作品タイトル不明
報復の時、来たる 其の二
緊張した面持ちのハーヴィス国王夫妻を眺め、私はほくそ笑む。
うふふ……言質はばっちり取ったからね? なかったことにはできないからね……?
――卑怯と言うなかれ。これも必要なことなのだから。
なにせ、相手は他国の国王夫妻。しかも、ガニアにおける王弟夫妻の断罪の際、各国の王達を召還した時と同じく、ハーヴィスの謁見の間とは映像で繋がっている状態なのだ。
当然、双方向からの会話だって可能。つまり、こちらの会話にも割り込めてしまう。
そういったことが前提になっている以上、少々、私にとっては都合の悪い展開になる可能性も捨てきれない。
言質を取らないまま追及した場合、あちらから『待った』がかけられてしまう可能性があるんだよねぇ。
『待った』の理由は不敬罪だけど、その根底にあるのが『北における異世界人の扱い』。要は、私が異世界人であることが大きく影響してくる。
北に属する国は異世界人の扱いが悪いらしい――サロヴァーラやガニアにて痛感――ので、ハーヴィスの認識に合わせると、私はかなりソフトな対応をしなければならなくなってしまう。
イルフェナとしても、北の認識を前提に抗議された場合、それなりに考慮しなければならないだろう。ハーヴィスだけならばともかく、それは『北に属する国共通の認識』なので、下手に否定できんのだ。
こういった細かいことを気にしなければならないのが、今回の一件の難しいところ。
そもそも、ハーヴィス王妃の話では、あちらにも改革派――王妃自身の派閥とは別らしい――が存在する。裏を返せば、ハーヴィスにも物事を冷静に判断できる人達が居るってこと。
そんな人達からすれば、現時点で最高権力者であるハーヴィス王が『他国で不要な発言をすること』(意訳)は、避けたい事態だろう。
だって、彼らは『自国を貶めたいわけではない』。
ハーヴィスが不利になる展開は望まない。
言い方は悪いが、『国王夫妻、もしくは鎖国状態を続けた王家』が批判を受けるのはいいが、『ハーヴィスという国』が何らかのリスクを負うのは避けたいわけだ。
勿論、世間はそんなに都合よく動いてくれるはずはないし、私だって退く気はない。だけど、ハーヴィス王妃の内部告発を聞く限り、一定数はこういった展開を望む輩が居るはずだ。
私達としても、そんな連中に踊らされたくはないからこそ、これまで慎重に動いてきた。当然、その努力を無にする気なんて、私にはない。
よって、『最初に言質を取りたいです』と、事前にダメ元で進言。
その結果、イルフェナ王自ら動いてくださった、というわけ。
先ほどの会話が妙にスムーズだったのは、こういった裏事情があったからなんですね!
普通ならば、もう少し考える素振りを見せるだろう。いくら何でも、『異世界人に全て任せます』なんて、普通は言わない。反対意見だって、出たかもしれないじゃないか。
それらを事前に抑え込み、根回しを完了させてくれたお陰で、私はあっさりと担当者に収まることができた。
追及する側のイルフェナに不満の声を上げる存在が皆無だからこそ、ハーヴィス側も納得せざるを得ない状況になったとも言う。
いやぁ、想像以上に柔軟性のある人で本当に良かった! さすが、魔王様のお父上。
「改めて、ご挨拶をさせていただきます。私はミヅキ。異世界人であり、魔導師です。自称・魔導師ではない、と自負させていただいております」
「ああ、知っている。其方の功績を考えれば、魔導師を名乗るに相応しかろう」
「ありがとうございます。では、『私がイルフェナだけではなく、各国に魔導師と認められている』ということを念頭に置いてくださいませ」
「……ふむ? それに何の意味が?」
「私の持つ繋がり……交友関係と言いますか、人脈ですね。それらに納得していただくためです。『異世界人に高位貴族の知り合いがいる』……なんて言われても、信じがたいでしょう?」
苦笑しながら首を傾げると、ハーヴィス王はなるほどと頷いた。
「確かに、信じがたい。疑うわけではないが、私達の前にイルフェナに来た者は『魔導師と懇意にしている者から話を聞いた』と言っている。その者達の名も聞いているよ。だが、『イルフェナが根回しをしたのではないか』と、疑う声があったことも事実だ」
「当然ですね。ですが、事実ですよ。私だけでなく、彼らにとっても旨みのある関係ならば、仲良くしておく……繋がりを作っておくことは有益ですもの。勿論、私にとっても」
「お互い様、というわけか」
「ええ。後見人に縋るばかりでは、魔導師として情けないでしょう? 私個人の手札を持っておくことは、自衛の一環とお考え下さい」
言いながら、ちらりとハーヴィス側へと視線を向ける。これはハーヴィス国王夫妻というより、彼らに向けた言葉なのだから。
言うまでもなく、牽制である。友人一同がタイミングよくイルフェナに居た以上、イルフェナ側の裏工作を疑われても仕方がない。
……が、事実は『魔導師からのお手紙にビビった人々が、情報収集のためにイルフェナに集った結果、他国の人々とエンカウント』。
冗談のようだが、本っ当~に! 『偶然、各国から来た魔導師の知り合い達がイルフェナに居合わせてしまった』のだ。
私も驚いたし、イルフェナだって驚いたさ。お陰で団長さんの執務室に連行され、団長さん&クラレンスさんから事情聴取されましたとも。
正座させられ、『呼ぶにしても、事前に言いなさい』と怒られましたが、何か?
私、情報流しただけ! 無実! 行動したのは皆の自己責任……!
これでハーヴィス側が疑うようなら、『魔導師を正座させて事情聴取する、騎士団長達の映像』でも見せてやる。叱られ損にはしないもん!
視線を向けた映像の中、もといハーヴィス側はやはり、ざわついているようだった。だが、当の魔導師本人が自信を持って言い切る以上、下手な追及もできないと思っているらしい。
『信じがたいことですが……そこまで仰る以上、明確な証拠があるのでしょう』
「ありますよ? それでも疑うようなら、各国に伺ってみてもいいかもしれませんね。私達が共に行動する姿とか、仲良く過ごす目撃情報を始めとして、色々と残っているでしょうから」
事実である。基本的に私は単独行動ができない――危険人物認定されているので、監視要員は必須です――ので、証拠はボロボロ出て来るだろう。
なに、その中には『仲良く酒盛りしてました』とか、『楽しく裏工作に興じてました』といった、ちょっとばかり普通じゃないものがあるだけさ。
『……。いいえ、十分です』
分が悪いと思ったのか、ちょっと悔しそうに宰相らしき人が会話を打ち切る。
頭が回る人なら、『各国との間でそういう取り決めが成されている』と思い当たるだろうし、これ以上の疑いは不毛なことだと悟ったのかもしれない。
よしよし、この件はこれで終了。『イルフェナに居た各国の人達は、魔導師と仲良し』ということが『事実』として認識されるだろう。
「しかし、随分と慎重なのだな」
視線を向けた先には、どこか感心したようなハーヴィス王。
「エルシュオン殿下の教育の賜なのか」
「……ええ、そうですよ。私が異世界人であるという事実は変わらないので、それを踏まえて行動することが必要になりますから。今のことに関して言うならば、『私の個人的な人脈と証明し、悪意ある疑惑をイルフェナへと向けさせることを防ぐための必須事項』といったところでしょうか」
「ああ、先ほど私が口にした『疑惑』か」
頷くことで肯定を。ハーヴィス王は軽く捉えているようだが、これは決して見過ごしていいことではない。
「見方を変えれば、まるでイルフェナ側が画策したような印象を受けるでしょう? 当然、そんなことは許せません。……ですが、それを証明しない、もしくはハーヴィス側に納得させない限り、悪意を以て事実のように噂を流す方もいらっしゃるのですよ」
「あまり褒められたことではありませんが、噂は王族・貴族にとっては無視できないものですからね」
「王妃様は噂の怖さをご存じのようですね」
「ええ。些細な噂に尾鰭が付き、やがては問題視されるようになる。……そういったものを上手くかわす能力も必要な立場とは言え、潰される方達を見るのは良い気がしませんね」
溜息を吐きながらも、ハーヴィス王妃は私の言い分を肯定した。彼女とて、王妃に望まれるような女性……それなりに権力闘争とも言うべきものを経験してきたのだろう。
「今回、私がこの場を任されていることも同じなのです。無理を通す……いえ、『特例を作る』ならば、『周囲を納得させられるだけの根回しが必要』じゃないですか。ですから、私は自分の様々な言動が特別慎重とは思いませんよ? 私の目的は陛下が説明してくれましたが、これまでの会話は『通常ではあり得ない人選を納得させる上で、必要なこと』ですもの。義務と言ってもいい」
そこまで言って、私はハーヴィス王へと微笑んだ。
「アグノス様のお母上……生まれつき体が弱く、社交さえまともにこなせないほどだったと聞きました。その虚弱性が、血の濃さからくるものと疑われていたことも。そのような方をお妃に望んだとしても、反対されるのは当然です。どのようにして、周囲を納得させたのでしょうか?」
「……なに?」
「閉鎖的なハーヴィスは『血の淀み』が出る確率が高く、身分に縛られ、選択肢が少ない王族や高位貴族は最も気を付けなければならない立場でしょう? 各国の友人から聞く限り、『血の淀み』はどんな国でも忌避されるもの。ならば、『どのような説得をして、我侭を叶えたのか』、気になりまして」
私の問いかけに、ハーヴィス国王夫妻ははっとなった。これまで私自身の説明と思っていたものが、自分達にも当て嵌まると気付いて。
「私は『周囲を納得させることの重要さ』を説明いたしました。これは『この世界に来て一年程度の異世界人ですら、学んでいること』なのですよ。まあ、大人ならば当然ですよね」
「そ、それは……」
狼狽えているのはハーヴィス王。ハーヴィス王妃の方は……あれ、何だか納得した表情で黙っているや。事前に事情を訊いた時のように、助け舟は出さない気なのかな?
「お二方とも、納得してくださいましたよね? ですから、私も伺いたいと思ったのです。どれほど考えても、愛人にする以外、許されないと思えてしまって」
愛人=正式な妃どころか、側室ですらない。お仕事や立場に付随する責任がない代わり、何の権利もないという、所謂『癒し要員』です。
子供が生まれないようにするならば、体が超虚弱体質だろうとも、まだ許されるだろう。一番拙いのって、『【血の淀み】が出かねない王族の子供を産むこと』なんだから。
酷いと言うなかれ。世の中には、どうしても『個人的な感情よりも立場に伴う責務優先』という事態は存在するのだ。
そもそも、王の妃になった者の一番の責務が『子供、特に跡取りの男児を産むこと』なんて、誰でも知っている常識じゃないか。子供ができなきゃ、離縁もある世界ですよ?
「きっと、多くの人が私と同じ疑問を持ったと思うのですよ。『何故、そのような無謀な真似が許されたのか』『周囲の者達は何をしていた!?』とね。当たり前ですよね、自国でも同じことなんですから」
「……そうですわね、確かにその通りですわ。当時、多くの者があの方が側室に上がることを反対なさいました。ですが、陛下は己が望みを叶えました」
「あら、そうなのですか?」
「ええ、反対するのは当然です。そこで陛下が取った行動は『民に御伽噺のような恋物語として流し、味方を作る』というものでした。全てが後手に回った結果、叶えざるを得なかった……と言ったらいいのでしょうか」
予想外の暴露に、ハーヴィス王が困惑気味に王妃を見た。だが、ハーヴィス王妃の表情は揺らがない。
「私がアグノスの教育に口を出すことを、『嫉妬からの行動』とし、まともに受け取らなかったほどですもの。何らかのお考えがあったと、そう解釈致しますわ」
「王妃よ、ここでそのようなことを口にするのは……」
「いい加減になさいませ。過去のご自分の行動が、現在の問題を招いたのです。この場に居る以上、説明責任がございます」
きっぱりと言い切るハーヴィス王妃に、ハーヴィス王は言葉もないようだった。
これがハーヴィス内ならば、王妃を問答無用に黙らせることができただろう。王権が強いだけではなく、改革を望む王妃に反発する貴族達も多いらしいから。
だが、ここはイルフェナだった。しかも、アグノスの起こした一件の謝罪の場。言い逃れはできまいよ。
あっれー? ハーヴィス王VSハーヴィス王妃が始まりました?
あまりにも王が情けなくて、ついにブチ切れちゃったのかい?
一瞬、これは予想外だと思ったけれど、即座に違うとその考えを改める。ハーヴィス王妃の目には、諦めなんて浮かんでいないじゃないか。寧ろ、今の姿の方がずっと彼女らしいとすら思える。
……だからこそ、気付いてしまった。
ある意味、この場はハーヴィス王妃にとって最大のチャンスなのだ。
ここで下手にハーヴィス王を庇えば、ハーヴィス全体が愚か者の認定を受けることになる。当然、それは望むまい。王妃としての彼女の誇りが、それだけは許すまい。
そんな誤解を受けるならば、当時を知る王家の者として、そうなった事情を暴露してしまった方が良いと考えたのだろう。
ハーヴィス王妃の暴露話が事実ならば、愚かなのはハーヴィス王とそれを支持した者(=王に媚びている者)となる。つまり……『ハーヴィス王妃の望む改革において、邪魔となる者達に責任を取らせることが可能』!
い い ぞ 、 も っ と や れ !
私 は 大 い に 支 持 す る ぞ !
だって、私は元凶以外どうでもいいもん。皆で決めたように『ハーヴィスには一切関わらない』ってのが、最善の選択よ? 火の粉が降りかかる可能性がゼロだもの。
なお、私的に元凶=ハーヴィス王であることは言うまでもない。小賢しさをプラスした御伽噺の王子様予備軍(過去)のせいで今回の一件が起きたのならば、言い訳なり、説明なりをしてもらおうじゃないの。
反対に、王を切り捨てて国の窮地を乗り切ろうとするハーヴィス王妃の姿勢はかなり好ましい。今後はサロヴァーラの女狐様の如く、自国のみで改革に勤しんでくれそうじゃないか。
では、私からはささやかながら後押しを♪
「私も聞きたいですね。一体、どのような対策を講じたのか」
聞かせてくれますよね? と笑顔で問いかけた私は間違いなく、ハーヴィス王からは悪魔に見えたことだろう。
……。
ま だ ま だ 嫌 が ら せ は 続 く け ど 。
私は鬼畜外道と評判の、『貴方の身近な恐怖』こと、異世界人の魔導師ですよ♪ 『世界の災厄』呼びでもOKさ!
だって、人間の敵は基本的に同じ人間じゃん? 権力闘争上等の環境に居るんだもの、判ってくれますよねぇ?