軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

年末年始 IN ゼブレスト 其の三

――私とセイルによる、カエル達の保護者こと白い蛇への謝罪後。

「本当にあいつらときたら……」

『うんうん、アーヴィレン様はとても真面目な方なのですね』

「「……」」

宰相様は白い蛇――蛇様とか、沼の主様と呼べばいいのだろうか?――へと愚痴りまくっていた。

蛇の方も頷いたり、相槌を打ったり、付き合いが良い。保護者同士、何かしら共感できる部分があるのかもしれなかった。

その光景を、私とセイルは微妙な表情で眺めている。カエル達が時折、慰めるように鳴いてくれるのが救いさ。

なお、タマちゃんは私の膝の上に陣取って、ご機嫌である。後宮の池はかなり寂しい状況なので、仲間達や保護者との交流が嬉しいのかもしれない。

「異種族間での友情成立かな」

「どちらかと言えば、同じ苦労を分かち合う者同士の交流でしょうか」

「まだ蛇…… 主(ぬし) 様の方は被害に遭ってないじゃん」

「主様?」

「どう考えても、この沼の主扱いじゃないの? あの蛇」

「ああ……確かに、そうかもしれませんね。カエル達がこの沼に暮らすからこそ、保護者意識があるようですから」

こそこそと話す私達は当然、正座である。私はともかく、セイルにはそれなりにキツイ体勢ではなかろうか。

それでも素直に言うことを聞くあたり、セイルにはしっかりとカエル達を凶暴化させた自覚がある模様。自覚ありだったのかよ、お前。

「そこ! 何をこそこそと言っているんだ! 反省はどうした!」

「反省してますって。良い子でお話が終わるの、待ってるじゃん」

「貴方達のお話は聞いていますよ、アーヴィ」

突如として、こちらを叱責する宰相様。どうやら愚痴りつつも、私達の動向には目を光らせる癖がついているらしい。

……。

信用ねぇな、私達。

これまでの苦労が偲ばれますね!

「はぁ……まったく。今夜の夜会のことだけでも頭が痛いというのに」

溜息を吐きながら、呟く宰相様。その表情にどことなく疲労が滲んでいるのは、気のせいではないだろう。

「あれ、夜会があるんだ? だったら私はさっさと帰るね」

部外者ですからねー、私。邪魔にならないよう、さっさと帰りますよ。

そういや、イルフェナでも年を跨いで夜会が行なわれていたっけね。魔王様は今年も早々と騎士寮に退散しちゃうだろうから、いつもの騎士寮面子を交えての飲み会になるだろう。

……と言っても、仕事に支障が出ない程度だけど。

残念なことに、彼らは騎士なのだ……年末年始なんて、一番忙しい時期ですよ。私と騎士寮の料理人さん達はいつでも食事を提供できるよう、常にスタンバイしております。何故か、騎士sもこちらに組み込まれてるけどな。

「何を言ってるんだ。お前も出るんだろうが」

「へ?」

「このためだけに、セイルを向かわせたとでも思ったのか? この一年の苦労を労う意味で催されるものだから、それほど堅苦しいものではない。勿論、お前にも参加資格がある。エルシュオン殿下にも了承を得ているぞ」

「聞いてないってば!」

「何だと? おい、セイル。どういうことだ?」

知らないぞ、何さ、それ!?

ジトッとした目を隣で正座するセイルに向けると、彼は暫し、視線を泳がせ――

「正直に言うと来ないと思ったので、黙っていました」

わざとらしい笑顔で、ろくでもないことを言った。ちょ、お前が原因か!

「煩い奴を黙らせるか、ルドルフに魔導師の後ろ盾があることをアピールするためでしょ、それ。正直に言っても、協力するってば」

「ですが、貴女はここのところ親猫から離されてばかりでしたから。漸く、イルフェナに落ち着いた直後ですし、一応はルドルフ様やアーヴィは気を遣ったのですよ」

「ほう」

つまり、宰相様やルドルフ『は』私の意思を優先させてくれるつもりだったと。

「もっとも、カエル達の保護者への謝罪だけは、ルドルフ様もさせるつもりでしたよ? ルドルフ様はここに来てあの蛇の存在を知って以来、かなり気にしてらっしゃいましたから」

「うん、それって『カエル達の保護者にごめんなさいして来い。以上!』ってことだよね? その後のゼブレスト側のお手伝いって、私の自由参加じゃね?」

「折角、ゼブレストに来たんですから、参加していきましょう。いいじゃないですか、ルドルフ様も喜びますよ」

セイルは全く悪びれない。と言うか、『参加しますよね? するって言いなさい、異議は認めませんよ。強制参加です』と目が言っている。

そこに割り込んできたのは、複雑そうな表情をした宰相様の声だった。

「……セイル。お前、ルドルフ様がミヅキに置いて行かれてばかりだと愚痴を零されているのを、知っていたな? それもあって、ミヅキを問答無用にゼブレストに連れて来たのか」

「ふふ……『遊ぶ場所が問題』ならば、この国で遊べばいいじゃないですか。幸い、ミヅキの玩具になりそうな輩は、まだまだ沢山いますし」

「お前までもがミヅキに毒されているのか……っ」

さらっと『ゼブレストの玩具で遊べばいーじゃん?』と提案するセイルに、宰相様は青筋を浮かべた。

だが、宰相様とて、この国から離れられないルドルフを気の毒に思っているのだろう……それ以上の言葉が続かない。

って言うかだな? さりげなく、私を元凶にするのは止めてくれませんかね!?

「……。途中まではルドルフを気の毒に思う忠臣の、良いお話だったね。あと、宰相様? セイルは元からこの性格なんで、私のせいにするのは止めれ」

「多少なりとも、影響は与えただろうが」

「発芽に水、適切な温度、酸素が必要なように、セイルがこうなった原因には複数の要因があります! 私の責任はほんの一端だけ!」

「自己弁護するな、馬鹿者。間違いなく、半分以上はお前の悪影響だ。後宮騒動以降、どれだけ巻き込んだと思っている」

「ええー……ゼブレストのためになったんだから、いいじゃない! 守護役経由での情報伝達が一番確実で、無理がないんだもの!」

マジである。異世界人だからこそ守護役が傍に居たりするし、情報を流しても問題視されないのだから。

そもそも、そういったことを狙っての守護役制度じゃないか。情報や知識の共有を利用するのが、この世界の人間ばかりとは限らないだけ。

良い教訓になったじゃないか。ある意味、世界への貢献です。

『異世界人にもヤバい奴がいる』っていう、警告にもなったけど。

宰相様もそれは判っているのか、視線を泳がせ言葉が続かない。真面目な人だからこそ、下手な言い訳をしないのだろう。

まあ、そんなことは置いておいて。

「ええと……とりあえず、夜会に飛び入り参加すればいいのかな」

「いいのか?」

意外とばかりに、宰相様が軽く目を見開く。そんな宰相様に対し、私はにやりと笑い。

「ルドルフは私と『遊びたい』んでしょ。たまには、いいんじゃない? この国で遊ぶ許可が得られるなら、何の問題もないわ」

割とろくでもないことを言った。即座に、宰相様が顔を引き攣らせる。

「いや、いくらルドルフ様が望まれたとしても、ものには限度というものがあってだな……」

「大丈夫、大丈夫! 私は超できる子だ。破壊活動なしで、極一部に精神的な被害だけなら、問題はないでしょ」

その『精神的な被害』によって多大なるダメージを受け、寝込む奴が出る可能性もゼロではないだけさ。

だいたい、私達の『悪戯』の被害者はルドルフの敵オンリー。ほれ、宰相様達は何も困らない。

「大丈夫ですよ、アーヴィ。所詮はミヅキの『悪戯』です。我々が行動するよりも、遥かに被害は少ない。そもそも……」

そこで一度言葉を切って、セイルは笑みを深めた。

「あの後宮騒動やその後において、魔導師であるミヅキに喧嘩を売ったのは彼らの方。玩具になる覚悟はできているでしょう」

「いや、それはカエル達への被害も含まれているだろうが」

「ですが、おたま達は『魔導師のカエル』ですよ? 我々があの子達を助けた回数とて、少なくありません。言い逃れはできませんよ」

「それ以上に、カエル達が貴族達を襲っている気がするんだが……」

にこやか・爽やかに諭してくるセイルの言葉に心当たりがあるのか、宰相様も諫めることができないようだ。そして私は、『カエル達がセイル達に庇われている(=庇わなければヤバかった)』という事実を知る。

ほほう、うちの子達を危険な目に遭わせようとした奴らがいたんかい。

意味ありげな視線を寄越すセイルは、私が考えることなど予想済みなのだろう。寧ろ、それを狙って暴露した気がする。

なお、『カエル達が貴族達を襲うこと』に関しては、何の問題もないので綺麗にスルー。

だって、『何故、そうなったか』を問われた時、困るのは相手の方だもん!

彼らは『カエルが襲うだけの理由』を知られることが一番拙いので、絶対に口を噤む。そもそも、これまでカエル達を虐めていられたのは『人間にはカエル達の言葉が判らないから』じゃないか。

……が。

現時点ではこの問題が解消されてしまった。言うまでもなく、カエル達の保護者こと主様であ〜る!

「タマちゃん、タマちゃん、夜会に出よっか。ルドルフとセイルが一緒に遊びたいんだってさ」

くーぇっ!

お膝で良い子にしているタマちゃんに話しかければ、タマちゃんは目を輝かせて快諾してくれた。あらあら、楽しそう。

そして徐に、白い蛇……主様へと手招きを。

「主様……ああ、この沼の主っぽいので、こう呼ばせてもらいますね。主様も一緒に来ませんか? タマちゃん達は人の言葉を喋れないから、一方的に『人を襲うカエル』にされかけているんですよ。でも、明確な理由が知られれば、納得してもらえると思うんです」

『カエル達が悪者にされかけてます』的なことを言った途端、主様の目がギラリと光った。

『おや……この子達がそのように思われてるのですか』

「言葉で訴えることができないからこその、実力行使なんですけどね。一度、はっきりさせた方がいいかなって」

『……そうですね。言葉の壁というものは大きい。判りました。同行いたしましょう』

「ありがとー!」

はい、主様の参加も決定。喜べ、ルドルフ。今夜はきっと、楽しくなるぞぅ。

「……というわけで! 私『達』も参加しますから。あ、言っておきますけど、『ルドルフと遊ぶために夜会の場に居る』だけであって、夜会自体に用はありません。用が済んだら、退散します♪」

人はそれを逃亡という。だが、勘違いしないで欲しい。これもまた、次に繋げるための一歩なのだ。

なにせ私への抗議って、魔王様経由だからね?

その理由を問われた場合、ルドルフはこれまでのことも踏まえて洗い浚い話すだろう。

魔王様は過保護なので、『気に食わない』という理由でカエル達……もっと言うなら、ルドルフへの嫌がらせを続けている連中に対し、嫌味の一つや二つは言ってくれるに違いない。

たかが嫌味と言うなかれ。そいつらは自動的に、『魔導師の唯一のストッパー』を失うのだ。

つまり、次に私と揉めた時が最期の時ってことですな!

ルドルフだって、そんな奴をわざわざ庇うまい。庇う場合は、ルドルフを命の恩人として崇め、生涯、その忠誠を誓うくらいのことをしてもらおうじゃないか。

「ふむ……まあ、確かに、おたま達の代弁者が存在すると知らしめておくのは必要か」

「そうですよ、宰相様! それでもなお悪さをするなら、狩られても文句は言えませんって」

「狩る!?」

「ちなみに、狩人は私だけじゃないですよ? 寧ろ、筆頭はセイルでしょうね」

嬉々として、狩りそうな気がする。セイルは元から『サクッと殺っちゃいましょう』な人なので、手加減なんてすまい。

「おや、私を悪者にするのですか」

「あんた、夜会のことを黙ってたじゃん! さらっと殺りかねないでしょ!」

「それは貴女の方ですよ、ミヅキ。今まで一体、どれほどの『悪戯』を仕掛けて来たと思っているんです?」

相変わらず、セイルは余裕だ。ただ……そんなセイルに対し、私はにやりと笑う。

「じゃあ、今一個追加ね! ていっ!」

言いながら、正座しているセイルの足をペシッと叩く。

「は? え、ちょ、何……をっ……っ」

「あはははは! さっきから微妙に黙ってたのって、足が痺れてるからでしょ。正座に慣れてないと、よくあることだよね」

「く……」

悔しげな表情で睨み付けるセイルに大いに満足すると、私は宰相様へと向き直った。

「参加するから、楽しみにしてて」

「はぁ……。まあ、程々にな。あと、セイルは自分で何とかしておけ」

「ちょ、おたまっ! 足に飛び掛かるんじゃないっ」

くーぇっ! くぇっ!

「お前達はまったく……」

「タマちゃんを育てたの、私だもん」

タマちゃんも楽しそうで何より。