軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

元凶は遠い目をする

――とある場所にて(??視点)

「……」

何とも言えない表情で、私は溜息を吐いた。手にしているのは、此度の――ハーヴィスの第三王女を発端とする一連の出来事の詳細。

一時は開戦確実とまで思われていた『イルフェナの第二王子襲撃事件』。

そこにゼブレストの王であるルドルフまでもが巻き込まれたことから、穏便な解決など不可能と思われていたのだ。

そう、『思われていた』。

「まさか、殆ど死者を出さずに解決するなんて……!」

己の感情を一言で表すならば、『呆れ』だろう。『達観』でもいいかもしれない。

この事件を知る多くの者達はそれなりに覚悟をしていたはずだ。『いくらエルシュオンが穏便な解決を望もうとも、聞き入れられることはない』と。

『個人』ではなく、『国』の問題なのである。

舐められないためにも、なあなあで済ますわけにはいかないのだ。

たとえ開戦とまでいかずとも、二国はそれなりに険悪な状況となり、ハーヴィスは少なくない代償を払うことになったはず。

それが常識的な考えというか、一般的な発想なのだ。『甘い対処にはできない』と。

そもそも、『あの』自己中魔導師が、敬愛する飼い主を襲撃され、大人しくしているはずはない。

エルシュオンの過保護も有名だが、ミヅキの懐きっぷりも相当なのだ……今度こそ、魔導師の名に恥じない実力行使が行われても不思議ではなかった。

イルフェナに来た彼らの友人達(?)は、それを危惧して行動した節もある。

いくら自国への報復ではないと言っても、魔導師が暴れれば被害は甚大と予想するのが、一般的な発想なのだから。

そこにミヅキ自身への心配も加わり、各自、イルフェナに向かったと思われた。いくらミヅキ自身が公言していようとも、友を化け物扱いされたくはなかったのだろう。

……が。

皆の予想をぶっちぎり、ミヅキは今回も盛大にやらかしてくれた。

「いやいや……あの子は一体、どんな思考回路をしているんだか」

それしか言えない。寧ろ、それが全て。

と言うか、今回の決着にはこれまで築き上げてきた縁と功績が多大に影響を及ぼしており、ある意味、『積み重ねてきた努力の勝利』と言えるだろう。

そもそも、初っ端からおかしいのだ。

『エルシュオンが助かった要因』

・ミヅキとゴードン医師による、治癒・解毒特化の魔道具の所持。

・ジークフリートを始めとする、カルロッサの英雄予備軍一同がその場に居た。

・上記のことに加え、黒騎士とミヅキによる魔法剣(試作品)をジークフリート達が所持しており、その上で、結界破壊についての講義をミヅキから受けている。

どれか一つが欠けても、エルシュオンは生きていなかっただろう。

冗談抜きに、エルシュオンには死の運命が纏わり付いていたのだ。

それを覆したのが、ミヅキとエルシュオンがこれまで紡いできた人脈と本人達の努力。

元から向上心旺盛であり、主たるエルシュオンに相応しい部下となるべく努力を重ねてきた黒騎士達だからこそ、ミヅキによる異世界のアイデアを形にでき。

ジークフリートを支えるために強くなることを望んだキース達へと、エルシュオンが手を差し伸べたからこそ、彼らは対抗する手段をもって、襲撃の場に居たのだ。

とどめがミヅキとゴードンによる、二つの世界の技術の合わせ技とも言える魔道具の開発。

『絶対に死なせない』という決意に満ちた禁呪紛いの魔道具は、柔軟な発想を持つ彼らでなければ完成しなかっただろう。

……。

死亡フラグとやらを何回折れば気が済むのだ、こいつら。

繰り返すが、どれか一つが欠けてもアウトである。開戦回避の必須条件とも言える『エルシュオンの生存』だが、あまりにも条件が厳し過ぎるのだ。

「それが、な~んで『親猫寝込み事件』程度になってるんですかねぇ……?」

エルシュオンが致命傷に近い怪我を負ったのは事実である。

ただし、魔道具の効果で速攻治癒され、気を失う前の言葉は『黒猫の心配』。

隣国の王であるルドルフが巻き込まれ、洒落にならない事態になりかけたのも事実である。

……が、ルドルフは基本的にミヅキの味方であり、一緒に遊ぶ機会を得たとばかりにはしゃいだため、『ミヅキの共犯者』という立ち位置に落ち着いた。

ミヅキとゴードン作の魔道具が、後世に残せないレベルの物であることも事実である。

ただ、こちらは事前に申告済みであることに加え、この二人でなければ製作が不可能な代物だ。

おかし過ぎるだろう、どう考えても。あれか、この世界では黒猫は幸運を運ぶ象徴か何かとでも言うのだろうか?

何より、今回は一国の王であるルドルフがミヅキの共犯者として存在していた。この世界に来て早々に築いた絆が、切り札となっていたのだ。

未だにその手腕が未知数と思われている若造と言えども、『王』である。その発言力や影響力は無視できないものであろう。

そこに、各国からやってきた人々が加わり、黒猫は実にのびのびと復讐計画を進めていった。

ハーヴィスはイルフェナに痛い目に遭わされたと思っているだろうが、実際には『魔導師と共犯者一同に敗北した』というのが正しい。

ミヅキ一人だけでも厄介なのに、各国の権力者達が挙って味方しているのだ……ハーヴィスなど、一捻りである。寧ろ、勝てる奴の方が稀。

と言うか、イルフェナはエルシュオン直属の騎士達以外、ろくに動いてはいなかった。

これは偏に、イルフェナ王の命があったからなのだが……彼らとて、『気が付いたら、終わってた。ちょ、え、何で!? 何があった!?』という心境だろう。

真面目に憤っていた者達も居たというのに、この仕打ち。実に哀れである。

「はぁ……グレンの時はもっと殺伐としていたんですけどね」

アルベルダ王とその片腕グレン。彼らの時も、試練とも言うべき事態は訪れた。

情勢が今よりも不安定ということもあっただろうが、ウィルフレッドは王位継承権が一位だったわけではない。

当然、王になるためには、それなりに危険な目に遭ってきたのだ。こちらは『辛うじて死亡フラグを折った』という感じだった。

言っておくが、グレン達が無能だったわけではない。

娯楽の如くこなしていく、ミヅキ達の方がおかしいのだ。

そもそも、当時のグレンはミヅキのことを言えない凶暴っぷりであった。余裕がなかったことも事実だが、余裕があっても大して差はないに違いない。

ウィルフレッド達は生き残ることに必死だっただけなのだが、グレンのやり方はミヅキといい勝負。

エルシュオンがミヅキに説教する姿とて、微笑ましく見守れることだろう……ウィルフレッドとて、かつては似たようなことをしていたのだから。

そう、基本的に大らかなウィルフレッドが、時に説教(という名の心配)をしなければならないほど、若かりし頃のグレンは『やんちゃ』(意訳)だったのだ。

幼く見える外見と無知さを活かし、情報収集に励み。

容赦は要らぬとばかりに、敵対した者達を陥れ。

時には、ウィルフレッドさえもビビらせながら、確実にウィルフレッドを王の地位に押し上げたのだ。

なお、そういった経緯から、暫くはウィルフレッドの側近達からも警戒されていたりする。

ただ、グレン自身はそれも当然と受け入れていたので、全くと言っていいほど気にしなかった。

と言うか、元からグレンが親しかったのがウィルフレッドだけであり、自分が側近の一人になることなど思ってもいなかった――身分がないため――ので、張り合う必要がなかったのだ。

結果として、グレンのそういった姿は『ウィルフレッドが唯一の主であり、主に尽くすことしか考えていない』と受け取られ、いつの間にか側近の仲間入りを果たしていた。

その後もちらりと覗かせる凶暴性は健在であり、今では『陛下をしばける貴重な逸材』として、一部から慕われている。

「グレンの時とは違うけれど、今回のことで、各国はミヅキの価値を正しく知るでしょう。……各国に人脈を持ち、動かせる魔導師なんて、予想外でしょうからね」

魔導師はその圧倒的な強さを見せつけるゆえか、国と関わることはない。寧ろ、利用されることを嫌い、避ける傾向にある。

……が、ミヅキは過去に存在した魔導師達とは完全に別物だった。条件次第で味方や手駒になってくれるのだ、仲良くした方が得であろう。

「国の利を帳消しにすることになろうと、優先するのは敬愛する親猫の願い。……そこに持っていくだけの賢さがある。泥を被ることも厭わず、時には死の運命に導くこともある。なんて……」

何て、理想的な手駒……いや、司令塔であることか!

この世界の者達を手駒の如く使い、彼らの行動によって、望んだ決着に導くなんて!

「センリが『ミヅキだったら、大丈夫』と言っていた意味がよく判ります。そして、『最大の問題が【ミヅキを味方にできるか】ってことだ』と言った理由も」

情がないわけではない。ただ、ミヅキは安っぽい同情で動いてくれるような性格はしていない。

これまでを見ても判るように、恩には恩を、悪意には悪意を返す子だ。自分が努力するからこそ、嘆くだけの者のために動くこともないだろう。

――ただし、味方となった場合はとてつもなく頼もしい。

正義や大義名分なんてどうでもいい、ただ『己の敵』を倒すために容赦しない。そのためには、味方さえも容赦なく使う。

その結果、ミヅキが与した陣営の者達は勝利するのだろう。目的が違っていようとも、結果は結果なのである。

……そんな彼女だからこそ、安堵してもいる。

この先、都合よくミヅキを利用しようとする者が居たとしても、一方的に不利益を被ることにはなるまい。

「……そろそろ時間切れなんですよね。さあ、貴女達はどこまで抗えるのか」

叶うならば、良き未来を。

悲劇にしかならなかった『かつての時間』を、繰り返すことがないように。