軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

後日談 其の九『さあ、笑顔で報復を』

――イルフェナ王城・王の執務室にて(イルフェナ王視点)

「……おや」

バラクシンへと向かった使者――シャルリーヌからの簡易報告を手に、私は思わず口元を綻ばせた。

今回の目的はエルシュオンへの襲撃に便乗した、バラクシンへの抗議。内容だけを考えれば、口元が綻ぶような状況にはなるまい。

……が、今回ばかりは少々、事情が異なっている。

そもそも、バラクシンの王家派がこのようなことを仕出かしたのは、バラクシンでの先の一件が発端となったのだから。

そちらの元凶は王家と対立する教会派貴族であり、第四王子フェリクスを手駒としていたバルリオス伯爵――フェリクスの母である側室の父――が裏で全てを操っていたと言っても過言ではない。

フェリクスを使い、魔導師であるミヅキと接触を図ろうとしたのだ。『王子からの誘いであれば、断れないであろう』と。

ただ、残念なことに当のフェリクスは『異様に』素直だった。おそらくだが、母である側室や祖父たる己が都合よく操れるよう、幼い頃から洗脳紛いの教育を施していたのだろう。

それが仇となり、ミヅキの後見人たる我が息子は側近の騎士達とミヅキを連れて、バラクシンへと抗議に向かったのだ。

そう、抗議に向かった『はず』だった。それで済むはずだったのだが。

何故か、ミヅキは王家派と教会派の争いに関わり、教会派に多大なるダメージを与え、王家派の貴族達さえも脅迫してきたというのだから、笑えない。

報告によると、どうも教会派に属する騎士達がエルを侮辱したことが発端らしいのだが、そこでミヅキと騎士達がブチ切れたのである。

災厄の名を欲しいままにする魔導師は、それはそれは盛大に祟った。

教会の正常化を望む聖人殿と手を組み、敵を『陥れてみせた』のだから!

教会派貴族の愚かさが知れる一幕である。彼らはミヅキを利用しようとする一方で、『無知な異世界人』と侮っていたのだから。

この時点で彼らの敗北は確定したようなもの。実際のミヅキは無知でも、愚かでもなく、『異世界人凶暴種』と呼ばれる逸材だ。

保護者と周囲の者達の愛情深い教育により、たった一人で異世界に放り出された黒い子猫は、立派に成長していたのだ……ただし、その保護者と周囲の者達が普通ではなかったが。

『保護者』

高過ぎる魔力による威圧というハンデを抱えながらも、たゆまぬ努力と才覚で結果を出し、他者から『魔王』と恐れられるエルシュオン。

『騎士寮面子』

エルシュオンに仕えるために努力し、『最悪の剣』という名を欲しいままにした実力者集団。

『自称保護者の皆様』

大半が騎士であり、その筆頭が騎士団長以下近衛の皆様。『近衛の鬼畜』と言われるクラレンスが妻共々、妹のように可愛がり(意訳)、『あの』レックバリ侯爵も好意的に接している。

……これで、どうして『無知で愚か』に育つというのだ。ミヅキ自身の性格もあるだろうが、この面子に鍛えられた以上、無能でいることなど許されまい。

そもそも、純粋に庇護者であったのはエルだけだった。他の者達は当初、『使い勝手がいい駒が来た!』とばかりに教育し、最終的に仲間という立場に落ち着いただけである。

その果てについた渾名が『異世界人凶暴種』。自分と親猫の敵は許さぬという殺意に溢れた、(イルフェナ的には)頼もしい渾名であった。

まあ、ともかく。

そんな一件もあり、バラクシンの教会派貴族達は急速に力を失っていったのだが。

フェリクスを諦めない教会派貴族の一派が居ることもあり、今回は王家派貴族がフェリクス暗殺を目論んだ。

フェリクス本人にその意思がないと言っても、母親や祖父はまだ貴族籍を持っている。ある意味、仕方がない状況と言えるだろう。

王族の血というものは厄介で、時には本人の意思などお構いなしに権力争いを引き起こす。

いくら絶大な支持を得ている聖人殿とはいえ、彼には身分がない。貴族達からフェリクスを守るには力不足なのである。

そこにミヅキが庇護したアグノスからの告発があり、イルフェナの抗議に合わせて、ミヅキ達も教会で暗躍することとなったのだった。

面倒事は一度でいい。馬鹿が次々と湧いても迷惑なので、私は大いに賛成した、というわけだ。

『イルフェナ的建前』

第二王子への襲撃を利用したことへの抗議(国)。また、アグノスの告発から教会派貴族の愚行と聖人殿の苦悩を察し、魔導師が動いた。

『イルフェナの本音』

問題を起こしそうなバラクシンの貴族達へのお説教(※物理あり)。

……建前は立派だが、バラクシンへ向かった面子が面子である。以前が不完全燃焼で終わったこともあり、『今回は殺る』と言わんばかりに、気合十分であったことは余談であろう。

そんな裏事情もあり、あまりにも私が報告を楽しみにしているものだから、シャルリーヌは速報版を送ってくれたのだが。

「くく……っ、いやいや、やるじゃないか! これはまだ、エルに見せられないね」

見せた途端、あの子は絶句するだろう。目的を知っているとはいえ、そのやり方までは知らないらしいから。

特に、ミヅキとアルジェントの報復は秀逸である。

ミヅキは教会派貴族の要求を叶えただけであり、アルジェントに至ってはほぼ八つ当たり――以前、エルを侮辱したのは教会派の騎士だった――なのだから。

しかも、アルジェント達は第三王子であるレヴィンズ殿下さえも巻き込み、こちらの正当性を印象付けた。

二人とも嘘を吐いているわけではない上、事情をろくに知らない人々は『王子が率いる騎士が、教会を害する貴族一派を捕縛した』と噂し、益々、貴族達は教会に絡みづらくなるに違いない。

「カトリーナから言質を取ったと書いてあるから、バルリオス伯爵一派も何とかなりそうだ。と言うか、あの二人は王家派貴族の抗議に向かったはずなんだけどね……」

『ミヅキ様やアル達に負けてはいられませんわ!』と、輝く笑顔を見せていた美女を思い出す。

彼女は夫と二人で『毒夫婦』とか呼ばれているので、出かけたついでとばかりに、フェリクスから母親を遠ざける手を打ったらしい。

今頃、ミヅキ達に姉としての貫禄を見せつけていることだろう……バラクシンの貴族達を恐怖のどん底に叩き落して。

「あの子の周囲は騒がしいね。だけど……思わず笑いが込み上げるようなこの状況を、私は好ましく思えるよ」

本心から、そう思う。『血の淀み』の被害者とも言えるアグノスも、今は教会で穏やかに過ごせているらしい。

幼い子供のように無邪気に振る舞うアグノスの表情は明るく、ミヅキを保護者として慕っているようだ。あんな姿を見てしまったら、危険視などできはしない。

「さあ、最後は先の一件の本当の元凶……ハーヴィスか。クラウス達は大いに張り切っているようだし、アグノスの近況報告も素晴らしいものになるだろう」

……それが黒騎士達の報復なのだから。そのために彼らは今回、バラクシンへの同行も断念したのだ。

二度とアグノスに関われないハーヴィスの者にとって、これはある意味、黒騎士達の善意である。ただし、『ただ、アグノスの幸せを願っていたならば』。

『アグノスの近況を記録してこい。幸せそうなら、なお良し!』と言っていたらしいので、ミヅキはその期待に応えるべく、アグノスの好物を大量生産してお土産に持って行った。

イルフェナで目撃されたアグノスの様子を聞く限り、教会でも幸せそうにおやつを頬張る姿が目撃されることだろう。

そんな笑顔の傍に居るのはミヅキや教会の人々……『ハーヴィスの父でも、信奉者達でもない』。

「アグノスの幸せに、ハーヴィス王は必要ない。離されて泣くこともなければ、国を想って悲嘆に暮れることもなかったのだから。その事実を、彼らはどう受け止めるのか……」

王妃あたりはアグノスの様子に安堵し、その幸せが続くよう願うかもしれない。

だが、ハーヴィス王とアグノスの信奉者達にとっては、認めたくない事実となる。『アグノスにとって不要な存在』――自分達はそう位置付けられていたと知ることになるのだから。

「悪いけど、私はクラウス達を止めないよ。……私とて、エルの父親なのだからね」

だから、息子が負傷するに至った一件の元凶に思うことが無い訳ではない。報復を命じることはないが、見て見ぬ振りをしようじゃないか。

だって、単なる近況報告だ。黒騎士達の狙いを知らなければ、それは気遣いでしかない。

そんなことを思っていると、ノックの音が響いた。

許可を出して入室を促すと、顔を出したのはミヅキ達の報復の原因とも言える息子――エルシュオン。

「失礼します。……? 父上、何か良いことでもありましたか?」

「おや、そう見えるのかい?」

「ええ。何と言うか、楽しそうに見えますよ」

程々にしてくださいね、と半ば呆れて告げる息子の姿に、私は笑みを深めた。

『楽しそう』か……ああ、確かに『面白いこと』があったとも。それをお前が知った時の反応を楽しみに、今は仕事を頑張るとしようか。

※※※※※※※※

――その頃、バラクシン王城では。

「おお! 確かに、美味い酒だな! このような上物を振る舞ってしまって、良かったのか?」

「勿論! あの人、自分で希望したくせにすぐに潰れちゃったし、酒は皆で楽しく、美味しく飲むものですよ!」

レヴィンズを相手に、ミヅキが持ち込んだ酒を飲んでいた。傍で突っ伏しているのはバルリオス伯爵である。

対して、レヴィンズはミヅキ同様に酒豪らしく、全く酔った気配がない。アルジェントも酒に強いらしく、仕事明けの一杯とばかりに、機嫌よく飲んでいる。

「しかし、姉上達もやりますね。まさか、カトリーナ殿に賛同しつつ持ち上げ、言質を取るとは」

「ねー! 私だと売り言葉に買い言葉にしかならないから、助かっちゃった」

「これでフェリクスも漸く、あの女との縁が切れるのか……めでたい!」

「おめでとー! 折角、仲良くなったみたいだし、お兄ちゃんから伝えてあげれば?」

「ああ、それはいいですね。きっと、喜んでくれますよ」

別名『祝・脱カトリーナ!』とでも命名できそうな飲み会であった。一応、バルリオス伯爵もこの場に居るのだが、誰も気にしていない。

なお、このような状況になったのは、王城にやって来たミヅキ達とバルリオス伯爵がエンカウントしてしまったからである。

意気消沈して肩を落とすバルリオス伯爵は運悪くミヅキに捕獲され、『アルベルダ王陛下から頂いたお酒に不満があるの!?』という脅し文句に言い返すこともできず、酒宴に拉致されたのであった。

そして速攻で潰され、後は知らんとばかりに放置。伯爵だろうと、思うところがある相手への対応なんて、そんなもの。

そんなバルリオス伯爵を放置し、三人はきゃっきゃと祝杯を挙げている。イルフェナからの使者として、この後の会食が決定しているシャルリーヌ達が居ないだけ、マシなのだろう。

「さて、後はクラウス達の仕事ですね」

「きっと良い仕事をしてくれるって」

「ええ。ふふ……期待してしまいますね」

「ふむ、ハーヴィスへと、アグノスの近況報告をするのだったな。愛娘の現状を知れるのは、親として嬉しかろう」

「「……」」

自分達とフェリクスを当て嵌めたのか、深く頷くレヴィンズに、ミヅキとアルジェントは微笑んだままだった。

ただし、二人揃って同じ予想を立てている。それはレヴィンズの言葉とは真逆のものであり、ハーヴィス王が精神的なダメージを負う未来。

……目の前で唯一の主を害された猟犬達の報復は、これからなのだ。