軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

再会は厄介事と共に 其の一

――グレンの館の一室にて

あれから、私達はグレンの館へと向かった。その間に、ちょっとした打ち合わせも済んでいる。

いや、だってねぇ……どう考えても『秘密のお話』じゃないですか。

ここで馬鹿正直に疑問をぶつけられるなら問題ないけれど、『暈しながら話す上、こちらに探りが入る』なんてことをやられる場合もあるわけで。

その際、どういった対応をするか決めておこうという話になったのだ。その結果、あくまでもグレン主体で会話を行ない、私は興味本位で口を出す、ということになった。

なお、私の同席が拒否されても却下することになっている。

これは『後から来たのはそちらの方』と言い切ってしまえばいい。『元から約束していたのに、邪魔すんな?』みたいな感じで押し切ろう。

「やれやれ……一体、何を言われるのやら」

「やっぱり、心当たりはない?」

「全くな。そもそも、まともに話したのは、お前に呼ばれたバラクシンの一件の時だ。それまでほぼ接点がなかった以上、個人的な会話があろうはずもない」

「そうなんだよねぇ」

グレンも相当訝しんでいるけど、私だって同様だ。ちまちま他国の人達を関わらせている私から見ても、ライナス殿下とグレンという組み合わせを不思議に思うもの。

そもそも、ウィル様が知らないはずはないじゃないか。政に活かせる繋がりである以上、絶対にグレンはウィル様に報告しているはずだ。

「まあ、会えば判るさ。お前を見て口を噤むようなら、我が国とバラクシンの間のことなのだろう。逆に、お前がいることを好都合と考えるならば……」

「部外者の助力があった方がいいってことだね。魔導師が動くことを歓迎……ってとこかな」

「うむ。そう考えるべきだろう」

肩を竦めて結論付ければ、グレンも深く頷いた。今のところ、ライナス殿下が訪ねて来た理由は大きく分けてこの二つに絞られるだろう。

これで『人脈作りのため、親交を深めに来ました』とか言われた日には、揃って脱力する。私も、グレンも、そんな平和な環境に生きていないので、最初からこの可能性を除外しているくらいなのだから。

――そんなことを話している間に、私達はライナス殿下がいる部屋の前に来た。

使用人さんの話だと、ライナス殿下はお忍び扱いだけど、従者を一人連れていたらしい。彼の身分や周囲の状況を考えると、護衛役を連れていても不思議はないので、特に問題視する必要はないだろう。

ただ……その従者がフードを被って顔を隠していることが気になるが。

……。

まさか、レヴィンズ殿下あたりが付いて来たんじゃあるまいな……? 彼が騎士であり、叔父さんが心配だったとしても、レヴィンズ殿下は第三王子。何かあったら、困るのはアルベルダ。

もしも同行してたら、ヒルダんにお説教してもらおう。なに、ヒルダんからの『王族としての自覚が足りません!』という一言で、犬の如くしょげるだろうさ。

「ミヅキ、扉を開けるぞ」

「おーけい、いきましょ」

頷き合って、室内へ。そこにはライナス殿下と、彼の傍に控える従者? が私達を待っていた。

失礼と思いつつも、ついつい私の視線は従者へと向かう。体型は……普通? 少なくとも、騎士ではないだろう。護衛を担当している魔術師に見えなくもない。

ただ、顔を隠しているのが気にかかる。王族の使う影の一人とか、似たような立場の人なのだろうか?

……が。

私の疑問は、物凄くあっさりと解決することとなる。私の姿を認めた途端、その従者らしき人物が物凄い勢いで私の手を握って来たのだから!

「友よぉぉぉっ!」

「へ……? な、ちょ、聖人様!? 何でここに!?」

「何という偶然! 何という奇跡! ああ、神に感謝しなければ……!」

「え……ええと? その、少し落ち着こうか。ここ一応、人様の家……」

「神よ! 友をこの場に呼んでくださったこと、感謝いたしますっ!」

話 聞 け よ 。

それ以前に、私は神に召喚されたわけではない。ウィル様へと秘密の魔道具を渡しに来ただけだ。

一人で盛り上がっている聖人様にドン引きしつつ、私はライナス殿下へと視線を向けた。……が、こちらも少し様子がおかしい。

「まさか、魔導師殿に会えるとは……」

そう呟いて、安堵の溜息を漏らしているライナス殿下。あまりにも予想外の反応に、私とグレンは顔を見合わせる。

「……。ミヅキが本命だったということか?」

「二人の反応を見る限り、そうみたいだけど……でもさ、おかしくない? 私に用があるなら、魔王様経由の方が確実だよ?」

「そうだよなぁ。そもそも、保護者の許可なくお前に仕事を頼めるはずはない。そんなことをすれば、親猫の怒りを買うだけだ」

いや、グレン? あんたもナチュラルに魔王様を親猫呼ばわりしてるんかい。

ついつい、生温い目でグレンを見てしまう。そんな私に、グレンは呆れた目を向けると「今更だろう」とのたまった。

そうかい、親猫呼びは各国共通の認識にまでランクアップしていたか。

「とりあえず、事情を聞いた方が良くないか? ここまでの反応をされる以上、儂としても気になる」

「ですよねー! 私も超気になる! って言うか、嫌な予感しかしない!」

「諦めろ。いつものことだ」

グレンよ、微妙に酷くね!?

でもまあ、話を聞かなきゃならないのは確実だよね。とりあえず、聖人様が落ち着いたら、話を聞こうかね。

……で。

「す、すまなかった。喜びのあまり、つい……」

目の前には、絶賛反省中の聖人様。

「申し訳ない。あまりにも都合が良過ぎて、私も喜んでしまった」

聖人様の隣に座り、やや顔を赤らめながら視線を泳がせているライナス殿下。

「別にいいですよー。寧ろ、聖人様が未だ、私の手を握ったままでいることの方が疑問に思いますし」

そう、私の手は未だ、聖人様に握られている。その『絶対に逃がさん!』と言わんばかりの態度に、呆れるべきなのか、逃げる算段をすべきなのか、私も迷い中。

おいおい、マジで厄介事を持ち込んだのか? それも、魔王様には話せないような内容ってことですか!?

なお、彼らの目当てが自分ではないと判明したグレンは、涼しい顔で茶を飲んでいる。アルベルダに関係する案件ではないと悟った途端、『所詮は他人事』と言わんばかりの態度になった。おのれ、赤猫。

「とりあえず、用件を話してもらえませんか? 私が動くか、動かないかは別にして、魔王様には報告が必要ですからね」

「あ、ああ、そうだな。まずはこれを見てもらいたいんだ。聖人殿、あれを……」

「そ、そうですね。これを見てもらわなければ、我らの懸念も意味が判らないでしょうし」

話を進めるよう求めれば、ライナス殿下が聖人様を促した。対する聖人様も慌てて頷くと、懐から何かを取り出す。

うん? これは……手紙? ただ、最近のものではないだろう。少々、封筒がくたびれている印象を受ける。

「まずはこれを読んでもらいたい。これは教会で保管されていたものだ。ただ……その、少々、意味が判らないかもしれないんだが」

「はぁ? 聖人様、これ教会のお偉いさん宛てに来た手紙みたいだけど? 当人達以外に理解できない内容だから、部外者が読んでも意味が判らないってこと?」

「意味が判らないというか、理解しにくい内容というか……」

尋ねるも、聖人様も言い方に困っているようだ。そんな聖人様を見かねたのか、ライナス殿下が手紙を私の方へと差し出してきた。

「とりあえず読んでみてくれないか? 私達の用事もそれが原因と言えるんだ」

「……? まあ、いいですけど」

訝しく思いながらも封筒を受け取り、中の手紙を取り出す。視線をグレンに向ければ、心得たとばかりに、グレンも横から手紙を覗き込んできた。

さて、では私も手紙を読んでみようか。

……。

……?

……??

何 こ れ ? 意 味 判 ら ん !

ちらりと視線をグレンに向けると、グレンも困惑気味に手紙を読み進めているようだった。

う、うん、これは反応に困る。と言うか、さっきの聖人様の態度にも納得だ。確かに、どう言っていいか判らないし、説明しろと言われても困るだろう。

『御伽噺に依存させる』って、何さー!?

一般人には理解できない、独自の教育方針か何かですか!?

「あ〜……まあ、普通はそういった反応になるだろうな」

ライナス殿下も私達の反応が予想済みだったらしく、がっくりと肩を落とした。聖人様は……あれ、何か涙目になっているような。

「読んだか、友よ。意味が判らないだろうが、落ち着いて聞いてほしい。……忌まわしいことだが、この世界……特に血が濃くなる階級には、稀に『独自の価値観に生きる方』が出てしまうのだ」

「ああ、先祖返りってやつでしょ? それは知ってる」

先祖返りについては、特に隠される内容ではなかったはず。真剣に話す聖人様には悪いが、私はそこまで重要な案件だとは思えなかった。

「そこまでは理解できているのだな。だが、今回は『血の淀み』と言われるものである可能性が高い。はっきり言ってしまえば、精神に何らかの異常を抱えている場合だ。ただし、問題が発覚するまでは普通に見える上、能力や容姿に優れている場合が非常に多い」

「それ、周囲の人達は気付かないの?」

「特定の事柄のみ、理解できないというか。説明が難しいんだが……誘導次第では、本当に優秀な人物と思われて一生を終える場合もあるんだ。善悪の見方が極端だったり、特定のことに異常な拘りを見せたりといった感じだな」

「……。何となくは判る気がするけど、あまり害はないような感じだね?」

『誘導次第で、優秀な人物という評価になる』なら、日常生活には何の問題もないということだろう。ならば、特に問題視する必要はないような。

だって、『血の淀み』が出る階級って、婚姻相手が限られてくる王族とか、高位貴族でしょう? だったら、お世話係を付けたり、監視することは可能だし、隔離に近い状態で過ごさせることもできるはず。

そう伝えるも、聖人様は苦々しい表情のまま、首を横に振った。

「言っただろう? 『能力や容姿に優れている場合が非常に多い』と。しかも、そういった者達には何故か毎回、信奉者とも言える者達が存在するんだ。独自の世界に生き、何があろうとも己を貫く強さを持つゆえ、カリスマ性に優れているのだろうな」

「ああ……そのせいで本格的に拙い状況になるまで、周囲も気付かないと」

「気付いても、無条件に従う者達がいたりする。それにな、該当人物を憧れの目で見ていた場合、その言動に多少の疑問を感じたとしても、見て見ぬ振りをするか、好意的に解釈をしてしまいがちだ。ゆえに、問題の発覚が遅れるそうだ」

「うっわ、傍迷惑な!」

思わず声を上げるも、その心理には納得できる。誰だって、憧れの人の嫌な面は見ないようにするじゃないか。

例を出すなら、アルやジークだろうか。この二人は日常的に、そういった解釈をされているだろうから。

アルの冷たい言動に思うことがあったとしても、自分が当事者でないのなら、『きっと、アルジェント様を怒らせるようなことをしたのね』とでも解釈し、相手の方に非があると思うだろう。自分がアルに優しくされているのならば、尚更に。

ジークの直球表現をキツイと思ったとしても、彼は騎士であり、英雄の子孫。『王族の血を引きながらも、自ら剣を振るって民を守るような方だもの。騎士らしくご自分に厳しい分、人にも厳しいのね』とでも解釈されれば、高評価へと発展。

実際は、『自分が認めた者以外、どうでもいいと思っている人間嫌い』と、『純白思考の馬鹿正直』なのだが、彼らの容姿や立場が、勝手に高評価へと繋げてしまう。人間の思い込みって恐ろしい……!

……。

ぶっちゃけると、『顔と能力が揃っていれば正義』ってことなんだろうな。判りやすい人間の心理というか、現実です。

現に、シャル姉様は守護役達のことを『不良物件』と評価している。冷静に『男性』として判断した場合、『ないわー、こいつらが結婚相手なんて!』という結論になったのですよ。問題点が多過ぎる、と。

シャル姉様の場合、自分の好みぴったりの優秀な旦那様がいるので、そちらと比較しても『却下』という評価だろう。

「ミヅキ、もっと判りやすい例があるぞ。寧ろ、一発で事の重大さを理解できる」

不意にグレンが肩に手を置いて来た。その表情は妙に真剣さが漂っている。

「グ、グレン?」

「キヴェラの先代、戦狂いを思い出せ。異様に好戦的で、殺し合いが大好きだったと聞いただろう? お前とて、言っていたじゃないか……『戦を仕掛けるにも金がかかるし、攻めた国の人間を殺しまくったら、自国の領土にするにしても効率悪くない?』と。まさに、それだ」

「え゛」

「戦狂いにとっては、国のことなどどうでも良かった。拘ったのは『自分が楽しむこと』のみ。ただ、戦は一人ではできん。王という立場であれば、国を動かすことができると同時に、『遊び相手』が勝手に湧く。その強さに惹かれ、忠誠を誓う者とていたはずだ。あそこまで酷くはないと思うが、それでも警戒するのは当然だと思うぞ」

「戦……狂い……」

グレンの言葉を聞いた途端、戦狂いに関する『あれこれ』(意訳)が私の頭を駆け巡った。あまりにもヤバ過ぎる例に、一気に蒼褪める。

「判った! 物凄く理解できました! 確かに、その『拘り』によっては、傍迷惑で済まないかもしれない!」

ありがとう、グレン。一発で、聖人様達が危惧するわけが理解できた。状況によっては、とんでもない災厄になる可能性があるってことなんですね……?

でもさ……どうしてその相談を私にするのかな?