軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

もう1人の異世界人

現在、イルフェナの客室にはバラクシンからの使者夫婦がおみえです。

迎え撃つ……じゃなかった、お迎えするのは魔王様、今回の担当者ヴォリン伯爵、アル、クラウス、セイルに私、他には護衛の騎士数名。

正式な訪問な上、魔王様が王族なので近衛騎士の皆さんが警備にあたってます。初めて見たな、そういえば。

で。室内の面子を紹介しておいて何ですが。

帰りたいです、マジで。

最初から問題行動するなんて予想外ですよ!?

ちょ、教育係は何やってたのさー!!!

ファンタジー系乙女ゲームの脇役ってこんな気持ちだったの!?

※※※※※※※

事の起こりは数分前。

外交に直接関係のない私と守護役連中が魔王様に呼ばれて部屋に来た時から始まった。

外交として来る『ついで』に異世界人同士の交流を望むとの事だったからね、関係のない私達は最初からその場にいるわけにはいかない。

部屋にはテーブルを挟んで魔王様と夫婦が座っている。魔王様の背後にはヴォリン伯爵がいますねー……ああ、外交の資料を手渡す為にそこに控えてたんですか。今回は秘書のような役割なのですね。

「呼びつけてすまないね、ミヅキ」

「いいえ、バラクシンの方々が私との面会をお望みなのですから。御世話になっている方の御願いを無下にするわけにはいきませんよ」

「そう言ってくれると助かる」

私と魔王様の発言は明らかに『迷惑だけど仕方ねー、イルフェナの顔を立ててるだけで望んでねー』をオブラートに包み損ねてます。聡い人ならこれで退室を申し出る。実際、何人かは微妙に気配が動いた。

部屋に入っても魔王様の許可なく座るなんて真似は出来ませんよ、ヴォリン伯爵も立ってるし。

この場で一番偉い魔王様の許しを得て初めて着席できるのです。着席できるのです、が!

「貴女が異世界の方? お会いできて嬉しいわ! さあ、早く座って!」

……。

何 故 お 前 が 許 可 を 出 す !?

親しいならまだしも初対面だよね? 一応、公の場だよね?

こんな発言をするってことは彼女が元異世界人か。ふんわりとした金茶の髪に大きな同色の瞳……日本人じゃないな、モデルとかやってそうな美少女ではあるけど。

「アリサ、彼女を急かすものではないよ。イルフェナの皆様にも失礼じゃないか。殿下、申し訳ございません」

「……余程楽しみにしてこられたのだろう」

「はい! 私、自分以外の異世界人に会った事がなくって」

だーかーらーな? その人が謝罪してるのに何で元凶が何もしないのよ!?

空気読め? 常識外れにも程があるだろ? ついでに魔王様は『許す』なんて一言も言ってないのだが。

え、なにイルフェナ嘗められてる?

来るのは王族じゃないって聞いてたけど、魔王様より格上ですか?

そんな事はないよね? 少なくともこの態度でそれはありえんぞ?

ちら、とヴォリン伯爵を見ると深々と溜息を吐いて軽く頷いた。

……ずっとこんな調子だったわけですね?

にこりと笑いながら魔王様の傍に立つとアル達は魔王様に深く一礼した。

「まあ、どうしたの? 遠慮せずお座りになって?」

「殿下、着席の許可をいただいても?」

「え?」

きょとん、とした顔になる美少女。説明はすぐにしてあげるから今は無視です、無視。

「君は私の客人扱いだよ? それに呼びつけたのは私じゃないか」

「ですから、お伺いしております。国に属さぬ部外者であり、客であろうと民間人である私が王族の方と同席するなど不敬の極み。本来は同席どころか同じ部屋に在ることさえ許されぬと知っておりますので許可を戴きたく思います」

「そうだね、個人的な場ではないものね」

「はい。その場合はそちらのヴォリン伯爵様にも着席の許可を与えて頂きたく思います。この場で最も身分の低い私が座る以上は……」

「勿論だよ。ヴォリン伯爵、君も座ってくれるかな」

「はい、お心遣い感謝いたします」

一礼してヴォリン伯爵は今まで立っていた場所に用意された椅子に座る。それを確認して私も魔王様から一歩退いた位置に座った。

『同じ立場じゃない』のです、ヴォリン伯爵が一歩引いている以上は私が近くに座るなんて真似できん。

アル達は私の守護役という立場を明確にすべく座った私の背後に控えている。勿論、近衛騎士達の邪魔にならないような位置ですよ? 仕事が違うのです、邪魔になってはいけません。

「随分と……身分差を明確にしているのですね」

バラクシンの使者が呆れと賞賛が入り混じった声を洩らす。

対して魔王様は優雅に微笑み膝の上で手を組んだ。

「そうかな? 公の場である以上は当然だと思うけど」

「ですが、彼女は異世界人では? そこまで求める必要はないと思いますが」

……ほう。彼女の態度は国の甘やかしが原因か? 可能性が高いですねー、イルフェナでそんな事を言うなんて。

問題の人物は漸く自分の失態に気付いたのか顔を青ざめさせている。

「本人に聞いてみればいいと思うよ? 何せ彼女は自分で学び身に付けていくからね」

「……。ミヅキ殿、でしたね。初めまして。私はバラクシンから参りましたエドワード・カンナスと申します。こちらは妻のアリサ。彼女が元異世界人です」

「初めまして、カンナス御夫妻。ミヅキと申します」

「ミヅキ殿は随分としっかりした態度をとっておられますが、そういった御生まれなのですか?」

「いいえ? 私は民間人ですよ。ですが、保護者である殿下やイルフェナという国、そして守護役といえど婚約者という立場にある方達がいる以上は彼らに恥をかかせぬよう心掛けるのは当然ではありませんか」

実のところ異世界人の保護者に該当するのは守護役だったりする。ある程度高い地位に居る彼等の婚約者という立場が異世界人の不敬を見逃すことに繋がるからだ。

そりゃ、そうだよね。異世界人だろうと身分を無視した行動をとられたら貴族からの反発はあるもの。婚約者も自分の連帯責任になるから見張るだろうし。

異世界人である以上はこの世界では平民なのだよ、下級貴族でさえ不敬罪の対象です。

そんな状況を理解し彼等に感謝していれば私の行動は当然です。学べる環境にあるのだから。

元の世界と同じ態度で王族・貴族に接していれば不敬罪一直線ですよ? 見逃してもらえるのは『この世界の常識を知らない異世界人だから』なのです。異世界人が偉いわけじゃない。

「恥、ですか?」

やや震える声でアリサが尋ねてくるので笑みを浮かべて返してやる。

「ええ。異世界人は身分的には平民です、ただ常識が違うからこそ見逃されているだけですから」

「君も最初はそうでもなかったよね」

「お恥ずかしい限りです。殿下に取引を持ちかけたこともありましたね」

魔王様の援護射撃に過去の経験を話すことで真実味を与える。恐ろしい事実です、我ながら。

漸く自分達の至らなさに気がついたのか揃って沈黙してる夫婦。

旦那さん、君あまり外交経験がないだろ? 国が違えば物事の基準も違うんだよ。

「アリサ様、一つお尋ねしたいことがございます」

「は……はい、何でしょう?」

「日本という国を御存知ですか?」

「ニホン……ですか? いいえ、聞いたことはありませんね」

『ジャパン』とか『大和』といった別の呼び方もあると口にしないのは偏に関わりたくないからですよ、うっかり反応されても嫌だ。

軽く首を傾げ、横に振るアリサ。どうやら知らないらしい。

よし、同じ世界の住人じゃない証拠としては十分だ。だったらもう用はないよね?

ちら、とヴォリン伯爵を見ると手元に今までの会話を書き取っていたらしい。おそらく魔道具での映像も保存されている筈。

よし、切ろう。ばっさり切り捨てよう。縋られても困ります、こんな怖い子無理!

いや、悪い子だとは思わないよ? だけどこの子は自分の立場を考えない言動が多過ぎる。あれだ、乙女ゲームの健気で一生懸命、綺麗事上等な主人公タイプに近いと見た。

乙女ゲームは恋愛に重きを置いた『物語』だからこそ可能なのです。攻略対象が王族・貴族・騎士だった場合、現実では仲良くなる以前に不敬罪確定ですがな。主人公が何らかの役目を与えられて呼ばれた存在でない限り民間人扱いだし。

騎士に対してさえ敬称をつけるのが当然の世界でゲームと同じような言動が許される筈は無い。

理想論で外交は出来ないし、立場や状況を理解せず一方的に綺麗事を押し付けるタイプだったりしたら最悪ですよ。懐かれるのは絶対に嫌だ。

「では、私と同郷ではありませんね。共通の話題は無いと思います」

「え……で、でも、この世界に来てからの苦労は通じるものがありませんか!?」

「私はこの世界に来て三ヶ月程度ですが、王族・貴族の皆様と接する機会がとても多かった。勿論、それに伴う礼儀作法も必要です。ですが、アリサ様は随分と奔放でいらっしゃる」

「そ……それは」

おや、旦那の方が必死ですか。

皆の予想通り異世界人であることを共通の話題にして私と繋がりを作りたかったみたい。

はっは、冗談じゃねえぞ? 国ごとお断りだ!

「ああ、誤解なさらないで。国によって教育方針が違いますもの。イルフェナは実力者の国ですから、どんな場においても最良の結果を出せるよう学ぶ機会を与えていただけたのです」

「我々は学ぶ機会を与えはするが、どうするかは本人次第だ。厳しかろうとミヅキは自分で選んだんだよ」

アリサにも旦那以外の守護役やその周辺の貴族がいた筈だ。

彼女が貴族階級に生きるなら必要な教養を、民間人として生きていくならそれに合わせた知識を。

何も無いというなら彼女は異世界人という特別扱いに甘んじていただけなのだろう。

「はっきり申し上げる。私は今後アリサ様に関わる気は一切ありません。今回の訪問は私と繋がりを持つ為なのでしょう? ですから私自身の口からその可能性を否定させていただく。それが私からアリサ様へ向ける唯一の優しさですわ」

「そんな……ひどい……」

傷ついた表情をする美少女に同情する者はいない。これがバラクシンとの差だと知れ。

そもそも私はよく鬼畜扱いをされているのだが一体何を期待した。

打ちひしがれてる場合じゃねえぞ、よく聞いとけ?

外交問題にひっかからない異世界人の私だからこそはっきり言える言葉なんだからな?

「酷い? 利用しようとするそちらの方が酷いのでは? 初めから頼る事を前提に友となれるほど愚かに見えるのでしょうか」

「そんなつもりはっ!」

「貴女にそのつもりがなくとも、国としてはそれを求めたのですよ。貴族となった貴女にはそれに協力する義務もあります」

「……私は利用されたんですか」

今度は被害者ぶってますねー、……義務って言っただろ。その頭は飾りか。

「いいですか、アリサ様。貴女の周囲に結婚を反対した方はいらっしゃいませんでしたか? 貴族となる以上は今までの様に奔放なままではいられません。多くの制約に縛られた立場になるからこそ反対してくれていた人もいた筈です。それまでの生き方を変えることになるのですから」

「それ、は……」

「口煩く礼儀作法を身に付けるよう言ってくださった方だっていた筈です。虐めではなく貴女を思えばこその言葉に応えてこられましたか」

実際は気に食わないという人が半分、何とかしようとした人が半分というくらいだろう。

だが、彼女はさっきの私の言葉にさえ『酷い』と思う人なのだ。多少口煩くされれば逃げていたんじゃないか?

「貴女の素晴らしい部分は民間人であれば周囲に容易く受け入れられたでしょう。ですが、貴女が選んだ場所はそのままでは済まされません。御夫婦二人だけの時ならともかく、公の場できちんとした態度を取れなくては許されませんよ?」

悪気も無く、国の思惑さえ彼女は知らなかっただろう。だが、それも十分問題だ。

本来ならば国から命を受けて繋がりを作ろうと必死になる筈である。それがない=国から期待されていないってことです。本当に保護されてるだけだったんだね。

それに彼女は気付いているのだろうか。この場で私に発言を許しているイルフェナの優しさに。

私に発言させることで自分達は沈黙する、そうすれば私と彼女の個人的な会話となる。

王族からの直接のお叱り回避ですよ、何らかの交渉だった場合は十分不利になる要因です。

「カンナス夫妻、君達はもう少し外交というものを学んだ方がいい。それから……ミヅキに感謝するんだね。君達の愚かさを明確にし問題点を挙げた上で、これ以上の不敬を止めたのだから」

「私達の態度……いや、バラクシンの思惑も、ですね」

「そうだね。君は彼女を奥方にするならば相応しい態度と貴族としての在り方を教えるべきだったと思うよ。甘やかすだけではそれが当然と思い込んでも仕方が無い」

「はい……わかりました。やはり、そうですよね」

「エド!? 一体どういうこと……?」

「アリサ。後で話すから今は謝罪を。そしてミヅキ殿……貴女にはアリサの夫として謝罪と感謝を」

「御理解いただけて何よりです」

立ち上がり深々と頭を下げるエドワードに、困惑気味に頭を下げるアリサ。

教育は大変そうですねー、でももう知らん。甘やかした責任を取って頑張ってくれ。

「では、これまでとしよう。ミヅキ、お疲れ様」

魔王様の一言でこの場はお開きとなったのだった。

※※※※※※

「お疲れ様ー!」

当事者全員で寮に引っ込み遅めの昼食をとる。気分的には酒が飲みたい。

当初の予定ではあの夫婦と一緒に取る予定だったらしいけど、ほぼ全員が拒否したとか。

……あの様子だと旦那はともかく妻の方は何かやらかしそうだもんな。

「何と言うか……この世界に留まる可能性があるなら甘やかすのも考え物だね」

「あれは本人が無邪気過ぎるのも原因じゃないですかね?」

「無邪気過ぎる?」

「元の世界と差が大きければ大きいほど現実味が無いんです。彼女が自分を物語の主人公として捉えていたらどうでしょう? 貴族達は気を使ってくれて、素敵な守護者がいて、平民が思い描くお姫様扱いだったんじゃないですか?」

民間人は貴族や王族の役割を知らないから憧れだけが先行しているだろう。だが、実際は色々とあるのだ。御伽噺だって王子様の結婚で話が終わってるじゃないか。平民が王族と結婚しても一生苦労確定だわな。現実を知っていたら絶対、憧れんぞ。

「なるほど、彼女は『民間人が抱く想像上のお姫様扱い』をされ続けたからこそ結婚後もそれが許されると思ってたんですね」

「国が身の安全の確保のみで教育を放棄したこともあると思う。旦那さんの方は心当たりがあるみたいだったし」

「実力重視の我が国より甘やかされていただろうしな、特に異世界人だからと腫れ物に触るような扱いだったんじゃないか」

「そんな状態だった彼女に貴族らしくしろと言っても理解できませんよね、今まで許されていたんですから」

「結局、別の世界から来たみたいだし関係ないよ」

皆、同情する気はあるようだ。ただし、国と私が妥協する事とは別件で。

本人も今回の事で気付いてくれれば間に合うんじゃないかな。

――この後、思いがけない再会があるとは欠片も思わなかったんだけどね。