軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ハーヴィスから元凶来たる 其の一

――イルフェナ王城・王城の一室にて

「この度は本当に申し訳ないことをした……!」

そう言って頭を下げるハーヴィス王。声には悲痛さが滲んでいるけど、これまでのこともあって、私からの評価は未だにマイナスだ。

あちらは国王夫妻とアグノスが話し合いの席に着いている。アグノスは状況が判っていないのか、珍しそうに見慣れない人々に視線を向けているけれど……何て言うか、幼い印象を受ける。

確かに美人なんだけど、それ以上に良くも、悪くも、無垢な感じ。おいおい、マジで精神年齢幼女じゃあるまいか。

イルフェナ側の話し合いの席に着いているのは、魔王様とルドルフ、そして……クラウス父ことブロンデル公爵。

事前に面子を聞いた際、意外な人が来たなと思っていたら、クラウスが薄らと笑みを浮かべながら『精神系の魔法の使用や魔道具の存在を警戒しているんだ。父は探知が得意だからな』と暴露。

つまり、イルフェナはハーヴィスを『欠片も』信頼していないってことですね!

物理方面の護衛が居る上、魔法系最強の守りを側に付けたってことですか。

勿論、それを聞いた私は大・爆・笑☆ ここまで信頼のない王ってのも、珍しい。誠実に謝罪するという場面なのに、警戒心は最初からMAXですか! 笑えますね!

話を聞いていた皆――他国の友人達を含む――からも、そこについての突っ込みはなし。彼らから見ても、仕方ないと判断したのだろう。

ちなみに、これは『まだ』正式な謝罪の場ではない。国同士の問題な上、ハーヴィス側に思うこともあるので、正式な謝罪の場は明日、謁見の間で行なわれる。

と言うか、自国だけでなく、他国からも観覧希望者がいるため、こういった形を取らなければならなかったりする。提案&原因は勿論、私だ。

あれですよ、ハーヴィス側の誠意とやらを他国にも知ってもらう場が必要ってやつ。

私が手紙で今回のことを広めまくったので、各国にとっても関心のある案件なのだ。まあ、明日は我が身と成り兼ねないので、情報を得ておきたいというのが本音だろう。

イルフェナはこの一件において後ろめたいことがないため、これを快諾。どちらかに有利な情報操作などをさせないためにも、ハーヴィス側の言い分を直接聞ける他国の人間が居てくれるのはありがたい。

……というのは建前でして。

一見、ハーヴィス側を気遣っているかのようなこの状況。実際には、イルフェナの防衛手段の一環であることは言うまでもない。

魔王様やイルフェナに悪意を向けようとする輩が居ても、各国の証人達がそれを否定できるからね。私が彼らを『救世主』と呼んだ理由がこれ。言い掛かり対策なのですよ。

小賢しいと言うなかれ。友人達とて、自国に正しい情報を持ち帰れるなら、喜んで『友人想いの協力者』になってくれるさ。

事実、皆は快諾してくれた。寧ろ、何人かは『ハーヴィスがどんな言い訳をするのか、是非聞きたい』と口にする始末。

余談だが、セシル達やシュアンゼ殿下は『ミヅキがどんな報復をするのか、この目で確かめたい』とも言っていた。

完全に娯楽扱いです。それでいいのか、王族ども。

……。

いいんだろうな、彼ら的には。

と言うのも、彼らが私の報復を期待するのには、十分な根拠があるのだ。その根拠とは、私が魔王様にお願いしたこと。

『正式な謝罪は、是非とも謁見の間でお願いします。公の場だからこそ、記録に残りますよね? 皆の目がある以上、自分の言葉に責任を持たないなんて真似、できませんよね……?』

以上、お説教の際に魔王様へとお願いしたことである。中途半端な誤魔化しで許す気はないという、決意に満ちたおねだりですよ。

万が一にも、イルフェナが穏便に済ませる選択をした場合、部屋で秘かにお話して終わり……という可能性も、ゼロではなかったし。

それに加えて、魔王様が各国の要人達と親しくしていることを良く思わない奴らの存在がウザかった。寧ろ、警戒すべきはこっち。

私にさえ干渉してくるくらいなので、今回の件を自分達に都合よく利用しようとするならば……話し合いがオープンではない方が都合がいいもの。

その場合は事実曲解、待ったなしでしょうな。『誰それに聞いた』『噂があった』といった曖昧な情報を、まるで事実のように広めようとするだろう。私じゃなくとも警戒するわ!

そういった事情を顧みた上で、提案してみたことだったのだが。

まさか、本当に実現してくれるなんて、思っていなかった! 誰かは判らないけど、賛同者の皆様、ありがとーう!

……イルフェナは私の予想以上に、激おこなのかもしれん。魔王様の自己評価が低めだからあまり話題に上がらないけど、『優秀な第二王子』なのよね、魔王様って。

そんな人が襲撃されれば、普通は怒る。愛されているならば、なおのこと。魔王様は自分の予想以上に、周囲の皆から愛されているんじゃなかろうか?

許可が出たと聞かされ、軽く驚く私に向けられたのは、話を伝えに来てくれたアルと周囲の友人達の含みのある笑み。

『我々はエルの騎士ですから、エルが【穏便に済ませたい】と言い出せば、それに従うしかありません』

『セイルにしても、ルドルフ様がエルに宥められてしまえば、無理は言わないでしょう』

『そんな我々の希望の星が貴女だったのですよ、ミヅキ』

『ミヅキならばやってくれると、我々は信じていますので』

……『遣ってくれる』じゃなく、『殺ってくれる』に聞こえたのは、気のせいじゃあるまい。まあ、騎士寮面子がそんな風に思ったとしても、仕方ないことではある。アルとて、例外ではない。

今回、アル自身は謹慎を免れているけれど、クラウス以下、当時、魔王様達の護衛を担当していた騎士達は軽いとはいえ、処罰を受けている。

そのこと自体に文句はないけれど、アルからすればハーヴィスは『勝手な理由で主とその友人を危険な目に遭わせた挙句、同僚達に屈辱を与え、ろくな謝罪をしてこないクズ』という認識だ。

ただでさえ不快に思う案件なのに、『身内以外はどうでもいい』と考える人間嫌いからすれば……激怒必至は当然ですね! どうりで、今回はいつにも増して協力的だと思ったよ。

『というわけですので、ご存分にどうぞ』

『ああ、ミヅキ。私達の分も頼む。私とエマはエルシュオン殿下に世話になったからな。ハーヴィスの対応は不快だ』

『宜しくお願いいたします』

『私達の分も頼む。私とラフィークもエルシュオン殿下には感謝しているからね。なに、君の言い分を事実と共にガニアに伝えた上で、私も支持するだけさ。北の国である以上、ハーヴィスは警戒対象だよ』

以上、アル、セシル、エマ、シュアンゼ殿下からの激励だ。

……。

本当に、それでいいのか、お前ら。特に、ガニア勢。

まあ、ともかく。

そんな経緯があって、この一件の『謝罪の場』は決定したのです、が!

ここで一つ、問題が発生したんだよねぇ……言うまでもなく、主犯であるアグノスのことだ。

勿論、アグノス本人からも事情を聞きたい。だが、彼女は『血の淀み』を持っているので、いきなり謁見の場で糾弾……という事態になった場合、どうなるか判らない。

これはハーヴィス王妃からの提案だったらしい。曰く『あの子は時に、癇癪を起こすと報告されていますので』とのこと。そこには明らかに、アグノスを気遣う感情が見て取れたそうだ。

ハーヴィスとしても騒動を起こされるのは拙いが、アグノスを案じる気持ちもあるのだろう。血の繋がりのあるハーヴィス王より、よっぽど親らしい提案だ。

こちらとしても、アグノスがどういった状況なのか判らないので、落ち着いて話してもらえる環境の方がありがたい。

そんなわけで、提案されたのが『アグノスを交えての、状況確認の場を作る』というもの。

イルフェナも『血の淀み』に関する知識はあるし、ハーヴィス側がアグノス一人に罪を押し付けることを回避する――アグノスの『血の淀み』が酷い場合、反論などは不可能と判断――ためにも必要と判断されたらしい。

一応、正式な話し合いの場という扱いではあるけれど、ハーヴィス側の言い分を聞く場、と言った方が良いだろう。

それが今現在、私が眺めている状況なのです。私は護衛の一人であると同時に、『魔導師は凶暴だが、エルシュオン殿下の言うことならば聞く』と証明するため、この場にお呼ばれさ。

話し合い面子の他には、護衛として団長さんとクラレンスさん、セイル、アル、私。なお、ジーク達が襲撃事件の当事者ということもあって宰相補佐様、何故かしれっとシュアンゼ殿下がこの場に居る。

宰相補佐様はともかく、どうしてシュアンゼ殿下に許可が出たよ!? と思っていたら、『北の大国として、万が一の場合は抑えに回るため』だそうだ。何かあったら、即、ガニアに報告する、と。

真面目な振りして、ハーヴィスに圧力を掛ける気、満々です。

灰色猫は順調に本性を暴露中。素敵な性格にお育ちのようで(笑)

話し合いが始まる前の遣り取りを思い出していた私は再度、話し合いの席に座る人達に目を向けた。

そこでは未だ、ハーヴィス国王夫妻が謝罪中。彼らを見つめるイルフェナ勢(+ルドルフ)の目は……何の感情も浮かんでいないように見えた。

ブロンデル公爵は微笑みを湛えているけれど、それが本心ではないことくらい、私にも判る。

「……それは此方が聞きたいことを、包み隠さず話す気があるということだろうか」

「……っ」

どこか冷たく聞こえる魔王様の声に、ハーヴィス王が小さく肩を跳ねさせる。そんな彼の姿に、私は半ば、呆れにも似た気持ちを持ち始めていた。

いやいや、そこは即答しなさいって。誠実さを示す機会なのに、ビビッてどうする。魔王様に威圧があることなんて、周知の事実でしょうに。

「勿論です。此度の件は、ハーヴィスに全面的な非があるのです。聞かれたことは全て、お話しします。ハーヴィス王妃として、お約束しましょう」

「……。王妃の言う通りです。全てお話しします」

顔を上げて、きっぱりと言い切るハーヴィス王妃。その表情はどこか必死さを滲ませており、彼女が本当に覚悟を決めてイルフェナに来たのだと推測できた。

対して、情けなく見えるのが彼女に続いて顔を上げたハーヴィス王。悪人のようには見えないが、何て言うか『王としての迫力がない』。

顔色が悪いのは仕方ないとしても、魔王様達と向かい合った場合、どうにも迫力負けしているのは明らかだ。

……。

ハーヴィス王は『個人として』なら良い人なのかもしれない。魔王様達に悪意を向けたり、誤魔化しをするようには見えないし。

だが、『王として』考えた場合……腹黒い臣下達から忠誠を向けてもらえるような人には思えなかった。

顔立ちは王族だけあって整っているし、若い頃はまさに『御伽噺の王子様』に見える人だったとは思う。性格も善良ならば、『憧れの人』(注:貴族や王族にとって理想の結婚相手、という意味ではない)という認識はされそうだ。

だが、性格まで『御伽噺の王子様』のような、愛や正義が優先される人だったら……こいつに国を任せるのは、不安しかあるまい。今でもこんな印象を抱くってことは、アグノス母と出会った頃って、マジでリアル御伽噺の王子様だったんじゃ?

話し合いは始まったけれど、私は早くも嫌な予感を抱き始めていた。

この人、本当に覚悟を決めてきたんだろうな? 全てを王妃任せにできるほど、魔王様達は甘くないですよ?