作品タイトル不明
再会は厄介事と共に 其の二
事の深刻さを理解し、とりあえずは危機感を覚えた後。
「……で? 貴方達が危惧している事態は判りますが、何故、私が必要なんです?」
私が口にしたのは当然の疑問だった。
いや、自由に動けるとか、各国に繋がりを持っているとか、そういった意味で『(様々な方面で)働きを期待している』というのは判るよ?
だけどさ、それなら余計に魔王様経由でのお話になるはずだ。だって、私は一応、保護者の紐付きだもん。報告は必須です。
その魔王様とて、どちらかと言えば話の判る王族だ。理由をきちんと説明すれば、損得関係なく、それなりの対応を試みてくれそうな気がする。
ってゆーか、バラクシンはそれをよく知ってるじゃん!
魔王様の優しさの恩恵を、めっちゃ受けた国ですぞ!?
「あ〜……ま、まあ、魔導師殿がそう思う気持ちも理解できる。だが、私達は決して、エルシュオン殿下が動いてくれそうにないと思ったわけではない! そこは誤解しないで欲しい!」
ジトッとした目を向けた私の考えを読んだのか、ライナス殿下が『違うから! 魔王殿下が優しいことは凄く判ってるから! 落ち着いてぇぇぇっ!』と言わんばかりに言い訳を述べてくる。
「その通りですとも! 外道の極みである魔導師の面倒を見ていることからも、それはよく判っています。あのろくでもない本性が他者に知られぬよう、どれほどお心を砕いておられることか……!」
本音を交ぜつつも、ライナス殿下同様、魔王様の優しさに理解を示す聖人様。言っていることは割と酷いが、口調は丁寧なまま。そこに気付いて、私は僅かに目を眇めた。
聖人様の言葉遣いが砕けたものにならないのは、ここにライナス殿下やグレンがいるせいだ。……が、それだけが理由ではないだろう。
ふーん……つまり、『教会の聖人としてここに来た』ってことか。ただ、ライナス殿下もお忍び扱いでアルベルダに来ているので、ここに来たのは国としての判断でもないのだろう。……今は。
同時に、聖人様の『あの』性格は健在らしいと気付き、生温かい気持ちになる。彼は私達が帰国した後、とても頑張っているのだろう……強化本を相棒にして。
先ほど、彼が口にした言葉は『信仰を穢す教会派のクズどもに存在価値はない! 死ねやぁぁぁっ!』とばかりに、武器(本)を片手に暴れまくったイメージそのまま。本人を前に、言いたい放題です。
……。
おいコラ、さっき私のことを『友』と呼んでいたはずだよね?
ねえ、本当に私のことを友達だと思ってます……?
「事実だろうが。お前のことをよく理解しているじゃないか。これで『断罪の魔導師として云々』とか言い出すようなら、そのまま帰ってもらったぞ。お前に善行を期待するだけ無駄だ」
「酷くね!? グレン!」
「今更、善人ぶったところで無駄だろうが。自分の遣りたいことしか遣らんくせに」
「だって、私の人生だもん。労働には対価が必要なんだよ。私は博愛主義でもなければ、奉仕精神の塊でもない。部外者なのに問題に介入させるなら当然、何らかの旨みを期待するでしょ」
『正義のため!』『人々のため!』で動いてくれるのは、勇者に選ばれたRPGの主人公くらいだろう。騎士や軍人だって、給料あるじゃねーか!
うっかり仏心というか、奉仕精神で厄介事を引き受けたりすれば、今後は『都合のいい駒』扱いが決定だ。私は場の雰囲気や熱意に流されるほど純真じゃないので、魔王様以外に拾われた場合、とても殺伐とした未来になった可能性・大。
……が、私達の会話を聞いていた聖人様は気分を害するどころか、とてもいい笑顔で私の手を握った。
「貴女はそれでいいのです! 寧ろ、『外道を狩るのは、別方向にぶっ飛んだ思考の外道が最適』と証明したではありませんか。毒には毒を以て制すという言葉があるように、それ以上に毒性の強い者をぶち当てて潰す! 弱肉強食は自然の摂理ですよ」
「「……」」
「……。彼も色々と苦労があったんだよ。少々はっちゃけてしまっても、許してやってくれ」
ジト目で聖人様を眺める私とグレン。さすがに思うことがあったのか、ライナス殿下が即座にフォローめいた言葉を口にする。特に窘めるような言葉がないのは、ライナス殿下自身も色々と苦労があったせいだろうか?
楽 し そ う で 何 よ り だ 、 聖 人 様 。
日 々 、 輝 く 笑 顔 で 本 を 振 り 回 し て い る ん だ ね ?
「と……とりあえず、話を進めよう。二人とも、一応は危機感を覚えてくれたかね?」
「まあ、一応は。ただ、戦狂いは状況が状況だったというか、かなり特殊な例ですよ? 王で、国が侵略上等な方針で……って感じで。あれは王じゃなかったり、国が侵略行為をしなかったら、あそこまで凶悪な人じゃなかったかと」
「そうだな、儂もそれには同意する」
半ば無理矢理、話の修正を図ったライナス殿下に合わせて考えを述べれば、グレンも同意とばかりに頷いた。
これ、かなり重要なのよね。もしも戦狂いがイルフェナの王族の一人とかだったら、絶対に幼少期あたりで何らかの措置――魔術による誓約とか――が取られるだろう。
いくら実力があろうとも、平和主義な国の方針に沿わず、勝手な振る舞いをするようならば、全力で〆られる。そういう国なのですよ、イルフェナって。そんな奴が相手なら、自浄もか〜な〜り荒っぽい方法になるだろうし。
「ふむ、まあ普通はそう思うだろうね。だがね、今回は少々、事情が異なるのだよ」
そう言って憂い顔になるライナス殿下に、私とグレンは顔を見合わせた。困惑する私達に救いの手を差し伸べたのは、それまで黙っていた聖人様。
「ここからは私が話しましょう。ある意味、教会にも責任があるのですから」
「責任? まさか、この手紙に書かれていた『御伽噺に依存させる』ってやつ? あれは責任って言うほど重いものじゃないでしょ?」
「いや、重い……かもしれないのですよ。相手が相手ですから」
深々と溜息を吐く聖人様。そんな聖人様の姿に、私達は益々、困惑するばかりだ。
「先ほど言った『血の淀み』。あれは本来、発覚した時点で国が何らかの対処をするのが普通なのです。いくら利をもたらす可能性を秘めていようとも、リスクが高過ぎる。この手紙を書いた者が仕えているのは通称・精霊姫と呼ばれている王女。彼女はそういった措置を一切、取られていないようなのです」
「え……それって、大丈夫なの?」
「問題行動を起こしていないのでしょう。彼女の情報が殆ど出回っていないことから、ある程度の情報操作は行なわれていると推測されます。国の上層部は彼女の真実を把握しているのでしょうね。ただ、それ以外の者達には知られていないと思った方がいい」
おいおい……国が義務を怠ってないか、それは。問題行動を起こすまで無害だと、そう思っているのだろうか?
思わず眉を顰める私に構わず、聖人様は話を続ける。
「ある程度は、乳母の目論見……『御伽噺に依存させる』ということは成功していたのだと思います。ですから、自国での彼女の評価はまさに『綺麗で優しいお姫様』でしょうね。ですが、御伽噺を持ち出したからこそ、『ある欠点』が生まれてしまった可能性が高いのです」
「「ある欠点?」」
私とグレンが綺麗にハモる。だが、そんなことは全く気にならないとばかりに、聖人様は真剣な表情になって続けた。
「御伽噺には、『王子様』の存在が付きものでしょう? しかも、『他国』の。勿論、婚姻を狙ってはいないでしょうから、『憧れの存在』や『恋い焦がれる存在』といった扱いだと思います。ですが……参考にした物語によっては、王子様の存在が必要不可欠なのですよ」
「いや、ちょっと待って。それ、精々が肖像画を眺める程度のことだよね? 想うだけなら、害はないんじゃ?」
「……そこが『血の淀み』の恐ろしいところなのですよ。通常では考えられない、強い拘りというか。そして、我々が危惧する要素でもあります」
「はぁ?」
意味判らん! とばかりに首を傾げると、聖人様とライナス殿下は顔を見合わせ、深々と溜息を吐いた。
「手紙にもあったでしょう? 『王女は自分の世界が壊れることを酷く嫌がる』と。彼女は自分だけではなく、周囲の者達にも御伽噺の登場人物を割り振っているのです。おそらくですが、御伽噺と同じように振る舞うことを強制しています。それは『王子様の役』を割り振られた人物も例外ではない」
「しかし、王子役ということは、その人物も王子か王族なのだろう? ならば、下手なことはできないと思うが」
「だよねー! いくら『イメージ通りに動かなくなった貴方なんて、要らない!』って癇癪を起こしたとしても、その子の周りが迷惑するだけで、他国には影響がないんじゃないの?」
グレンの意見に大きく頷きつつ、そう結論付ける。いや、だって、王族だったらしっかり護衛が付いてるって! 周囲の人達はお気の毒だが、これを機に、幽閉コースでも辿るだけではなかろうか。
「普通はそう思いますよね。ええ、それで済めばいいのです。ですが……彼女は『普通ではない』。信奉者の中には、『国がどうなろうとも、彼女の願いを叶えることが最優先』という者が必ずいると思っています。何せ、『綺麗で優しい精霊姫』ですから。戦狂いに従順な者達が居たように、この可能性は否定できないのですよ」
「こう言っては何だが、私もその信奉者達が厄介だと思っている。……そうだな、『慈悲深く、身分を問わずに優しく接する王族』と言えば判りやすいかね? 何らかの事情で絶望している者に対し、差し伸べられた救いの手……心酔するには十分なのだよ」
「ああ、なるほ……」
納得しかけた私に、ライナス殿下は更なる追い打ちを行なった。
「君だって、無条件にエルシュオン殿下に従うじゃないか。あれは君が異世界人には過ぎるほど、彼に守られているからだろう? 君の功績とて、本来は不可能と思われていたものばかりじゃないか。それを成したのは、『エルシュオン殿下が望んだから』ではないかね?」
「……。つまり、私みたいな奴が居る可能性があると?」
「はっきり言ってしまえば、その通りだ。君という実例があるからこそ、私も精霊姫の手駒の存在を楽観視できない」
私 が こ の 二 人 の 不 安 を 煽 っ た 原 因 か よ … … !
だが、これはグレンも当て嵌まる。ウィル様だって言っていたじゃないか……『グレンがいたから、四年以内に王位に就くことが可能だった』と! グレンもそれに気づいているのか、どことなく顔色が悪い。
ただ、私達には判ってしまった……自分達に置き換えることができるからこそ、『王子様役に仕立てた人物を、何らかの手段で消すことは不可能ではない』と。
世間から国が批難されようと、身勝手な排除と罵られようと、精霊姫が満足できればいい。そう考える人間が居る可能性はゼロじゃないし、それが不可能とも言い切れない。
何が怖いって、『国に不利益をもたらす』とか『国同士の関係悪化』といった、抑止力になりそうなものが一切通じないことだろう。私だって、それが自分に対してのものなら気にしないもの。
「魔導師殿の場合、『エルシュオン殿下が望む決着』ということはブレないからね。君の保護者はとても過保護で、君を犠牲にすることを望まない。結果として、魔導師殿は最小限の被害に留める方法を選ぶことになる。だが、精霊姫が己が望みを最上位に捉えているならば……」
「襲撃は起こり得る、ということです。一途なまでの忠誠心ゆえの行動、ということでしょうね。捕らえられても、襲撃者達は口を割らないでしょうし、その理由が判ったとしても、常人には理解できない発想です」
沈黙が落ちる。私も、グレンも、さすがにこういった案件には馴染みがないので、即座に対策が思い浮かばない。
「だからこそ、私達も困ったのだよ。注意を促すには証拠が足りず、その理由も首を傾げてしまうようなもの。下手なことをすれば、ハーヴィス……精霊姫の居る国との関係悪化を目論んだと言われてしまう」
「もしや、儂経由でミヅキにこの一件を知らせたかったのは……」
「貴方が察した通りだよ、グレン殿。貴方と魔導師殿は仲がいい。エルシュオン殿下に直接告げることは躊躇われるが、魔導師殿が『グレン殿から聞いた話』という形で伝えてくれれば、何らかの対策を取ってくれるんじゃないかと思ってね」
「ん〜? 情報として得ることはあっても、そこまで気にしますかねぇ? そもそも、誰が王子様役か判らないじゃん」
私との再会を喜んだ理由には納得できるが、魔王様もそこまで暇じゃあるまい。何ていうか、現時点ではあくまでも『その可能性がある』ってだけの、不確かな情報だからね。
証拠もなしに他国を疑うことはできないし、精々が私経由で様々な国に注意を促すことしかできないような。
だが、聖人様は物凄く真剣な顔をすると、ぐいっと顔を近付けてきた。ちょ、近い!
「甘い! いいですか、御伽噺の王子様は『金髪に青い瞳』なのですよ?」
「お、おう……まあ、そうだね……?」
「この組み合わせの王子様で思い浮かぶ方は一体、どなたでしょう?」
「へ? ええと、金髪に青い瞳……。……。……テゼルト殿下とルーカス、かな……?」
言いながらも、顔が引き攣っているのが判る。だって、その二人は『北の大国・ガニア』と『南の大国・キヴェラ』の王子様。ルーカスも失えないけど、テゼルト殿下が狙われるのは冗談抜きにヤバい。
「大変だ! マジで王子様の排除を画策されたら、キヴェラかガニアがヤバイ! 二つとも大国だから、周囲の国にも影響が出る!」
慌てて立ち上がれば、聖人様は苛立ちも露に、私の肩を掴んで叫んだ。
「そちらも拙いでしょうが、もっと身近な方を思い出せ! 魔王殿下は金髪に青い瞳だろうが!」
「「あ」」
グレンと同時に声を上げる。しかし、今の私にそんなことを気にかける余裕などない。
魔王様ぁぁぁぁっっ!? 何で、王子の王道カラーになんて産まれちゃったんですかぁぁぁ!?