軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

元凶は友の凄さを思い知る

――とある場所にて(??視点)

「これでキヴェラが内部分裂する可能性が消滅……と」

該当項目へと線を引き、暫し眺める。紙面に書かれている項目はかなりの数に線が引かれ、それらが起こり得る可能性が皆無に近いことを示していた。

……そんな紙面を眺めると同時に、何とも言えない気分になる。

「……。何でしょうね、この状況。たかが二人をこの世界に招いただけで、こうも変わるとは。……いえ、厳密に言えば『切っ掛けとなったのはたった一人』なのですが」

それは勿論、グレンでもミヅキでもない。彼ら二人を招くに至った元凶とも言える人物こそ、この結果を招いた張本人とも言えるだろう。

彼……『センリ』は。ミヅキやグレン以上に、先を見据える才覚を有していた。彼の地道な努力は時を経て実を結び、大いにミヅキ達の助けとなっている。

当時は彼の破天荒な性格の方に意識が向いていたが、今となっては、それもまた彼の擬態の一つであったように思えてならなかった。

いかなる世界、どんな国においても、目立つ存在――それが称賛とやっかみをもって『天才』と称される者であったとしても、多くの人々は畏怖、もしくは忌避する傾向にあるのだから。

本質や才覚を隠すことは、自己防衛の一環であろう。『騒々しい人物』と印象付けてしまえば、多少奇抜な言動をしようとも、『いつものこと』で済まされる。

結果だけを受け取るならば、人々は『特別な存在』を歓迎するだろう。だが、それが身近にあった場合、どうしても自分や周囲と比較した挙句、異質なものとして捉える傾向にあるのだ。

それを愚かとは思わない。『理解できない存在への恐怖』は、『種族単位の守り』に繋がるからだ。

特出した才能は、良い結果ばかりをもたらすものではない。時に恐れられ、周囲の者達の手によって葬られることもまた、悲劇を阻む抑止力となる。

この世界で言うなら、キヴェラの『戦狂い』がいい例だろう。彼は異様なまでに好戦的な性格をしていただけでなく、一定数は支持する配下達が居た。少なくとも、国は維持できている。

時代が彼に合っていたならば、間違いなく稀代の英雄王ともてはやされたに違いない。本人が望まずとも、周囲が勝手に祭り上げるのだ……要は『その時代において必要とされたか、否か』ということなのだろう。

「そう考えると、センリは所謂『天才』というものなのでしょうね。彼は間違いなく、自分が居なくなった後のことも見据えていたでしょうし」

ミヅキやグレンの一歩先を行く、その才覚。キヴェラ王やエルシュオン殿下あたりならば、対等な存在として受け入れそうだ。逆に言えば、彼らくらいしか付いて来れまい。

今となっては、米すらもミヅキ達を動かす餌に思えてならなかった。彼が二人の性格を熟知していたなら、米は立派に二人を動かす交渉材料になるじゃないか。

「『異世界人には、この世界の協力者が必須』……それはこの世界の側から見ても同じことが言える。自分達ではどうにもならないからこそ、未知の知識を持つ異世界人を頼るのですから。問題は『この世界の住人が頼る価値があるか』、そして『異世界人が動いてくれるか』という二点」

ミヅキは個人の感情優先で動く傾向にあり、要所要所において自らが軌道修正を図っている。言い換えれば、一手で望んだ結果にもっていくのではなく、決着に至るまで自分が見届け、動くのだ。だから、周囲にはその考えが読めないと思われる。

彼女が努力家であることは間違いないだろうが、天性の勘というものも影響している上、ミヅキ自身に不屈の根性が備わっていることが多大に影響しているのだろう。それゆえの、得難い功績。

諦めなければ、失敗しても巻き返しが可能なのだ。

突き抜けた自己中と執念深さはある意味、最強。

対して、グレンはセンリとミヅキの双方を併せ持ったような遣り方を得意とする。計画的に事を進めることを教えたのは間違いなく、兄のような存在であったセンリだろう。

グレンが得意とする囲い込むような……じりじりと追い詰め、気付いた時には手遅れという陰険なやり口は、センリが得意とした『計画的犯行』とやらではなかろうか。

『狙うのは完全犯罪、バレなければ問題ない。そもそも貴族階級なんざ、突かれて困ることだらけだ』とはセンリの言葉である。……結果が出れば問題なし、と意訳したことは言うまでもない。

ミヅキからは前向きさというか、不屈の根性とやらを学んだのだろうか? 今でこそ『それなりに』落ち着いてはいるが、若い頃のグレンは今のミヅキとよく似ている。

それ以前に、『賢いだけの大人しい子』が、当時のウィルフレッドの傍で生き残れるはずはなかった。生き残るどころか、敵を追い落として足場を築いてしまった時点で、グレンの性格はお察しであろう。

大らかなウィルフレッドとは、実に良いコンビだったと思うしかない。

性格の違う主従だからこそ互いの欠点を補い合い、付き合っていけたのだろう。

「そもそも、センリの行動が現在に影響を及ぼしています。本来ならば、ガニアに聖女と呼ばれる者など存在しなかった。弱いままの異世界の少女はこの世界でも居場所を見つけられず、不幸な生涯を終えるしかなかったはず。そうなった場合、召喚された彼女の姉がどんな行動をとるかなど、判りきっています」

妹を不幸にした国とばかりに、姉は報復を決意するだろう。それが八つ当たりに等しいと判っていても、責任の一端があるならば、縋らずにはいられない。

今回、聖女の姉が『納得した』のは……最愛の妹がこの世界で居場所を見つけ、幸福に生きたから。

その『事実』が、彼女の立ち位置を根本的に変えてしまった。ガニアは自国の脅威に成り得る存在が居なくなったばかりか、得難い守護者を得ることができたのだから。

「そういった意味では、アリサも利用される運命を免れた一人。こちらはミヅキの功績ですね。彼女が居なかった場合、アリサは最悪、心を壊すような状況になっていたでしょうし」

無知なまま貴族達と距離を置いた少女は、教会に縋ることになっただろう。……だが、そこも彼女にとっての安息の場にはなるまい。

異世界人という事実、そして彼女の善良さは強欲な者達に都合よく利用され、教会派と王家派の対立をより深めることになったはず。

そのことにアリサ自身が気づこうとも、彼女には強欲な者達を諫める術などなく、逃げることもできない。頼る者もなく逃げ出したところで、生きていけるはずはないのだから。

逃げ出す勇気はなく、けれど心が汚濁に染まることを受け入れるような割り切り方もできなくて。きっと、彼女はじりじりと壊れていったに違いない。

「……ああ、本当に。センリは一体、どこまで予想済みだったのか」

ついつい、苦笑が漏れる。具体的なことは判らずとも、無条件に元の世界に居る友を信じていたセンリ。愚かだったのは、『信頼ではなく、確信だ』と言い切った彼の言葉を信じようとしなかった己の方。

『【信頼】などという曖昧なもので望んだ結果に辿り着けるならば、多くの悲劇が回避できるはずじゃないですか』

呆れた口調でそう告げた私に対し、『君にはそういった存在が居ないだけだ』と、彼はどこか誇らしげに返していた。

当時は納得できなかったが、これほどに結果を見せつけられた以上、認めざるを得ないじゃないか。

……。

……そう、認めるべきなのは判っているけれど。

こればかりは例外中の例外だと言っても許されると思うのは、気のせいか。そもそもセンリを含めたこの三人、誰一人として互いのことを思って行動したわけではないのだから。

センリは望んだ未来のため、数多くの『切っ掛け』を作り。

グレンは目的のために、己が持てる全てを使い。

ミヅキは個人的な感情のまま、好き勝手に行動した。

ものの見事にバラバラである。どいつもこいつも『個人的な目的』のために動いて結果を出しただけで、揃って『正義』やら、『善意』といったものとは無縁だ。寧ろ、邪魔者は容赦なく蹴落としている。

ミヅキとグレンはセンリの思惑など知るはずもないので、『センリへの友情と信頼ゆえの行動』ということもないだろう。センリとて、二人のことが大事だったら、私に彼らのことなど教えまい。

彼らは本当に、自分勝手に生きているだけなのだ。冗談抜きに、自己中心的思考の者達が好き勝手した結果が現状なのである。

それが結果的にセンリ『達』の目指すものに繋がっているのだから、三人の中で最も有能なのはセンリなのだろう。残る二人の性格を的確に捉えているあたり、中心的人物だった可能性は高い。

……ああ、それでも。

「懐かしいと……そう思ってしまうのは、何故でしょうね」

既に過ぎ去った賑やかな時間を覚えている者は、己以外になく。それ以前に、人のような感情などないはずの己。

それでもミヅキ達がこの世界の住人達と触れ合う姿に……賑やかな遣り取りに。在りし日の彼らを思い出してしまうのは、己もまた影響を受けていたということだろうか。

兄弟のような主従の遣り取りとか。

協力者達と共に苦労し、手にした結果に喜び合う姿とか。

親友と呼び合う仲の者とじゃれ合う姿とか。

どこかで見たことがある遣り取りは胸を温かくさせ、同時に知らないはずの感情を呼び起こさせる。それはきっとセンリ達が私に成した呪いであり、祝福であり、置き土産なのだろう。

――『忘れるな』と。

確かに存在した時間に、私も居たのだと……共に過ごした時間を忘れがたく思う気持ちがあるのだと。すでに言葉を交わすことも適わないのに、どうしようもなく過去に想いを馳せるのは。

「……ああ、そうか。これを『追憶』と呼ぶのですね。懐かしくも、どこか寂しい気持ち……共に過ごした時間は、私にとっても価値ある記憶だったということですか……」

呟いて、目を閉じる。閉ざされた視界の中に浮かぶのは懐かしい人々。記憶の中にしかいない『友』が、苦笑しながら肩を竦める。

――『漸く、気付いたのか』と、友の呆れたような声が聞こえた気がした。