軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

親友からのお手紙=報復へのGOサイン

――ガニア・とある宿にて

ヴァージル君と別れた私達は、とりあえず一軒の宿屋に落ち着いた。

私は前回ガニアに来た際、ほぼ城に滞在していたので、民間の宿屋の方が顔を知られていない。

それに加えて、ここは城下町。商人なども多く行き交っているので、他国の人間が居たところで不審がられまい。

で。

イルフェナの現状を把握すべく、我が共犯者ことルドルフ君へとお手紙を送ってみた。

ルドルフは隣国の王としてイルフェナに滞在しているので、手紙などが勝手に弄られる心配はない。つまり、魔王様にもバレにくい。

情報を聞く相手としては最適です。アルやクラウスあたりだと、速攻でバレる可能性があるからね!

そして、ルドルフからの手紙は、私達が夕食を食べ終わった頃に来た。四人一緒の部屋にしてもらったので、皆の視線も一気に手紙へと集中する。

勿論、防音魔法は事前に展開済み。万が一を考え、ジークが扉のすぐ傍に控え、周囲を警戒してくれる。

「さあ、どんなことが書かれているかな?」

代表して、まずは私が読ませてもらう。ほうほう……まあ、概ね予想通りになった模様。

ここで『ハーヴィス王が直々に謝罪に来た』とか書いてあろうものなら、私達の計画も一旦ストップしなければならなかった。

いくら何でも、一国の王が頭を下げに来たとあっては、イルフェナとて、気を使う。ぶっちゃけ、『大人の対応』(意訳)をする必要が出てきてしまう。

そうなると、私が暴れるのは完全に悪手だ。ハーヴィス側に有益な交渉材料を与えてしまうもの。

「とりあえず、計画中止にはならないみたい。何があったかは、ルドルフからの手紙を読んでみて」

言いながら、皆へと手紙を差し出す。さすがに気になったのか、一番最初に受け取ったのはセイルだった。主の傍を離れたセイルを思い遣ってか、残る二人も文句はないらしい。

セイルは手紙に目を通すなり、口元を笑みの形に歪めた。

「……。まあ、期待はしていませんでしたが」

「それ、どっちの期待よ?」

「勿論、『ハーヴィス側が誠意を見せる』という方向ですよ。そんなことができるならば、最初から迅速な行動ができるはずです」

「……」

そりゃ、そうか。

イルフェナは速攻で抗議の一つや二つしているはず。それをぐずぐずしていたのがハーヴィスなので、セイルの信頼のなさも納得ですね!

と、言うか。

ハーヴィス側も混乱していただろうけど、事実確認ぐらいはすぐにできたはず。それにも拘わらず、対応の遅れが目立つということは……どんな一手を打つことが最善か、本当に判らなかったんだろうな。

情報の少なさもあって、今回は情報収集に努めたという気がする。そこから突破口を探そうとしても不思議はない。

なにせ、ただでさえイルフェナは警戒すべき国。それに加えて、襲撃の被害者である第二王子エルシュオン殿下は物騒な渾名持ち。

そこに最近、異世界産の魔導師が加わったとなれば、恐れるな、という方が無理なのかもしれない。

勿論、これはあくまでも私個人の予想に過ぎない。だが、これまでの対応を見る限り、これが正解に思えるのも当然であって。

……。

失礼な国だな、ハーヴィス。イルフェナはそこまで心が狭くないやい。

私も、魔王様も、お話が通じないお馬鹿さんじゃないってのに!

「なんて言うか、使者殿が哀れだな。これ、情報収集のための生贄だろ」

哀れむようにアベルが告げると、「でしょうねぇ」とセイルが即座に同意する。私とジークも頷くことで同意。

誰がどう見ても、生贄だろう。この使者が害された場合、イルフェナが激怒しているという証明になる。

そういったことも踏まえて、私達は『生贄』と称した。いくら国の期待を一身に背負った立場とは言え、実に哀れな存在です。

だが、イルフェナはそんな遣り方に乗ってやるほど優しくはなかったらしく。

「気絶した使者殿を休ませ、無傷で送り返すつもりとはね。これでハーヴィスは益々、イルフェナへの対応が判らなくなったでしょうよ。『優しくしてもらった』のか、『価値がないから突き返された』のか、判らないもの」

「どっちにも取れる態度だもんな。しかも、護衛としてついていたクラレンス殿は副騎士団長。それなりにもてなした、とも受け取れる」

「まあねー……身分と立場『だけ』を見た場合に限るけど」

「だよな」

アベル共々、生温かい目を手紙に向ける。イルフェナは中々に遊んでいるらしいと察して。

『副騎士団長を務める公爵家の人間』が護衛と案内をしていた以上、『国からの使者を軽んじられた』とは言えないじゃないか。

ただし、それはあくまでも『身分と役職に限定した場合』という前提だ。

私達は知っている。クラレンスさんが『毒夫婦の片割れ』やら、『近衛の鬼畜』と呼ばれていることを。

そんな人が案内を務めている以上、それはそれは物腰柔らかく丁寧な態度と言葉で、相手の心をじわじわと抉るだろう。

「そこに加えて、ミヅキの『友人達』が色々と話したらしいな。使者殿はさぞ、恐怖を煽られただろう」

「いやいや、ジーク? 皆は『自国にとって都合の悪いことを隠した上で、事実を口にしただけ』だからね? さすがに国からの正式な使者相手に、過剰表現はしていないと思うよ?」

「だから、より最悪なんじゃないか」

突っ込めば、さらりと返すジーク。……おい、残る二人も頷いているのは、どういうことだ!?

ジトっとした目を向けると、セイルが「仕方ないですね」とばかりに、優しい目を向けてきた。

「ミヅキ。貴女は手加減などしない性格でしょう? そして、結果のみを求める人です。そのための手段の多くは、表沙汰にできないものばかり。貴女の性格の悪さと執念深さを延々と語られた上で、『ハーヴィスへ報復に向かった』と言われたら、絶望しますよ」

「貴族や王族だって、叩けば埃が一杯出るじゃん! 性格が良い人なんて稀でしょ!?」

「政は綺麗事だけで成り立ってはおりませんので。その必要のない貴女が何故、嬉々として裏工作に興じるのでしょうね? 間違いなく、個人的な感情も含まれているでしょう?」

「……」

「……」

「……終わり良ければ全て良し、という言葉がありまして」

「お前の場合は遣り過ぎなんだよっ!」

アベルが突っ込む形で私達の会話に割り込み、ジークは無邪気な笑顔で「そうだな」と同意した。くそう……味方が居ねぇっ!

「まあ、イルフェナが『報復中止』とか言い出さない限り、どうでもいいんだけどさ」

ぶっちゃけ、これが最重要。ルドルフからの手紙にはそういったことが欠片も書かれていないので、魔王様にしろ、クラレンスさんにしろ、私を止める気はないのだろう。

と言うか、魔王様の場合は『止めたくても、止める術がない』と言った方が正しい。

何度も言うが、ルドルフは今回、私の味方なのだ……つまり、『ハーヴィスへの報復? 大・推・奨☆』という方針です。

止める気ゼロなので、手紙の遣り取りができることを秘密にしているに違いない。

騎士寮面子は本当に何も知らないから、探られても問題なし。次に疑わしいのはセシル達だけど、他国の王族や高位貴族達を証拠もなく疑うことはできないため、こちらも打つ手なしだろう。

一番疑われるのは間違いなく、灰色猫ことシュアンゼ殿下。次点でグレンと予想。ただし、こちらもそれは予想済みであり、フェイクの本命はシュアンゼ殿下だったりする。

魔王様からストップがかかることを予想し、誤魔化しをお願いしたところ、快く頷いてくれたんだよねぇ……。寧ろ、疑われたことを幸いに、言葉と態度で魔王様を翻弄する気満々とみた。

そちらは任せたぞ、灰色猫!

魔王様からの説教はルドルフも交えて、皆一緒に受けような!

「ん? ということは、ミヅキはハーヴィスの態度に怒っていないのか?」

「うん。元から期待してないし」

意外だったらしく、ジークは不思議そうだ。アベルもそれは思っていたらしく、訝しげに私を眺めている。

……が、セイルだけは納得したような顔で苦笑気味。

「……ルドルフ様が楽しそうだから、ですよね?」

「「は?」」

「これまで、お留守番ばかりでしたから。今回、ルドルフ様は正真正銘、ミヅキの共犯者なのですよ」

ほら、とセイルが指差したのはルドルフからの手紙。その文章からは、楽しげなルドルフの様子がたやすく思い浮かぶ。

『ハーヴィスからの使者殿は話し合いの前に、クラレンス殿の手引きによって、ミヅキの友人達から話を聞いたらしい』

『クラレンス殿曰く、【少しでも魔導師について知っていた方が良いと思いまして】とのことだが、絶対に嘘だ。どう考えても、恐怖を事前に植え付けたに過ぎん』

『自国の恥になるようなことも含まれる以上、一応は暈して話したらしいんだが……その結果、ミヅキの所業がより浮き彫りになったようだ。お前、めでたく恐怖の対象に昇格したぞ』

『そして、それを誰も否定しない。エルシュオンが居ればフォローしたのかもしれないが、使者殿に付いていたのはクラレンス殿だ。この時点で煽るだけだと判るだろう』

『話し合い前の時点で、使者殿の顔色はたいそう悪かった。俺も同席していたが、エルシュオンに全面的に場を譲っていたから、最後くらいしか参加していない』

『俺、傍観者。とても傍観者。ハーヴィスの使者殿さえも、最後に口を出すまで俺の存在をろくに気にしなかったほどに空気。でも、エルシュオンが言いたい放題の親猫根性全開だったから、超楽しい♪』

『お前が何も言わずに家出したことが衝撃的だったのか、エルシュオンは始終イラついていた。勿論、威圧は全く抑えきれていない。と言うか、最初から抑える気がなかった模様』

『エルシュオン、激おこ。俺、楽しく傍観。使者殿、エルシュオンの威圧と機嫌の悪さと、言い訳できないハーヴィスの状況に顔面蒼白。グレン殿とセリアン殿、達観した表情でエルシュオン達を眺める』

『なお、エルシュオンの【うちの子、家出しちゃっただろ!】が本日の迷(※誤字ではない)台詞。当たり前のように吐かれた言葉に、使者殿は当然、困惑。その他の人々は生温かい目で、エルシュオンの奇行を放置』

『と言うか、エルシュオンが一番怒っていたのは、お前が家出したことだった。はっきり言って、使者殿は八つ当たりされただけ。しかも、それを自国に報告しなければならないという、罰ゲーム付き』

『可哀そうだなー、気の毒だなー、哀れだなー! とは思ったけれど、それ以上に面白かった。ハーヴィス、ざまぁ! 盛大に混乱しやがれ!』

『あ、最後に俺がとどめを刺しておいた』

『奴らはゼブレストを嘗めてるみたいだが、これでも一国の王だからな。きっちり、抗議はしないとな……! お前のことも【エルシュオンにしか懐かない、凶暴な黒猫がハーヴィスを狙っているんだよ】と紹介した上で、【俺もミヅキを止めない】と宣言しておいた』

『正式な話し合いの場で、王としての言葉だからな。エルシュオンは元から頭に血が上っていたし、俺はそれを判った上で逃げ道を塞いでおいた。つまり、もはや魔導師を止められる奴が存在しない!』

『使者殿はそのまま気絶しちゃったんだけどさ? いつ、ハーヴィスはその事実に気付くんだろうな?』

以上、ルドルフの手紙から抜粋。『傍観者でいた』という割に、ルドルフは話し合いをとても楽しく聞いていた模様。

これを読んでも判るように、ルドルフは煽ることこそしているが、止める気配は全くない。情報を与える振りをして、更に追い込んでいるだけである。

楽しそうで何よりだ、親友よ。

その場に居られなかったことが、ちょっとだけ残念ですよ……!

「ああ、確かに」

「ルドルフ様、すっげぇ楽しそうだな」

「ずっと、お留守番でしたから。立場的には仕方がないと判っていらっしゃいましたが、ルドルフ様とて、ミヅキと一緒に遊びたかったんですよ」

納得の表情のジークに、微妙な表情のアベル、主が楽しそうで何よりですと言わんばかりのセイル。

誰もハーヴィスの使者のことなんて、気にしてません。精々が『魔王様、はっちゃけてるな』とか、『ルドルフ、超楽しそう。良かったね!』程度の感想オンリー。

……生贄紛いの使者への気遣い? ねぇな、そんなもの。

「ま、これでこちらも計画通りに動けるわ。明日あたり、早速、行こっか?」

さあ、ハーヴィスに恐怖伝説を築きましょう?