より、私はそれが成功するとは思えなかった。

「いや、王子様云々はともかくとして。現在のバラクシンにとって、身内にああいったお花畑思考の人が居るのは怖いじゃないですか」

ぶっちゃけ、これに尽きる。迂闊に婚約なり、婚姻なりしようものなら、常に彼女の失言に気を配らなければならない気がする。

目立つからね、カトリーナ。それに、利用価値が完全に失われたわけじゃないから、周囲も聞き耳を立てているだろう。

家の未来が掛かってますからねー、どの家も必死です。少なくとも、物珍しさや好奇心で迎えることはできなかろう。

「それはそうだけど。でもね、使いようによっては、それなりに価値を見出せると思うわよ」

「うーん……私個人の考えですが、リスクの方が高い気がします」

シャル姉様くらいになれば可能かもしれないけれど、一般人には難しい。

そこまでの労力を割いてくれる人も稀だけど、カトリーナが本当に使える駒になるか怪しいもの。

「あらあら、ミヅキ様にしては弱気な発言ね。まあ、カトリーナ様の努力次第なのでしょうけど」

「私は自分で動いた方が楽だと考えますからね。あと。これまでの経験から、カトリーナには期待できませんし」

「『喧嘩にしかならなかった』と言ってらしたものねぇ」

クスクスと笑うシャル姉様は美しいが、言っていることは私と同レベル。

要は『使える駒に仕立て上げる(※当然、補佐が必要)』か、『関わるな、危険』ってことですからね!

ここらへんが私とシャル姉様の立場の違いなのだろう。私は基本的に、期間限定・現場での短期労働になることが多いため、自分で結果を出すようにする。それが求められた役目だから。

と言うか、己の役割を理解し、やる気になっている人ならともかく、『誘導しつつ育てる』ということはしない。面倒だし、責任が持てん。

聖人様や灰色猫のように、自分で色々とやってくれる人ならば、先行投資もありなんだけどねぇ……カトリーナは難しいでしょ。まず、現実を理解できるようにしなければならないもん。

そんなことを考えていると、シャル姉様がちらりと周囲を見回した。

「ミヅキ様、お部屋に入りません? ここで立ち話というのも、ね……」

「あ。それも、そうですね」

邪魔だし、聞かれては拙い話もできませんね! そもそも、そのためのお茶会開催でしたっけ。

そのままシャル姉様に付いて行くと、そこからさほど遠くない一室に案内された。

「お仕事をする時に、この部屋を借りているのよ」

「なるほど」

王城だから安全だし、誰かの意見を聞きたい時にも便利そう。

役職に沿った部屋も勿論あるだろうけど、ここは『個人的な、ちょっとしたお話』(意訳)をする時に使っているのかもしれない。

「あれ、あんた達は入らないの?」

何故か、騎士sは扉の前で警備をするかのように立っている。

「俺達はお前の護衛という立場だから!」

「安心しろ、誰も通さない」

「……。あんた達、まさか、シャル姉様が怖いんじゃ……」

「「判っているなら言うな!」」

おい。

ジトっとした目で二人を眺めるも、彼らはそそくさと扉を閉めてしまう。

「あらあら、素直な子達ねぇ」

「シャル姉様、二人に何かしたんですか?」

「直接、何かをしたことはないわ。だけど、彼らは殿下の騎士だもの。私がお仕事をしている時の会話を聞いていても不思議はないわね」

「あ~……そういうこと」

つまり、ヘタレ二人はシャル姉様の『毒』を何度か耳にしてしまったのだろう。それでビビっている、と。

そういや、クラレンスさんのことも怖がっていたしな、騎士s。あいつら、基本的に善良な思考をしているから、耐性が低いのかも。

一人で納得していると、シャル姉様は何故か顔を赤らめ、もじもじとし出す。

ん? んん? はて、何か言い難いことでもあるんだろうか?

「あ、あのね、ミヅキ様。その、お願いがあるのよ」

「え? は、はぁ、お茶会で出すお菓子のリクエストか何かですか? それとも、仕事?」

今までにないシャル姉様の態度に、困惑しつつもそう告げると、シャル姉様は顔を輝かせた。

「そう! そのリクエストがしたいの! ミヅキ様、私、『ハンバーガー』とやらを食べてみたいのよ! 他のものだって、アルが自慢してくるんですもの。狡いわ、私だって食べてみたいわ!」

「へ?」

「だ、だって……今まで、ナイフやフォークを使って頂くものばかりだったでしょう? 勿論、ミヅキ様の気遣いだということは判っているのよ。だけど、どうしても旦那様達と同じ方法で食べてみたいの!」

「ああ、そういうことっすかー……」

あれですか、育ちの良いお嬢様がジャンクフードに憧れる的なやつ。確かに、これまではサンドイッチさえオープンサンドにして出していましたね。

いや、だって、本物のお嬢様が『手で持ったまま、かぶりつく』なんて食べ方してくれるとは思わなかったんだもの……!

さっきの恥ずかしそうな態度は、『ご令嬢・ご婦人にあるまじき食べ方をしてみたい!』ということが原因だった模様。

子供ならばともかく、シャル姉様は淑女である。間違っても、そんな姿など見せられまい。

「あれ? じゃあ、バラクシンでのことを絡めた秘密のお茶会じゃない?」

「あら、そちらは大して面白味のあるものはないでしょう? 秘密にするものもそれほどないと思うわ」

「……一応、隣国の内部事情が絡んでいるのでは」

「そこらへんの事情は今更だと思うわよ? 以前、ミヅキ様が『お仕事』をしていたじゃない」

「マジか」

それでいいのか、イルフェナ。いや、私が暴れた時点で、『異世界人の動向』的な情報の共有は成されていると思うけど!

「それで、お願いを聞いてくださる……?」

「……魔王様にだけは許可を取らせてください。後が怖いので!」

期待一杯の目で見つめられ、それだけを返す。

って言うか、原因、騎士寮で食事する騎士達じゃん! 特にアル! あんた、シャル姉様にこれまで自慢してたわね!?