軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

弄んでこそ、魔導師です

――ガニア・転移法陣付近

「じゃあ、俺はここで。頑張って……というのも妙な感じだけど、気を付けて」

「ここまで運んでくれて、ありがとうございました! たった今、ポイ捨てされた荷物一同、激励を受けたと解釈して頑張ってきます!」

「え……いや、その」

「まさか、マジで『荷物扱い』とは思いませんでしたからね」

「ええと……その、ルーカス様にも悪気はないから! 君達を同行者にできない以上、連れていく『何か』にしなければならなかっただけだからね!?」

顔を引き攣らせたヴァージル君とて、それ以上のフォローのしようがないのだろう。精一杯『仕方なかったんだよ!』と訴えてはいるが、視線を微妙に逸らしている。

なお、こうなった原因はルーカスだったり。

『ヴァージル。王都に戻ったら、ガニアに向かってもらうが……ガニアへの転移法陣を出たら、近くにこいつらを捨てて来い』

『捨てて来い』。うん、確かにルーカスはこう言った。ただ、転移法陣を通る以上、荷物や同行者の申請は必須。他国に赴くわけですから、当然ですね!

さすがに、相手国であるガニアにも協力者が必要だと思ったのか、ルーカスは速攻で連絡を入れ、ガニア側の許可を取っていた。

なお、その相手はテゼルト殿下であ~る。

どうやら、私からの手紙が来てすぐにガニアへと書を送ったらしく、テゼルト殿下とは直通で手紙の遣り取りができるようになっていたみたい。

『今回、互いに狙われる可能性があるんだ。情報共有は少しでも早い方が良い』

以上、ルーカスの言葉である。

テゼルト殿下の方もシュアンゼ殿下経由で私の手紙を見ていただろうから、あっさりと了承した模様。と言うか、どちらかと言えば狙われそうなのはガニアなので、いち早く味方を作ることにしたのだと思う。

キヴェラとしてもハーヴィスからは距離があるため、ガニアからの情報提供はありがたい。

そう、それは判る。納得もしよう。だけど、手紙を送る建前として使われた案件が『魔導師の被害状況について』ってのは、どういうことだ……?

抗議すれば、ルーカスは呆れた目を向けるなり鼻で笑った。

『お前、自分の与えた被害の大きさを知らんのか』

『そもそも、先の一件がある以上、ガニアとしては無視できない内容だろう』

『季節の挨拶など、白々しいだけだろう。今回の一件は知っている者が限られる。ならば、共通の話題が最適というものだ』

『お前が各国でやらかしていることなど、今更じゃないか。己の行動を顧みろ、珍獣』

ルーカスの言い分に、私は反論する術を持たなかった。確かに、被害に遭ったばかりのガニアの興味は引けるだろう。

『貴方の身近な恐怖・魔導師さん』は都市伝説並みに恐怖のネタとして広まりつつあるので、少しでも情報が欲しいというのは各国共通の認識だろうね。うっかり、地雷を踏みたくないだろうし。

でもね、釈然としないのも事実なの。

私は望まれた結果を出しているだけなんですが……?

思い浮かんだのは、元の世界のネット掲示板。この世界にあったら、『魔導師被害状況報告スレ』とか立ちそう。多分、同時進行で『親猫様を労わるスレ』とかもできるんだろうな。

なお、ルーカスは割とガチで労わりのお手紙を書いたらしい。曰く、『精神的な被害が大きそうだから』。

一般的には『王弟夫妻処罰のあれこれ』が目立っているが、それだけではない――そこに持っていくための布石もあったと、ルーカスは気付いている模様。

ただ、あまり内部のことを突くのも失礼だし、教えてもくれないと判っているので、『魔導師にやられて大変でしたね』(意訳)的な、当たり障りのない文章選びをしたのだろう。うむ、賢い。

「とりあえず、俺はこのままテゼルト殿下を訪ねることになっている。魔導師殿達はどうするんだ?」

私達を不法投棄(※ガニアには内密に申告済み)したこともあり、ヴァージル君は私達の今後の行動が気になるようだ。

……が、実のところ『ハーヴィスとイルフェナが話し合い中』という可能性もあるので、即座に突撃する気はない。

「ん~……一応、情報収集と作戦を考えるために一泊、かな。イルフェナとの話し合いが終わってない可能性を考えると、下手なことはしたくないし」

「あれ、イルフェナに居る協力者と連絡が取れるのかい?」

「ハーヴィスの出方次第で、イルフェナの対応が決まるからね。それを教えてもらうために、手紙の遣り取りはできるよ」

万が一……いや、億に一だけど、ハーヴィスの使者がとんでもなく優秀という可能性もある。

何せ、ハーヴィスはほぼ鎖国状態。外交手腕がどれほどかなんて、誰も知らなかったのよね。

だから、『話し合いでイルフェナが納得する』という可能性もゼロではない。いくら何でも話が通じる奴が派遣されてくるだろうし、土下座する勢いで謝罪から入るかもしれないじゃないか。

「ルドルフも『イルフェナが納得するなら、決定に従う』って言ってたから、本当にイルフェナの決定次第なんだよね。私達の目的がいくら『ご挨拶』でも、何度も来たくないもん」

本音を口にすると、ヴァージル君は納得したような顔になった。

「要は、面倒なんだね? 魔導師殿」

「うん」

それ以外に理由がない。一回の『ご挨拶』で、できるだけ追い詰めておきたい……という気持ちだ。

現在の国の在り方……もっと言うなら、王家に反発する輩(?)が居る以上、時間をかけるのは悪手だ。次の襲撃がどこかの国で起きてしまう。

そうなる前に、ハーヴィス王家に決断させたいと、私は考えていた。出て来ないならば、引っ張り出すまで。

「『使者をイルフェナに来させる』なんて温いことを言わず、ハーヴィス王自身を引っ張り出して、公の場で言質を取りたいのよね。ほら、折角、皆もイルフェナに居るし!」

「え゛」

「まさか、『公の場』で『一国の王』が『他国の者達』を前に『己が発言に責任を持たない』なんて、言えないでしょ?」

ハーヴィスの自浄なんざ、期待できん!

ならば、『言葉に責任を持たなければならない状況』にするまでよ!

「味方皆無の上、国に信頼がないって、大変ね♪ 時間が経てば経つほど、最悪な状況に追い込まれていくんだから」

「……。ちなみに、王の言葉が守られなかった場合は?」

「各国から非難轟々の挙句、二度と繋がりなんて持てないんじゃない? 信頼できないもの。今回のことが解決しても、今後、擦り寄ってくる可能性がある以上、見極めって大事だと思う」

「なるほど、ハーヴィスは今回のことだけでなく、今後の付き合いも含めて、魔導師殿達に試されることになるのか……」

色々盛り込み過ぎと呆れるでないよ、ヴァージル君。勝手をした以上、それなりに『お土産』を用意しなけりゃ、帰り辛いじゃないか。

少なくとも、今回の『遠足』の必要性は主張できる。守護役達も同行している以上、私個人の見解にはなるまい。

「では今現在、イルフェナを訪れているだろう使者殿には一体、どのような役目が?」

「ん? 魔導師の恐怖とイルフェナ側の怒りを知ってもらうくらいじゃない? それを自国に伝えることも重要だね」

セイルの問いかけにも、さらっと返答。ぶっちゃけ、ハーヴィスからの使者の役目なんてそんなもの。一国を怒らせて、使者如きの謝罪で済むはずはない。

「直接関わった人達から魔導師の話を聞けば、少しは現実が見えると思うのよ。って言うか、少なくとも今回の襲撃を利用しようとする輩への牽制にはなる。だから、ハーヴィスは『今回の襲撃における、イルフェナへの対応』のみを考えればいい」

「ハーヴィス内部の争いについては? それでは一時、黙るだけだろう?」

「知らね。それ、他国は関係ないじゃん!」

そもそも、ハーヴィスの内部事情は他人事だ。ハーヴィスからすれば言い訳の一つであり、今回の裏事情のような扱いになるのだろうが、イルフェナや魔導師が出張る案件ではない。シカト、シカト。

「私達は『襲撃を利用しようと画策した奴の、思い通りに踊りたくない!』とは思っているけど、別にハーヴィスを正しい形にさせようとか、王家の味方をしようとか、鎖国を解除させようとは思っていない。イルフェナと私の気が済めば、後は無関係」

厳しいようだが、それが現実だ。サロヴァーラでの『あれこれ』(意訳)は私がティルシアを共犯にしたことへの見返りであり、他は魔王様経由のお仕事。

私は慈善事業なんて遣る気はないし、奉仕精神も持ち合わせておりません。寧ろ、ハーヴィスは嫌い。

何より、今回は絶対に魔王様経由のお仕事になることはないと思っている。

ルドルフを危険に晒し、護衛をしていた騎士達が謹慎処分になった元凶からの『お願い』なんて、魔王様は絶対に受けまい。

個人の感情優先と言われようとも、今回ばかりは『イルフェナという国』がその選択を後押しするだろう。国としても、良い感情などないのだから。

「ふふ。それでは『ご挨拶』が実質、裏工作とも言えるのですね」

「まあね。だから、言ったでしょう? 私は今回、ハーヴィスを滅ぼそうとは思わないよって」

「その方が『悲劇の国』として、人々の同情を買えたでしょうに」

「だから、やらないんじゃない! あの国は『加害者』だよ」

「ごもっとも」

共犯者の笑みで頷き合う私とセイルに、ジークは楽しそうな笑顔を見せ、ヴァージル君は顔を引き攣らせた。アベルは深々と溜息を吐いている。

そんな彼らの姿に、私はいい笑顔を浮かべた。

やだなぁ、私は魔導師だよ? 自分が加害者扱いされる可能性がある以上、立ち回りには気を使いますとも。

精神年齢幼女の可能性があるアグノスはともかく、無責任なハーヴィス王に慈悲はない。死ぬよりも生き恥を晒してもらった方が、後々、楽しそうじゃないか。

「お前、本っ当に性格悪いわ」

煩いですよ、アベル君! 達観した表情になっている以上、すでに諦めはついているってことでしょうが。今更ですよ、い・ま・さ・ら!

キヴェラで荷物扱い――本当に、荷物扱いされた!――された時だって、ルーカスは笑顔で私に『危険物(生物)』って札、貼り付けたじゃん! あれ、絶対に本心だからね!? 今後を見越して、楽しんでたからね!?

それに。

私は元から、『世界の災厄』だもの。……自国のために頑張れる王がハーヴィスに居ないなら、関わる必要なんてないに決まっているでしょ。