軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

訪ねてきたのは 其の一

――イルフェナ・ある一室にて

『イルフェナにやって来たのは、サロヴァーラのヴァイスらしい』――そんな情報を得て、シュアンゼ殿下と面会に挑んだ先に待っていた人は。

「お久しぶりです、魔導師殿。突然の訪問、どうかお許しください」

マジでヴァイス君だった。おいおい……ティルシアはこのことを知っているのかよ!?

「いや、その、突然訪ねて来たとか、このタイミングだったとかは別にいいんだけどね? ティルシアからは『サロヴァーラは動かない』的な言い方をされてるんだよ。……ティルシアは知ってるの?」

おそるおそる聞いた私に、ヴァイスは首を横に振った。

「直接、お伝えしてはいないのです。ですが、陛下にはお伝えしておきました」

「いやいやいや! ちょ、それって拙くない!?」

ティルシアは大変おっかない女狐様だ。いくらサロヴァーラ王が信頼している騎士であろうとも、自分に黙って行動した輩を許すようには思えない。

だが、ヴァイスは私の心配を判っているかのように微笑んだ。

「ご安心ください。今回はあくまでも、私という『個人』の勝手な行動です。処罰も当然、覚悟しております。その場合、家からは勘当されていたことにして欲しいと、父に頼んであります。……私は四男ですから、切り捨てても何の支障も有りません」

「サロヴァーラ王の信頼を受けた騎士でしょうが! あの騒動の際、私の護衛を直々に任されたって、そういうことでしょ!?」

自分が切り捨てられても何の問題もない的な言い方をしているけど、絶対にそれは違う。サロヴァーラは暫く前までか〜な〜りアレな状態(意訳)だったので、ヴァイスのような忠臣は貴重な人材のはずだ。

シュアンゼ殿下とラフィークさんも事情を何となく察したのか、ヴァイスの行動に疑問を覚えている模様。困惑気味になりながらも、黙って私達の会話に耳を傾けている。

……が。

ヴァイスとしても、譲れない事情があったらしい。

「ご心配、痛み入ります。ですが、私は魔導師殿やイルフェナの皆様から受けたご恩を忘れてはおりません。個人としても、サロヴァーラの騎士としても、です。そのためならば、私個人が罰せられるなど、些細なこと。誰に蔑まれようとも、私は己が行動を恥じることはありません」

「……」

穏やかな表情で、それでも後悔はないと言い切るヴァイス。そんな彼の態度に、私達は顔を見合わせた。

何やら、えらく私とイルフェナに恩義を感じてくれているらしい。そのために処罰覚悟で、イルフェナにやって来たと。

「ミヅキ、君達は一体、何をしたの」

「え、ええと? 基本的には数カ国で起きた誘拐事件の解決と、その元凶の撃破……かな?」

まるでサロヴァーラのためだけに動いたような言い方をされたけど、実際にはイルフェナのためだ。その余波というか、『ティルシアがそんな行動に走るに至った元凶』という扱いで、サロヴァーラのアホ貴族どもが痛い目を見ただけで。

なお、こちらとしても『アルがリリアンを誑かしていた』という疑惑があるため、それを誤魔化すかのように恩を売ったという背景もある。

……誰が聞いても『いくら人間嫌いで、極一部以外はどうでもいいと思っているとはいえ、何してんだお前ぇぇぇぇぇ!?』となる案件です。事実、アルはその疑惑を一言も否定していない。

やる気になろうというものですよ! でかい恩を売っておけば、サロヴァーラ側から突かれても対処できるもん!

魔王様とて、私の遣り方に反対はしなかった。それどころか、イルフェナに帰って来たら、『その件に関してのみ』(重要)労わられた。

この件に関しては私、イルフェナではヒーロー扱いであ〜る! 『あの』クラレンスさんからも褒められたと言えば、察していただけるだろう……クラレンスさん、アルの義兄だもんな。義弟のヤバさは理解できているとみた。

「相変わらず、謙虚でいらっしゃる。貴女はサロヴァーラの救世主と呼ばれているのに」

「え゛」

「貴女が成してくださったことを考えれば、その評価も当然でしょう。我が国は漸く、あるべき姿を取り戻せそうなのですから」

その言葉に宿る感情は紛れもなく『尊敬』や『感謝』といったもの。彼の立場からすれば……いや、王に忠誠を誓う騎士という立場だったからこそ、私がもたらした『切っ掛け』を好意的に受け止めてくれているのだろう。

だが、私は内心、冷や汗ダラダラである。何となく私の本音を察したシュアンゼ殿下とて、生温かい目――噴き出すことは堪えた模様――になっているじゃないか。

いや、その……そこまで恩義を感じてくれなくていいんだよ……?

今後のことを考えて元凶を潰した結果、ああなっただけなんだからさ……?

真面目人間ヴァイス君からすれば私は救世主なのかもしれないが、イルフェナから見た私は『サロヴァーラのアホ共を粉砕するための起爆剤』。だって、本当〜にそれだけしかできないんだもの!

サロヴァーラのことはサロヴァーラの人間に頑張ってもらうしかない。よって、私は用意した筋書き通りに進ませるべくお膳立てした挙句、ティルシア達に丸投げしただけである。

これ、部外者である私にはどうしようもないのだよ。もしもサロヴァーラの今後に携わる気があるならば、最低でもサロヴァーラ所属になるしかない。イルフェナがサロヴァーラに貸しを作ったことになっちゃうからね。

ヴァイスはそれを物凄く好意的に捉えてくれているらしく、必要以上の自己評価をしない私を『謙虚』などと言ったのだろう。

ヴァイスよ、いい加減に目を覚ませ。

そんなに謙虚で、正義感に溢れたお嬢さんなど、どこにも居ない。

……と願ったところで、ヴァイスには届かないんだろうな。何というか、別方向に頑固な一面を持っているのがヴァイスなので、一度、自分が好意的に捉えてしまえば、その評価が延々と続く気がする。

「ミヅキ、彼って……」

「良くも、悪くも、『真面目で義理堅い騎士様』なんだよ。温かく見守ってやって」

「そ、そう……」

きっと、彼はこれからが成長期に違いない(好意的に予想)。君と同じだ、灰色猫。

それに、彼は女狐様の生息地の人だもの。彼のような善良さを持つ人とて、一定数は必要だ。

「と……ところでね? 私個人への客ってことにする以上、当然、『そうしなければならない事情』があるんでしょ?」

「ええ、勿論」

半ば無理矢理に話題を変えた私に、ヴァイスは大きく頷いた。その表情は穏やかと言えるもので……私は内心、首を傾げてしまう。

何故、『イルフェナにもたらす情報』という意味では駄目なのか。

何故、『実家が自分を切り捨てても問題ない』とまで言い切ったのか。

疑問は尽きないが、どれほど考えてもそれは憶測だ。本人に聞いてしまった方がいいだろう。

「じゃあ、話して。内容によっては、私が持つ情報をあげる」

「それはっ……」

ヴァイスは慌てているが、それは当然のこと。寧ろ、それこそがヴァイスを生かす手段になるならば、与えねばなるまいよ。

「そこまでしてくれた人ならば、それに見合った『お土産』が与えられるべきでしょ。私は貴方を今のサロヴァーラに必要な人と思っているから生かしたいし、『活かしたい』。それが最大の理由」

だから、足掻け。魔導師との繋がりさえも利用し、サロヴァーラに貢献してみせろ。

そんな私の気持ちを察したのか、ヴァイスは黙って頷いた。……そうだ、それでいい。サロヴァーラは分岐点を超えた程度で、まだまだ大変な時期が続く。ティルシアが『魔導師の部屋を作る』なんて言い出したのも、その対策の一環……本命の理由だろう。

今のサロヴァーラ王家を支える気があるならば、誰であろうとも利用してみせるくらいでなければ。少なくとも、私は一方的な献身なんて望んでいないのだから。

「お心遣い、感謝いたします。……そう、ですね。貴女も、ティルシア様も、そういう方でした。優先順位が揺らがず、親しい者さえ利用して、最上位に在るものを守る。そのくらいでなければ、結果など出せなかった」

「そうだよ、だからティルシアは覚悟を決めた。私だって同じ。自己保身なんて考えていれば、役立たずのままだもの。そんな評価を受けるなんて、魔導師を名乗った以上は認められないわ」

――誰もが知る『世界の災厄』だからこそ、無能なんて『あり得ない』のよ。

そう続けると、ヴァイスは顔を僅かに強張らせたまま頷いた。彼とて、それなりに情報収集はしているだろう。その過程で魔導師の評価を聞けば……まあ、望まれる働きがどんなものか判るだろうしね。

王族・貴族とて、身分に合った役割がある。魔導師の場合、良くも、悪くも、『相応しい結果』を求められるのだ。多分、それが魔術師との違いだろうからね。

「じゃあ、そろそろ本題にいきましょうか。まず、私に伝えたいことを。その後でいいから、どうして個人的なことに拘ったかを教えてほしい」

「判りました」

気を取り直して促せば、ヴァイスも心得たとばかりに表情を一変させる。

シュアンゼ殿下達も同様だが、彼らは未だに自己紹介をしていない。彼らの同席についてはヴァイスも了承しており、聞かせることも納得済みだ。

「まず、私がお伝えしたいことはハーヴィスの内情です。ご存知の通り、ハーヴィスは長く閉鎖的な方針を取り、存えてきましたが……それを危ぶむ者達も存在するのです。現王妃が選ばれたのも、そういった動きがあってこそと聞いています」

「ん〜……それにしては変わっていない気もするけれど?」

話を聞く限り、ろくに変化はないようだ。シュアンゼ殿下に視線を向けるも、彼も首を横に振った。ヴァイスもそれには頷いている。

「まだ改革というほどのことはないのです。このような言い方をするのはどうかと思いますが、やはり大戦をこれまでと変わらない方針で乗り切ったことが大きいようですね」

「ああ、『我関せずを貫いた』ってやつね」

「ええ。当時としては、戦を仕掛けられない限り、それも有効な手段の一つだったのでしょう。他国との繋がりがなく、位置的にも攻められにくく……その、攻める旨みもないとなれば。自国のことのみを優先しても、当時ならば非道と言われにくかったかと」

「なるほど」

無理をして攻めれば、ガニアやサロヴァーラに挟み撃ちされる可能性もあるだろう。イディオとて出てくるかもしれない。

攻めても、それを上回るだけの旨みがないならば……まあ、放置されるわな。進軍だって、ただじゃないもの。

「状況的に幸運だった、と言うべきだろうね。自国のみで民を養えるならば、降りかかる火の粉を徹底的に払うことも一つの手だ。……ただし、他国との繋がりは希薄になる。助け合うことができない国とは、同盟なんて結べない」

「その通りです。その結果、現在のように孤立しがちな状況になっているのですから」

シュアンゼ殿下の補足に、頷くヴァイス。鎖国状態のメリットとデメリットが判りやすい分、二人にはハーヴィスの現状に同情する気はないらしい。

確かに、それは同情できんわな。国という単位で動く案件である以上、自国だけが大事な国とは組めない。どこの国でも自国が第一であることは変わらないだろうけど、ハーヴィスは多分、自国のことしか考えない傾向にあったと予想。

当時としては仕方ないのかもしれないが、それは他国との間に溝を作る。その結果、現在のように情報が回って来ないというか、周囲から置いて行かれがちな状況を招いてしまったと。

「完全に自業自得じゃない。大戦後に変わることだってできたのに、そうしなかった。ハーヴィスが孤立しようとも、同情できないよ」

「ええ、殆どの国がそう思っていることでしょう。けれど時代の移り変わりを察し、今のハーヴィスに危機感を抱く方もいるのです。ですが、多くの王族や貴族達は変わることを拒絶しています。……他国と交流すれば、誰よりも現状を突き付けられることも一因でしょう。全ての者とは言いませんが、劣っていることに気付きたくないゆえの恐れもあるかと」

「自国内だけなら、比較対象がないって?」

「ええ。情勢は日々変化しています。技術も然り。それらは人々や文化の交流があってこそのもの……現王妃は若い頃に留学していたこともあり、それらに気付いているのでしょう。ですが……」

ヴァイスはそこまで言って口を噤む。その表情はどこか苦々しい。

「肝心の王が拒否、もしくは大半の貴族達の賛同を得られないって感じかな?」

「はい。サロヴァーラとの交流を試みたのも、彼女や彼女に賛同する者の努力の結果でしょうね。ガニアのような大国が相手では、劣等感を煽ることにしかなりませんから」

「それもまた、サロヴァーラに失礼だな!?」

ティルシアの怒りの原因、これじゃあるまいか? 当時のサロヴァーラの状況を考えると、ハーヴィスの方がまだまともに見えただろうし。

……が、女狐様はどこまでも女狐様だった。

「いえ、サロヴァーラにいらっしゃったアグノス様がリリアン様を泣かせ、それに伴うハーヴィスの対応の拙さが原因かと」

「ぶれねぇな、女狐様っ!」

今も昔もシスコンは重症だった模様。しかも、ピンポイントで『アグノス憎し!』という可能性まで浮上した。

……。

さらっと口にするヴァイス君も存外、ティルシアのシスコンぶりに慣れているようだ。シュアンゼ殿下が居るにも拘らず、口にするその素直さ……シスコンが平常運転過ぎて、感覚が狂ってるんだな、多分。

「えー……ティルシア王女って、そういう人なのかい……?」

「微妙に疑問形なところに優しさを感じるけど、女狐様は重度のシスコンだ。妹が大好きだ。一発で殺意を抱かれるから、言動には気を付けた方がいい」

「いや、ちょっと待って」

「大丈夫! 地雷を踏まなきゃ殺意は抱かれない。だいたい、ティルシアの女狐モードはいつものことだよ。……そうだねぇ、ティルシアに暗殺者を送っても面白がるか、利用しようとするだけだけど、リリアンに送ったら確実に報復されるって感じかな。勿論、依頼主に未来はない」

「不安を煽らないでくれるかな!?」

そうかぁ? 我ながら、物凄く判りやすい女狐様の解説だと思うけど。私だって、魔王様やルドルフにやらかしたら、ただじゃ済まさないし。

ガニア主従は顔を引き攣らせているけれど、私やヴァイスにとってはそれがティルシアの平常運転。現に、シュアンゼ殿下が顔を引き攣らせている様を、ヴァイス君は不思議そうに眺めている。

「それほど驚かれることなのでしょうか?」

「ティルシアに馴染みがないからじゃない? この人、ティルシアとの初エンカウントが『毒はガニアで入手しました♪』っていう、映像を通じての暴露だったし」

「ああ、なるほど。印象がそのようになっていると」

「色んな意味で、インパクトは強烈だったと思うよ」

勿論、それはシュアンゼ殿下だけではなく、あの場に居た人々全てに対してだが。

まあ、サロヴァーラは暫く大変なんだ。脅威の一つや二つくらいあった方がいいじゃないか。自分を偽る必要がなくなったティルシアが怖いのは事実なんだしさ!

……。

ちょっとアレな一面があって、人と地雷がずれているだけで。家族愛溢れる人(※物凄く好意的に解釈)でいいじゃん。

「はいはい、ティルシアのことは今はいいから! 話を戻しましょ」

だから、思考をこちらの問題に戻せ、灰色猫。北の大国として気になる気持ちは判るけど、今はハーヴィスの方が重要だからね?