軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

御伽噺(仮)の終わりには 其の一

『その後・イルフェナ編』

「……本当に、ミヅキもハーヴィスに行くんだね」

軽い説教を終えた後、魔王様は複雑そうな顔で再度の確認をしてきた。

話題は勿論、ハーヴィスにおける処罰の見学……じゃなかった、イルフェナからの処罰を伝え、ハーヴィス王がそれを実行できるかを見極めるため、だ。

……。

物は言い様だ。こう言うと、凄くまともに聞こえるから不思議。

実際は何てことない、ハーヴィス王が貴族達に丸め込まれないための牽制である。

普通ならば、『誠意をもって謝罪に訪れた以上、イルフェナの決定に従う』のが普通。ハーヴィス王もあの場で納得したはずだからね。

ただし! そこは御伽噺の王子様モドキ。私は勿論、イルフェナからの信頼は皆無であった。

そもそも、ハーヴィスの王妃様と宰相さんは私の言葉に批難を向けなかったじゃないか。

あれって、その可能性を危惧しているからでしょう? あの二人は本当に自国を最優先に考えているみたいだし、その決定を勝手に覆すことの拙さを理解できているみたいだったもの。

「行きますよ。これでも砦を二つ落とした魔導師ですし? 牽制程度にはなると思います」

「ふつうは牽制なんていらないんだけどね」

「そうは言っても、あれを信頼しろって方が無理ですって」

「だよねぇ」

魔王様も否定できないと思っているのか、私を本心から諫める気はないらしい。

と、言うか。

ハーヴィスはマジで後がないので、おかしな行動を取られるよりも私を同行させ、牽制だろうが、脅迫になろうが処罰を実行させ、『素直に従います』という姿勢を見せなければならない。

イルフェナでの謝罪の場には、各国の皆様が居た。

処罰に納得したのはハーヴィス王自身。

そもそも、公の場での発言を覆すのって相当だ。

本心ではアグノスを手放すことを迷っていようが、『一国の王が了承した』のだ。これで今更、拒否しようものなら……ハーヴィスは今後一切、信頼されないという事態を招いてしまう。

恐ろしいことに、ハーヴィス王が貴族達に言い包められたとしても、彼に悪意は多分ない。

ハーヴィス王的には『自国の貴族達の想いを受け、ハーヴィス王として決断した』とか、『娘を手放さなければならない私の想いを、貴族達が思い遣ってくれた』とかになると予想。

これを口にした時、誰一人、『そんな馬鹿な』と否定しなかった。

寧ろ、『確かに、奴ならやりかねん』的な支持を得た。

「アグノスよりもよっぽど、御伽噺の登場人物じみてますからね、ハーヴィス王って。あれだ、その場のノリと勢いで行動する王子様そっくり」

「ああ、あんな感じだよね……」

「ちなみに、あれは御伽噺の中だからこそ輝くのであって、現実に居たら、傍迷惑以外何物でもありませんけどね」

王族が軽々しく求婚したり、お姫様を救いに行ってみろ。彼の周囲には責任を取らされる人が続出する上、国は混乱必至。

求婚された娘とて、お妃教育のために多大なる苦労を強いられることになる。シンデレラストーリーなんて、そうそう上手くいくはずなかろう。

アグノス母が無邪気に『御伽噺のような展開』を信じていられたのは間違いなく、周囲の努力とハーヴィス王の我侭のせいだろう。

そこで現実を教えられていれば、アグノスを実家の養女に出すくらいの知恵はあったかもしれない。行動範囲が限られようとも、可愛がってもらえただろうに。

「彼は何と言うか……個人としては善良だけど、その後どうするかを考えられない人なんだろうね。だから、今回のようなことが起きたと思う。悪く言えば、計画性がない」

「魔王様、そこは『悪意のない無能』でいいのでは?」

「現状維持程度はできるみたいだから、全くの無能ではないだろう。少なくとも、ハーヴィスは存えている。悪政を布いたり、とんでもない我侭を言うこともなかったようだから、王妃や宰相の言葉を受け入れる素直さがあれば、かなり違ったと思うよ」

呆れてはいるが、ボンクラとも言い難いらしい。なるほど、王権が強い以上、ハーヴィス王が本当に無能と言うかろくでなしだったら、ハーヴィスという国もヤバかったってことか。

「とりあえず、アグノスはハーヴィスから引き離しますよ」

「その後のことも考えているって、言っていたよね?」

「ええ。まあ、最初にちょっとばかり私とアグノスが苦労しますが、言い出した以上、責任は持ちますよ」

「はあ……?」

「じゃ、行ってきます!」

首を傾げる魔王様を放置し、私は元気よくイルフェナを後にした。

牽制とは言ったけれど、正直、脅しを行うことにはなると思う。まあ、クラウス達からの餞別があるから、それを使わせてもらえばいい。

そう、クラウス達からの『餞別』。奴らは謹慎状態にあって退屈したのか、割と凝った悪戯アイテムを作り出していた。

これ、作動させると、一定範囲に居る全員に白昼夢を見せるのだ。……ただし、まるで何かを予兆させるような、不穏な雰囲気の白昼夢を!

・映像はオールモノクロ。しかも、登場人物達は深くフードを被り、顔は見えない。

・最初は床に描かれた怪しげな魔法陣を囲んでいる魔術師達の姿、次に『黒っぽい液体』――多分、色がついていたら血に見える――の中に沈む人らしきもの、そしてどう見ても惨殺事件が起こった室内。

・その後も不吉・不穏・凄惨な場面が続き、最後に、最初に出てきた場面へと戻り、フードの人物達全員が『白昼夢を見ている自分』へと顔を向け、中心となっている人物が『次はお前だ』と呟き、指差す。

そこで白昼夢は覚めるけど、目の前には砦を落とした魔導師が居るわけで。

……結果として、『魔導師に呪いか何かかけられた!?』『ちょ、今の何!?』的な恐怖を勝手に覚えていくようになるらしい。

要は、軽い暗示と幻覚だけの悪戯なので、不吉なことなんて何も起こらない。だが、人は勝手に想像力を働かせ、些細な不運を『呪い』として捉えるようになる。

一言で言えば、ただの自己暗示。

ただし、吊り橋効果という言葉があるように、魔導師である私が脅した後なら、非常に効果的。

クラウス曰く『お前が話していたオカルトゲームとやらを参考に作ってみた』とのことなので、悪戯以外に使い道がないアイテムなのだろう。

そんなものを金と技術をかけて製作するのが、騎士寮面子の黒騎士達。暇を与えると、ろくなことをしない皆様である。

「さて、どうなるかねぇ?」

呟きつつも、結果は見えている。だからこそ、こう思うのだ――

「ご愁傷様♪ 精々、勝手に悩みやがれ♪」

※※※※※※※※

『その後・ハーヴィス編』

「……以上が、ハーヴィスが望まれていることだ」

悲痛さを滲ませた表情のハーヴィス王から告げられた言葉に、集められた貴族達はざわめいた。

「横暴だ!」

「何てこと……!」

聞こえてくる声は概ね予想通りのもの。その殆どがイルフェナや魔導師を批難するものであり、間違っても納得しているものではない。

うん、そうですねー。横暴だと思います。

でも、ハーヴィスに信頼がないことが全てなんですよ。

イルフェナからの正式な使者――クラウス父ことブロンデル公爵だった――が、貴族達の勝手な発言の数々に秘かに青筋を立てているけれど、私は生温かい眼差しでスルー。

だ っ て 、 最 初 か ら 期 待 し て な い し 。

と言うか、まあ、多少は同情できる部分もある。今回の一件の詳細やその原因となった出来事の関係者以外にとっては、まさに寝耳に水。

こんな事態を予想しろと言う方が無理だと思うのです。私、超できる子。それくらいの気遣いはある。

ただし、それはあくまでも『多少の文句を言うことは大目に見よう』程度であって。

間違っても、譲歩しようとは思っていない。そんなことを許す気など、皆無である。

「騒ぐのは勝手ですけど、すでに決定事項です。各国の方がいらっしゃる謝罪の場にて、貴方達の王が了承なさったことですよ」

さすがにカチンときたのか、ブロンデル公爵が口を出す。ちらりと視線を向けた先の王妃様と宰相さんは……達観した表情でこの場を眺めていた。

そして、私と視線が合うなり、苦々しい表情で頷いた。……ああ、やっちゃっていいってことですね。お二人も彼らが納得するとは思っていなかったってことですか。

さすが、ハーヴィス王のお守役(予想)!

この事態も予想できていたから、私の同行を拒否しなかったってことですね!

いきなり魔導師が暴れるのは拙いが、先にハーヴィス側が問題行動を起こせば問題なし。

その前提を作り上げるため、沈黙を貫いているのだろう。この二人が出て来なければ、貴族達は好き勝手言いそうだもの。

「ハーヴィス王。我々の提示した条件を承諾した以上、この場を収めていただきたい」

「う、む。判ってはいるのだが……」

「そうでなければ、貴方は偽りを口にしたと、報告せねばなりませんよ」

温厚なブロンデル公爵にしては珍しい厳しい口調に、ハーヴィス王は困った表情になる。そんな彼の情けない姿は間違っても、一国の王には見えない。

おいおい、困っている場合じゃねーんだよ。さくっと黙らせろや、王権の強い国の王だろうが?

そうは思えども、これが現実なのだとも思っていた。ハーヴィス王の困惑もそこからきているのだろう……『何故、今回に限って自分の言葉を素直に受け入れてくれない?』と。

宰相さんと王妃様は本当に、ハーヴィスを立て直すつもりなのだろう。まず手始めに、ハーヴィス王に現実を見せる気らしい。

……まあ、それにいつまでも付き合う気はないのですが。

「煩い」

パチリと指を鳴らし、そこら中に小さな氷片を突き立てる。小さいと言っても氷なので、破片に当たったりすると、地味に痛い。

「あんた達に拒否権はないの。だいたい、アグノス様の追放はあんた達みたいな奴からの保護も兼ねてるからね?」

「保護、とは?」

「ろくに王の言葉も聞かない奴らのところに残しておいたら、都合の悪いこと全てを押し付けられるだけでしょ。襲撃の主犯であることは事実だし、『血の淀み』持ちであることも都合がいい」

本気で判っていなかったのか、ハーヴィス王は驚いている。そんな様に、私は自分の提示した処罰――アグノスの追放が正しかったと悟った。

……こいつ、自分が娘を失うってことしか考えてなかったな。

そうとしか思えない。アグノスのことを考えていたならば、少なくとも、アグノスを保護してくれる場所を探そうとするはず。間違っても、驚いたりはしないだろう。

「そうそう。勘違いしているようだけど、私は一旦、報復の手を止めただけだから」

「は?」

近くに居た貴族が困惑気味に声を上げるが、私はにっこりと微笑んだ。

「滅びても問題ないってこと! だって、どの国からもストップかからなかったし」

『な!?』

「それを止める唯一の方法が、『イルフェナの決定に従うこと』なんだよ。私はイルフェナに保護されているから、彼らが国として行った報復や処罰といった決定を優先する。だから、あんた達に伝えられた処罰が叶えられる限り、それ以外の手出しはできないの」

事実であ~る! 今回は国として喧嘩を売られたようなものなので、優先されるのはイルフェナの意向。

私が口を出せたのは、イルフェナが『こちらからの処罰を決めていいよ』と言ってくれたから。 ……ただし、イルフェナ上層部は私のこれまでの言動を知っている方達が非常に多いので。

決して、甘い処罰になるとは思っていなかった節がある。少なくとも、あの謝罪の場で散々ハーヴィス王をコケにしたことについては咎められなかった。

「と、言っても。私が魔導師ということに懐疑的な人達が多いのは事実です! そこで! ちょっとばかり『楽しい』呪……いえ、おまじないを見せますね!」

「人が死ぬようなものでなければ、許可します」

即座に返事をしてくれる王妃様。

「致し方ありません。そうでもしなければ、納得しないという姿勢を見せてしまいましたからな」

深く頷き、同じく了承する宰相さん。

ハーヴィス王? 無視されてますが、何か。

「それでは、少しばかり楽しい夢を見てくださいね♪」

そう言って、慌てる貴族達をシカトしつつ、魔道具を起動させる。私やブロンデル公爵も魔道具の効果の範囲に居るけれど、事前にネタバレしているので問題ない。

――その結果。

「さて、もう一度聞きますね。……我が国が提示した処罰を受け入れてもらえますか?」

『はいっ!』

ブロンデル公爵の問いかけに、貴族達は顔面蒼白のまま了承したのだった。

綺麗に揃った良いお返事です。何だよ、やればできるじゃないかぁ♪

「ま……魔導師様? その、今の光景は……」

「大人しくしていれば、害はありませんよ。……大人しくしている限りは」

「……っ、そ、そうですか」

問いかけてきた王妃様も顔面蒼白である。どうやら、こういったものに馴染みがないらしく、ガチの呪いか何かだと思われた模様。

「魔導師殿、この魔道具の効果は君の影響では?」

「間違いなくそうでしょうね。製作者達は作っている最中、とても楽しかったようですけど」

「……うちの子達、退屈だったんだね。まあ、下手に報復を考えるよりはいいか」

こそこそと会話を交わしつつも、納得した様子のブロンデル公爵。

さすが、クラウスの父上。やっぱり、製作者やいつ制作されたかがバレましたね……。