軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

『国を守る覚悟』って尊いですね(棒)

――騎士寮・食堂にて

「ハーヴィスから書が届いた!?」

「正確には『ハーヴィス王妃から、秘かに書が届いた』ですがね」

「う、うん……? 何だか、含みのある言い方をするね?」

アルからの情報に、私は首を傾げた。皆も内心、思うことはあるだろうけど……会話相手という意味では、柵のない私が適任だと感じたのだろう。食事をしていた手を止め、話に耳を傾けている。

ここは騎士寮の食堂。ぶっちゃけ、騎士寮では唯一、他者が居られる場所だったり。当然、滞在中のセシル達もここで食事をとることになる。

時間的に、『多くの人が食事をしていても不思議はない』。

アルの立場的に、ちょっと込み入った会話をするのも『日常』だ。

そして……私に情報を伝える時は大抵がここになる。

『女性の部屋で二人きりはよくない』『ここならば、護衛を担える騎士達が居る』という、言い訳が使えるからね。

外部に対し、『日常会話程度のことしか話していませんよ』と、アピールする意味もある。誰だって、大切なお話をこんなに開放された場所ではしないだろう。

『嘘吐いてるんじゃねぇよ!』という突っ込み、ごもっとも。

でも、重要なのは建前なのです。魔王様の許可の下、騎士寮面子が話を合わせれば問題なし。

完全犯罪とは、こういった共犯者達の存在がとても重要だと思える、今日この頃。

その場に居合わせた奴らが偽りの証言をしてしまえば、お腹真っ黒の『人には言えないお話』(意訳)とて、『よくある日常会話』で終わる。

なお、『よくある日常会話』でも別に間違ってはいない。

ここは最悪の剣と呼ばれる騎士達の巣窟なのだ……黒いお話は日常です。私も使える駒にカウントされている以上、当然、お仲間扱いさ。

なに、『お茶にしませんか』という言葉と共に強制的に拉致――この役目は騎士寮面子の誰でもいい――され、膝の上に座らされた挙句、腕で固定されるだけ。

それを見た魔王様からは非常に生温かい視線を向けられるが、やらかしているのが自分の騎士なので、咎められたことは一度もない。

魔王様としても『犬が猫を咥えてきた』程度の認識なのだろう。本当に重要な案件への協力依頼は、魔王様の執務室で行なわれるからね。

今回は普通にお話ですよ。皆で仲良くお食事しつつ、きちんと一人で椅子に座っておりますとも。

席がほぼ埋まっているのは、食事時だから。そこに各国からのお客様達が混ざっていたとしても、私と食事をしているだけです。当事者達がそう言っている以上、それが正しい。

「ハーヴィスの王妃様が中核になって、今回の一件の調査をされたそうですよ」

「待て。何故に、王妃様が主導するの」

「勿論、調査に参加した者達は王妃様に忠実な者ばかり。ですから、イルフェナは信憑性はあると判断しました」

「いや、だからさ?」

「その結果、アグノス姫お一人の非とは言い切れないそうです。彼女の周囲と教育、問題点を意図的に見逃していた者達にも責任はある、と。勿論、国王ご夫妻にも」

「ちょっと待てと言ってるだろうが! 明らかにおかしいでしょ!? 最高責任者の国王はどうした? 何で『王妃に忠実な者』が調査に関わるのよ!? 普通、専門の機関があるか、騎士に頼めばいいじゃん!」

バン! と机を叩きながら立ち上がれば、アルは「おやおや」と言いながら笑みを深めた。

……?

あの、何だか怒ってませんか? アルジェントさん?

「ハーヴィスの王妃様は、あの国には珍しい改革者です。ですが、その分、反発する者達も多い。だからこそ、信頼できる者に調査を依頼したのですよ」

「……。国王に任せると、正しい調査結果が出ないって?」

「それもあると思います。ですが、届けられた書によれば、ハーヴィス王は愛娘であるアグノス姫が起こした凶事に、大変心を痛めているそうで。ご自分の食事や政務でさえ、手につかない有様だとか」

「単なる現実逃避でしょ、それ」

さらっと一言で纏めれば、アルは大きく頷いた。

「私もそう思います。正直なところ、そのようなことをしている場合ではないのですが……どうやら、我が国への謝罪よりも、ご自分が嘆くことの方を優先しているようですね」

「お、おう……アルの怒りはそれが原因か」

「ふふ。エルを害され、幼き頃より案じてきたルドルフ様を危険に晒され、我がイルフェナさえも軽んじられれば、当然でしょう?」

「まあねー」

そこに『護衛に当たっていた騎士達が謹慎処分を受けたこと』が入らないのは、守り切れなかったことは事実と受け止めているからだろう。

彼らは己が仕事に誇りを持っている。だからこそ、言い訳は一切しない。

「そんな現実逃避野郎でも、国の最高責任者ってとこが問題よね。アグノスへの処罰も期待できないし、ハーヴィスという『国』に責任を追求することも難航しそう」

「ですよねぇ。王妃様はまともな方ですが、強行する力があるかと言えば、微妙なところでしょう」

どうやら、王妃様と忠実なお仲間達はまともらしい。そして、アグノスにも微妙に同情してしまう。

その『まともな人』がこんなことを言うあたり、アグノスの凶行は周囲の者達にも多大なる責任があるのだろう。勿論、アグノス自身の罪がなくなるわけではないが。

だが、そういった者達が『アグノスが現在のようになった元凶』ならば、彼女への認識も改めねばなるまい。

誰だって『知らないことはできない』し、『悪いこと』が判らなければ、行動してしまっても不思議はない。

無知は罪というけれど、教える人間がいないのではどうしようもないじゃないか。其々に目的があったにせよ、周囲の人間達は挙って、アグノスを『御伽噺のようなお姫様』に仕立て上げたのだから。

そいつらの罪を問うことを匂わせているあたり、私の予想は間違っていまい。

「で、直球で聞くけど。……ハーヴィス王妃は一体、何をお望み?」

――まさか、命乞いをしているわけじゃないでしょう?

半ば確信をもって問いかければ、アルはわざとらしく肩を竦めた。

「『この一件に携わった者全てを加害者とし、断罪して欲しい』と」

「めっちゃ他力本願じゃん! 私達が事前に根回ししてなければ、そこまで断罪かましたイルフェナの悪役認定待ったなし!」

「そういった狙いもあるでしょうね。限りなく良い方向に捉えれば、『守るべきは祖国』といった感じでしょうか。加害者であろうとも、同情されそうですよね」

がっでむ! とばかりに喚く私に、怒りの籠もった笑顔のアル。ほかの騎士達は無表情・笑顔・目を据わらせている……とバリエーションは割と豊富です。

だが、皆が考えていることはほぼ一緒だろう。即ち――

『死にさらせ、ハーヴィス! いや、滅べ!』

だな、絶対。

ハーヴィス王妃としては、できる限り頑張ってみたのだと思う。だが、あちらの勝手な断罪劇に巻き込まれるイルフェナはたまったものではない。

「しかも、こちらにいらしてくださった多くの方との縁を築いたのは、ほぼミヅキです。ミヅキが居なかった場合、イルフェナには味方が居ません」

「……ああ、その場合はジーク達もいないのか」

アルの言葉に、これまでを反芻し。確かに、深刻な事態になりかねなかったと納得する。

私が接点のような状態になって、初めて彼らは魔王様との縁ができる。あの魔道具だって存在しない。

つまり、魔王様は本当に命に係わる重傷を負う可能性すらあったと。

「エルを『魔王』と呼び、悪意を向ける奴らからすれば、こちらを加害者扱いしかねん。この一件の詳細や、ハーヴィス王妃が内々に寄こした手紙を公表したところで、彼女がイルフェナ側の共犯者呼ばわりされて終わりだろうな」

「ハーヴィス側……王妃も拙い状況ってこと?」

「変化を望む彼女の考えは、ハーヴィスにおいて異質だ。疎ましく思っている奴らが結託してしまえば、即座に『奴らにとって都合のいい事実』がでっち上げられると思うぞ?」

クラウスは端からハーヴィスに期待していないらしく、中々に辛辣だ。だが、私とて、その可能性が大いにあると思えてしまう。

これでは、イルフェナとしてもどういった対処をしていいか困ってしまうだろう。腐っても、書を寄越したのはハーヴィスの王妃なので、その『お願い』を無下にもできまい。

皆が来てくれたからいいようなものの、誰もいなかった場合、イルフェナはほぼ詰みだ。悪役認定待ったなしのままハーヴィスを断罪しようものなら、周囲の国からも警戒されてしまうだろう。

何してくれてんだよ、ハーヴィス王妃。恨みはないが、怒りは湧くぞ?

いや、できる限り国を守ろうとしていることは判るけど!

――そこに割り込む、この場の雰囲気にそぐわぬ声。

「あら、どうしたの? 皆で黙り込んで」

「む……? お邪魔だったか?」

「宰相補佐様! グレン!」

中の空気に気圧されたのか、入り口付近で立ち止まっているのは麗しのオネェ様――見た目と言葉遣いだけ。心は男性だ――とグレン。

来るとは聞いていたけれど、二人は多忙な身。よって、ある程度の仕事が片付き次第、こちらに来ることになっていた。

そんな二人を派遣してくれたのはカルロッサ王とアルベルダ王。つまり、ガチで国の代表としての権限を持っている。

その姿を見た私は駆け足で二人に近づき、笑顔のまま抱き着いた。

「待ってた! これでイルフェナが悪者になる可能性がほぼゼロ!」

「「は?」」

「私のお願い聞いてー! 『うん』って言うまで、離さない♪」

離さないっていうか、逃がさない。ハーヴィス王妃の考えが判った以上、彼らの存在はとても重要だ。

「小娘、それは脅迫って言うのよ」

「言わない。私が決めたから、これは『お願い』だもん。……痛っ」

「お馬鹿。そんなことしなくても、今回はアンタ達の味方よ」

宰相補佐様は溜息を吐くと、ぺしっと私を叩く。痛いじゃないか、オネェ。

「ミヅキ……お前、自己中が過ぎるぞ? いい加減にしないと、保護者にも見捨てられ……」

「うっさい、グレン! ……。よし、ここは一つ、赤猫ちゃんの黒歴史をこの場で披露して、皆の笑いに貢献……」

「お前は何を言い出すつもりだ!? やめい!」

情報は使うためにあるんだよ、グレン。それが元仲間の微笑ましい(?)過去であろうとも、使えるならば使うまで!