軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

年末年始 IN ゼブレスト 後日談

――後宮・ミヅキの部屋にて(主様視点)

「いやぁ、あいつら慌ててたな!」

「馬鹿よねー! こっちが動く隙を与えるなんて。チャンスを逃すはずないじゃない」

楽しげに会話をするルドルフ様と魔導師様の姿は、仲の良いご姉弟のよう。ルドルフ様と魔導師様は生まれも、育ちも違うというのに、距離を感じさせません。本当に、遠慮のない関係なのでしょう。

思わず、私も沼の子達を思い出し、お二人を微笑ましげに見守ってしまいます。ですが、そうなるまでには色々とあったようでした。

とても平和で、和やかな時間。けれど、そこに至るまでにルドルフ様が辿った道は、幸せとは程遠いものでした。

思い出すのは、苦い顔をしたアーヴィレン様が語ってくださった過去。人ですらない『部外者』である私相手に語られたそれは、まるで懺悔のようでした。

※※※※※※※※※

切っ掛けは……ルドルフ様と魔導師様が池に住むカエル達と共に、お昼寝をしていたことだったと思います。

カエル達と戯れながらも、温かく柔らかい日差しに眠気を誘われたのでしょう。日頃の疲れもあり、いつの間にか眠ってしまったようでした。

皆揃っての穏やかな時間を見守っていた私に、アーヴィレン様は何とも言えない表情のまま、お二人が体を冷やさぬよう、薄掛けをかけながら仰ったのです。

「ミヅキの傍なら、警戒心なく眠れるのだな」

魔導師様はとてもお強いので、初めは『何者にも害されることはない』という意味でのことだと思いました。ですが、続いた言葉に、私はそれが間違いだと悟ったのです。

「……。漸く、そのような相手ができたのですね」

そこに込められていたのは喜びと……苦い過去でした。

アーヴィレン様は私の視線に気付くと、ご自身もその場に腰を下ろされました。

「少し、話を聞いてもらってもいいだろうか」

私が断る理由はありません。アーヴィレン様は一言感謝を告げると、語り出しました。

「ルドルフ様には同年代の友人とも言うべき存在がいなかった。しいて言うなら、エルシュオン殿下だろうか。まあ、他国の王族なんだが」

エルシュオン殿下とは、魔導師様の保護者様ですね。ルドルフ様ともご友人と聞いております。

「だが、これは本来ならばありえない状況だ。通常、身分や派閥の結束を踏まえ、同年代の子息達が側近候補となっているはずなんだ」

……確かに、アーヴィレン様やセイルリート様、そしてエリザ様は『友』というより、『配下』という立ち位置でいるように見受けられます。

魔導師様は『私がこの国にとっては部外者だから、接触する人達は最低限なんだよ。まあ、私の遣り方を知っていたら、【知り合わせない】って言う方向になるよね』と仰っていたので、そのせいだと思っておりました。

ですが、アーヴィレン様の言い方では、『配下』は居ても、『友』は居ない……という状態のような。

首を傾げた私の気持ちを察したのか、アーヴィレン様は首を縦に振りました。

「その予想で合っている。……ルドルフ様にも当初、そういった者達は居たんだ。だが、父王がルドルフ様を疎み出したことで、彼らは離れていった」

……何とも、薄情な。

呆れる私に、アーヴィレン様は『それも仕方がないことだ』と呟きました。

「彼らの意志で離れた場合もあるが、家の判断という場合もあった。幼いからこそ、当主の言葉は絶対だ。それに……見せしめが行なわれれば、脅えるのも仕方ない」

『どなたか、お亡くなりになられたのですか?』

暗に、見せしめによる殺害を疑えば、アーヴィレン様は首を横に振りました。

「死んではいない。だが、遣り方が最悪だった。警告に従わず、ルドルフ様の味方をした家の子息達を、ルドルフ様の目の前で傷つけたんだ。勿論、表向きは賊の仕業ということになっているがな」

『……卑劣な』

そうとしか言いようがありません。ルドルフ様に何の非もなかろうと、これではルドルフ様のせいのように思われてしまいます。

……。

いえ、確かに、ルドルフ様の味方をしたことが原因ではあるのでしょう。ですが、ルドルフ様とて被害者ではありませんか。責めるのは筋違いというものです。

「将来的に家を継ぐ子ならば、親が無理矢理引き離す。だが、子供達とて脅えるだろう。そして……ルドルフ様は己を責めると同時に、友となる可能性がある存在達を失った」

『それは……』

「ルドルフ様とて、幼いんだ。当然、傷つく。それだけじゃない、自分は親から疎まれているのに、子を守ろうとする親の姿を見せつけられるんだ。……様々な意味で、奴らはルドルフ様を傷つけたかったんだろうな」

『……』

離れた者達にも、彼らなりの言い分があったのでしょう。自己保身と言ってしまえばそれまでですが、相手は自国の王……そして、次代の王と目されるルドルフ様は幼い。

これでは、家ごとルドルフ様と共倒れする覚悟がない限り、離れるしかありません。身分も、王に味方する者達の数も、圧倒的にあちらが勝っていたでしょうから。

そもそも、子供というものは残酷です。感情のままに振る舞い、言葉を吐く……だからこそ、ルドルフ様はより傷つかれたのではないのでしょうか。

「だから、私達は『配下』という立場を選んだ。配下ならば、主を守ろうとするのは当然のこと……それは忠誠であり、矜持だ。いくら思うことがあろうとも、ルドルフ様とて諫められまい」

『アーヴィレン様のご実家を思えば、納得するしかなかったのでしょう』

「そう考えたのは私だけではないぞ? セイルは剣の腕を磨き、エリザは毒に詳しくなった。職務に忠実であればあるほど、ルドルフ様をお守りできる。そして、自分の身も守れる。ルドルフ様はそうして、私達の在り方を受け入れてくださった」

『そうですね。聡い方だからこそ、個人の在り方を尊重してくださる気がします』

「だが、その弊害が……」

『友の不在、ですか』

「ああ。主と配下では、どうしても壁がある。だが、エルシュオン殿下と幼馴染の二人の騎士達の姿を見ると、主従以外の絆も感じ取れるんだ。私達とルドルフ様の間には、それがなかった」

『なかった』とアーヴィレン様は仰いましたが、意図して作らなかったのでしょう。それもまた、ルドルフ様が傷つかぬようにするため。

言い方は悪いですが、『配下の死』は職務に含まれている『一つの可能性』。

『友の死』は、完全に個人的な感情が行動の発端です。

ルドルフ様とて王なのですから、命の危険などの覚悟はできていらっしゃるはず。……そう、『立場や仕事上のこと』ならば、まだ納得できるのです。

ですが、それらがない場合、ルドルフ様は再び『自分のせいだ』と己を責めることでしょう。

アーヴィレン様達は、過去に嘆かれたルドルフ様を目にしています。その悲痛さを想えば、まだ孤独の方がマシだと思えたのではないのでしょうか。

「そんな状況だったんだが、ついに限界が来てな。懇意にしてくださっていたイルフェナのエルシュオン殿下を頼った結果、ミヅキが派遣されてきたんだ。まあ、最初は異世界人の魔導師など、何の冗談かと思ったよ」

そう言いながら、当時を思い出したのでしょう。アーヴィレン様の顔には苦笑が浮かんでおりました。勿論、それは悪い意味ではなく。

「正直に言うとな、私達はミヅキをあまり信用していなかった。いや、厄介だとすら思っていたかもしれない。何せ、死なれては困る。それに加えて最悪だったのは、私達の狡さだろう。……『少しでも奴らの的になってくれれば』などと思っていたのだからな」

『成る程、ルドルフ様の方を優先されたのですね?』

「ああ。あの当時、ルドルフ様は疲れ切っていたからな。獲物が増えれば、奴らの注意も逸れる。助け手として受け入れながら、私はそんなことを考えていたんだ」

それもまた、アーヴィレン様の後悔なのでしょう。私が知るアーヴィレン様は間違いなく、魔導師様を慈しんでいらっしゃるのですから。

そのような関係になるまで、どのようなことがあったのかは判りません。ですが、魔導師様の方もアーヴィレン様を保護者のように慕っていらっしゃるようですから、今は良い関係を築けているのでしょう。

「そう考えていたんだが。……ミヅキがあまりにも規格外だったんだ」

『は?』

アーヴィレン様は何故か、遠い目になりました。はて、先ほどまでとは随分、雰囲気が違うような……?

「死なれても困るから、一応、忠告はしたんだ。あの馬鹿娘、何て言ったと思う? 『大丈夫、私が【狩る側】だから!』だぞ?」

『はい?』

咄嗟に意味が判らず、思わず聞き返してしまいます。『狩る側』、ですか……その、魔導師様はこの世界に来て早々、この国に放り込まれたと聞いたはずなのですけど。

ですが、アーヴィレン様も色々と溜め込んでおられたようでした。

「私も意味が判らなかった。だが、自己責任ということでいいのだろうと、都合よく解釈していた。その結果……ミヅキは本当に、仕掛けてきた奴らを狩りまくったんだ。あの自己中娘、本気でやる気満々だったのだ……!」

『何とまあ、逞しい。当初から、将来有望だったのですね』

自然界において、自分の身を守る強さは必須です。弱ければ、食われるだけですから。

複数の子を産む種に至っては、弱い子を見捨て、生きる力の強い子のみを育てることが多々あります。これは『種を存続させる』という本能なので、残酷に思えるやもしれません。

ですが、そういった我々の常識から見れば、魔導師様は間違いなく将来有望な子なのです。有名になられたのはもう少し後のようですが、この世界に来た当初からその片鱗は現れていたのですね。

私は素直に感心したのですが、それはアーヴィレン様が望む答えではなかったようでして。

「あ〜……いや、その、できれば人間の常識を当て嵌めて欲しいのだが……」

『生存競争に勝利する逞しさは、人間においても重要では?』

「そ、それはそうなんだが! ミヅキの場合、常識が欠落しているというか、自己中極まりないというか! 淑女たれと言ったところで無駄だとは思うが、せめて常識というものを身に付けてほしいと……」

『アーヴィレン様は魔導師様を案じてらっしゃるのですねぇ』

それは保護者としての感情でしょう。あからさまに保護者のように振る舞うことはないようですが、間違いなく、庇護していらっしゃるように見受けられます。

微笑ましく思っている私にそれ以上の言い訳は無駄と感じたのか、咳払いをすると、アーヴィレン様は再び話に戻られました。

「まあ、そんな感じでな。ミヅキは殺られるどころか、報復を楽しむ性格だったんだ。勿論、有言実行だ。だからこそ……ルドルフ様も安心したんだと思う。『ミヅキは自分の傍に居ても潰されないし、迷惑を被っても離れていかない』と」

『少なくとも、過去、離れていった方達と同じになる気はしませんね』

「それどころか、ルドルフ様関連で巻き添えを食らおうとも、本人がその状況を楽しみ、嬉々として報復に回る。間違っても泣き寝入りはしないし、それに……ルドルフ様を責めることもないんだ」

『……』

自然と、私の視線は眠る二人へと向けられました。無条件の信頼など、ルドルフ様の立場では抱くわけにはいかないのでしょう。それは今も、変わっていないはず。

ですが、将来的に王となる立場だろうとも『幼少の頃は保護者に守られ、子供でいられる時間もあるのが普通』なのです。そこから学ぶものもあるのですから。

ルドルフ様にはそのような時間がなかった。……子供らしく過ごせるだけの余裕も。それゆえに、どこか歪みを抱えてしまったのではないのでしょうか。王である姿と、個人としての姿に差があるのも、その影響のような気がします。

魔導師様と一緒に居ると少々、子供っぽく思える時があるのは……ルドルフ様が幼い頃に欲しかった時間を、やり直しているせいかもしれません。

勿論、ご本人に自覚などないでしょう。ですが、アーヴィレン様はそれに気が付かれた。だからこそ、当時の自分達の選択に自信が持てなくなっているのやもしれません。

『貴方達のしてきたことは正しかったと思いますよ』

ならば、私が肯定を。人の常識に囚われず、ただ愛しい者達を守れれば良いと考える自分勝手な蛇の戯言ですが、それでも言わずにはいられません。

『魔導師様がいらっしゃるまで……ルドルフ様にとってかけがえのない友が現れるまでの時間、お守りしてきたのは貴方達ではありませんか。その時間なくして、あの光景はあり得ないのですよ』

「そう、か」

『ええ』

アーヴィレン様は柔らかく微笑まれ、私同様に、お二人へと視線を向けました。きっと、見えない所ではセイルリート様や騎士様達がその眠りを守り、エリザ様はお二人が目覚められた時に召しあがるお茶を用意していることでしょう。

確かに、友として傍に居ることは叶わなかったかもしれません。ですが、彼らもまた失いたくない者達であり、自分を慈しんでくれた存在だと、ルドルフ様はご存知のような気がするのです。

ですから……あのように無防備な表情で眠っていられるのだと思いますよ?

※※※※※※※※※

「まったく、相変わらず賑やかなことだ」

いつの間にか部屋にやって来たアーヴィレン様が、お二人に呆れた目を向けられます。ですが、その目が優しくお二人を見守っていることを、私は知っているのです。

それにね、アーヴィレン様。ルドルフ様の良き友は、もはや魔導師様だけではないのですよ。

くーぇっ!

「あはは、タマちゃんも楽しかった?」

くぇっ!

「そうか、また遊ぼうな。俺の肩を定位置にするか、おたま」

――緑色の小さな守護者、私の可愛い子供達。

あの子達は寄り添うことを本能的に知っています。牙も、爪もない種だからこそ、互いに助け合うのです。

人から見ればとても頼りないかもしれませんが、魔導師様が色々と教えてくださっているので、これまでの認識通りとはいかないでしょう。

そして……私もまた、ルドルフ様をあの子達と同じように慈しみたいと思うのです。

大丈夫ですよ、アーヴィレン様。貴方達が欠けていると感じている部分は、私達が補いますからね。