軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

狙うものは

――ハーヴィス某所にて

「ふふ……っ、他愛もない」

クスクスと笑う私、楽しげな笑みを浮かべているセイルとジーク、そして達観した表情のアベル。

私達の目の前には、ボロボロになった人々が。そして、その背後には……破壊された痕跡ありまくりの砦だったもの。

「貴様ら……こんなことをして許されると……っ」

「思ってないし、隠す気もない。先手を打ったのはそっちだって、言ったでしょ?」

お馬鹿さんねっ! と言いながら、私は睨み付ける男を蹴り飛ばす。無傷ならば避けられるだろうが、彼は……いや、彼とその同僚達は揃って満身創痍とも言える状態だ。

体力的にも、精神的にも、色々と厳しいのだろう。私達にあっさりと敗北したこともまた、彼らの戦意を削いでいるのかもしれない。

なお、現状に至った経緯は次の通り。

・私、『国境沿いにあるハーヴィスの砦を襲撃したぁいっ!』と提案。同行者達、快く承諾。

・サクッと、単独で砦侵入。サービス精神を出し、幻影による『ホラー的幻影』をばら撒きながら、死神スタイルで混ざる。

今回、大鎌は幻影(つまり、実際には持っていない。単にローブを纏い、見える部分を骨にしているだけである)なので、物理攻撃その他は避ける。

・砦の住人、大パニック! 悲鳴を上げて逃げ惑う人々多数。私、大・爆・笑☆

・怪異(幻影)から逃れ、砦から出た人々は、ガイコツ剣士スタイルのセイル&ジークと戦闘。大半がここで脱落。

・人が居なくなったことを確認し、私自身も砦の外に出てから、砦を落雷が落ちたかのように見せかけ、破壊。

・疲れ果て、座り込んだ砦の住人達、顔面蒼白。

・すべてが終わった後、『ドッキリでした!』と言わんばかりに、魔道具を外して各自の幻影を解除。

・砦の住人達、様々な意味で茫然自失。(今ここ)

以上、ちょっとした『ご挨拶』の流れであ~る。

キヴェラの時ほど凝っていないのは、これがあくまでも『ご挨拶』であることと、もう一か所、同じことをやる予定があるからだ。

シュアンゼ殿下から提供されたハーヴィス周辺の地図に、砦が二か所あったのよねぇ……。

一つは、ガニアとかサロヴァーラといった国を警戒するためのもの。もう一つは『シェイム』と呼ばれる混血達を抱えるイディオや、細々と暮らしているはずの『ディクライン』を警戒してのもの。

いくら鎖国に近い状態だったとしても、警戒が必要な国が隣接している以上、守りに重きを置く必要があったのだろう。

――その『守り』は今回、私達にあっさりと崩されたわけですが。

ざまぁねぇな! 小さなことだが、私は非常に気分がいい!

国を守っている、自国の守りは強固だと信じていた奴ら――それが事実かどうかはともかく、攻め落とされたことはなかった模様――のプライド、木っ端微塵ですよ!

ハーヴィスという『国』をコケにするなら、まずは小さな一歩から。こいつらの悔しそうな顔と砦陥落の事実だけでも、美味い酒が飲めそうです……!

そんな私の気持ちも知らずに、砦の住人達は私達を睨み付けている。彼らからすれば、自分達は『国の守りを預かる者』……まあ、当然の反応だ。

「貴様ら、何が目的だ!?」

「え? 別に。『現時点では』貴方達に特別望むものはない」

「なっ!?」

「それ以前に、ハーヴィスに期待していないとも言う」

素直に言い切れば、彼らは揃って絶句した。

いやいや、マジで君達に求めるものはないってば。……『今』はね。これ、ただの『ご挨拶』。私、愉快犯。

そもそも、ハーヴィスがまともに対応していれば、私はここに来る必要がなかった。要は『ハーヴィスは魔導師の怒りを買ってますよ』的な警告ですぞ。優しさの表れです。

「で……では、何故、このような真似を……?」

「気に入らなかったから」

「!?」

「あと、勘違いを正してあげようと思って。ハーヴィスが攻め込まれなかったのは、『攻め入る価値がなかったから』だよ。貴方達が強かったわけじゃない」

教えられたわけではないけれど、これで合っていると思う。それもまた、鎖国状態に拍車をかけた原因だろう。

「ハーヴィスは他者、そして新しいものを拒む傾向が強い。そんな国を支配したって、反発は必至。自給自足が可能といっても、目立った産業などはない。こんな国をわざわざ改革するなんて、割に合わないわ」

ゼブレストのように支配する旨みがあるならば、違った未来もあっただろう。あそこは鉱山なんかがあるし、酪農系に強いという実績もある。

だが、ハーヴィスにはそれがない。『長年、鎖国状態を維持できた』と言えば聞こえはいいだろうけど、実際は『シカトされていただけ』じゃないかと思う。

どストレートに考察をぶちまけると、国を守ってきたという自負ゆえか、男達が怒りを露にしだした。

「貴っ様ぁ……何様のつもりだ!」

「我らの守りし国を愚弄するか!」

「事実じゃん」

「何をっ……」

「違うなら、言い返してごらんって。聞いてあげるからさ? あ、勿論、証拠付きでね!」

ほらほら~と煽れば、男たちは悔しそうな顔になり。

けれど、反論する術を持たないのか、声を上げる者はいなかった。

まあ、私も意地が悪い言い方をした自覚はある。正直なところ、こういった質問に答えられるのは、国の政に携わっている者だけだ。『証拠を出せ』と言われたところで、思いつくはずもない。

……が、そこを煽るのが私でして。

「やっぱり、ないじゃん! 思い込みだけの反論、恥っずかしぃ~!」

指 を 指 し て 笑 っ て み た 。

「貴様ぁ!」

「はいはい、それももう聞き飽きた。そうそう、貴方達がこんな目に遭う理由はね? 『イルフェナのエルシュオン殿下が、ハーヴィス関係者に襲撃されたから』だよ」

『は?』

あまりにも予想外だったのか、男達の声が綺麗にハモる。

……。

そだな、それが当然の反応だろう。襲撃理由を聞くと、更に驚きだ。私達だって吃驚だったもの。

なお、元凶を『ハーヴィス関係者』としたのは、アグノスのみに責任があるとは思えないから。どう考えても、裏があるだろ。王妃の書から見ても、かなり怪しい。

「よし! それでは今から『誰でも判る! ハーヴィスが見限られるまで』を説明してあげよう」

「いや、ちょっと待て? 何だよ、その『ハーヴィスが見限られるまで』ってのは」

「え? 現状、こんな感じだよ?」

「……え?」

「『……え?』とか言ってる場合じゃないって。マジで、各国から見限られかけてる」

『鎖国』と『見限られること』では、意味が大きく異なる。『鎖国』が他者を頼らぬゆえの孤立ならば、『見限られること』は『各国から対等に扱われなくなる』ということに他ならない。

つまり、『価値がない』と呆れられるということですね! 交渉のテーブルに着くなんてことも、できなくなるだろう。話し合いをする意味がないもん。

「それでは、お聞きください。まず、事の初めは……」

そして、私は話し出した。『血の淀み』を持つ第三王女アグノスの暴走、その周囲の者達のこと、そして……ハーヴィス側の対応を。

話が進むごとに、男達の顔色がガンガン悪くなっていく。自国の王女の暴挙だけでなく、それがどういった影響を与えるかを丁寧に説明しているので、嫌でも現状が理解できてしまったのだろう。

「そんなわけでね、私はハーヴィスという『国』が嫌い。これが砦の襲撃理由だよ」

「……」

そう言って締め括るも、さすがに反論や鋭い視線は向けられなかった。これまでは気力で何とか持ちこたえてきたけれど、私の解説によって、それも削がれてしまったのか。

そもそも、彼らは元から満身創痍だった。怪我は私の治癒魔法で治しているけど、私の施す治癒は『細胞を活性化させて再生する』というものなので、体力を削るのだ。

セイルとジークによって武器を破壊されたこと――つまり、圧倒的な力の差があった――も気力を削がれた一因だろうが、襲撃理由として聞かされたのは自国の不祥事。

疲れ果て、武器を奪われ、今度こそ抗う気も潰えてしまったのだろう。

「だから言ったでしょ? 今回は『ご挨拶』だって。魔導師を怒らせて、この程度で済むと思ってる?」

軽く首を傾げて問うも、男達からの反論はない。強気な発言をする根拠がない上、下手なことを言えば、より酷い状況になると察したか。

私は軽く溜息を吐くと、肩を竦めて、村がある方を指差した。

「行きなさい。行って、人々に伝えなさい。『ハーヴィスは魔導師を怒らせた』ってね!」

「……いいのか?」

「私はエルシュオン殿下の言うことなら、基本的に従うの。イルフェナがハーヴィスと事を交える決定を下さない限り、『ご挨拶』に留めるわよ」

「……」

視線を交わし合うと、男達は暗くなりかけた中、森へと消えていく。彼らを見送る私を、セイル達は面白そうに眺めていた。

「宜しいのですか? 逃がしてしまって」

「あら、私は『今回はご挨拶に留める』って、言っていたはずだけど? それに、私は超できる子だもの」

「……」

にこやか~と言わんばかりの笑顔で交わされる、私とセイルの会話。だが、そこに口を挟んだのはジークだった。

「つまり、彼らを逃がしたこともまた、計画のうちということか」

「ふふ……正解」

勿論、私は優しさから彼らを逃がしたわけではない。彼らはある意味、『魔導師の駒』なのだ。

「私の治癒魔法によって、彼らは体力を失っている。そして、砦をあっさり潰された『事実』によって、気力も削がれているでしょう。襲撃理由も、先ほどまでの解説で理解できた」

さて、と一つ手を打ち鳴らす。

「ここから一番近い村でも、森を抜けなきゃならない。夜の森って、『血の匂いをさせ、武器を持たず、体力も削られている状態で抜けられる』かな?」

「厳しいでしょうねぇ、それは」

「俺でもキツイだろうな。まず、一晩はどこかで体を休めるべきだ」

セイルは楽しげに、ジークは真面目に答えを返す。そしてアベルは私の言わんとすることを察したのか、苦々しい表情だ。

「休みたくとも、休めない。ミヅキの説明を受け、彼らは少しでも早くこのことを伝えようとするだろう。自分達が国を守ってきた自負があるからこそ、無茶でもやるだろうさ」

「アベルの言う通り! だけど、どう考えても無謀なのよ。あんたみたいな特殊能力でもない限り、かなり酷い状態で村に着くことになるでしょうね。そもそも、どれだけ生き残れるか」

はっきり言って、無理ゲーだ。夜の森、それも魔物さえいる世界なのだから、難易度は極めて高い。

「ですが、ミヅキは彼らを癒しています。その事実がある限り、一方的に批難されることにはならないでしょう。彼らには『体を休める』という選択もあったのです。それに、ミヅキは『彼らを逃がしている』。どう考えても、焦った彼らに非があるかと」

「自分の手を汚さなかったとも言えるけどね」

「だが、そういった判断ができなければならないさ。彼らは素人ではないのだから」

セイルに続き、ジークも『選択を誤った彼らの自業自得』という発想らしい。

ジークは魔物の討伐といった仕事を任されることも多いらしいから、余計にそういった発想になるのかもしれない。

「で? そこまでする意味は?」

二人の言葉を受け、アベルが答えを迫る。三人の視線を受け、私はうっそりと微笑んだ。

「ボロボロの状態の兵からもたらされる、魔導師襲撃の事実。そして、自国の起こした不祥事。話を聞いた人達はきっと、とっても怖がるでしょうね! なにせ、『情報をもたらした者は死にかけている』んだもの」

「まあ、そうだろうな。死にかけている理由が魔導師によるものじゃなくとも、普通は魔導師の方を警戒するだろうさ」

夜の森は恐ろしくとも、襲撃理由を聞いた後では魔導師の恐怖の方が勝る。そもそも、そんな状態で森を抜けろと言ったのは魔導師なので、ある意味、殺そうとしたとも受け取れてしまう。

ただし、こちら側からすれば、『怪我を治し、見逃した』となるので、ハーヴィス側から突かれてもそこまで怖くはない。セイル達の言葉にもあるように、彼らが迂闊だったと言われればそれまでなのだ。

「戦う力のない民は『自分達もこうなるんじゃないか』って、不安に思うでしょうね。だって、噂ではなく、目の前に経験者がいるんだもの。そして、その不安は国へと向く」

噂よりも、事実の方が強い。『単なる噂として流れてきた情報』よりも、『死にかけた当事者がもたらした事実』の方がより、現実味がある。

そして。

自分達に災難が降りかかる可能性がある以上、人々は他人事にはできないのだ。当然、その対処を求められるのは『国』。

「貴族や王族を狙ったとしても、都合の悪いことは隠蔽されてお終いでしょ。だったら、私は数の暴力を使うわ。民の方から国へと批難が向くように仕向け、『国が対応せざるを得ない状況に追い込む』」

「なるほど。そのための布石が先ほどの『私はエルシュオン殿下の言うことなら、基本的に従う』という言葉なのですか。エルシュオン殿下に『魔導師を止めてほしい』と望むならば、第二王子よりも上位に当たる国王が話し合いの場に出て来なければならないと」

「その通り! それにさ……正式にイルフェナと話し合わないと、民は納得しないんじゃない? 魔導師が狙っているんだもの、イルフェナの飼い主からストップがかからない限り、安心できないかもね? 私は公の場にハーヴィス王を引き摺り出してみせるわよ」

「お見事!」

機嫌よく拍手するセイルの言葉を受け、私は笑みを深める。端から見れば、私は立派に悪役だろう。

――『魔導師は世界の災厄』だもの。こんな手を使っても、おかしくはないでしょう?