作品タイトル不明
親猫、(嫌な)予感的中
「……で。その『ご挨拶』はアンタ一人で行くつもりなの?」
下手に人を誘えないことは判るけどね、と付け加え、宰相補佐様は私に答えを促してきた。
ですよねー、私の単独行動が最良とは判っていても、さすがに許してくれませんよねー。
と言うか、宰相補佐様の懸念事項も判るんだ。宰相補佐様は個人的な感情のみで、この質問をしているわけではないのだから。
『気が付いたら、魔導師が居なくなっていた』なんてことにした場合。
……騎士寮面子や守護役達の力不足を指摘されてしまう可能性がある。
私としても、これはちょっと困る。皆の評価に響くだけでなく、私の今後にも影響してしまうからね。
ぶっちゃけ、『守護役の交代』とか『監視環境の見直し』なんてことになる可能性もゼロではない。魔導師は『世界の災厄』……危険物扱いなのです。普通の異世界人以上に監視は必須。
私は今後も居心地のいいこの場所、仲の良い協力者達と共に、キャッキャウフフと楽しく過ごしていきたいのだ。手放す気なんて、欠片もない。
こう言っては何だけど、私が好き勝手できる――勿論、ある程度の行動制限あり――という意味では、今の面子がベストメンバー。
私の『遊び』に付き合ってくれたり、すすんで裏方に勤しんでくれる、大変ありがたい皆様なのです。魔導師の功績って、彼らと魔王様込みの評価だもんね。
なお、気付く人はあっさり気付くので、他国からは騎士寮面子も立派に警戒対象。
『最悪の剣』というだけでなく、『魔導師の共犯者』という方向で。最近はこちらの方に重きを置いている人もいるはず。
だからこそ、いくら魔導師が功績を上げようとも、彼らが過小評価されることはない。そこを不審に思えば……まあ、舞台裏を察せるわな。
気付く人は気付いている、この状況。益々、騎士寮面子が『ヤバい奴』認定されたのは言うまでもない。
なお、主に警戒しているのはキヴェラであ~る。何だかんだとサイラス君から情報がもたらされる機会が多いので、『やっぱり、キヴェラ敗北の裏にはイルフェナの暗躍が!?』と疑われている模様。
……。
ごめん、遊びまくったのは私だけ。さすがに皆は無関係。
いくら何でも、あそこまで国をコケにするシナリオは魔王様が許すまい。
余談だが、ルーカスは私単独の犯行であることを信じて止まないそうだ。曰く『陰湿さや優秀さならば他の者も持ち得るが、自分が楽しむことを最優先にする馬鹿はお前しかいない』とのこと。
やはり、『砦陥落!』や『大好評・死霊の町』、『城崩壊の危機! 生き残れるか!?』といったお遊び要素のインパクトが強かったらしい。
『結果はともかく、遊び過ぎなんですよ! あんたの性格を知っていたら、絶対に誰の計画かバレます!』とはサイラス君談。彼の中では『ろくでもないこと=魔導師の仕業』という公式が成り立っているに違いない。
何だよー、結果に繋がるならいいじゃん!
仕事の合間の息抜き、モチベーションを上げるためのお遊びですってばー。
まあ、ともかく。
宰相補佐様は『チーム騎士寮面子』(魔導師含む)の今後を心配しているのだろう。
イルフェナとて一枚岩ではないので、『不甲斐ない』と言われてしまえば、魔王様への襲撃を許したこともあって、反論する根拠に欠けるのだ。今回ばかりは、こちらが圧倒的に不利だろう。
……だが今回、私には最強の助っ人達が居るわけでして。
「ん~……だから私は『この国に来てくれた皆のこと』を『救世主』と思っているんですよ」
「へぇ?」
「だって、立場的、身分的にも、放置できない人々じゃないですか。『民間人扱いの魔導師』よりも、『守らなければならない人達』ですよね?」
「……」
宰相補佐様は面白そうに私の話を聞いている。勿論、視線で先を促すことも忘れない。
「自国の王族を守ることは当然、勿論、国としても警戒しなければならない時期。さて、騎士寮に暮らす黒猫に構っている暇なんて、ありますかね?」
「だけど、守護役はそういうものよ。まあ、今回に限って言うなら、この国の守護役は自国を優先するでしょうけどね」
「当然ですよね。主である魔王様が襲撃されたんだもの」
……だからこそ、私が抜け出す隙がある。残る守護役達は『他国の者』オンリー。……今のイルフェナで好き勝手に動くことは不可能だ。
ただし。
――『国』もしくは『主』から命を受けていれば、そちらを優先して動くだろうけど。
「いるんですよねぇ……私への同行が可能というか、そんな命令を受けちゃっている人が!」
にやり、と笑う。宰相補佐様も私の言いたいことが判っているのか、満足そうに頷いた。
「まず、うちのジークね。ああ、勘違いするんじゃないわ。別にアンタの協力者というわけじゃないの。ただ、アンタの破天荒ぶりを陛下はご存じだから、『魔導師に付き従え』って言われてるわ」
「あら、随分と曖昧な」
「それでいいのよ。だって、アンタに付いて行くだけでも状況が判るんだもの。それに、守護役としての役目は当然だけど、国への報告の義務もあるわ。だから……『敵』が襲ってきたら当然、応戦するわよ。国への報告のため、生き延びなければならないもの」
「いや、ジークに報告させるって難易度高いんじゃ……」
ジーク君は純白思考の脳筋なので、報告はお粗末を通り越してお子様の日記レベル。いくら何でも、単独任務の報告書には向かないだろう。
だが、それはカルロッサ側も想定内だったらしい。宰相補佐様はほっそりとした人差し指で、私の額を軽く突いた。
「そのためのアンタでしょうが。事情を知らない人には『カルロッサの守護役からの報告』になるけれど、戦力をあげるんだから、こちらにも情報を共有して頂戴」
「納得した!」
ジークにはそれしか期待できないもの、と宰相補佐様は肩を竦めた。ジークも特に不満はないらしく、「楽しそうだな」なんて、呑気に言っている。
さすが、長年の付き合いがある従兄弟同士。お互い、こういった遣り取りは慣れているらしい。普段はそこにキースさんを挟むことで、『英雄予備軍・ジークフリート様』が作り上げられているのだろう。
……。
そ れ で い い の か 、 カ ル ロ ッ サ 。
「諦めたのよ」
「あの、オネェ? 心を読まないで? 溜息を吐くと、幸せが逃げるって言うよ?」
「誰もが一度は考え、諦めてきた道よ。解決方法があるなら、とっくに試しているわ!」
「……」
確かにな。
「で? 他には誰よ?」
「え、ゼブレストのセイルが来る予定です。今回、めでたく当事者になっているルドルフが『絶対に行け! 報告を楽しみにしている』っていう方向なので」
素直に暴露すれば、宰相補佐様だけでなく、他国からのお客様達も唖然となった。
「ちょ!? 巻き込まれただけとはいえ、一応、今回の襲撃に遭った方の筆頭護衛じゃない!」
「いや、いつもお留守番なので、ルドルフが拗ねまして。本人は動けないし、ハーヴィスへの牽制としてイルフェナに居る分、ヤバイ奴を送り込みたいようなんですよね」
「……。セイルリート将軍って、そういう人なの?」
「『サクッと殺っちゃいましょう』という殺伐思考をお持ちですが、何か。ちなみに、鍛錬であっても急所や喉元を狙ってくる、おちゃめな人です。自分に素直で、殺意は標準装備。優しげなのは顔だけだ」
「そ、そう……」
顔を引き攣らせて、宰相補佐様は沈黙した。彼の身分的に、セイルに会ったこともあるだろうけれど……奴の見た目は『優しげな笑みを湛えた、麗しの騎士様』だ。まさか、中身がそんなのとは思うまい。
「そこに私が加わるんで、中々に戦闘能力の高いメンバーになりました。残ってもらう友人達の身分も『それなり』(意訳)なので、魔王様はホスト役をせざるを得ません。何せ、彼らとの接点がほぼ、私と魔王様の二人に限られていますから。私が居なければ、魔王様しか該当者がいませんよね」
魔王様への足止め工作もばっちりですよ! と胸を張れば、宰相補佐様が呆れたような目を向けてくる。
「アンタ達ねぇ……それ、後で叱られるわよ?」
「その時は皆でお説教を受ける所存です! なお、ルドルフにも『お願い』をしてあるので、一緒に叱られる予定」
「『叱られる予定』じゃないでしょ! まったく、もう……。保護者が目を離した途端、こうなんだもの。親猫様の苦労が知れるわね」
「なんでも、襲撃で傷を負った際、気を失うまで私のことを気にしていたらしいです……『黒猫が野放しになる、どうしよう!?』的な意味で」
「普通はそんなことを思わないわよ……!」
「ちょ、頭を掴まないでくださいってば! 痛いって!」
今更です、いつものことなのです……!
だから、頭をギリギリ掴むの、止めてくんね!?