軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

各地からの営業の感想 其の三

さて、割とまとも(?)だった三国分の報告は無事に終了。

というわけで、残るは灰色猫の生息地・ガニアと、女狐様の支配下にあるサロヴァーラ。

……。

うん、どちらもめっちゃ問題ある国みたいな紹介ですね!

でも、間違っていない気がするの……!

「続きまして、灰色猫ことシュアンゼ殿下の報告です」

「……。ねえ、ミヅキ。その『灰色猫』って……」

「私が『黒猫』なので、その同類項的な意味での渾名ですよ」

「……」

いや、その、魔王様? そんなに深々と溜息を吐かなくても。

「君ね、ガニアで一体、何をしてきたのかな? ……それ、間違いなく君の悪影響が出た結果だろう!?」

「無実! この件に関して、私は無実です! シュアンゼ殿下は動けなかっただけで、元からかなりアレな性格してましたから!」

――だって、ファクル公爵の孫に当たる人ですよ!

そう心から叫ぶと、魔王様は暫し、思案顔になり。

「……」

「……」

「それもそうだね」

納得した。やっぱり、魔王様もファクル公爵を知っていた模様。

ですよねー! 『あの』ファクル公爵の血を引いているのに、大人しいとかありえませんよ。

シュアンゼ殿下の母親である王弟夫人――妃殿下なんて、呼んでやらん――は母親が甘やかしまくった結果、ああなったみたいだが、気の強さ自体は産まれ持った資質だろう。

というか、これが良い方向に活かされていれば、かなり頼もしい人材になった可能性もある。キヴェラと隣接している国である以上、繊細ではやっていられまい。

「まあ、シュアンゼ殿下の場合は特殊ですけどね。自分の両親からの扱いや周囲からの視線、噂話なんかに対し、常に受け身でいなければならなかった時期が長過ぎましたから」

「自棄になったり、無気力になるよりマシだって?」

「いえ、そういった歪んだ状況ですくすく育ったせいで、無気力どころか、自滅覚悟で敵を陥れる逸材に進化しました。人間、どちらかに傾くしかない極端な状況になると、絶望するか、突き抜けるかの二択ですし」

マジだぞ、これは。逆に言えば、そういった状況になったことがないと、極端な方向に傾く神経が判らない気がする。

魔王様自身も思い当たることがあるのか、今回ばかりは反論してこなかった。逆に、どこか面白そうに尋ねてくる。

「それ、君の経験も含めた発想?」

「勿論! 大人しく屍と化すか、殺る側になるかの二択ですよ。重要なのは、牙を剥くタイミングでしょう」

私が魔導師と知れ渡る頃には、『異世界人の魔導師は魔王殿下の子飼いであり、すでに手駒として動いている』的な認識が成されていた。守護役達を素直に受け入れていた――傍からはそう見えたはず――ことも大きい。

つまり、私は何をしようとも『何かあったら、飼い主に叱ってもらおう』的な認識が根付いていたわけですよ。魔王様が人目を気にせず、私を叩いて説教していたことも事実だしね。

「私は首輪と飼い主付きだからこそ、今の状況でいられる。シュアンゼ殿下は王族という環境にあり、無気力を装っていたからこそ、牙を剥くことが可能になるまで生き延びることができた。……最初から反発していたら、シュアンゼ殿下はヤバかったでしょうね」

「まあ、ね。テゼルト殿下のこともあるから、危険視されて……という可能性もあっただろう」

魔王様は複雑そうな顔をしているが、私とシュアンゼ殿下……というか、異世界人とシュアンゼ殿下の状況はよく似ている。

何もしなければ『流されるだけ』、行動すれば『生き残る』か、『潰される』のどちらか。非常にシンプルだ。私とシュアンゼ殿下が割と仲良くなれたのは、二人ともそういった状況に理解があったからだろう。

……そこで『我らは敗者に非ず! 生き残って、勝者となるのみ!』という方向で一致するあたり、シュアンゼ殿下の性格が知れる。大人しくはなかろう、絶対に。

「まあ、そんな状況を生き抜いてきたシュアンゼ殿下からの報告です。多少、ぶっ飛んだ発想をしていても、優しい目で見てあげてください。はしゃぎたいお年頃なんです、灰色猫は」

『ガニアの場合』(報告者:シュアンゼ殿下)

「ミヅキから聞いてはいたけれど、彼女達は随分と自分の立場を甘く見ていたんだね」

「リーリエ嬢は確かに酷いが、私は公爵夫妻、特に公爵夫人が元凶のように感じてしまう。これは私自身が、両親のことで色々とあったことも一因だろうけど」

「元王女である以上、それなりの教育はされていたはずだ。少なくとも、そういった教育が身に付いていれば、『王家の血を残すための降嫁』を、『密命』という形で与えられたはずだからね」

「だけど、公爵夫人はキヴェラ王から告げられるまで知らなかったんだろう?」

「これは『他者に漏らす可能性がある』と判断されたことに他ならない。……だけど、私は彼女を哀れとは思えない」

「これまで好き勝手してきた以上、それなりに諫められてきたはずだ。だけど、彼女は変わらなかった。……それらが次代に憂いを残さないための布石であり、キヴェラ王の狙いだったかもしれないのにね」

「まるで王弟夫人――こちらの言い方を使わせてもらうよ――のようだというのが、私達の感想だ。特にファクル公爵は思うことがあるのか、リーリエ嬢よりも公爵夫妻を突いていたね」

「『元王女ということを誇りながら、このようなことも知らないとは』、『娘ばかりを矢面に立たせるのではなく、貴女自らが説明してはいかがかな?』……こんな感じで、話を振っていたよ」

「勿論、まともに答えられるはずはない。というか、王女や公爵夫人が商売とか営業について知っているはずはないからね。ただの嫌がらせだよ」

「ファクル公爵はリーリエ嬢に対し、責任が欠片も感じられない公爵夫妻に怒りを覚えたんだと思う。公爵の方は途中でそれに気付いて、娘を庇う言葉を口にしていたけどね」

「ああ、君の教え子達は秀逸だった。堅苦しい場ではないから、護衛を兼ねて呼んだんだ。そこで絵本の感想を聞いたんだけどね……開口一番、『この浮気男と寝取り女のどこが、【運命的な恋】なんだ?』だってさ!」

「他にも『民間でも修羅場になる案件だぞ? 薔薇姫の方に味方が多いことから見ても、男は不良物件だから惜しまれなかったな』とか、『それ以前に、このお二人は今後、あらゆる信頼を失いますよね。家同士の繋がりである政略結婚の重要性すら、理解できていませんし』とも言っていたかな」

「その本人達が目の前で営業してるんだけどねぇ! ああ、そのことを伝え忘れていたから、私も同罪かな」

「勿論、彼らに悪気はない。というか、一般的な感想だよね。『約束を守れない人は信頼されない』なんて」

「まあ、我が国ではこんな感じだったよ。営業後は気力が尽き果てたのか、非常にお疲れのようだったから、食事を一緒にしたんだ。その際、処刑待ちの王弟夫妻のことを話題にしたのは、仕方がないよね。私はこういった場での話題が少ないんだし」

「その後は翌朝までよく眠れたみたいだから、しっかり休めたんじゃないかな。次も頑張ってもらいたいものだよね」

「……。これ、王弟夫妻の末路を聞いて、気絶したんじゃないかい?」

「さ、さあ? ぐっすりお休みになったことは事実みたいですけど」

はーいーいーろーねぇーこぉー!? あんた、自分の親をネタにしてビビらせたわね……?

悪いとは言わないけど……その、世間的には『実の両親に虐げられ続けながらも、王族の誇りを失わなかった王子』とか言われてた気がするんだけど!?

っていうか、あの三人組も営業の場に居たんかい。さすが私の教え子というか、傭兵生活をしていたせいで現実が見えているというか、物凄くストレートな感想を口にした模様。

だけど、三人組は悪くない。黒幕は灰色猫だ。

いくら何でも、モデルとなった本人達を前にして、ここまでぶっちゃけないだろう。あの三人、基本的に善良な性格をしているし。

ただ、魔王様はガニア勢のいびり方には納得しているようだった。

「ファクル公爵にとっては、自分の娘を思い出すんだろうね。言い方は悪いが、一歩間違えていたら、シュアンゼ殿下はリーリエ嬢のようになっていたかもしれない。身動きが取れない以上、どうしても彼の世界は狭くなるから、両親から都合のいいことばかりを吹き込まれていたら……」

「リーリエ嬢以上に、性質の悪い存在になったでしょうね。うっわ、考えたくない!」

物凄く嫌な想像をし、思わず頭を振る。嫌だ、そんな強かさと賢さを兼ね備えた化け猫は。魔導師以上に、災厄モドキになりそうじゃないか!

魔王様も私と同じことを考えたのか、顔色が悪い。私の一番の被害者と言える立場にあるからこそ、色々と想像できてしまったようだ。

揃って嫌な想像をしてしまった私達だが、アルは苦笑しながら先を促す。

「二人とも、落ち着いてください。ほら、サロヴァーラの報告を見ましょう? それに、シュアンゼ殿下がそのようになったとしてもミヅキが居ますから、十分対抗できますよ」

「そうだね、アル。同族嫌悪というか、互いを目障りだと思って敵対するだろうしね」

「……」

お前ら、私も化け猫認定かい。

『サロヴァーラの場合』(報告者:ヴァイス)

「僭越ながら、私がティルシア様に報告を命じられました。『第三者として、客観的に見て欲しい』とのことですので、皆様のお言葉と共にお伝えさせていただきます」

「まず、絵本の営業に来た者達ですが。各国で相当絞られたのでしょう……夜会の時に比べ、明らかにやつれておりました」

「ですが、彼らに同情はいたしません。私自身が夜会の当事者ということもありますが、それ以上に、彼らの醜態を他国の目に晒してでも自国の膿を出そうとなさったキヴェラの皆様に同情してしまうのです」

「夜会の後、ルーカス様に付いていた騎士達と言葉を交わす機会がありましたが、二人とも怒り狂っておりました」

「ヴァージル殿はルーカス様に、サイラス殿はキヴェラ王に忠誠を捧げているそうですが、お二人から見ても、此度のことは許しがたい出来事なのでしょう」

「他国のことになってしまいますが、キヴェラ王も、ルーカス様も大国の王族としてご立派だったと思います。ヴァージル殿達とて、敢えて泥を被るような真似をなさった主の盾となりたかったでしょうに……」

「そのような前提があるからでしょうか。営業にいらした方達の言葉は非常に薄っぺらいと言いますか、心を動かされぬ言葉だったと思います」

「リリアン様がめざましい成長を遂げられているからこそ、余計にそう思ってしまうのやもしれません」

「ティルシア様のご指導の下、リリアン様は営業に来た者達に詳細を尋ねていらっしゃいましたが……その返答はどれもすでに判っていることばかり。リリアン様が困惑されてしまうのも頷けます」

「本来ならば、リリアン様のお言葉を補う形で、ティルシア様が更に掘り下げた質問をされるはずだったと伺いました。……が、あの者達は他国に勧める品のことさえ、ろくに学んでいなかったのでしょう」

「ティルシア様は早々に諦めたのか、リリアン様へとこのようなお言葉をかけておられました」

「『無知であることは罪ではない。学ばないことこそ、愚かなのよ』、『この場がまさにそれなのよ。尋ねられた事柄へと、的確な答えを返せば……それ以上に興味を引ける言葉を言えたなら。彼女達は立派に役目を果たしたと言えるでしょう』」

「『決められた言葉を言うだけなら、本を読むのと同じでしょう? 営業である以上、相手に購買意欲を持たせなければ駄目なのよ。それを成してこそ、初めてキヴェラ王より賜ったお役目を果たしたと言えるの。良い? リリアン。結果が伴わなければ、意味がないわ』」

「ティルシア様の厳しくも成長を促すお言葉に、リリアン様は真剣に聞き入っておられました。対して、営業に来た者達は蒼褪めておりました。何を今更……と思ってしまっても、仕方がないと思います。彼らの営業は贖罪であり、キヴェラ王への忠誠を示すものであり、何より自分達の価値を知らしめるものであるでしょうに」

「リリアン様は彼らを反面教師として、更なる成長を遂げられるでしょう。あまりにも不甲斐ない営業の者達、その甘えた姿に、リリアン様は『お父様やお姉様に、ご迷惑をおかけすることだけは避けねば!』と決意されていらっしゃいましたから」

「以上です。王女様方にとっては今一つ物足りない勉学の場だったようですが、『絵本の営業』という目的は達成されたのではないでしょうか」

報告書を読み終えた魔王様は無言だった。そんな姿に、アル共々、首を傾げてしまう。

「あの、魔王様? どうかしたんですか?」

「エル、何か気になることでも?」

「……まともだ」

「「は?」」

「これまでの報告と比べて、まとも過ぎるんだよ! おかしいじゃないか!」

「「……」」

い や 、 魔 王 様 ? そ っ ち の 方 が 普 通 で は ?

「え〜……いやいや、『漸くまともな報告が来た!』と喜びましょうよ。それに、ティルシアらしい行動も一応は報告されているじゃないですか」

「そうですよ、エル。今回はキヴェラやアルベルダも関わっていますから、おかしな真似はできないかと」

……。

いや、アル? あんたも結構、酷くね!? 暗に『ティルシア姫は日頃はアレですが、今回【は】大人しいだけです』って、言ってるよね?

ただ、この報告の内容に驚いたのは私も同じ。……が、それはあくまでも『そのままに受け取っていたら』ということだけど。

っていうか、魔王様がさっきからジト目で私を見てるんですけど!

「ミヅキ、さっさと吐きなさい」

「ちょ、私は特に関わってませんよ!?」

無実を主張すれば、魔王様はとても美しく笑った。……目は笑っていなかったが。

「君なら、この報告に隠されたものが判るんじゃないかい? ティルシア姫とは仲良しなんだろう?」

「いや、まあ、何となくは想像つきますけどね……」

「じゃあ、言いなよ」

「でも、確実じゃないですし! あくまでも私の予想って言うか」

「言え」

「はい」

即答。親猫様には逆らえません……!

「ええと、その、多分……これ、『勉学の場』ってことが重要なんですよ」

「ほう?」

「一言で言うなら、『リリアンの抱く【素敵なお姉様】というイメージを崩したくなかった』。報告者がヴァイスなのも、それが原因ですね。真面目なので、つい勢いでアレなことを言ってしまっても、脳内変換で好意的に取り繕うでしょうし」

リリアンの抱く姉のイメージ>(越えられない壁)>営業面子への甚振り

多分、これで合っている。女狐・ティルシア、彼女は重度のシスコンだ。妹の前では『素敵なお姉様』でいたいのだよ。

ぶっちゃけ、それしか原因がないと思うんだ。ティルシア単体ならば何を言っても不思議はないが、営業の場にはリリアンが居た 。だったら、『素敵なお姉様』の仮面は決して外すまい。

というか、リリアンに自信を付けさせるため、営業に来た者達を踏み台のように使った可能性もある。

腐っても『キヴェラの公爵夫妻とそのご令嬢』だもんな、リーリエ嬢達。彼女達に勝利できれば、それは間違いなくリリアンの自信に繋がるだろう。

「リリアンはお勉強中なので、営業面子を彼女自身に論破させることで、自信に繋げた可能性もあります。報告者は真面目で忠実な騎士ですから、ボロが出ても脳内変換して好意的に捉えるでしょうし」

素直に暴露すれば、魔王様は微妙な表情になった。いやいや、『言え』と言ったのは魔王様でしょ!

「ティルシア姫って、本当にそういう方なんだねぇ……」

「非常に判りやすいと言いますか、ブレない方なのですね」

「アル、無理に取り繕った言い方をしなくていいから」

アルの遠回しな言い方に、魔王様が突っ込む。対して、『あること』に気付いてしまった私は無言。

……。

これ、営業面子が最終的にどうなったかを『一言も』書いてないんだよね。無自覚・真っ直ぐなリリアンに追い打ちする形で、ティルシアも何か言ってないかな!?