軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

予想外のエンカウント

ハーヴィスに『ご挨拶』に向かった数日後――

「貴様は一体、ここで何をしているんだ」

キヴェラのとある町にて、ルーちゃんに捕まっております。いや、実際に私を見付けたのはヴァージル君なんだけどさ?

現在地はルーちゃん達が泊まっている宿の部屋。秘密のお話上等! と言わんばかりに、防音・防犯対策ばっちりさ。お忍びに最適な、素敵なお部屋です。

……。

だ か ら 、 連 れ て 来 ら れ た ん だ け ど ね 。

ぶっちゃけ、拉致に近かった。サイラス君経由で現状報告が成されているようだから、私の姿を目にして即、『他の奴にこいつを見られたらヤベェ!』的な判断を下したのだろう。

現在の私は家出という名の遠足中。目的地はハーヴィスですよ♪ 遊ぶ(意訳)場所もハーヴィスだけどな……!

「え、楽しい旅のための食糧買い足し」

嘘ではない。同行者達はもれなく顔が良いため、超目立つのだ。よって、私とアベルが手分けをして買い出し中だった。

「魔導師殿、君が居たのは酒場なんだが……」

「そだよ? 私を含めて、参加者は全員、成人済み。ろくに転移法陣を使えない以上、時間がかかるのは当然。今夜のお楽しみは炙ったベーコンと美味しいお酒です」

「危機感がなさ過ぎだろう!」

「魔導師殿、少しは状況に合った行動をしようか……」

ルーカスは怒鳴り、ヴァージル君は頭を抱えている。

何だよー、これまで苛立ちマックスな状況にあったんだから、少しくらいはストレス軽減に努めてもいいじゃないのさー。

……勿論、これも事実である。

何せ、同行者にはセイルがいる。ルドルフを危険な目に遭わされた挙句、襲撃時、自分は何もできなかったと痛感しているヤバイ奴がいるのである。

そういった意味では、いつものように王族御用達とも言える転移法陣が使えないのは幸いだった。惨殺事件がハーヴィスで起きてしまう。

なお、転移法陣が全く使えないわけではない。商人達が使う程度のものはアル達の権限で使わせてもらっている。

ただし、どうしても個人的な権力の使用になるため、直結でハーヴィスや他国の王都近辺に出るようなものは使えないんだそうな。

ゆえに、『野営や宿泊ありの、数日をかけた遠足』なのです。なに、交わす会話の内容がちょっと殺伐としたものになるだけさ。基本的に楽しい集団行動ですよ。

「って言うかね、ルーちゃん達こそ、何でここに居るのさ?」

思わず、質問を返す。どちらかと言えば、そちらの方が疑問に思うだろう。

ここはキヴェラの王都ではなく、アルベルダに近い場所にある町。寂れているとは言わないけれど、そこまで人の行き来がある場所でもない。

どちらかと言えば、旅人達が立ち寄る場所なのよね、ここ。王族直々の視察があったり、大きな事業に携わるようにも思えない。

そういったことを口にすれば、ルーカスは暫し、視線を泳がせ。

「……エレーナ達の墓参りの帰りだ」

ぽつり、と理由を告げた。

「俺の行動はこれまで制限されていた。勿論、それも当然だとは思う。だが、貴様がリーリエの一件で色々とやらかした結果、『国に貢献することこそ、罪の償いとなる』と、父上が言いだされたんだ」

「あ~……成る程。まあ、キヴェラ王の立場からすれば、『自分達にも非があった』とは言えないか」

「個人的な場において、謝罪をしていただいた。それで十分だったんだが、まあ、他の奴らも同じ意見だったらしくてな……」

言いながらも、キヴェラ王からの謝罪の時と違い、ルーカスは忌々しげだ。

不思議に思って首を傾げると、今度はヴァージル君が口を開く。……が、こちらもルーカスと同じく、あまり機嫌は良くなさそう。

「君への対抗策という意味もあるからだよ、魔導師殿。勿論、己の過去を悔い、ルーカス様を表舞台に戻そうとする方達もいた。だが、それだけじゃない」

「ああ、私がルーちゃんと仲良さげにしてたことから、ルーちゃんの価値を知ったってやつ?」

「その通り! ……正直なところ、ルーカス様の努力を軽んじられたような気がして、不快に思えて仕方ない。君のご機嫌取り、という捉え方をされたからね」

「よせ、ヴァージル。今の俺にはそれだけの価値しかないということだ」

「しかし……! ……。申し訳、ございません。最も悔しい思いをされているのはルーカス様ですよね」

「気にするな。お前を含め、憤ってくれる者がいる。それだけで十分だ」

ヴァージル君は未だ、悔しそうだったけれど……ルーカスの言葉に表情を緩めた。

当事者であるルーカスが文句を言わない以上、彼の騎士であるヴァージル君がいつまでも愚痴を言うべきではないと判っているのだろう。

そんな二人の姿に、私も安堵する。エレーナとて、彼らの現状を知れば安堵するはずだ。

「ふふ、それなりに上手くやっているみたいで安心した」

主従の姿に和みつつ口にすると、二人は揃って私へと視線を向ける。

「お前の周囲が物騒過ぎるんだ。王族でもないのに、何故、騒がしい」

「私のせいじゃないもん! ……半分くらいは」

「はぁ……。俺が言うのもなんだが、エルシュオン殿下経由で依頼された仕事が原因か?」

「まあ、そんなところ。基本的に遣り方が私に一任されるから、私が騒動の中心にはなるけどね」

部外者だからこそ、できることがある。そもそも、私に仕掛けてくるのは必ず『獲物』の方。

「民間人の魔導師……なんて、選民意識や野心がある奴からすれば、接触しておきたい存在なのよね。そこで私を侮るから、あっさり足元を崩される」

「世間的には、『断罪の魔導師』だからな。まあ、それを信じる者はお前と親しくないか……お前自身に『親しくなる価値がない』と判断された者だろう」

「ルーちゃん、辛辣!」

「事実だろうが。だいたい、無報酬で動くような奉仕精神などあるまいに」

呆れた眼差しを向けてくるルーカスに、私はにっこりと笑った。ヴァージル君は多少、複雑そうにしながらも、やはりルーカスと同じ目で私を見ている。

当たり前じゃん? 魔導師って『世界の災厄』が定説よ?

それを割と理解しているのが王族の皆様なのですよ。と言うか、私の本性を見抜く目を持っているといった方が正しいか。そういった人達って、魔王様の善良さにも気付いていたみたいだもの。

……王族の持つ人脈の何が怖いって、『他国を頼れること』なんだよね。他国の者であろうとも、『王族』は無視できないのです。今回で言えば、ハーヴィス王妃からの書がそれに該当。

勿論、その分しっかり借りを作ることにはなるけど、対抗勢力にとっては予想外の人材が派遣されてきたりする。そこから切り崩しが始まるのだ。

その最たる者が今の私。居候をしている分、しっかりとイルフェナのために働きますよ!

もっとも、魔王様が善良過ぎる人なので、『借り』というほどのことにはなっていないようだけど。

まあ、それもあって『魔王様、実は善人説』なんてものが広まってきたのですよ。貴族全体にそれが浸透しないのは偏に、私がやらかしている『あれこれ』がろくでもないことだからであ~る。

望まれたのは結果なのです。私が遊ばせて貰っても問題なし。

舐めてかかった挙句、痛い目を見る奴らのなんと多いこと!

『チョロ過ぎだろ、馬鹿じゃね!?』と思ったことも、一度や二度ではない。アル達曰く『身分がないからこそ、抑え込めると油断するのでしょう』とのこと。

――それを判って魔王様に依頼し、私を送り込んでいるのが各国の王族達。

どれほど優しげに見え、その政治の在り方が善良であろうとも、彼らが選ぶのは国である。生涯をかけた命題の前に、『多少の犠牲』(意訳)なんて気にするものかい。

『玩具(=自国のお馬鹿さん)で遊んでいいから、お片付けをお願いね?』

『うん、判った! 親猫様の評判改善、宜しゅう♪』

……現状、こんな感じよ? マジで。使い勝手の良い駒扱いされようとも、私にとってもメリット有りなので、何の問題もない。個人的な人脈だってできていくもの。

『断罪の魔導師』はこうやってでき上がったのです。無報酬で動いたように見えるからそんな風に呼ばれているけど、形のない報酬はきちんとあるのだ。

「……まあ、勘違いしている人も多いみたいだけど」

「それが今回、ハーヴィスで暗躍している者か」

「多分ね。私は基本的に『ターゲットしか狙わない』から、報復がアグノス、もしくは王族止まりとでも思っているようだけど」

クスクスと笑いながら告げると、主従は顔を見合わせて。

「ありえん」

「それはエルシュオン殿下の意向に沿っているだけだろう?」

揃って即、否定した。ですよねー、セシル達だってそんなにおめでたいことは言わないし。

「面倒がって放置することはあるだろうが、お前が『許す』という選択をすること自体、信じられん。『猫は祟る』と口にするくらい、執念深いだろうが」

「そだよ? だから、お仕事は魔王様経由なのにね」

「あ~……それを知らないから、ハーヴィスはエルシュオン殿下への襲撃なんて画策したということかい? 魔導師殿」

「そうでなければ、最強の抑止力である魔王様を狙わないでしょ。アグノスはともかく、裏工作に一生懸命な連中は最初から間違ってるのよ」

納得、とばかりに頷く主従。どうやら、魔王様への襲撃を疑問に思っていたらしい。

まあ、それも仕方がない。キヴェラは過去、魔王様に助けられたようなものなので、『魔王殿下負傷→魔導師激怒の挙句、国滅亡の危機』という流れがあると予想できる。

言い換えれば、『世界の災厄』を自国に招く自殺行為にしか見えないわけだ。だからこそ、『何故、そんな真似を?』とでも思っていたのだろう。

「サイラスから連絡を受けていたが、お前に対するハーヴィス側の認識の甘さが発端か」

呆れを隠さずにルーカスが言えば、ヴァージル君も深く頷いている。

「まあ、どんな理由があっても許さないけどね」

ニヤリとしながら宣言すれば、二人は揃ってジト目になった。

「何をするつもりだ? このまま、ハーヴィスに報復に行くと思っていたが」

「ああ、だから『こんな所で何をしている』って言ったんだ?」

「当たり前だろう! お前が何をしでかすか気になっている国も多いというのに、呑気に旅を満喫する奴があるか!」

「いやいや、今回は『ご挨拶』程度だって! それにさ、『イルフェナや魔王様に対し、何らかの行動を起こす時間があった』ってのも必要かと」

私の意図することを察したのか、ルーカスは表情を変えた。

「……! そうか、それもハーヴィス側に謝罪の意思がない証明になるか」

「私がイルフェナを出てから数日あったんだから、報復待ったなしでも構わないんでしょうねぇ」

私が『ご挨拶』に行っている間に、素直にイルフェナと魔王様に『ごめんなさい』ができたならば、それだけで済ませようじゃないか。

私は超できる子を自称しているので、飼い主からの『待て』は聞きますとも。

「まあ、今回は家出しちゃったから、『待て』なんて聞けないけどね! だから、『ご挨拶』は絶対に決行。協力者達もそれを期待してる」

「「は!?」」

『家出』という単語に驚いたのか、主従が私をガン見した。

「マジ! だから、親猫様が超怖い! 絶対に、激おこです!」

「き、貴様、何という真似を……」

「ハーヴィスの使者が来たとしても、そんな魔王様に会わなきゃならないなんて可哀そうですね! なお、過去の私の所業をバラしてくれる人々もいる。恐怖倍増です!」

ざまぁ! と言わんばかりに上機嫌な私とは対照的に、ルーカス達は呆気に取られている。

はは、やだなぁ、ルーちゃん。私が『何もなくイルフェナを出てくる』なんて、優しい真似をするはずないでしょー?

「何を言うか判らないけど、状況の不味さと魔王様の威圧に恐れ戦け! 泣き叫べ! それくらい情けない姿を晒せば、皆も少しくらい優しい目で見てくれるさ」

「いや、それどう考えても、イルフェナが激怒しているようにしか思えないんじゃないかな? 魔導師殿、エルシュオン殿下を恐れさせたくはないのだろう!?」

「ハーヴィス相手なら、それくらいしてもいいと思う。あそこ、駄目だわ。こちらが圧倒的に優位と思い知らせなきゃ、状況を理解しないって」

これまでの『あれこれ』を思い出し、やさぐれかけた私の態度に何かを感じ取ったのか、ヴァージル君は口を噤む。

マジだぞ、ヴァージル君。ハーヴィスはルーカスのことも舐めてかかる可能性があるから、初手でビシッといくべきだ。

「はぁ……ハーヴィスはそこまで愚かなのか」

「協力者達がノリノリの時点で、『要らねーな、あの国』って思われていることは確実だと思う」

「……。お前の言い方もどうかとは思うが、今後の参考にしよう」

顔を引きつらせるでない、ルーちゃん! 事実! これは事実ですからね!?

ルーカスは暫し考え込むと、一つ溜息を吐いた。そして、私へと向き直る。

「お前の同行者をここに連れて来い。今夜はここに泊まり、明日、俺と共に転移法陣を使え。そうすれば、多少なりとも時間短縮になるだろう。丁度、ガニアに書を届ける予定があるから、そちらもヴァージルに同行すればいい」

「お? 協力してくれるの?」

「エルシュオン殿下があまりにもお気の毒だからだ!」

「お、おう……心配するのはそっちか」

どうやら、ルーカスにも『親猫の苦労』(意訳)が理解できてしまったらしい。

なお、これを知っている人々は魔王様に対し、尊敬の念を抱くそうな。……『よくぞ、【あれ】の面倒を見ていられますね』的な意味で。

「宜しいのですか? ルーカス様」

「構わん。そもそも、今回の件に関して我が国の対応は俺に一任されている。ここで恩を売っておくべき相手は、こいつだろう。ハーヴィスには大して恐れる要素がないが、こいつは何をしでかすか判らん」

「ああ、まあ……そうですね」

「とりあえず、『挨拶』と言っているんだ。いきなり滅亡はしないだろう」

主従は再び私に目を向けると、揃って深々と溜息を吐く。その『頭が痛い』と言わんばかりの態度に、私は彼らにジト目を向けた。

何さー! 仕掛けてきたのは向こうじゃないかよー!

私、今までちゃんとお留守番してたもん! 状況が整うまで、良い子にしてたもん!

……。

いつもよりは。

少なくとも、破壊活動やお礼参りは行っていない。精々、藁人形に思いを込めて釘を打ちまくっていただけだ。

「じゃあ、皆と合流してここに連れて来るわ。今夜は飲もうぜー!」

「ば……っ……馬鹿者! 何を考えている!」

「楽しい楽しい飲み会のことー! ついうっかり、要らんことまで話しちゃうかもなー!」

お酒は美味しく楽しく飲むものなのです。ちょっとばかり楽し過ぎて、今回の一件を詳しく喋っちゃうくらい、口が軽くなるかもしれないだけさ。

ひらひらと手を振りながら部屋を後にする私の背に、主従の会話が追いかけてきた。

「何故、あいつは物事をああも楽観的に捉え過ぎるんだ……」

「情報提供という意味では感謝できますが、素直に喜べません……」

気にするなよ、ただの飲み会なんだから。楽しもうぜ?