作品タイトル不明
最後まで手を抜かないのが魔導師です
ハーヴィス王が了承したことで、実質、この場はこれで終了だ。
本人が心から納得していようと、していなかろうと、関係ない。ここまでの事態にしてしまったのは間違いなく、ハーヴィス王の責任なのだから。
彼はこれから苦労するだろう。その中できっと、悟るのだ……『他者からの苦言を受け入れていれば、こんなことにはなっていない』と。
御伽噺の王子様モドキなハーヴィス王だが、中身はしっかり特権階級の人間なのだ。その傲慢さが己の首を絞めたと、日々、痛感するがいいさ。
「それではこれで、この場は終わりですね。ああ、アグノス様の追放はこの後すぐお願いします」
「別れを惜しむ暇さえ、与えないと?」
「時間が経てば経つほど、未練がましくなるだけでしょうに。それに、今後に危機感を抱く人達から貴方にとって都合のいい意見が出た場合、イルフェナの決定を強行するだけの力がありますか?」
「な!?」
『それは……』
「否定できませんね」
私の言い方が気に障ったのか、怒りの表情になるハーヴィス王。
だが、王妃様や宰相さんはハーヴィス王よりも現状を理解できているらしく、納得の表情を浮かべている。
二人も胸中複雑と言うか、思うことはあるだろう。だが、ここでハーヴィス王の言い分を支持できない……私の言っていることが『もしもの話』では済まないと、理解できているらしい。
ハーヴィス王が自国に戻った途端、己に賛同する貴族達の言葉を受けて、この場での発言を反故にする可能性が捨てきれない。
二人が懸念しているのはこれだろう。ただでさえ納得していない処罰内容なのに、それなりに数多くの味方が居ると知れば、揺らぎかねないじゃないか。
その場合はきっと、『貴族達の意向を受け、王として云々』と言い出すに違いない。あくまでも、貴族達の意向が強かったからですよ、と。
冗談のようだが、私はこの展開が有り得ると思うほど、ハーヴィス王への信頼がないのだ。だって、御伽噺の登場人物モドキはアグノスじゃなくて、こいつの方だもの。
恐ろしいことに……本当に頭の出来を疑う事態だけど、そういった展開になった場合、ハーヴィス王はその行動を『王として、貴族達の意見を聞き入れた』と認識すること請け合い。
『自分が望んでいること』という事実をすっ飛ばし、『苦難が待ち受けようとも、自国の者達の意見を聞き、それを優先した』と脳内変換される可能性・大。
そもそも、ハーヴィスの民は現時点で、アグノスの真実や罪を知らないのだ……そりゃ、酷いことを言う魔導師の方に敵意を燃やすだろう。砦の陥落とか、やらかしたし。
で、それを利用するのが、アグノスやハーヴィス王にまだ利用価値を見出している一派。
動かしやすい駒であるハーヴィス王――機嫌を取っていれば重用されるし、恩を売り放題――の現状を維持すべく、色々と仕立て上げてくれるだろう。
それを防ぐ意味でも、アグノスの即追放が必須。私がリリアンから頼まれているのはアグノスだけだし、個人的に気にしているのもアグノスのみ。
ハーヴィスの今後? 知らん、知らん。処罰は言い渡したのだから、後は勝手に生きてくれ。
「貴方の機嫌を取っていれば、重用してもらえる。都合よく動けば、王家に恩を売れる。……こんな美味しい状況、無条件で手放す人が居ると思います?」
「我が国の貴族はそのような愚物ではない!」
「そう思っているのは、これまで自分に都合よく過ごしてきた貴方だけですよ。だいたい、そんなに立派な貴族達しかいないなら、公の場で自国の王が口にした約束事を反故にしようなんて、言い出さないでしょう?」
「む……」
「ね? それに貴方の言葉が事実ならば、素直に受け入れるしかないんですよ。……だって今、『この場で、ハーヴィス王その人が口にした』んですから」
――言質は取らせてもらいました! これでハーヴィス内部から文句が出ても、提示された処罰が遂行されますよね。
にこやかーと言わんばかりに告げると、またしても私に乗せられたことに気付いたハーヴィス王が唖然となった。
王妃様や宰相さんも顔を引き攣らせているし、魔王様やルドルフ達は生温かい目を向けてくる。
あはは、やだなー! 私、魔導師のミヅキちゃん。
頭脳労働職にして世界の災厄、『貴方の身近な恐怖』ですよ?
憎き今回の元凶を、最後までコケにするに決まってるだろー! ざ・ま・あ♪
「お前、マジで性格悪い。最後の最後まで、それかよ」
「ふふん、魔王様とあんたが襲撃されたことに対する恨みの深さを思い知れ!」
「いや、そうじゃなくて。……エルシュオンが居た堪れなくなるから、これ以上は止めてやれ。保護者の監督責任と言うか、教育が疑われるだろ」
「あ」
ちらりと視線を向けた先には、青筋を浮かべた怒りの笑顔な魔王様。
「……ミヅキ。後でお説教」
「お、おう……」
いつになく迫力満点ですね、魔王様、でも、その威圧を多少なりとも抑えないと、倒れる人が出る気がするんですが。
いいのかなー? ハーヴィス国王夫妻とか、耐性がない人達には、割と切実な問題じゃないの?
ここ、謁見の間。イルフェナ国王夫妻の御前なんだけど。
「はは! 噂通り、悪戯好きな黒猫だねぇ。最後の最後まで手を抜かないとは」
「あらあら。陛下にも言われてしまったわよ?」
「父上、母上、そこは国を治める者として、ミヅキを叱ってください」
「叱るのは君の役目だろう? エル」
「そうよ、飼い主は貴方なのだから」
「く……!」
……。
意外と家族の仲が良いんだね、イルフェナ王家って。
と、言うか。
魔王様、ご両親に遊ばれてませんかね? 何だか、お二方とも嬉しそうと言うか、楽しそうなんですが。
――その後、やっぱり気力が限界だったらしいハーヴィス国王夫妻は、真っ青な顔のまま退席し。
その他の人々も似たような状態で次々に退席する中、何~故~か、私はその場で正座してのお説教となったのだった。
なお、イルフェナ国王夫妻はその光景をとても楽しそうに眺めていた。
……。
あの、第二王子とは言え、この場で説教始める息子さんはいいんですかね!? 止めてくれませんかね、ご両親!?
これ、説教。娯楽じゃないですよ!?
※※※※※※※※
結局、ハーヴィス国王夫妻に同行する形で、イルフェナから見届け人がハーヴィスに向かうことになった。
私もそれに同行。私の場合、ハーヴィスの貴族達を全く信じていないので、所謂、『脅し要員』というわけである。
大丈夫。私にはキヴェラの城を崩しかけた実績がある!
言うことを聞かなかったら、警告代わりに、城をオカルト仕様に大・改・造☆
なお、黒騎士達は私の気持ちにとても理解を示してくれ、快くあれこれと魔道具を与えてくれた。
彼らとて、ハーヴィスに憤る者達なのだ……それも、『最悪の剣』とか言われている人々なのだ……!
その怒りの発散場所があるなら、当然、便乗するに決まっている。しかも、それは『ハーヴィスの貴族達が聞き分けなかった時のため』という、大義名分がある。
盛り上がって、当然ですね! って言うか、私にさえ効果が説明されていないから、何が起こるか全く判らないんだけど、いいのかな!?
「大丈夫だ。だいたい、遣ること、成すこと、お前の方が酷いじゃないか。そもそも、魔道具の使用者はお前だろう」
「おい、ちょっと待てコラ」
「いいじゃないか。俺達とて、これで今回のことは手打ちにするんだから」
そう言って、にやりと笑うクラウス。他の黒騎士達も似たような表情をしているので、彼ら的には『激おこ案件だけど、悪戯程度で収めてあげよう。感謝しろよ?』くらいの気持ちなのだろう。
……。
まあ、この分なら、命の危機にはならんだろう。今後のことも考えると、必要事項だったってことでいいか。
あ、そうだ。
「ところで、ルドルフ。私達が出発したら、これを魔王様に渡しておいて」
「あ? なんだ、この封筒」
「メッセージカードだよ」
「え゛」
家出騒動を思い出したのか、顔を引き攣らせるルドルフ。
そんなルドルフに対し、私は超いい笑顔で彼の肩を叩いた。
「メッセンジャー宜しく!」