軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

サロヴァーラへ寄り道を 其の一

――サロヴァーラにて

「うふふ。きっと来てくれると思っていたわ」

侍女の淹れてくれたお茶の香りを楽しみながらも、ティルシアは上機嫌。そんな彼女の様子を、サロヴァーラ王が複雑そうな表情になりながら眺めている。

……。

おい、ハーヴィス? 女狐様がお怒りのようですよ?

いや、事情は聞いたから知ってるけど。シスコン姉上、大激怒の案件があったとは聞いていたけどね?

正直、ここまで期待されているとは思わなかった。シスコンの妹への愛を嘗めていた。

「いや、あのさ? どっちかと言えばアグノス個人への報復というより、ハーヴィスへの報復ってのに近いんだけど」

機嫌を損ねる……と言うか、期待に沿えないのは申し訳ないが、こればかりは仕方がないので、正直に暴露。

いや、だってさぁ……アグノスが魔王様への襲撃を企てたことは事実だし、主犯であることも事実だけど、『そうなった経緯』(裏事情含む)とかがありそうなんだもの。

王妃様からの手紙を読む限り、アグノスの現状には色々と大人達が関わっているっぽい。

そうなってくると……御伽噺を現実と混同している精神年齢幼女(予想)に、全ての罪を押し付けるのは間違っていると思う。

だって、ガチでアグノスが本人無自覚のまま、『誰かの手駒』ってこともありえるじゃん?

魔王様の性格上、そんな子に『自分の遣ったことの責任を取れ』とは言うまい。

無罪放免は無理だろうけど、全部の責任を被せるのはいただけない。王妃様とて、それは納得しているし。

責任を追及されるならば、『アグノスがそうなった原因全て』に、責任を取らせるべきだ。

と、言うか。

そうしておかないと……似たような事件を起こされる可能性があるのよね。

次に狙われるとしたら、王弟夫妻の醜聞に混乱しているガニアか、まだまだ問題山積みのサロヴァーラと予想。

そういった警告も含め、私は今回、サロヴァーラに寄ることにした。勿論、情報も欲しいけどさ。

「ふふ……国ごと沈めると言いたいのね? 良いわよ、私は貴女の味方だから」

優しく微笑み、『判っているわ』と言わんばかりの女狐様。その目は『殺れよ? 殺るよな?』と言っている。

「いや、そこまで言ってないってば」

「何を言っているのよ、ミヅキ! 貴女は『できる子』でしょう!? 敬愛する親猫様の危機に、何を腑抜けたことを言っているのよ!」

バン! とテーブルを叩き、鋭い視線を向けてくるティルシア。いや、お前は個人的な恨みを晴らしたいだけでしょうが!

だが、今回ばかりはこちらも譲れない。

迂闊に『報復対象はアグノスです』と決定しようものなら、私がアグノスを利用しようとした連中(予想)の手駒になってしまうじゃないか。

魔導師である以上、慎重に動かねばならんのです。

安易な思考、絶対に駄目。利用できると印象付けてしまう。

「心配しなくても、報復はするってば。ただ、アグノス個人という枠ではないだけ」

ヒートアップする女狐様を宥めつつ、暈した言い方をする。すると、ティルシアも何かを悟ったのか、訝しげになりながらも落ち着いてくれた。

「どういうことかしら?」

「アグノスが『意図的に、今の状態にされた』可能性がある」

「……? だから、それは乳母のせいでしょう? 勿論、周囲の者達や利用しようとした者が居たことも想像がつくわ。だけど、アグノス様が『血の淀み』を持つ以上、監視があったとみなすのが普通なのよ」

ティルシアは困惑気味だ。私とて、ティルシアのように思っていることも事実であるため、そこは否定しない。

……が。

そう判断するには、ちょっとばかり『奇妙な点』があるんだよねぇ。

そう思って口を開きかけた時、控えめなノックが部屋に響いた。即座に、ティルシアの表情が穏やかなものになる。

……。

おい、女狐様。その変わり身の早さは一体、何さ!?

「失礼致します。こちらにミヅキお姉様がいらしていると、知らせを頂いたのですが」

言いながら入ってきたのは、ティルシアの妹にしてサロヴァーラの第二王女リリアン。

私が到着した時は勉強の時間だったため、一足先にティルシア達とお茶をしていたのだ。

「久しぶり、リリアン」

「お元気そうで何よりです! ミヅキお姉様!」

ひらひらと片手を振って挨拶をすれば、嬉しそうな笑顔を浮かべて返すリリアン。……うん、元気そうだ。その笑顔は、私がサロヴァーラに居た頃よりもずっと明るい。

リリアンがいそいそとティルシアの横に座ると、すぐに彼女の前にもティーカップが差し出された。ティルシア付きの侍女さんは相変わらず、有能な模様。

「その……エルシュオン殿下がご無事で何よりです」

こちらを窺いながらも、それだけを口にするリリアン。その気遣いに、彼女の成長を見て嬉しくなる。

「ありがと、リリアン。心配しなくても、大丈夫! ちょっと怪我をしたけど、もう何ともないよ。魔王様とルドルフは元気だから」

「そうですか! 良かったです!」

あからさまに安堵するリリアンに、彼女の隣のティルシアは『うちの子、良い子でしょう!?』と言わんばかりに、得意げな顔になった。

そんな様子を、サロヴァーラ王は微笑ましそうに眺めている。……実はこれ、二人が幼い頃はよく見られた光景らしい。前回、こっそり侍女さんに聞いたのだ。

父親的には、姉妹の関係が昔に戻ったようで嬉しいのだろう。ヴァイスがティルシアのシスコンに理解があったのも納得です。

でもね、それって『今後はシスコン全開で行きますわ……!』ってことだと思うの。

リリアンを虐めていた貴族どもよ、最期の時は近いぞ。遺言状の準備はできてるかい?

そんなことを考えつつ、微笑ましい家族の姿に生温かい目を向ける。サロヴァーラはもう大丈夫だろう。リリアンも順調に成長してるし、女狐様も遣る気になっているのだから。

さて、姉妹も揃ったことだし、本題に移ろうか。

今回は最初からサロヴァーラに寄るつもりだった。実は、この二人とサロヴァーラ王に聞きたいことがあったのよね。

「あのさ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど。いいかな?」

声をかけると、三人は揃って私の方を向いてくれた。

「なあに、ミヅキ。ハーヴィスのことを聞きたいの?」

「ふむ……話してやりたいのは山々だが、生憎と、我が国もそこまでハーヴィスと親しくはなくてな」

「えっと……私が本当に幼い頃のこと、で宜しいならば」

軽く首を傾げるティルシア、思い出すように目を瞑るサロヴァーラ王、一生懸命思い出そうとしているのか、視線を彷徨わせるリリアン。

サロヴァーラ王の言うことが正しいならば、リリアンの様子も納得だ。本当に幼い頃のことである以上、あやふやであっても仕方ないもの。

だが、問題はティルシアだった。そう、女狐様。あんた、反応がおかしくない!?

……。

絶対、ハーヴィスを探ってたな、こいつ。

そうでなければ、多少はリリアンのような表情を見せるはずだ。ティルシアはいい加減なことは言わないだろうから、『リリアンを侮辱されたこと以外、覚えていない』とはっきり言うはず。

寧ろ、女狐様にとってはそれが最重要。

他の要素はオプションとばかりの扱いだろうから、ろくに覚えていなくても仕方ない。一般的にはどうかと思うが、女狐様的にはそれで正しいのだ。

だが、私が聞きたいのはその『幼い頃のこと』だった。

「リリアンが侮辱された時のこと、だよ。その時、幼いアグノスには会ってるんだよね? ……彼女さ、どんな感じだった? 多分、その頃は乳母による『御伽噺と混同させる』っていう教育を受けていなかったと思うんだよね」

テ ィ ル シ ア の 目 が ギ ラ っ と 光 っ た 気 が し た 。

ステイ! ステイだぞ、ティルシア! 少しは落ち着け。私とて、リリアンに辛い記憶を思い出させたいわけじゃないんだから!

ただ、こればかりはどうしようもない。なにせ、『御伽噺のお姫様』ではないアグノスを知っている可能性があるの、この国の人しかいないんだもん!

「ふむ、そういうことか」

「ええ。正直なところ、『アグノス』という個人の姿が、全然見えてこないんですよ。だから、『自分を御伽噺のお姫様だと本気で思っている』のか、『そう在ろうとしている』のかも判りません」

似ているようだが、全然違う。前者は言い難いが、『精神に問題があり、話が全く通じない可能性がある』こと。

その場合、思い込みによる自己暗示を成功させてしまっているから、こちらが何を言っても通じず、問答無用に処罰……という可能性もある。哀れまれて、温情を掛けられる場合もあるけどね。

対して、後者は『現実を理解しつつも、望まれた姿を演じている』ということ。こちらならば話が通じる上、アグノスに関与してきた人物も割り出せるだろう。

個人的には、後者であって欲しい。頭が良過ぎて脅威になる可能性もあるけど、今回の一件は無難な形に終わるもの。

勿論、ハーヴィスのことは考えていない。あの国がどうなろうとも知ったことじゃないので、こちらに迷惑が掛からない限り、内部で何が起きてもシカトです。

「では、まずは私からお話しますね。きっと、お姉様の方が正確に覚えていらっしゃるでしょうから」

そう言って、リリアンは話し始めた。