軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

年末年始 IN ゼブレスト 其の一

その日、私は魔王様の執務室に呼び出された。そこに居たのはアル達だけでなく、何〜故〜かセイルも微笑んでいる。

……。

嫌な予感しかしねぇよ、この状況。

「悪いね、ミヅキ。用件なんだけど……ルドルフが君を呼んでる」

「へ?」

「しかもわざわざ、セイルリート殿を迎えに寄越してるんだよね。……で?」

にこやかに微笑みつつ、手招きする魔王様。無言の命令――威圧付き――に逆らえず、ビビりながらも傍に行けば。

「君は一体、何をしたのかな? 包み隠さず話せと言っているだろう、この馬鹿猫が!」

「痛!? ちょ、無実! 今回は何もやってませんって!」

笑顔のまま、魔王様は私の頭を鷲掴んだ。あまりな仕打ちに抗議するも、魔王様は目を眇めるのみ。

「君が自覚のないままやらかすなんて、日常茶飯事だろう? しかも、新しい年に向けて我々は忙しい。……つまり、君への監視が緩いんだ。何より、忙しいのはルドルフ達も同じなんだよ?」

「そりゃ、年末ですもんね」

「だろう? それなのに、『わざわざ』、『自分の護衛筆頭』を寄越すんだ……くだらない用であるはずがないだろう。さあ、吐け。今なら多少は言い訳を聞こうじゃないか。一体、何をしたんだい? いや……何を企んでいるのかな?」

にこにこにこにこにこにこ。

魔王様、笑顔の大安売りである。でも、私の頭を掴んだ手はそのまま、纏う雰囲気はブリザード。怒りのオーラが透けて見えるのは気のせいか。

ただ、私にも心当たりはない。今回ばかりは本当に無実だ。やらかすなら、ルドルフを誘うに決まっている。

「今回は何もしてませんって! 何か企むなら、最初からルドルフを誘いますもん」

「誘うんじゃない!」

「いや、だって最近、ルドルフ拗ねるんだもん!」

事実である。事後報告やら中間報告こそ受けているが、ルドルフが直接、騒動に関与する機会は少ない。

というか、一国の王なので『関与できない』。

ルドルフも当然、それくらいは判っているけど……これまで遊ぶ機会に恵まれなかったこともあり、ちょっと『やんちゃ』をしたいお年頃らしいんだよねぇ。

そこでグレる方向に行かないのが、ルドルフの良いところ。

単純に『俺も楽しいことに交ぜろ!』な心境なのだ。言うだけなら、自由だしね。

「あ〜……まあ、ねぇ……ルドルフはこれまで大変だったから、その反動かもしれないけれど」

付き合いの長い魔王様でも気の毒になるのか、さすがに歯切れが悪い。ただ、魔王様とてイルフェナの王族なので、『ちょっとくらい、いいじゃない』とは言えないのだろう。

そんな中に響く、小さな笑い声。

「……セイル」

「すみません、ミヅキ。ふふ……私も以前のエルシュオン殿下を存じていますので、つい、微笑ましくなってしまって」

「「……」」

嘘を吐けぇっ!

魔王様と揃ってジト目を向ければ、セイルは益々、笑みを深めた。

「ふふっ、ああ、本当にそっくりな『猫親子』ですよね! そういった面もまた、ルドルフ様を羨ましがらせているのですよ」

「ああ、昔から知ってるお兄ちゃん……魔王様が取られた気になっているとか?」

「いえ、貴女達のじゃれ合いに交ざれないことが悔しい……という感じですね。エルシュオン殿下は元より、ルドルフ様にとっては兄のようなご友人。そしてミヅキは、双子の姉のような親友という立ち位置ですから」

セイルの言葉に、魔王様は微妙な顔になった。その隙に、私はそっと魔王様の手を頭から外す。

「私はともかく、ミヅキと双子っていうのは不吉過ぎないかい? この子、本当に様々な場所で騒動を起こしているし」

「その破天荒さもまた、愛すべき要素なのですよ。……ルドルフ様は自国を離れることができません。ですが、ミヅキを通じて得るものがあり、新たな繋がりができるのです。そもそも、ミヅキは『王』ではなく、『ルドルフ』という個人として認識しているじゃないですか」

「当たり前じゃん! 私が権力者の言いなりになってたら、そっちの方が大問題だっての! 子飼いにしたとか思われたら、様々な責任を問われるよ」

つん、と顔を背ければ、苦笑した魔王様に頭を撫でられる。アル達も苦笑気味だ。

いーじゃん、いーじゃん、私は『自己中魔導師・世界の災厄』でいいんだよ! 気に入らなければ王命だって聞かないし、平気で歯向かうもの。

私を飼い殺すことが不可能だからこそ、唯一、懐いている魔王様が親猫扱いされるのですよ。ぶっちゃけると、『これまでの異世界人と違い過ぎて、後見人の負担が大き過ぎる』。

それらが暗黙の了解となり、『とりあえず、あの珍獣の管理をお願いね』的な意味で、魔王様は保護者扱いをされる日々だ。野放しにしなければいいよ……みたいな?

誰だって、自分に不可能なことを人に要求できんのだ。

言うことを聞く飼い主がいるならば、そこに丸投げするのが一般的。

寧ろ、魔王様以外の誰が私の保護者になれるというのだろう? 『自分の立場的な利を考えずに、異世界人の幸せを願う』なんて人、魔王様以外に知らんのだけど。

これにはルドルフも含まれる。いくら親しかろうとも、王である以上は自国が最優先。背負うものの重さを知るからこそ、個人的な感情を優先することなんてしない。

だから……私が『勝手に動く』。

私が失いたくないから。友人達の困る姿を見たくないから。

何より、喧嘩を売ってきたろくでなしに対し、どちらが上か判らせる意味でも行動あるのみなのですよ……!

異世界人はお貴族様の玩具じゃねーよ。寧ろ、この世界の人間を玩具にして遊ぶのは私の方。そこは譲らん、決定事項だ!

苦情は聞かない、異議は認めない! 利用しようと画策した時点で、食うか食われるかの関係になったと知れ!

「って、痛!? 何するんですか、魔王様!」

「……。途中までは良いお話だったんですけどねぇ」

勢いよく叩かれ、呆れを含んだアルの声に我に返れば……そこには青筋を立てた魔王様。

「馬鹿猫が……! 多少は成長したかと、安堵しかけた私が馬鹿だった……」

「あっら〜……声に出てましたか」

「ええ、それはもうしっかりと」

「安心しろ、ミヅキ。今更、お前が善人ぶったところで、俺達は騙されん」

「結果さえ伴えば黙認しますので、玩具で遊ぶ分には問題ないですよ」

以上、魔王様、アル、クラウス、セイルのお言葉だ。ただし、魔王様以外、誰も私に善人的要素は期待していない模様。皆様、良い笑顔で頷いていらっしゃる。(注:魔王様を除く)

うん、その通り! 私が善人とか献身なんて、無理があるよね!

大変、理解がある守護役達です。さすが類友、その『自分達にとって利があるなら、他はどうなっても構いません』的な発想に、乾☆杯!

「……。君達も相変わらずだね」

「今更だ」

「そうですよ、エル」

「うん、ミヅキ以外に理想的な婚約者が存在しない事故物件だよ、馬鹿犬ども」

「「!?」」

本日、魔王様はちょっとご機嫌斜めな模様。幼馴染達にも辛辣です。

※※※※※※※※※

……で。

ルドルフが呼んでいることは事実なので、そのままセイルに捕獲されてゼブレストへとドナドナです。

運ばれる間、『何かやったっけ?』などと考えていたけれど、やっぱり心当たりは無し。強制連行するなら理由を言いたまえ、ルドルフ君。

「ああ、来たな。いきなり連れて来て、済まない」

言いながらも、ルドルフは真剣な表情で私の両肩を『ガシッ!』とばかりに掴み。

「何も言わずに、おたま達の生まれ故郷に行け。そして、あいつらの保護者に土下座して来い」

意味の分からないことを言った。

……。

……ん? カエル達の保護者、だと?

「え、親ガエルなんて居たの?」

あの子達が産まれている以上、その一代前は当然、存在するだろう。だが、その親世代がろくに見つからなかったからこそ、幼生を大量に捕獲してきたんじゃなかったか?

ルドルフとて、それは知っているはずだ。その事実を踏まえて尋ねると、ルドルフは複雑そうな……何とも微妙な表情になった。

「あ〜……親ではないんだ。保護者、だな」

「いや、カエルの保護者って何さ? それならカエル達を可愛がっている騎士達のことじゃないの?」

お父さん&お兄さん達の溺愛ぶりは有名だ。彼らの日々の姿に触発され、カエル達はルドルフの守護者となっているほどに。

まさに『親の背を見て、子は育つ』を地で行くのがカエル達。貴族の義務すらろくに果たさない連中を見慣れている騎士達が、カエル達を可愛がるのも当然ですね!

「ええと、その……その保護者って、蛇なんだよ。毒性を持たない草食の、『恵みの蛇』って呼ばれている魔物。そいつが沼に共存していて、カエル達の成長を見守っていたらしい」

「……。蛇とカエルって、共存できるんだ?」

「まあ、どちらも魔物だしなぁ。と言うか、完全草食の蛇の方が、雑食のカエル達よりも大人しいんじゃないか? 『あの蛇に見守られて育ったら、そりゃ、善良に育つだろう!』って納得するくらい、穏やかな性格だった」

「ほう」

「しかも、念話で会話が可能。ああ、幼生達が立派に育ったことを感謝していたぞ。あそこの沼、肉食の獣達にとっては餌場だったらしくてな。現在の沼の状況も含めて、とても感謝された」

あらまあ、私達は存外、良い仕事をしたらしい。だが、それならば何故、私は『土下座して来い』なんて言われるのさ?

そんな感情が顔に出たらしく、ルドルフは生温かい目を向けて来た。

「いいから、行け。ああ、セイルも謝罪して来るんだぞ」

「おや……私も、ですか?」

心外とばかりにセイルが声を上げると、ルドルフはわざとらしい笑顔で頷いた。

「お前、おたま達を煽っているだろうが。エリザはカエル達の行動を褒めるが、煽ることはしていない」

「……チッ」

「舌打ちするなよ!? 自覚、あるじゃねーか!」

速攻でルドルフが突っ込むが、セイルはしれっと『何のことでしょう』なんて言っている。……セイルも随分、性格が変わったようだ。こんな遣り取りを交わすようになっていたのかと、妙に感動してしまう。

会った当初はもう少し真面目というか、悲壮感が漂っていたというか。表面的な『微笑みを湛えた麗しの将軍』という仮面が剥がれると、殺伐思考のヤバイ人にしか見えなかった。当然、こんなおちゃらけた言動なんてあるはずもない。

だが、ゼブレストの情勢が変わるにつれて、人々にも変化が出て来たのだろう。『暗い影を背負ったシリアスキャラ』が、『問題に頭を悩ませる優等生』になった程度ではあったけど。

「しっかり謝罪して来い! 善良なカエルはもう居ないんだ……」

だから、それはどういう意味だよ? ルドルフ。あの殺伐とした後宮破壊の最中で育った子達なんだから、逞しく育つのは当然でしょ!