作品タイトル不明
全てを知る親友は笑う
――イルフェナ王城・ルドルフが滞在する部屋にて(ルドルフ視点)
ミヅキから手紙が届く度、俺は嬉々として現状を伝えてやった。元からミヅキに頼まれていたこともあるが、俺はこの遣り取りが楽しくて仕方ない。
作業は地味だが、これは俺が適任だった。理由は勿論、俺が一番エルシュオンにばれにくいから。気分はすっかり、悪戯で兄を出し抜く弟だったりする。
これまで傍観者――所謂、お留守番だった俺が、今回ばかりは当事者なのだ。喜ばずにいられようか……!
「まあ、決して褒められたことじゃないんだけどさ」
思わず、口を出た言葉とて本心だ。それが判っているからこそ、俺はこれまでミヅキに協力を求められた場合に限り、協力者となってきたのだから。
これでも一国の王なのだ。個人の感情のみで動いて良いはずはない。
だが、今回ばかりは特別だった。狙いがエルシュオンとはいえ、俺も巻き込まれているのだから。
――『当事者』だからこそ、俺は思う存分、行動できる。
当然、イルフェナの顔を立てる必要はあるだろう。だが、ゼブレストという国が嘗められないようにするため、上手く立ち回ることも必要。
そのために選んだのが、『魔導師ミヅキの共犯者』という立場。
親猫を危険な目に遭わされたあいつが、黙って見ているはずはない。勿論、個人的なことを言ってしまえば、俺もミヅキの同類だ。あまりにも勝手な襲撃理由に、憤ってもいる。
……が、立場や身分という柵がある以上、俺はミヅキほど自由に行動はできない。迷惑が掛かるのは、滞在させてもらっているイルフェナなのだ。さすがに、無茶はできない。
ただ、ミヅキにはどうしようもないもの――権力やイルフェナからの後方支援というものは可能だった。
互いの利点を察した俺達は即、手を組んだ。
セイル曰く、『面会した際、手を固く握り合った時点で察してました』とのこと。
セイルも自分で動きたいと願っていた一人。俺とミヅキの思考にもある程度の理解があるため、止めるという選択肢はなかったのだろう。
こういった点が、自国で宰相を務めているアーヴィとの大きな差だ。セイルの方が穏やかに見られがちだが、実際には逆なのだから。
セイルはどちらかと言えばミヅキ並みの行動派(好意的に表現)なので、ハーヴィスのお粗末な対応にイラついていたと思われる。
そこに俺の参戦表明がくれば……まあ、実行犯に志願するだろう。建前的には『守護役として、ミヅキに付いて行った』となるのだろうが、現実は『魔導師と共に報復に行った』が正しい。
今回ばかりは、俺も、アーヴィも、セイルを諫める言葉を持たない。イルフェナの騎士達のことばかりに注意がいきがちだが、騎士としての矜持を圧し折られたのはセイルも同じ。
しかも、本来ならば『守りを固めろ』と命じるはずの俺が報復推奨。
エルシュオンからの説教待ったなしの状況だが、俺は後悔していない。
「ミヅキ『達』はハーヴィスに恐怖伝説を作り上げるだろうな。……それがあるからこそ、イルフェナやゼブレストは『話し合い』という枠に事を収めることができる」
王子と王が訳の判らない理由で襲撃され、主犯を抱える国からの対応はおざなり。こんな状況で、無傷で済ませられるはずはないじゃないか。
最低限、何らかの報復措置が取られる。最悪の場合、武力行使とてあり得るだろう。何せ、宣戦布告にも等しいことをやらかしたのは、ハーヴィスの方なのだから。
……が、そういったことを一番の被害者であるエルシュオンは望まない。
エルシュオンが善良とか、優しい性格をしているといった方向ではない。
『ハーヴィスにかける時間や費用が惜しい』という理由からだ。
エルシュオンとて王族としての教育を受けているため、こういった点は中々にシビアなのだ。ハーヴィスという国から毟り取れるものがない以上、無駄なことはしたくないのである。
速攻で利害方面に目がいくところは、エルシュオンとミヅキはよく似ている。あの猫親子、揃って『馬鹿に期待しない』『時間と金の無駄、反対』という思考に至るのだ。
利を追求するからこそ、被害やかける費用、時間といったものは自国含めて最小限。エルシュオンが商人達の庇護者となれるのも納得だろう……思考回路は損得で物事を考える商人達に近いのだから。
ミヅキ達は互いに似た思考を持っていることを理解しているので、話が合いやすいのだろう。行動こそしないだけで、エルシュオンの思考回路も割とミヅキ寄りである。
ただ、違うのはミヅキとエルシュオンの立場だった。その違いこそ、今回のミヅキの行動に大きく表れている。
「今回はあくまでも『魔導師の個人的な報復』。だが、ハーヴィスは大慌てするだろうな。対して、イルフェナやゼブレストは溜飲を下げるだろう。ミヅキを抑えてもらうため、ハーヴィスはエルシュオンに願わなければならない」
だが、相手は第二王子。しかも、圧倒的にハーヴィスが不利な状況にある。だからこそ――
「次の話し合いとやらには、ハーヴィス王自身が必ず出て来る。そうしなければ、イルフェナから話し合いの場を持つことさえも拒否されるだろうことは察しているだろう。何を言われても、ハーヴィス王はエルシュオンにミヅキを抑えてもらわなければならない。何せ、先に送った使者の話から、『魔導師は一国を相手にしても、決して退かぬほど凶暴』『魔導師はエルシュオンの言うことなら聞く』といった情報を得ているからな」
……ミヅキの共犯者は俺だけではない。二人を案じて、イルフェナに集ってくれた者とて同じ。
彼らは其々、身分や立場がある者ばかり。それを明かして話した彼らが、下手な嘘を吐く可能性は低いと普通は考えるだろう。
まあ、話した内容を疑われても全て事実なので、問題はないのだけど。
エルシュオンは色々なことがあって多少、冷静さを欠いているようだ。だからこそ……『ほぼ全ての者達が共犯者』という可能性にまで、思い至っていない。
個別に仲が良いことは事実なので、警戒くらいはするだろう。だが、俺が共犯であることを明かしている以上、俺と接点を持たない彼らまで役割を持っているとは思うまい。
「俺はミヅキへの情報提供とセイルの同行、そして身分による守りを。他の面子は魔導師の恐怖を煽り、ハーヴィスへと魔導師の情報を提供する。そこにミヅキ達が攻撃を仕掛け、噂に聞く『魔導師の脅威』をハーヴィスにとって身近なものにする」
その結果、まんまとハーヴィス王はイルフェナへとやって来る羽目になるだろう。俺の親友は何とも賢く、それ以上に容赦がない。
そのために国を守る者達の矜持を圧し折ろうとも、死傷者が出ることになろうとも、実行する。そんな残酷さを持つからこそ、あいつは魔導師と認められ、俺のような立場の者と対等に言葉を交わすことを許された。
と、言うか。
砦への襲撃には、イルフェナにおいて襲撃を許してしまった騎士達の報復も兼ねているに違いない。
ハーヴィスが気付くかはともかく、『守り切れず、使命を果たせなかった』という悔しさや状況は、イルフェナの騎士達に通じるものがあるのだから。
――そもそも、ハーヴィスはミヅキを勘違いしているのだ。
「ミヅキは正義を尊ぶ性格ではないし、悪になることも、泥を被ることも厭わない。必要ならば、犠牲だって出す。全ては望んだ結果と親猫の期待に報いるため……『エルシュオンの庇護を受ける者』ではなく、『エルシュオンだけに懐く野良猫』みたいな捉え方をすべきなのさ」
騎士でも、魔術師でも、腹心たる貴族でもない。そのどれも参考になりはしない。野良猫の自分勝手な恩返しこそ、ミヅキの行動理由にとても近い。
立場や身分による柵もなく、『親猫の望みを叶えること』限定で、己が利さえ考えない行動に出る。それが『魔王殿下の黒猫』たる所以。
三食保護者付きの快適生活を与えられ、甘やかされていることを自覚しているからこそ、保護者の望む結果になるように動く。それが黒猫なりの恩返しであり、譲れぬものだ。
『本来、居ないはずの異世界人』がその役目を請け負うからこそ、『この世界の者は傷を負うことなく、結果を受け取ることができる』。
その幸運を手にできるのは、『【親身になって異世界人の面倒をみる】という、本来ならば背負わなくてもいい苦労を背負った、この世界の庇護者が居たから』。
そこに気付けば、ミヅキが善意で行動する『断罪の魔導師』などではないと判る。
ミヅキは本当~に恩返しをしているだけであり、彼女の恩恵にあやかりたいならば、先にこの世界の住人達が何らかの行動をすべきなのだから。
利用しようとしたり、善意に縋ろうとする方が傲慢であろう。ミヅキの魔法の腕や経験は本人の努力と、周囲の者達の教育によって得た財産だ。安売りするわけがない。
「砦は二つとも落としたらしいし、ちょっとした仕掛けもしたから、まずハーヴィス王は出てくると見て間違いない。次の手紙は、話し合いが決まってからだな」
遠い場所にいる親友達に想いを馳せる。彼らの楽しげな顔を思い浮かべ、俺も共犯者らしい笑みを浮かべた。
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――一方その頃、某所では。
「来ちゃった♡」
「あら、いらっしゃい。待っていたわ」
黒猫と女狐が、笑顔で言葉を交わしていた。