軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

我らが望む決着は 其の二

悔しそうなハーヴィス王はともかく、宰相さんは顔を引き攣らせている。これならば、私の警告が無視されることはないだろう。

……まあ、ハーヴィス王は『その意味』が未だ、よく判っていないようだけど。

当たり前だが、罠である。二段構えの報復なのですよ。

私の要求は『ハーヴィスは各国を頼らず、自分達だけの力で国の立て直しを行うこと』。

これ、『現時点では』、私が口にした『ハーヴィスにかける費用や人材、時間が惜しい』ということ以外の意味はない。

そう、この段階では他の意味なんてないのだ……後々、ハーヴィスに問題が起こらなければね?

今回の一件について、ハーヴィスの人々は他国に自分達がどう思われているかを知るだろう。その際、槍玉に挙げられるのって、誰だろうねぇ~?

人は自分に火の粉が降りかからなければ、割と寛容である。

ただし、不利益が生じた場合、『誰に責任を負わせるか』という方向に行くのは必至。

私はハーヴィス以外の国が関わることに難色を示したけれど、報復を諦めるとは言っていない。

それを狙って、『この場』――所謂、公の場。つまり、ここでの言動各種が公式情報となる――でハーヴィス王自身に『自分と側室が悪い』と口にさせた。

ついでに言うなら、『ハーヴィスを利用しない』とも言っていないわけで。

「元凶としての自覚ができたようで、何よりですよ。……本当に」

「満足かね」

「ええ、とても」

ハーヴィス王は苦虫を嚙み潰したような顔をしているが、対する私は笑顔だ。思惑通りに事が進んだことを喜び、ほくそ笑む。

私の狙いに気付いている人々が笑いを堪えているけれど、それらには見ない振りを。

「お前、性格悪い」

「今更」

ルドルフの呟きにも、さらっと肯定を。煩いぞ、親友。気付いていながら、止めないお前も同罪だ。

ええ、ええ! 性格が悪い自覚がありますとも! たかが『私達が悪かったです。ごめんなさい』なんて謝罪だけで、済ますはずはないでしょ?

って言うか、イルフェナ王も気付いているっぽいしね。それを踏まえて、面白そうに眺めている気がするもの。

「魔導師殿、君はこの場でハーヴィス王に己の非を認めてほしかったのかな?」

「ええ。それが『とても重要』ですから」

「おやおや……責任の所在を明らかにしたかったのかい」

「元より、ハーヴィス王は誠実に謝罪する気があったようですから。まあ、ご自分を第三者として捉えての謝罪だったようですけれど」

「今は違うと?」

「全く違いますね。先ほど、全ての発端であり、元凶とも言うべき存在は、ハーヴィス王ご自身と亡くなられた側室だと、明言していただけましたし」

当初の謝罪(=第三者としてのもの)

『王として、アグノスの親として、謝罪するよ』

先ほどの謝罪(=当事者かつ、元凶としてのもの)

『私達が悪かったです。ごめんなさい』

これくらい違う。判り易い言葉に直すと、その差は明白だ。

なお、私が欲しかったのは当然、後者の方。寧ろ、これがあるからこそ、私の報復は実現するのである。

「これから大変そうですけど、ご自分が選んだ結果です。……頑張ってくださいね」

「あ、ああ、勿論だ」

微笑みつつ、様々な意味を込めた言葉をハーヴィス王へと贈る。私の態度が予想外だったのか、ハーヴィス王は困惑したようだが、それでもはっきりと頷いた。

……。

多分、私の言っている意味、判ってねーな。

それでも、ここでそれを教えてやる気はない。『責任を取る』という言葉の重さを理解していなかろうと、この場でそれを口にした以上、撤回はできないのだから。

一国の王として、責任を取ってもらおうじゃないの……『ハーヴィスの不満の受け皿』として!

今後、ハーヴィスは宰相さんを始めとして、国の改革が推し進められるだろう。

いくら閉鎖的な国民性だろうとも、魔導師の脅威を目の当たりにした以上、『今のままでは拙い』と、嫌でも自覚せざるを得まい。

そういった状況を受け入れざるを得ないんだよ……『他国からの援助や、一切の手助けが望めないとしても』!

これ、激ムズなのです。お手本になるべき対象からの助言その他がないから。

宰相さんはその難しさというか、大変さをある程度は予想し、それなりに覚悟しているだろう。王妃様も同じく。

しかし、民はどうだろう? 彼らはその重要性も、必要に迫られた状況も、ろくに理解していないのに?

最初は単純に『魔導師が怖い』という感情から、素直に国の改革を受け入れるのかもしれない。

しかし、それが長引けば長引くほど、民の不満は溜まっていく。予想ではなく、確実にこうなるだろう。

そもそも、ハーヴィスの民は現状で満足しており、不満らしい不満がなかった。

そこに改革の必要性を説いたところで、政に携わらない者達がどこまで理解できるというのか。

……で?

その溜まった不満は……批難はどこにいく?

答えは当然、ハーヴィス王その人だ。何より、この場で『自分が悪い』と言っちゃってるからね!

彼が自己保身を考えるならば、単純な謝罪ではなく、今後を見据えた言葉を口にするべきだったのだ。『事実』か『建前』かは関係ない。

『公の場において、ハーヴィス王自身が口にしたことこそ事実』なんだよね、当事者以外にとって。ゆえに、ハーヴィスの民にとっても、『それが事実となる』。

私は『ハーヴィスのために費やすあれこれが惜しい』とは言ったけれど、それは『ハーヴィス以外の国に対してのみ』。そして、『元凶への報復を諦めてはいない』。

つまり、『ハーヴィス王を追いつめるなら、ハーヴィスの民にやってもらえばいいじゃん?』ということですな。

勿論、アグノスとか、アグノスの周囲の大人達、主だった貴族といった面子にも、不満の矛先は向くだろう。

だが、『犠牲を最小限にするには、誰を生贄にすべきか?』と考えた場合、最適なのは元凶たるハーヴィス王その人。

これで『国になくてはならない人』とか、『外交の窓口になれる存在』とかなら、残す価値があるだろうけど……正直、そのどちらにも当て嵌まらない。

私が付けた条件があるゆえに、ハーヴィス王が要らない子認定され。

元凶だと認めた自分自身の言葉があるからこそ、逃げられないのであ~る!

なお、罪悪感は全くない。役に立たなければ要らない子扱いされるなんて、どこの国にもある話ですからねー。

ルドルフやイルフェナ王はこの可能性に当然、気付いているだろう。それでも口にしないあたり、ハーヴィス王への優しさはないと見た。

さて、続いていきましょうか。

「では、次に。アグノス様は身分の剥奪後、国外追放とし、その後一切、ハーヴィスの者は関わらないと誓ってください」

「な!? アグノスをたった一人で放り出せと?」

「襲撃の主犯であることは事実なのです。それくらいでなければ、被害者達は納得しませんよ。……それに、放っておけば、ハーヴィスは彼女一人を悪者扱いしかねない。これまでのことも含め、ハーヴィスに彼女の幸せなんてありませんよ」

「し、しかし……」

「いえ、陛下。……それも致し方ない、と思いますわ」

私の言葉に、ハーヴィス王は躊躇っている。対して、王妃様は賛成しているらしい。少し考える素振りを見せた後、納得する言葉を口にした。

まあ、普通に考えれば、王女一人を放り出す……なんて、死ねと言っているようなものなのだろう。

だが、私の言葉を最後まで聞くと、『その後』があることを匂わせていると判る。

王妃様はそこに気付いているからこそ、探るような目を向けながらも、納得する様子を見せているのだろう。

ぶっちゃけると、アグノスはハーヴィスに留まっている方が危ない。割とマジに。

王妃様はアグノスを娘のように思っていると言っていたから、即座に『どちらがアグノスにとって安全か』を天秤にかけ、私の案を取ったと推測。手元で匿うばかりが愛情ではない。

「これまでのことを踏まえると、ハーヴィスは信頼できません。また、アグノス様へと悪影響を与える者が、再び現れないとも言い切れませんので」

「……アグノスのその後のことは考えてある、と?」

「……まあ、多少は。リリアン様からもお願いされていますしね」

アグノスに対しての信頼はないが、私は可愛い妹分のお願いを無下にする気はない。

そのことが分かったのか、私とリリアンの関係を知る人達は一様に安堵する様を見せた。

王妃様も少し意外そうな顔をしたけれど、周囲から諫める声が出ないことに安堵したのか、反対する気はないようだ。寧ろ、今の言葉で安心したように見える。

「アグノスを手放せと言うのか……」

「無能な保護者の下に居る方が不幸ですよ」

「……」

不要なのは、アグノスの『王女』という肩書き。これがある限り、彼女は『お姫様』のまま。

その設定を壊すと同時に、側室の願いや周囲の思惑からの解放を。『王女』でなくなれば、これまで彼女が教え込まれてきたものにリセットがかかる。

「何より、彼女が今の場所に居る限り、亡くなった母親の呪縛は消えませんから」

だから、『アグノスという個人』になってもらう。身分の剥奪は十分な罰だし、追放も加われば、イルフェナとゼブレストは納得するだろうから。

その後に、リリアンからのお願いは叶えられるのだ……大丈夫、もう話は通してある。

「まったく、どちらがアグノス殿の保護者か判らないね」

「あら、そう聞こえます?」

「ああ。ハーヴィス王は自分が手放したくないという『個人的な感情』重視だが、君は様々な意味でアグノス殿を守ろうとしているからね。そこまでされれば、我が国とて、振り上げた手を収めるさ。追放も、身分の剥奪も、決して軽いものじゃない」

「ご理解いただけて何よりです」

さすが、魔王様のお父上。この場でそう口にしてくれるなんて、懐の広い方ですね!

「さあ、これでアグノス様が全ての罪を背負わされる可能性が消滅しましたよ? ハーヴィスの者は『どのような手段であろうとも、アグノス様に一切関わらない』。そして、私の望む処罰が成されれば、イルフェナは『アグノス様への報復を行わない』のですから。……ね? どちらが安全か判るでしょう?」

「ゼブレストも賛同しよう。アグノス殿の状況を考慮し、ミヅキの望むとおりにする」

ルドルフの宣言が決定打。報復であれ、手助けであれ、イルフェナ、ゼブレスト、ハーヴィスは関われない。

そして。

魔導師が『その後を考えている』と口にしたからこそ、各国は魔導師の機嫌を損ねることを恐れ、余計な手出しはしないだろう。

「判った。……そのようにしよう」

項垂れながらも、ハーヴィス王が了承する。その瞬間、魔王様の表情が安堵したかのように緩んだ。