軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

其々の心境~令嬢と給仕の場合~

『とある令嬢の場合』(リーリエ視点)

――どうして、こんなことになっているのかしら?

目の前の光景に、私は苛立ちを隠せない。厳しい目を向けてくるルーカスお兄様は勿論、目の前の素敵な方達は……私に対して、欠片ほどの好意も見せないのだから。

表面上は何とか取り繕っているけれど、ルーカスお兄様から向けられる視線は厳しいまま。それとなく私の立場を匂わせることを口にしているのに、取り成す言葉をかける者はいない。

私は公爵令嬢ではあるけれど、濃い王家の血を継いでいる。

王の姪であり、次代の王と目される第二王子の従姉妹に当たる。

『価値がある』のだ、私は。私個人だけではなく、私に連なる者達も含めると、決して無視はできないはず。

事実、これまでキヴェラでは好き勝手できていた。公爵令嬢というだけではなく、我が家は『次代の王の後ろ盾』。怒りを買えば、一時では済まない苦難が待ち構えているのだ……敵に回ろうはずがない。

……それなのに。

いくら他国の人間であろうとも、外交で我が国に来る以上、そういった事情は把握できているはずなのに!

目の前の素敵な方達は揃って私を無視――挨拶さえしていない――し、関わろうとさえしなかった。私達の会話に口を挟めないのではなく、『話す気がない』のだ。無関心、と言ってもいいのかもしれない。

――屈辱、だった。

僻みや悪意ある視線など、慣れている。そんなものを恐れることはないし、向けられる度に感じるのは優越感だった。

それらに傷ついた様を装い、怯えてみせれば、『お友達』は挙って私を慰め、相手を批難してくれた。

そこに含まれるのが私への好意だけなんて、思ってはいない。私自身が持つ全てのもの――容姿や家柄、血筋といったもの――を含めて、『私の価値』なのだから。

それなのに、あの方達は全く興味を示さない。外交に携わる以上、私は決して無視できない存在のはずなのに。

……『要らない』と、言われた気がした。

その態度で、無関心な表情で、私にかけられない言葉で、『お前なんて要らない』と!

彼ら自身の判断なのか、国の決定なのかは判らない。だけど、私にとっては屈辱であり、それ以上に無視していいことではなかった。そんなことがまかり通るならば、私の価値が根底から崩れてしまうじゃない。

そして、気になることはもう一つある。……いえ、私にとって許せないこと、だろうか。

彼らの関心は、軍服のような服を纏った女性に向けられている。彼女が魔導師と判った時は驚いたけれど、同時に安堵したことも事実。

だって、魔導師は『世界の災厄』と呼ばれる存在。現に、このキヴェラを敗北させた過去がある。そして、彼女を取り巻く方達の大半は、彼女の……魔導師の守護役だという。

ならば、彼女を一番に気にかけるのは仕方ない。ここはキヴェラだもの、再び魔導師を暴れさせるわけにはいかないのでしょう?

そう、思っていたのに――

何故、彼女はルーカスお兄様と親しげなの。

何故、彼女は当たり前のように意見を求められているの。

どうして、彼女は……守護役の皆様から愛されているの!?

仕事ならば……役目ならば、彼女を第一に考えても仕方ないと思う。それくらい、私にも理解できる。

だけど、あの魔導師に向けられる視線は……その温かさや慈しみは。紛れもなく、『彼女が愛されている』と理解できてしまう。

特に、ゼブレストの騎士は彼女が大切らしく、見せつけるように背後から抱きしめていた。互いに耳元で囁き合う様も、私の苛立ちを募らせる。

仲睦まじい二人の遣り取りは、他の守護役達が嫉妬しそうな光景だというのに、彼らは二人を微笑ましそうに眺めるだけ。そして、そんな二人を守るように厳しい目を向けてくるのは、コルベラの女騎士とサロヴァーラの騎士。

どういうこと? 魔導師はあの状態が常だとでも?

何故、誰も咎めないの? あれほど、あからさまなのに!?

『彼女が許されている』と感じたのは、ルーカスお兄様や従っているキヴェラの騎士達が一切、咎めないからだ。いや、咎めるまではいかなくとも、不快に思っていると態度で示してくれたならば、まだ救いがあっただろう。

それらが全くないからこそ、周囲は困惑しつつも、批難を込めた視線が向けられないのだ。『キヴェラの王子が許している』……その事実が、酷く腹立たしい。

リュゼ様に視線を向けるも、彼もまた、困惑している様子が窺えた。そんな姿を情けなく思うと同時に、やはりこの程度かと失望する。

彼は野心家であり、私との婚約もより上を目指すためのもの。好意が全くないわけではないけれど、恋に全てを賭けるほど溺れてもいない。

だからこそ、この状況に困惑している。私が彼に囁いた状況とは、全く違ってしまっているのだから!

……。

だけど、それも今だけでしょう。最後に笑うのは私なのだから。

だって、第二王子が王太子となるのは時間の問題ですもの。我が公爵家が第二王子の最大の後ろ盾であり、生母である側室の実家である以上、処罰なんてできはしない。

悲しげに俯いて、精一杯健気さを装って。涙を浮かべて、『お友達』の罪が軽減されるよう、懇願してみせましょう。

下手に騒ぎ立てるなんて、愚かなことだわ。処罰されないと判っているのだから、私達が許されるような流れを作り出せばいいのよ。

ずっと、ずぅっと、そうやってきたのだから。お母様達だって、私の味方をしてくれるでしょう。

だから、色々と気に入らない魔導師様? 貴女が何を企んでいようとも、無駄なのよ。ここがキヴェラである限りはね。

※※※※※※※※※

『とある給仕の溜息』(カイン視点)

健気で優しい性格を装う令嬢に対し、俺はこっそりと溜息を吐いた。ああいったものに慣れていなければ気づかないだろうが、俺にとっては非常にわざとらしく見えるのだから、当然だ。

それは勿論、日頃から『素敵な騎士様』を装う某人物がいるせいである。あの人の二面性を見慣れていれば、あの程度の演技になんて騙されはしない。

そもそも、ミヅキからして『元の世界では、犯罪歴皆無の民間人だった』などと自己申告している珍獣なのだ。アベル共々、『寝言は寝てから言え!』と突っ込んだのは、余談である。

恐ろしいことに、これは嘘偽りない事実らしいが……その割には、ミヅキは嬉々として裏工作に興じる訳の判らない一面を持っていた。自己中らしく、自分に正直なミヅキは心底、裏工作を楽しむのだ……!

ミヅキ達と付き合う中、俺とアベルは学んだ……『本能を信じろ』と!

俺達にあるという、ミヅキ曰くの『危機回避能力』。それが作用するのか、何となくだが、俺とアベルは直感的に『何かヤバい』と感じ取ることができた。それは当然、人にも作用する。

理屈ではなく、何らかの理由があったからでもなく、ただ『ヤバい、近寄るな!』と感じ取るのだ。これでは、誰にも理解できまい。俺達だって、説明に困る。

だが、ミヅキやエルシュオン殿下達はそれでいいと言う。本能からくる警告と、俺達が母親から受け継いだ能力を信じているから、それを証明するのは自分達の仕事なのだと。

それは俺達に向けられた、無条件の信頼と言えるだろう。

だからこそ、俺達はミヅキや殿下達が大事なのだと思う。

だって、そうだろう? そこまでの信頼を向けてもらえる騎士が、どれほど存在するというのか。

彼らは愚かじゃない。……いや、『愚かでいることを許されなかった』。それはアルジェント殿達が二人を守る様を見ていれば、嫌でも理解できる。

危険から遠ざけ、何も教えなければ、ある程度は平穏な生活が送れるだろう。だが、想定外の事態が起きた時、必ずしもその守りが継続されるとは限らない。

殿下はそれをよくご存知だった。これまで、ご自分の才覚と機転で乗り切ってこられた。だからこそ、ミヅキにもそれができるような教育――いきなりゼブレストに放り込んだのは、これらを学ばせるためだと思う――を施したのだと、今ならば判る。

まあ……その結果、言葉遊びが得意で、多種多様な切り口を見せる魔導師になってしまったわけだが。殿下が叱れば、一応は言うことを聞くようなので、些細なことなのだろう。

……ミヅキ、元から自己中だしな。あれは絶対に、殿下のせいじゃない。元々の性格だ。

そんなことを思いながら、先ほどから始まった『茶番』を眺める。基本的にはルーカス様と令嬢が口論をしているような形だが、そこにミヅキ達が混ざり、『仕事』をこなしていた。

令嬢達を追い詰めることは勿論、彼女達を煽り、正論を口にして、反論を潰す。異世界人であるミヅキが理解できている以上、『知らなかった』なんて言い分は通らない。中々に悪質だ。

そして何より、傍に付いている守護役達がそれに輪をかけて悪質だった。いや、仕事という意味では正しいのだけど!

セイルリート将軍……ミヅキに張り付く必要、ありませんよね!?

アルジェント殿にクラウス殿……何で、ミヅキを愛しい者を見る眼差しで見てるんです!?

アルジェント殿とクラウス殿は完全に面白がり、セイルリート将軍に便乗していた。どうやら、事前に役割分担ができているようで、今回はセレスティナ姫が主にミヅキの護衛を担っているようだ。

唯一の女性守護役なので、ある意味、正しい選択とも言える。……日頃は守護役として行動する機会のないセレスティナ姫がごねたから、ということではないだろう。多分。

この采配は、サロヴァーラから派遣された騎士への配慮も含まれているように感じた。日頃から一緒に居る守護役達が出張って彼の仕事を奪えば、ティルシア姫が拗ねるだろうしな。

ジークフリート殿とお目付け役であるキース殿は……ライナス殿下とセリアン殿の護衛役といったところか。この二人は言葉遊びや交渉といったものに向かないため、戦闘能力重視で役割が決定したのだろう。

……まあ、それでも時に鋭いことを言って、場を凍り付かせるのがジークフリート殿なのだが。そこはキース殿に頑張ってもらいたいところだ。健闘を祈る。

問題はメインの守護役三人……アルジェント殿、クラウス殿、セイルリート殿の三人、だろうな。

彼らは揃って、性格が宜しくない。今回はうちの殿下が怒っている――商人達を軽んじられた上、ミヅキに仕事が回った――から、敵に向ける優しさは欠片もないだろう。

現に、セイルリート将軍は明らかに公爵令嬢を煽っている。日頃はミヅキにべたべたしていないので、俺からすれば、違和感しかない。……違和感しかないのだけど!

腹黒くとも、彼は中性的な美貌の持ち主。妙な説得力を醸し出している。

相手がミヅキだろうとも、『最愛』とか言われたら、信じてしまうかもしれない。

実際には、『悪ガキどもが揃って、悪戯に興じている』という表現がぴったりなのだが、他国には守護役達の本性はバレていまい。バレているなら、間違っても優良物件扱いはされない。あれらは揃って事故物件なのだから。

視界の端に、俺の片割れこと、アベルが映る。何とも言えない表情でミヅキ達を眺めているアベルだが、傍に行くことはないようだ。似たような表情になっているに違いない俺とて、今のミヅキ達に近づきたくはない。

ぶっちゃけ、怖い。俺達、ミヅキ達の玩具になりたくない!

公爵令嬢達が果敢にも獲物に立候補してくれているのだ。ここは彼女達のための舞台と割り切って、静観させてもらおうじゃないか。

どうせ、最後にはキヴェラ王が出てくるのだ。それまで無駄な足掻きをしてくれれば、殿下も面白がる……いや、喜ぶ……も違う、えーと……溜飲が下がるだろう!

俺達は給仕。ただの給仕。ついでに殿下からお仕事を依頼されていようとも、あくまでも雑用兼記録係。

頑張れよ、元凶ども! 殿下やキヴェラ王が大笑いするくらい面白い対応をして見せれば、少しくらいは救済の道が開けるかもしれないからなぁっ!

……。

その後、見世物コースが更に酷いことになること、確定だけど。ま、俺達には関係ないしな!