軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

小話集30

小話其の一 『バラクシンの場合』(バラクシン王視点)

「簡単に説明すると、このような感じですね。その後のことも含めた詳細はキヴェラから報告書が来るでしょうし、魔導師殿も個人的な友人達からの営業報告を纏めてくれるそうですよ」

「そうか。営業に来た者達はヒルダ達に任せてしまったが、これならば余計な争いは起こるまい」

「そうですね」

報告を受けながら、こっそりとライナスへと視線を向ける。魔導師からの『お誘い』に乗ってキヴェラへと向かったライナスは、安堵したような表情を見せていた。

……。

当たり前か。ライナスが他国に赴くなど、以前は滅多にないことだったのだから。

勿論、ライナスに非があったわけではない。

正確には、ライナスが目立つことを考慮してのものだった。

ライナス自身は私の配下であることを公言し、王家派の者として活動してくれていた。我が弟ながら、とてもよく尽くしてくれたと思っている。

だが、ライナスの体に流れる血はどうしようもない。

教会派の有力貴族は間違いなくライナスの血縁であり、ライナスが他国に認められるような行動を取れば、即座に私や息子達と争わせようとしてきただろう。

そこにライナスの意思など関係ない。王家でさえ無視できない勢力である『教会派』が一丸となり、ライナスの後押しをしてしまえば……最悪の場合、『次代の王はライナスの子に』という流れを作られてしまっただろう。

誓約に縛られるのはライナスのみ。婚姻を拒否していようが、子を持つことは可能――勿論、ライナスの同意はない――なのだ。非常に強引な手段だが、奴らならばやりかねない。

聡い弟がそこに気付かないはずがなかった。結果として、ライナスは自分が目立った功績を上げることを極端に避け、外交といった『他国に自分が評価される場』に赴くことは皆無だったのだ。

私達はそれが悔しくて仕方なかった。意図的にそうしているとはいえ、ライナスを過小評価される度、どれほど心の中でその原因となっている者達を罵ったか判らない。

『能力がない』のではなく、『能力を評価されるわけにはいかない』。

自国ならば誤魔化しようもあるが、他国でその能力を評価されるわけにはいかないだけなのだ。それも、煩い奴らのせいだというのに……!

だが、それも今となっては過去のこと。

『これからは教会の財布でいなさいな』

こんな台詞を教会派貴族達に向かって吐く魔導師殿によって、教会派に属する貴族達はボロボロにされたのだから。

勿論、真っ当に教会を支援していた貴族達には何の影響もない。被害というか、行なわれるべきだった処罰が成されただけ。

何せ、王家の最大の協力者となっているのが、現教会のトップに立っている聖人殿。

魔導師殿と手を組んだ彼は、どこからか入手した教会上層部の不正の証拠――魔導師殿やイルフェナの騎士達が関わっているような気がして仕方ない――を元に、クズどもの徹底的な排除を行なったのだ。

勿論、それに伴う不都合や、妨害もあっただろう。……が、自分達で勝利を掴み取った――魔導師殿発案の、あの騒動のことだ――信者達は自信が付いたのか、味方の多さを武器に助け合い、見事成し遂げてしまった。

『数の暴力』の勝利であった。間違いなく、それらは魔導師殿の入れ知恵だろう。

そもそも、教会内部で働く者達は信者なのだ。不正の証拠をどこに隠そうと、密談しようと、常に誰かの目がある状態なのである。これで隠し通せるはずがない。

何と言っても、当の聖人殿が魔導師殿を『我々の良き隣人であり、友である』と公言しているのだ……教会派貴族とて、魔導師殿の恐ろしさは経験済み。迂闊なことをすれば、魔導師殿が再び奴らを蹂躙するだけだと予想がつく。

結果として、教会と属する信者達を強みにしていた教会派貴族達は急速に力を失っていった。過去に働いた不正はどうしようもない上、信仰を都合よく利用されてきた信者達の恨みが半端なかったことが敗因であろう。

そして、今回。情報の提供という名目で参加を打診されたのは、魔導師殿が暗にライナスの状況改善を狙ってくれたのではないかと思っている。

キヴェラのアロガンシア公爵家の令嬢とアルベルダの近衛騎士の『我儘』によって起きた一連の騒動の決着をつけるため、夜会で行なうという断罪。

その場にいる条件が『魔導師殿の知り合い』という括り――キヴェラ王からの招待としてしまうには、不自然なのだ――である以上、消去法でいくなら、バラクシンからはライナスが適任だった。

『ライナスは顔を知られていない可能性がある』という理由をつけてみたが、それはあくまでもライナスを売り込むためのもの。

魔導師殿達にとってもライナスは適任だろうが、こちらとしてもその存在を他国に印象付けるという目的があった。

『魔導師と懇意にしている王族がバラクシンに居る』。そう周知されることは、間違いなくバラクシンにとって強みとなる。

未だ、内部が乱れているバラクシンにとっては十分過ぎる守りであろう。エルシュオン殿下も、魔導師殿も、そういったこちらの思惑に気付かないような人ではないので、特に何も言われない以上、黙認してくれたのだと思う。

……。

いや、黙認どころか、それを狙って誘われた可能性もあるか。魔導師殿は存外、面倒見が良いようだし、エルシュオン殿下に至っては、これまでの噂とは真逆の性格をなさっているようだからな。

「ライナス。此度のことで、お前の顔は他国にも知られた。そして、他国の者達とも縁ができたようだな」

「はい。……魔導師殿の守護役達やカルロッサの宰相補佐殿とも知り合うことができました。特に、宰相補佐殿は私を気にかけてくれたと思います。王妃様……いえ、義姉上のこともそうしてくれた理由でしょう」

「ああ、セリアン殿はオルコットの……」

「ええ。義姉上とは従兄弟にあたるそうですね。義姉上が私のことを伝えていたのか、随分と気にかけてくださっていたとか」

彼らとの語らいを思い出したのか、ライナスの表情は穏やかだ。それを見た私の顔にも、自然と笑みが浮かぶ。

やはり、此度のことにライナスを向かわせたことは正しかった。そう確信して。

「漸く、お前が本来の在り方を取り戻せる。……私達はな、それが嬉しくて仕方ない」

「兄上?」

唐突に語り出す私に、ライナスは不思議そうな顔になった。それはそうだろう……私も、王妃も、息子達さえも、そんなことを口にしてこなかったのだから。

『どうしようもないこと』を口にしたところで、ライナスを困らせるだけだと、私達は理解していた。……自分達にその状況を改善する力がないことも含めて。

「今ならば、お前はその才覚を存分に活かすことができる。教会派を抑え込めるようになった以上、お前が功績を成そうとも、私や王子達を脅かすことはない」

一番悔しく思っていたのは、ライナス自身だったろう。『できないこと』と『やらないこと』は全くの別物なのだから。

『私を支える』という言葉を胸に抱きつつも、ろくなことができない。その不甲斐なさに対する自責、情けなさはどれほどのものだったのか。

だが、これからは。

「此度の繋がりを活かし、外交を任せることもあるだろう。……頼むぞ、ライナス」

「はい!」

謝罪の言葉も、言い訳も不要だ。それらは全て過去のものとなった。ならば、私がライナスに見せるのは……『期待』。

ライナスもきっと、それが判っている。晴れやかな表情と力強く頷く様は、その枷が外れたことを理解するゆえ。

私達兄弟は漸く、長年の望みを……望んだ未来を叶えたのだ。そう確信し、私はひっそりとイルフェナの魔王殿下と魔導師殿へと感謝を向けた。

言葉にする機会はなくとも、私達がそれを自覚し、覚えていればいい。いつか、彼らの力になれるその時まで。

※※※※※※※※※

小話其の二『カルロッサの場合』(フェアクロフ伯爵視点)

キースからキヴェラの夜会の報告を受けた私と陛下は――

「これで……これで……!」

「ジークも安泰だ……!」

「……。『初めてのお使い』を成功した子供を見守る親ですか、貴方達は」

手を取り合って、感涙にむせんでいた。宰相が呆れた目を向けてくるなど、些細なことである。

「我が息子ながら、あいつが夜会に参加するなど、恐ろしくて仕方なかったが……無事に終わるとは、何とめでたい!」

「そうだな、弟よ。しかも、此度のことで守護役の一人と周囲に知れた。煩い輩どもは今後、『かの魔導師以上の相手だと思っているのか?』とでも言っておけば、口を噤むであろう!」

兄共々、頷き合って喜ぶ。それほどに、ジークの存在は私達にとって頭痛の種だったのだ。

かの英雄と、それと同じくらい残念な思考の姫君の血が色濃く出たジークは……それはそれは脳筋だった。魔導師殿の言い分ではないが、まさに『頭に回るはずの栄養が、顔と身体能力に流れた』状態。

そのくせ、鋭いことを(空気を読まずに)ズバズバと言いやがるのだから、恐ろしいことこの上ない。貴族にとって必須であるはずの要素が綺麗さっぱり欠落しているため、周りが苦労する破目になるのである。

それなのに、なまじ血筋と顔が良いせいで、婚姻相手として狙われまくる。理想は『ジークが納得できる戦闘能力を持ち、フォローに回れる女性』だが、そんなに都合のいい相手などいるはずはない。

そもそも、頭の良い女性ならば『英雄の子孫』などという厄介な存在を婚姻相手に選ばない。

ジークの戦闘能力が高いことは知られているため、その子供にも同等かそれ以上の能力を周囲は求めるのだ……その理想に適わなかった場合、批難は婚姻相手の女性へと向けられるのだから。

間違いなく、ジークは稀代の不良物件である。

よくぞここまで忌避される要素が揃ったものだ。

問題を起こしたシンシア嬢などは、ジークの本質など欠片も見ていなかったに違いない。彼女が見ていたのは容姿や強さ、そして『英雄の子孫』という血筋だ。

もっと言うなら『その隣に立つ自分』という幻想を夢見ただけ。まさに『夢見る乙女』というやつであろう。

婚姻したところで、すぐに『こんなはずじゃなかった!』と言い出すことは明白だった。……まあ、ジークはシンシア嬢のそういった内面を無自覚のまま嫌悪していたから、婚約さえも拒否しただろうが。

その騒動の最中、ジークにも一応、婚約者らしき人物がいると公表されたはずだった。しかも、『ジーク自身が望んだ』という形で。

……が。

この曖昧な婚約程度では、欲に駆られた者達を黙らせることができなかったのである。

「キースには今後も苦労を掛けると思うが、少なくとも、婚姻を持ちかけられることはあるまい。やはり『優秀な魔術師との婚約』では弱かったからな」

煩い奴らの『忠告』を思い出したのか、陛下がしみじみと語り出す。その疲れた表情に申し訳なさを覚えつつ、私も大きく頷いて同意した。

「そうですね。こう言っては何ですが、婚約は解消されることも珍しくはありません。シンシア嬢達を煽る意味で『優秀な魔術師の婚約者がいる』という噂は流しましたが、ジークが守護役であることは伏せたままでしたからね」

他国というか、魔導師殿の周囲では『ジークはカルロッサからの守護役』という認識ができている。しかし、無理矢理割り込んだ自覚のあるカルロッサとしては、他国から了承を得るまで公表は避けていた。

言い方は悪いが、守護役の居る国は異世界人にとって逃げ場になる可能性があるのだ。普通ならば、カルロッサという『国』が魔導師殿に信頼してもらわなければらならないはず。

その過程をすっ飛ばして守護役に組み込んでもらった手前、その後の努力は必要だろう。何も言われていないが、保護者たるエルシュオン殿下はそれを望んでいる可能性が高いと我らは思っていた。

幸い、サロヴァーラやガニアの件を踏まえて信頼関係を築けたようなので、後はジークが守護役に相応しい姿を見せつけるだけだった。そこに、キヴェラでの夜会の話が舞い込んだのだ。

夜会。あの脳筋ジークにキヴェラでの夜会。

しかし、守護役としては外せないミッションだ。

無事にこなせれば、めでたく守護役の仲間入りを果たせるだろう。他の守護役達との関係は良好だと聞いているが、守護役とは『国から命じられた仕事』なので、個人の感情とは別問題だ。間違いなく、見たままを報告される。

もしも『カルロッサの守護役は信頼できない・役立たず』なんて評価を下されようものなら、本当の意味で守護役とは認められまい。当然、カルロッサの評価も下がる。

冗談ではなかった。国もヤバいが、ジークの今後もかかっている。

結果として、セリアンとキースの二人を付けることになった。あちらとしても宰相補佐であるセリアンがいることは有利に働くので、否はなかったはず。

そして、気になる結果は――『合☆格』!(意訳)

固唾を飲んで見守っていた家令と共に、手を取り合って喜んだことは言うまでもない。

「セリアンがそれとなく聞いてくれたようですが、他の守護役達は何の問題もなくジークを受け入れているようだとか。というか、ジークの特徴を上手く活かす方向に考えてくれているようです」

宰相の冷静な言葉に、胸には安堵が広がる。『阿呆だから認められない』『迂闊過ぎる』などという理由で却下される可能性があっただけに、他国の守護役達の懐の広さに感謝せずにはいられない。

「そうか! ジークも彼らを認めているようだし、これならば公表しても問題あるまい。婚姻の逃げ道として守護役にした、などと言われる可能性もなかろう」

「……。普通は言われないと思うんですけどね」

「そうだな。普通は守護役の方が異世界人を守る側だ」

生温かい眼差しを向けてくる宰相の気持ちも判るし、彼に同意する兄上の言葉にも納得だ。だが――

「仕方なかろう! 生涯のお守り(=妻)の候補がいない上、当のジークが了承せんのだからな! まあ、キースを始めとした仲間達との居心地の良さを知るからこそ、そういった発想になるのだろうが……」

親としては、どうしてもジークの幸せを考えてしまうのであって。ジークが良き友、良き仲間に恵まれたことを、ついつい嬉しく思ってしまうのだ。

それは『優先すべきは国』という最優先事項と……つい十数年前まで滅亡の危機に晒されていた過去があるからこそ。

「ジークは自分に必要な存在を選んでいただけ、と思うことがある。自分にとって価値ある友だけが、戦場にあっても裏切らないと」

「「……」」

きっと、今はそこに魔導師殿や他の守護役達も含まれているのだろう。ジークが国に必要とされる時――それは間違いなく、戦場へと赴く時なのだから。

国同士が争うことを魔導師殿は望むまい。だからこそ、それは杞憂だと……そんな未来は来ないと思っていたかった。

「あの魔導師殿は大陸が乱れることを望みません。ジークはきっと『英雄』になることなく、脳筋呼ばわりされたままですよ」

「そうだとも、弟よ。何より、ジーク一人に背負わせるなど、キースを始めとするジークの配下達がさせんと思うぞ? そもそも、戦になるなど、魔導師殿が許すかね?」

「確かに!」

英雄となった者達の扱い、その人生は決して幸せではない。どこか慰めるような響きを持つ宰相の言葉も、それを案じてのものだろう。兄の言葉とて、同様だ。

ジークを身内として案じる者達は、ジークが英雄の再来の如き資質を秘めることを喜ぶ一方で、使い潰される可能性を憂えている。その矛盾を口にする気はないが、不安は常に胸の奥底にあった。

――だが、それも過去のこと。

これからはきっと、そんな不安を抱くことも減るだろう。あの破天荒な魔導師も、その保護者たる魔王殿下も、呆れるほどに情が深い。何より、かの魔導師殿は非常に自分勝手な理由で動き、結果を出す。

身内という枠にジークがいるならば、彼らは必ず守ってくれるだろう。……その孤独からさえも。