軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

後日談 其の三『忍び寄る恐怖』

――教会の一室にて

「相変わらず、貧乏くさい場所だな。全く何度も無駄足を……」

文句を言いながら部屋に入ってきた男は、室内に居た私の姿を見るなり固まった。

そんな男の反応に、私は内心、にやりと笑う。

ああ、こいつ私の顔は知ってるんだ? ってことは、私が以前やらかした事も見ていたと。

なるほど、なるほど、それは説明の手間が省けていい。

私は最初から『【様々な意味】で、恐怖の対象』(意訳)ってことですね!

「おや、そのような所で固まって……どうかなさいましたか?」

「な、何故、そいつが……っ」

「詳しい話はこれからですよ。さあ、お座りになってください」

「い、いや、今日は……」

「お座りください。貴方様とて、彼女がここに居ることを疑問に思っていらっしゃるではありませんか。こちらとしても、その疑問にお答えする義務があると思っておりますので」

「いや、その……」

「どうぞ、お掛けになってください」

「え……」

「ど・う・ぞ?」

穏やかに、けれど有無を言わさない妙な迫力をもって、聖人様は男を室内に促す。

男の方も妙にビビっているのか、何とか言い訳を口にしようとし。

その度に、聖人様から放たれる脅迫めいた威圧――誤解のないよう言っておくが、聖人様の口調は穏やかだし、嫌味なども言っていない――を受け、この場を立ち去る言葉を紡げないでいた。

そんな遣り取りを微笑ましく眺めつつ、私は聖人様へと生温かい目を向ける。

……。

い や 、 そ ん な 義 務 は な い よ ね … … ?

マジである。そんな義務などないし、立場――身分的には男の方が上なのだから、無理矢理にでも帰ればいいだけである。

それができないのは男が聖人様に対し、完全に迫力負けをしていることと……まあ、所謂『お貴族様のプライド(笑)』とやらのせいだろう。

はっきり言ってしまえば、男は聖人様から受ける威圧とは別に、内心かなり葛藤しているのだ。

『何故、教会の聖職者如きにこのような感情を持たなければならないのか』と!

バラクシンのこれまでを考えれば、この状況はかなりの屈辱なはず。特に、教会は寄付をしている教会派貴族達に逆らえなかっただろうし。

……が、現在ではその状況がかなり異なっている。

いや、正確にはまだまだ王家との連携が取れていないため、教会の財政が苦しいことは事実である。だからこそ、私はせっせと物資援助をしているんだし。

――ただし、この状況は『一時的なこと』であって。

貴族と癒着していた教会の上層部が着服していた金が戻って来るなり、新たな寄付金制度が上手く軌道に乗るなりすれば、ある程度は改善するのだ。

そのためのプランはバラクシン王家に提出済みだし、王家も快く了承しているので、問題はない。

『王家と教会が手を取り合う』――王家側がそういった未来設計をしている以上、よほどのことがない限り、これは叶えられるだろう。

だが、それでは困るのが極一部の教会派貴族達。

これらが叶えられてしまった場合、彼らが長年使ってきた脅迫材料である『寄付がなくなってもいいのか』という一手が使えなくなってしまう。

だからこそ、彼らは今、聖人様に対して少しでもマウントを取ろうと必死なのだろう。もしくは、懐柔することを狙っているか。

どちらにせよ、忙しい聖人様としては迷惑行為以外の何物でもあるまい。教会のトップである聖人様が忙しいのは周知の事実。

それもあって、教会内での彼らの評判は底辺を極めているというわけだ。『ろくでもないことに時間を取らせてるんじゃねぇ!』と。

……さて、そろそろ話を進めようか。

「折角、聖人様が時間を空けてくださったのに、何をしに来たのかしらねぇ? ああ、私に聞かれちゃ拙い話だったとか?」

「な……」

「おやおや、そんなはずはありませんよ。ここは教会、政とは無縁の場です。……そうあるべきなのです。そもそも、聞かれて困ることなどありません」

「そうよね、そのはずよね」

「ええ、そのはずです」

茫然とする男を無視して言葉を交わすと、私と聖人様は同時に男へと顔を向けて微笑んだ。

「「さあ、ご用件をどうぞ?」」

「う、うむ……。失礼する」

諦めたのか、居心地が悪そうにしながらも、男は室内の椅子に座る。すかさず、私は閉じた扉の前に移動。

「え……」

「私は個人的に聖人様とお話していただけですから。『大事な』用事があるであろう、貴方に譲っただけですよ。貴方も私が居たことは予想外だったでしょう?」

「申し訳ない」

「いえいえ、聖人様のせいじゃありませんでしょ。突然、やって来た私に責があるのです。ですから、一時的に隅に居ますよ。『聞かれて困ることなどない』のでしょう?」

「ええ、勿論」

「ぐ……」

反論に困る言葉の遣り取りに、男は口を挟めないらしい。何か言おうと口を開きかけるも、私を排除する上手い言い訳を思いつかないのだろう。

Q・『教会と教会派貴族の間で、大事な話がある』と言った場合は?

A・事前に、『ついうっかり』記録用魔道具を置き忘れ、証拠確保。

そのままバラクシン王へ証拠提出&チクリ。

Q・素直に『聞かれて困ることはない』とした場合は?

A・扉の前に居座り、逃亡阻止。勿論、会話は記録する。

……私が先にこの部屋に居た時点で、こいつは既に詰みなのであ~る!

私と聖人様は仲良し(笑)なので、証言したところで『話を合わせただけ』『でっちあげだ!』と言われてしまえば、それまでだ。

バラクシンには一発逆転を狙う教会派貴族達がまだまだ多いので、ここぞとばかりに突いてくるだろう。

ならば、最初から証拠を手に入れられるようにすればいい。

勿論、私が居ることで、こいつが口を噤む可能性は大いにある。

だが、よく考えてほしい……私と聖人様の望むことは『鬱陶しい教会派貴族達を黙らせる・もしくは教会から手を引かせる』ことであり、処罰されることではないのだ。

「そういえば……貴方は度々、教会に『何らかのお話』をしに来ているんですよね」

「ひっ……そ、そうだが……それが何か?」

椅子に座った男の背後から、そっと肩に手を置く。すると、盛大に肩を跳ねさせながらも、男は何とか誤魔化しの言葉を口にした。

「私ね、今、自分が引き取った子を教会に預かってもらっているんですよ。私の傍で大人達に囲まれて暮らすより、教会の子供達と共に学び、遊んだ方が、情操教育にはいいですから」

「え゛」

そう告げると、男はぴしりと固まった。

「だって、『今の』教会は安全なはずでしょう? 貴族と癒着していた馬鹿は追い出され、寄付を盾にとって、善良な教会の信者達を脅迫していた教会派貴族……の一部は処罰されたはずですもの」

「その『はず』、なのですがね……」

私に続いて聖人様はそう呟くと、憂い顔のまま、溜息を吐く。

そんな聖人様の姿に目を眇め、私は男の前に回ると、その胸倉を掴んで顔を近づけた。

「……今の聖人様の言葉の意味、説明してくれます?」

「な、そ、その必要はない! 貴女は教会とは無関係であり、他国の人間だろう!」

「ええ、そうですね。……でもね、『今は』ある意味で関係者なんですよ」

「は?」

「言ったでしょう? 『教会に子供を預けた』って。だからね、期間限定とはいえ、私は保護者として、教会の安寧を願い、導く義務があるのよ」

――他国の人間である以上、それしかできないもの。

そう続けると、男の顔が引き攣った。『他国の人間』だからこそ、『自分にできることをする』とでも解釈したのだろう。

うん、それ大正解。でも、解釈違いが起きても困るから、はっきりと言っておこう。

「常に教会に居るわけじゃないからこそ、『物資援助』や『教会を脅かす者』(意訳)の排除しかできないのですよ。ほら、貴方もご存じなように、私には権力がありませんし? 食料や生活必需品などの提供は、民間人も行っていますからね?」

マジである。フェリクスやサンドラから『近所の方達から、お野菜などを頂くこともあるんです』と聞いているからね。

それよりも規模がでかいだけであって、私がやっていることは同じだ。教会への資金援助のように、金銭の遣り取りじゃないもの。

「ありがたいことです。我らも感謝しておりますよ。金銭の遣り取りではありませんし、賄賂のように言われることもないでしょう」

「こちらもお世話になっているから、お気になさらず」

にこやか・穏やかに交わされる聖人様との会話で、『何も問題ないよ!』というアピールも忘れません。

事実、教会のトップ聖人様の感謝の言葉で、私の行為は何の問題もないと肯定されてしまった。男が微妙に悔しがる様が、笑いを誘う。

「後は……『教会を脅かす者』の排除でしょうか。ああ、こちらは私の得意分野ですね! 私には暴力しかありませんが、相手は教会に仇成す犯罪者。容赦はいりませんし、少し『お説教(物理)』した後、きっちりと裁いていただきましょう」

「おや、頼もしい」

「国に引き渡す前に、何が悪かったのか、『誰に牙を剥いたのか』を判らせなければ、勝手なことを言って困らせそうですもの。……大丈夫、治癒魔法は得意です」

「ひ……っ」

(訳)

『教会に迷惑かけたら、魔導師がボコっちゃうぞ☆』

胸倉を掴まれたままそんなことを言われたせいか、男は顔面蒼白だった。

『魔導師であろうと、他国の人間。この国のことに口は出せない』――それが教会派貴族達の最大の強みだったはず。

……だが、アグノスを教会で預かってもらっている以上、『アグノスの安寧に必要なことならば』例外的に介入が可能となる。

だって、アグノスを教会に預ける際、バラクシン王にも許可を得たもの。

アグノスの状況を考えれば、これは必要なこと。別に、教会派貴族を警戒してのことではない。

だが、そのアグノスから『皆が嫌がる人が来る』と報告があった以上、私としてもその状況を改善する義務があるわけで。

そこで仲良しの聖人様に連絡を取り、事情を聴きに来た……というのが今回の訪問の真相だ。

精神年齢幼女・アグノス、大活躍である。まさか、自分が書いた手紙が証拠となり、魔導師が教会に介入する切っ掛けになるとは思うまい。

……。

うん、間違いなく、そんなことは考えてないな。あの子、思考がまだまだ幼女(仮)だし。

「じゃあ、詳しいお話を聞こうか。……ああ、そうそう! 教会派貴族とはそれなりに長い付き合いになるかもしれないから、ご挨拶をしておこうかな」

胸倉を掴んだ手に力を籠め、できる限りの魔力による威圧を向ける。気絶一歩手前の男に対し、私は凶悪な笑顔(聖人様・談)で微笑んだ。

「宜しくね?」

気分的には『夜露死苦』といったそんな心境ですが、言葉だけなら判りません。文章にしなきゃいいんだよ!

「理解させることもまた、神の愛ですよね」

ちらりと視線を向けた先、聖人様はいつの間に用意したのか、どこかで見たような本を手にしていた。

※※※※※※※※

――一方その頃、バラクシン王城では。

「お久しぶりでございます」

とある一組の夫婦が、バラクシン王を訪ねていた。

妻は自国において外交を担っている上、彼女の夫は近衛騎士である。ついでに言うなら、二人セットで『毒夫婦』などと呼ばれている。

そんな彼らの目的は当然、バラクシンへの抗議。だが、かの『毒夫婦』がそんなもので済ませるはずもなく、その牙は元凶の力を削ぐことへと使われる。

――教会派貴族の最後の希望、もとい切り札カトリーナに、人生最大の不幸が訪れようとしていた。