作品タイトル不明
ハーヴィスから元凶来たる 其の二
さてさて、楽しい(?)事実確認の始まりです♪
少なくとも、ハーヴィス王妃の方は正直に話してくれそう。ハーヴィス王も話すこと『だけ』はしてくれそうに見える。
魔王様からの威圧を感じているせいもあるだろうけど、悲痛そうな表情をしていて……随分と憔悴している雰囲気があるのだ。
反省していると言うか、事の重大さを一応は理解できているっぽい。こちらを悪者にする気はないみたい。
……が。
独断と偏見で申し訳ないが、ハーヴィス王からの言葉には随分と、言い訳が含まれそうな気配があった。
何て言うか、『誠実に謝罪する一国の王』というより、『娘に好き勝手された、哀れな父親』的なイメージが強いのだ。はっきり言うなら、もう少し王としての覇気が欲しい。
好意的な言い方をするならば、『一国の王として、それ以上に個人として、誠実に答えようとしている』という感じだろうか?
第三者、特にイルフェナ勢からすれば、同情を買って許されようとしているようにしか見えないとしても。
なお、悪意を持った見方をするなら、『責任感皆無のヘタレ』以外の何物でもないことを付け加えておく。
アグノスが主犯であることを認めた以上、ハーヴィスが加害者であることは覆らないのだ……何を言われても『ごめんなさい』一択だろ、普通。そもそも、アグノスを処罰するにしても、ハーヴィス王が主導しなければならないんだし。
そんなことを考えていたら、事実確認が始まった模様。
「私一人の問題ではない以上、謝罪は後日、父上へと行っていただく。この場は事実確認の場と割り切ってもらいたい」
「はい」
「うむ、理解している」
素直に頷くハーヴィス国王夫妻。……どうやら、『聞かれたことは全て話す』という言葉に嘘はないらしい。
魔王様もそれを感じ取ったのか、満足そうに頷いている。ルドルフとブロンデル公爵も魔王様同様、とりあえずは彼らの誠意を信じることにしたらしく、特に文句はないようだ。
「では、早速。アグノス王女の事情を考慮し、貴方達に答えてもらいたいのだが。……私やルドルフ陛下への襲撃はアグノス王女の指示によるもの、ということでいいだろうか」
ズバッと本題を切り出す魔王様に対し、ハーヴィス国王夫妻は暫し、顔を見合わせ。
「ああ、その認識で合っている」
「アグノス本人にも確認しました。『悪意のある・なし』という聞き方をされると困ってしまいますが、エルシュオン殿下が仰ったことは事実です」
溜息を吐きながらも、二人は素直に肯定する。顔を見合わせたのは、ハーヴィス王妃の言った『【悪意のある・なし】という聞き方をされると困る』という点があったからだろう。
見る限り、アグノスは事の重大さを理解できていまい。……いや、『それが悪いことだと知らないからこそ、事実だけを素直に答えただけ』という気がする。
そこに悪意があったかと問われれば、間違いなく『否』。無知な子が、その純粋さのままに行動した……とか言った方がしっくりくる。
現に、アグノスは一人、きょとんとした顔で国王夫妻と魔王様の遣り取りを眺めている。こういった場に不慣れと言うより、頭を下げる国王夫妻の姿が珍しいのかもしれない。
魔王様達もそれらを察しているからこそ、『親、もしくは保護者』という立場にある二人から話を聞くことにしたのだろう。魔王様はできた大人なので、精神年齢幼女(予想)のアグノスを責め立てるような真似はしないだろうし。
……幸いと言うか、実際にアグノスに処罰を下すのはハーヴィス王なので、それでも問題ない。
そうでなくとも、保護者が責任を取るのは常識だしね。最低限、やらかしたことがどれほどのものかを理解できていなければ、罪の重さなんて判るまい。そして、それを教えるのはイルフェナの仕事じゃないのだ。
「アグノス様は結構、深刻な状態みたいだね」
こそっと、シュアンゼ殿下が話しかけてくる。彼は一応、部外者という扱いになるため、居場所は私の隣だ。こういった会話をする意味でも、都合がいい。
「『血の淀み』の影響というより、基礎的な教育を施されていないように思えるけど」
「多分、それで正しいと思う。私が言った『深刻な状態』っていうのは、そちらのことだよ。御伽噺を信じさせるためには、一般的な善悪という考えは邪魔になるだろう」
「ああ、そういうことかぁ」
思わず、納得する。あれですね、御伽噺にありがちな『主人公達が正義』ってやつ。確かに、御伽噺と混同するには邪魔だろう。
現実的に捉えると、『お前、それって犯罪じゃん……』としか言いようのない事態も、『主人公だから正しい言動と思われる』。御伽噺なんかは特に多い。
判り易い例を挙げるなら、『政略結婚を拒んで駆け落ち→主人公カップルは遠い地で幸せになり、ハッピーエンド』。
これ、現実だと大問題ですよ! 政略結婚である以上、何らかの思惑が含まれているはずなのだ……責任を取らされるの、逃げた奴が居た方の国だぞ?
賠償金が発生するかもしれないし、急遽、代わりの人が見繕われるかもしれないじゃないか。間違いなく、駆け落ちの弊害は発生する。賠償金のために税が上がるならば、民も立派に被害者だ。
主人公達は国と関係者の犠牲の下に、幸せになるわけですね! どこがハッピーエンドだよ。
「見た感じ、アグノス様はそういったことを理解していない幼子のように見える。逆に言えば、教育に問題があったとしか思えない」
「そうなんだよね……ただ、素直そうな分、聞けば馬鹿正直に答えてくれそう。その点だけはありがたい」
「確かにね」
ひそひそと話す私達をよそに、魔王様達の会話は続いていた。
「では、次の質問を。アグノス王女の扱いについて。……『血の淀み』を持つと判っている以上、適切な措置を取るのは国としての義務ではないのかい?」
「……報告を聞く限り、それほど深刻なものに思えなかったのだ。まして、アグノスは母を亡くし、ろくな後ろ盾もない上、継承権もない。『血の淀み』を持っていた者の中には、生涯を常人と変わらずに過ごした者もいる。穏やかに過ごせているならばと、そう思ってしまった」
「言い訳のようになってしまいますが、時折、私からアグノスに厳しい教育を施すよう、陛下に進言して参りました。勿論、そういった者は私の他にも居ります。ですが、決定的な事件が起こっていない以上、必要以上に厳しい教育は不要と言われてしまいまして。これまで、アグノスの問題行動が報告されなかったことだけは事実なのです」
ハーヴィス王の言葉を補足するように告げるハーヴィス王妃。……それでも少しの批難が込められているのは、ハーヴィス王妃同様に、進言した者達が居たからだろう。『決して、危険視していなかったわけではない』と。
彼女は王妃として国を、そして配下にある者達を守ろうとしている。叶わなかったとはいえ、事実を告げるだけでも印象が違ってくるもの。
……ただし、それはハーヴィス王を追い込む所業ではあるけれど。
これ、ハーヴィス王妃なりの報復なのかもしれない。同時に、ハーヴィスの問題点――『個人的な我侭が通ってしまうほど、王の意思が重視される』という事実――を、『国にとって悪いもの』として認識させようとしているように見える。
多分、一番言い聞かせたい相手はハーヴィス王その人じゃあるまいか。今回、明らかにそれが原因だもの。
私風に言うなら、『お前が他の声を無視して甘い対応を決めた以上、一番責任があるんだよ!』ということですね! 決定権を持つ奴の判断が一番重要であり、何かあった時に責任を取るのは常識だ。
この予想が事実であるなら、ハーヴィス王妃は間違いなくその立場に相応しい才媛なのだろう。ハーヴィスでさえなければ、その才覚を発揮できる場があったろうに。
事実、皆の視線は大半がハーヴィス王妃の方に向いている。警戒すべきは此方だ、と言わんばかりだ。
では、私もそれに便乗して、ちょっと突いてみましょうか。
「エルシュオン殿下、私から質問してもいいですか?」
「何だい、ミヅキ」
「今のハーヴィス王妃様の言葉を聞いて、少し聞きたいことができたんですが」
正直に言えば、魔王様は少し考える素振りを見せて。
「いいよ、きっと必要なことだろうからね」
「ありがとうございます」
許可が出た。よしよし、それでは質問タイムといきましょう♪
「お二人にお尋ねします。貴方達にとって、アグノス様はどのような立場にある方ですか?」
「「え?」」
唐突な質問の意図が判らなかったのか、二人は目を瞬かせた。
「家族としてなのか、王族としてなのか……まあ、そういったことを伺いたいんですよ」
そこまで言うと、困惑を露にしながらも、二人は其々口を開いた。
「私にとってのアグノスは愛娘、だな。母親であった側室は私の最愛の女性であったが、アグノスを産んで亡くなってしまった。だからこそ、余計に私が守らねばという気持ちが強い」
「……」
いや、『側室は最愛の女性だった』って部分は要らねーだろ。
思わず、内心突っ込むが、口には出さずに華麗にスルー。誰もお前の恋愛話は聞いてないっての!
私の他にも、微妙な表情になる人が何名か。こちらは王の恋愛話云々よりも、先ほどの質問にあった『アグノスへの甘い対応』への言い訳のように捉えたか。
どちらにしろ、こういった場では余計なことを言わない方が得策です。ハーヴィス王よ、貴方はもう少し外交を学べ。たやすく同情してくれるほど、イルフェナは甘くない。
「私は……このようなことを口にすると信じてもらえないかもしれませんが、娘のように思っております。私自身、子を産み育てた母親ですわ。王妃という立場を捨てることはできませんので、どうしても立場が前提となる言葉が多くなってしまいますが、案じております」
ハーヴィス王妃の方は『娘のように思っている』と言いながらも、はっきりと『立場を捨てることはできない』と言い切った。
彼女は『母親』という家族としての立場ではなく、『ハーヴィスの王妃』という立場を前提として、アグノスの教育に対し、苦言を呈していたのだろう。
……間違いなく、正しい対応はハーヴィス王妃の方だな。言い換えれば、『ハーヴィス王が国を第一に考えていたら、どれほどアグノスの信奉者が多くとも、適切な教育と対応ができた』ってことだもの。
と、言うか。
私が聞きたかったのは、二人のアグノスへの対応の仕方だ。個人の感情に重きを置くのか、それとも立場優先か。それによって、アグノスへの接し方は大きく変わってくるのだから。
「ありがとうございます。ハーヴィス王陛下にとって、アグノス様は『王女の一人』というより、『愛娘』という認識で宜しいでしょうか?」
にこりと笑って礼を言い、続けてハーヴィス王に問いかける。
「あ、ああ、その認識で合っている」
私の意図が読めないのか、どことなく警戒しながらも頷くハーヴィス王。
――その言葉を聞いた途端、私の笑みがさらに深まった。
「その割には、アグノス様と向き合われていなかったようですね?」
「……なに?」
「愛娘と口にするならば、頻繁に様子を見に行ったり、会話をしたりするでしょう? 長い時間は必要ありません。直接会って、一言でも言葉を交わすだけでいい。そうしていれば、アグノス様の状況を正しく知ることができたと思うのです。……それなのに、貴方は『報告を聞く限り』と言っている」
「それは……政務に忙しく……」
「エルシュオン殿下以上に、ですか? ほぼ他国と繋がりを持たず、外交なんて殆どないのに?」
言い訳のように紡がれた言葉に、疑問形で追い打ちを。暗に『外交もろくにしていない国の情けない王が、魔王様以上に多忙なわけねーだろ! 配下達にそこまで頼られてないでしょ!?』と言わんばかりの私に、隣のシュアンゼ殿下は小さく肩を震わせる。
……私の声なき主張に気付いたからって笑うでない、灰色猫。折角、遠回しな表現にしたんだから、大人しくしておいで。
「それ、は……っ」
「こちらもね、情報はそれなりに得ているのですよ。後は、私自身の経験ですね」
「は? そういえば、其方は一体……」
今更の質問には勿論、笑顔で答えてあげよう。
「お初にお目にかかります。私、イルフェナに保護されている異世界人のミヅキと申します。……先日、貴方の国の砦を落とした魔導師、と言った方が判り易いでしょうか」
「「なっ!?」」
あまりのことに、ハーヴィス王妃までもが声を上げた。
うん、驚いたよね! 仕方ないよね! だけど、外道と評判の魔導師だからこそ、追及の手は緩めてあげない♪
「話を戻しますね。先ほど、私自身の経験と申し上げたように、私がイルフェナに保護されて以来、後見人となってくださったエルシュオン殿下はほぼ毎日、私と顔を合わせてくださっているのです。勿論、言葉も交わしますよ? そんな風に過ごしていれば、必然的に親しくなれるのです。気安い態度はその結果。……だからこそ、第三者からの報告しかない貴方の『愛娘』という言葉には違和感しかない」
すいっと目を眇める。その視線の先に居るのは、狼狽した様子のハーヴィス王。
「貴方がエルシュオン殿下以上に多忙なんて、この場に居る皆様も認めないでしょう。そして、私から見た貴方のアグノス様への接し方は、『可愛がるだけで飼った気になっている、自称飼い主』に近い。愛娘と称するならば、そして最愛の女性の忘れ形見ならば、何故、頻繁に会話を交わす程度のこともできないのでしょうか?」
さあさあ、言い訳してごらんよ。私は貴方の言葉を拾った上で、それを前提にした質問をしているだけなのだから。
相手が魔導師だからと、ビビッている暇はねぇぞ? ……私は魔法による大規模な破壊活動なんかより、頭脳労働重視派なんだからさ!