軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

我らが望む決着は 其の一

ちらり、とハーヴィス王へと視線を向ける。王妃様に何を言われたのか、ハーヴィス王は多少なりとも現実が見えたようだった。

……まあ、これまでの私達の遣り取りを見ていれば、嫌でも理解せざるを得ないのだけど。

そんなことを思いつつ、秘かに笑いが込み上げる。漸く、元凶へと報復の刃を突きつける舞台が整ったのだから。

「何だか、ハーヴィス王の顔つきが変わったな」

「私達が会話をしている間、王妃様に何か言われたみたい。まあ、一番身近に居た人だからねぇ……私達の知らないことも知っているでしょ」

「なるほど、そこに俺達の予想が正しいと裏付けるものでもあったのか」

「多分ね」

ルドルフもハーヴィス王の変化を感じ取ったらしい。呟きながらも、喜んでいる様が窺える。

勿論、私もルドルフと同じ気持ちだった。これよ、これ! この展開を待っていた!

残念ながら、私達はハーヴィス王のこれまでを知らない。もっと言うなら、側室との遣り取りさえも知らないので、どうにもやりにくかったのだ。

ハーヴィス王に現実を突きつけるならば、側室とのことを『悪』と認識させねばならない。

単純に、『王子様と体の弱いご令嬢の恋』とするなら、害悪認定は免れる――正妃は先代の用意した人を娶っているし、子も成しているから――けど、彼の場合はそれでは済まなかった。

個人の家庭ならば『亡くなった奥さんの願い』という、非常に綺麗な思い出になるのだろうが、王族、それも王権の強い国の王にこれをやられてしまうと、それでは済まなくなる。

『側室の産んだ子が男児で、我が子を王にすることを願った』とでも改変してみれば、ヤバさが判るだろう。

『王個人の我侭が通り、例外を作ってしまった。しかもアフターケアはなし』……ハーヴィス王のやったことって、こういうことだもの。

「問題行動を取ったのがアグノスだから、誠実に謝罪するハーヴィス王は保護者、もしくは責任感のある王と思われていたけれど……」

「……実際には元凶だもんな。アグノス殿の行動理由が知れた今となっては、自覚してもらわなきゃ困る」

そこまで言って、私とルドルフは視線を交わし合う。

「魔王様に許されたのって、『元凶への報復』だけだもんね」

「ハーヴィスという『国』に責任を追及せず、他国に火の粉を撒き散らさないようにってのも、報復を許可する条件だよな」

「だったら、狙うのは一つしかないよね」

「そうだな。一つしかないし、それが俺達に許可された範囲だ」

「皆も私達の報復対象が『元凶(=ハーヴィス王個人)』だったら、納得してくれると思うの」

「するだろうさ。本人は情けないが、立場だけ見れば、国の最高権力者だ」

……ええ、我ら良い子の子犬と子猫なのです。親猫様からの命題『報復は最小限かつ元凶のみ』というお約束を、忠実に守っているだけなのですよ。

勿論、それが『最も穏便な解決』であることは言うまでもない。

その反面、ハーヴィス王が不幸のどん底になるというか、今後に暗雲しか立ち込めないような状況になるのは、些細なことである。

って言うか、元凶だからね! 責任は取らないとね……!

本人も『責任を取る』と言っていたので、ハーヴィスが無事なら文句はないだろう。

そもそも、私達の計画に必要だったのは『ハーヴィス王自身の自覚』。

言葉が足りずとも、何となくでもいいから、自分の過去の行いこそが原因であり、アグノスではなく、己こそが元凶だと理解してほしかったのだ。

それなのに、返ってきたのは『誠実に謝罪する云々』というお言葉。

いい加減にしろや、と思っても許されるだろう。何さ、その部外者発言は!

「そろそろ、お気持ちは固まりましたか?」

とりあえず話しかけてみれば。

「……ああ。アグノスの親として、それ以上に国王としての謝罪などと口にしてしまったが、私こそが……いや、私、と……亡きアグノスの母こそが全ての元凶なのだと理解できた」

最愛の側室を悪に仕立て上げることに多少の戸惑いは見られるものの、こちらが望んだ答えをしっかりと口にした。

……。

お……おおおおおお……! 漸く! 漸く理解できましたか! そうそう、それです! その言葉をこちらは待っていた!

多分、理解させた功労者は王妃様だろう。と言うか、彼女しかいない。

ありがとうございます! そしてお疲れ様でした! 駄目な子のお守り、ご苦労様です!

その労力に報いた決着に導きますので、暫し、お待ちくださいね♪

「漸く、理解できたようで何よりです。では、『この場』で『詳しく』、お話しくださいな」

喜びを隠そうともせずに告げると、ハーヴィス王は一瞬、私を睨んで拳を強く握る。

だが、すぐに現状を思い出したのか、深く息を吐くことで、憤りを落ち着けたようだった。

「全ての元凶は、私が勝手を通したことにある。体の弱い令嬢は側室に向かない、気苦労が彼女の命の儚さに拍車をかけてしまう……反対する声は多かった。だが、私はすでに正妃を娶っていること、そして私に取り入ろうとする者達を善意からの応援と捉え、押し切った」

「そこまでした理由は?」

「私自身の我侭と……彼女の強い願いだ。恋人の妻になりたいと」

「つまり、ご令嬢は自分が側室という役目を果たせないと知りながら、『妻という立場が良い』と我侭を言ったんですね」

「ぐ……その、とおりだ」

言いたいことは色々とあるだろうが、それらを飲み込んで、ハーヴィス王は頷いた。

……さっきよりは、己が口にすべき答えが判っているのだろう。

そして。

これが私達なりの報復だったりする。

「理解していただけたようで、何よりです! 確かに、エルシュオン殿下への襲撃を画策し、指示したのはアグノス様ですが……彼女は周囲の大人達から望まれた役割をこなしただけですもの。真の元凶は彼女にそんな道を辿らせた者達だと、私は思っていますしね」

「辿らせた……?」

「子は親や生まれる場所を選べません。また、王女としての教育や『血の淀み』への対処は、周囲の大人達の義務でしょう? 彼女が愚行を起こさぬよう、導くのが筋では?」

アグノスの極端な素直さを目の当たりにしたせいか、きちんとした対処が成されていれば、彼女は模範的な王女になったと思えてしまう。野心とか皆無だし。

そこにアグノス自身の幸せがあるかは判らない。だが、少なくとも今回のような事態は起こすまい。

今回おかしなことになったのは、『幸せな人生を』という、側室の願い……もとい、呪いの言葉があったせいだ。

これ、滅茶苦茶あやふやな表現ですよ。『個人としての幸せ』なのか、『王女としての幸せ』なのか、それとも『王女でありながらも望める幸せ』なのか、全く判らないんだもん。

そこにアグノスの意思が全く含まれていない以上、周囲の大人達が勝手にあれこれ口を出した結果、辿り着いたのが『御伽噺のお姫様』じゃないのかな。乳母だって、困っただろう。

「亡くなられたご側室って、物凄く自分勝手ですよね。ご自分の望みを優先するあまり、残された子が背負わされるものは無視したんですから」

「無視はしていなかった。ただ……」

「ただ?」

「我が子のこと以上に……自分の望みを優先したのだろうな。そういった知識がなかったのかもしれんが」

「貴方が諭すべき問題でしょうに」

「そうだな、私の罪だ」

後悔の滲む表情のまま、ハーヴィス王は語る。

「彼女が知らぬのなら、私が教えるべきだった。いくら子を望もうとも、その後の憂いを話し、納得させるべきだった。儚い命だからと、我侭を叶えてしまったことも、王としては失格だろうな。男児が生まれていれば、どうなっていたか判らん」

「あらゆる可能性を無視されたのか? 継承権争いの可能性もそうだが、後ろ盾のない王族は悲惨だぞ?」

「……っ……ああ、ああ! 本当に愚かだったのだ! 御伽噺のような恋にのぼせ上り、ハーヴィスに災いの種を残した我らこそ、真の害悪よ!」

ルドルフの問いに、半ば自棄になったかのようにハーヴィス王は叫ぶ。

私ではなく、王であるルドルフからの言葉だったからこそ、ハーヴィス王にとってこの問いかけは重く圧し掛かり、同時に沈黙を許さない。

「認めましたね、ご自分と亡くなられた側室こそが『悪』だと」

「ああ」

「貴方達の恋こそが過ちだったと」

「……ああ」

それを事実にしてしまったことが悔しいのか、そうしてしまった自分が情けないのか、ハーヴィス王は俯く。

対して、私は満足そうに笑った。これで私達の報復は成し遂げられたのだ。

「お聞きになられましたか、イルフェナ王陛下。ハーヴィス王ご自身が『この場で』己の罪とお認めになられましたよ」

「ああ、聞いていた。それでね、魔導師殿。一つ、私の頼みを聞いてくれないだろうか」

「……ええ、私で叶えられることならば」

イルフェナ王と視線が合う。どこか笑いを含んだような彼の目は、ハーヴィス王のことなど気にかけていないよう。

「君の望む処罰を聞かせてもらえないかな? なに、ここまで付き合わせたのだ。答えによっては、私もそれを支持しよう」

「宜しいので?」

「少なくとも……ハーヴィスにとっては、それが最も軽い処罰だろうからね。エルからのお願いを、君は……君達は最優先に考えてくれるだろうし」

ちらりと、イルフェナ王が視線をハーヴィス勢に向ける。訂正、宰相さんと王妃様に。

途端に、私へと縋るような視線が集中するが、私は全く気にせず頷いた。

「判りました。私は……まず『他国に一切、関わらないこと』を求めます。それに伴い、イルフェナ・ゼブレスト共に、今回の襲撃における制裁なしで」

「ほう? それがどうして罰になるのかな?」

「ぶっちゃけた話、ハーヴィスにかける時間と費用と人員が惜しいです」

『え゛』

「勿論、それだけではありませんけど」

馬鹿正直に答えると、周囲に微妙な空気が満ちた。

当たり前だが、それだけではない。それだけではないのだけど……こちらも本音だ。ハーヴィスに使ってやるものなんて、ないやい。

「重要なのは、今回のような事件を起こさせないことです。私が望むのは、『全ての意味で関わらない』というものですから、今回のようなことを画策できなくなります。あ、他国側からの干渉は有りですよ。規制する権限なんてありませんし」

まず一つ、と指を折る。

「ハーヴィスは今後、改革が行われるでしょう。下手に報復行動を行えば、それを『今後起こる不幸』(意訳)の理由にされかねませんし、こちらが悪者のような情報を民へと流すかもしれませんので」

「なるほど、君はハーヴィスを信頼していないんだね」

「信頼どころか、必ずやると思っています。ですから、この場でそれを封じるのです」

あるわけないじゃん、ハーヴィスへの信頼なんて。

うっかり介入したら最後、鎖国状態を逆手に取って、勝手にこっちを悪者にしかねない。

もしくは、援助を求められても困る。『見捨てるとは、人の心がないのか!』とか、民に糾弾させそうだもん。

なお、そうなった際は、私がきっぱりと『寧ろ、滅べと思っている』と答えてあげようと心に決めている。

それに加えて『魔導師の報復だから、他国は手を出すな』と各国に通達しておけば、非道なのは魔導師オンリーさ。

「お聞きになりましたよね。特に、宰相さん! そのような噂が流れた時点で、『私』が実力行使に出ますから。……ふざけた真似、するんじゃねぇぞ。砦陥落の比じゃねぇからな? 次は国の滅亡と知れ」

振り返って、ハーヴィス勢、特に宰相さんへと念を押しておく。ここで甘い顔をすれば付け上がるかもしれないので、しっかりと脅は……訂正、言い聞かせておかなければ。

『わ、判った!』

「……公の場での発言、どうも。確約、取りましたからね?」

「ははっ! 魔導師殿は楽しい子だねぇ」

誉め言葉として受け取っておきます、魔王様のお父様。