軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

煽り、煽られ、夜は更けゆく 其の一

公爵夫妻は騎士達に連れられ、会場の隅へとドナドナされていった。方向的に娘がいる方とは逆なので、自分の両親がすでに退場――会場にはいるけど、会話には参加できない――させられているとは思うまい。

「ふふ、これで元凶達に集中できるわねっ♪」

やりぃ! とばかりに上機嫌で呟けば、ルーカスの片眉が上がる。

「貴様、それを狙ってワインをかけたのか」

「いやぁ、暴力禁止だって言われてるしね」

「当たり前だ! 普通は夜会で暴力沙汰になどならん」

そうかぁ? 私は結構、色々言われたりするんだけどなぁ? 私がどう思うかは別として、嫌がらせとかされるし?

そもそも、魔導師は『世界の災厄』として知られる超危険人物じゃないか。そんな奴に喧嘩を売って無事で済むなんて、普通は思わないだろうにねぇ?

「ミヅキ、貴女は危険人物に見えませんから」

笑いを堪えながらアルが指摘すると、ルーカスは暫し、私を見つめ。

「……確かに、これを危険視しろという方が無理だな。なるほど、それでお前は喧嘩を売られる……『被害者』という立場を手に入れていたのか。姑息な」

褒めているのか、貶しているのか、判らないことを言った。ヴァージル君とサイラス君はそれを聞き、納得の表情で頷いている。

煩いぞ、ルーちゃん。私は基本的に報復専門なんだから、仕方ないじゃない!

「それを利用している時点で、性質が悪いと理解したらどうですか?」

「喧しいっ! サイラス君、ステイ! 良い子は黙ってお仕事してなさい!」

「自覚があるじゃないですか、アンタ」

呆れた目を向けてくるサイラス君はスルーです、スルー。

今回のメイン……公爵令嬢達は漸く私達に気づいたのか、皆様でこちらに向かっているみたいだし、私達もお仕事をしようじゃないか。

「取り巻きは四人か。……この騒動を察しながらも一緒に居るあたり、顔で選んだわねー」

暗に『お馬鹿さん揃いかい、取り巻きは』と呟けば、ルーカスが溜息を吐く。

「……否定はできん。だが、血筋やリーリエが我儘を許されていた状況を知っていれば、『ご機嫌取りをする価値がある』と判断しても、仕方ない」

「ありゃ、そんなに我儘放題だったわけ?」

「まあ、な。今だからこそ言えるが、キヴェラ内、しかも俺や父上が抑え込める程度の我儘で済むなら、問題なかったんだ。……世代交代と共に、消えるだろうからな」

「あ〜……なるほど、そのための布石だったわけか」

多くの問題行動を逆手に取り、表舞台から退場させる。それこそ、彼女……リーリエ嬢が好き勝手できた理由だろう。

彼女が王子達の従姉妹である事実は消えないので、囲い込みというか、飼い殺す理由が必要だったのか。彼女の兄弟達とて、両親やリーリエ嬢の問題行動があるならば、ある程度は強気な行動に出ても周囲の理解が得られたはず。

「まさか、他国に迷惑をかけるとは……」

頭が痛い、とばかりの呟きに、私を含めた皆は同情の籠もった視線を向けた。う、うん、確かに、これは予想外の展開だったと思うよ、ルーちゃん。

まあ、リーリエ嬢の手を取ったアルベルダの近衛騎士も問題なんだけどさ! ……『運命の恋』にしては、ちょっとばかりおかしいとは思わなかったのかねぇ?

相手はキヴェラ王の姪姫だぜぇ? 他にも優良物件がいるというか、普通ならば選び放題な立場じゃん。

「ある意味、お似合いの二人だったんでしょうね。自分の状況を利用することに長けた子と、野心を持った騎士。お互い、好き勝手なことをして生きるならば、良い組み合わせだと思うわよ?」

「だが、あまりにも軽率過ぎないか?」

宰相補佐様の言葉に、ライナス殿下が首を傾げる。だが、宰相補佐様は呆れたように肩を竦めた。

「そこまで頭が回らないのでしょう。目先のことは考えられても、その後、もしくは周囲の状況にまで注意がいかない。ああいった方達は基本的に、自分が最上位だと思っていますから」

『ああ……』

心当たりがある皆様――私を含め、ほぼ全員――が納得の表情で頷いた。そうか、やらかしてるのがキヴェラの公爵令嬢だから厄介なだけで、自国の野心家(小者)として考えると、珍しいタイプじゃないのか。

「じゃあ、まずは取り巻きとお相手の撃破かな」

言いながら、獲物達に視線を向ける。ルーカスがいる時点でそれなりに目立ってはいるが、餌役の皆は基本的に顔がいい。リーリエ嬢ならば、嬉々として餌に食いついてくれるだろう。

そういった状況が面白くないのが、元凶の片割れ――アルベルダの近衛騎士。まずはこいつの排除といこうじゃないか。取り巻き連中は……別に逃げてもいいか。拾ってくれる物好きがいたとしても、大したことはできないだろうしね。

そんなことを考えていると、リーリエ嬢ご一行が目の前に現れた。ほんのり頬を赤らめているのは、こちらの面子の顔面偏差値の高さゆえだろう。

うん、顔がいいのは認める。それは事実だ、間違いない。

でも、中身は事故物件だらけです。下手に突くと危ねぇぞ?

「お久しぶりですわね、ルーカスお兄様」

軽く首を傾げて、挨拶するリーリエ嬢。この世界的には小柄な部類で、垂れ気味の大きな瞳の彼女は、確かに愛らしい。

内面はともかく、リーリエ嬢は守ってやりたくなる外見というか、甘え上手な末っ子気質のように思える。これなら、『お強請り』も可愛らしく見えるだろう。

だけど、それはリーリエ嬢も自覚しているに違いない。判っていて、利用している気がする。

今も上目遣いで可愛らしく挨拶をしているが、さりげに『ルーカスお兄様』と口にしているじゃないか。これ、ルーカスから事前に話を聞いていなければ、『妹のように可愛がられている従姉妹姫』と誤解しても不思議はない。

公爵夫人のように嫌味を言わない点も、そう見える要素となる。中々に強かというか、あざといお嬢様だ。

「俺は兄と呼ばれることを許した覚えはないが」

「あら……ですが、私にとっては尊敬するお兄様ですのよ? そのように言われてしまうなんて、悲しいですわ」

嘘 を 吐 け !

ついつい、心の中で突っ込んでしまう。皆の表情は変わらないが、私と似たような心境だろう。ルーカスに至っては、忌々しそうに視線を鋭くしているじゃないか。

「ほお……その割には、お前を諫める言葉は『一切』聞かないのだな?」

「ルーカスお兄様は厳しくていらっしゃるから……」

軽く拗ねたように言い訳するリーリエ嬢に、ルーカスは少しの情も見せることなく蔑んだ目を向けた。

「ならば、はっきり言おう。婚約者ができたならば、男を侍らせるな。貞操観念が疑われても、文句は言えんぞ」

『な!?』

言われた苦言に反応をしたのは、リーリエ嬢……ではなく、取り巻きの皆様だ。

これまで直球で言われたことがない――というか、普通はここまではっきり言わないだろう――のか、予想以上にきつい言葉に、驚いている模様。

そだね、普通はこんな風に言わないね。だって、私達という、部外者の前だもの。

『自国の恥になるから、言わない』よね、普通なら。王子であるルーカスがそんなことを口にすれば、私達はリーリエ嬢とお友達の関係を、下世話な方向に勘繰るかもしれないから。

リーリエ嬢もそれを見越して『ルーカスお兄様』と言ったのだろうが、この状況を利用したのはルーカスも同じだったわけだ。ルーカスの反撃に、ほんの一瞬、リーリエ嬢の視線が険しくなる。

「ルーカス様、それはあんまりです!」

「そうです! 我々は良き友人ですよ」

現在のルーカスの立場が微妙なせいか、『お友達』から反発が来るが、ルーカスはそれを鼻で笑った。

「はっ! お前達こそ、リーリエの友人ならば弁えろ。それとも……お前達の家ではそう習うのか? 姉妹がいる者もいたと思うが」

「それは……っ。ですが、あんまりな言い方では? そもそも……」

そう言うなり、『お友達』の一人は私へと視線を向け。

「そちらの女性とて、男性達に囲まれているではありませんか!」

予想通りのことを言った。こう言ってくることを見越して黙っていたのだが、ここまで予想通りだと笑いが込み上げる。

そんな私の態度が気に食わなかったのか、『お友達』の皆さんは私を睨み付けてきた。……そこに、呆れたようなルーカスの声がかけられる。

「当たり前だろう、こいつは魔導師だ」

「は?」

「キヴェラを敗北させた魔導師だ。ここに居る大半は守護役達だぞ? 勿論、そればかりではないが、親しい付き合いのある者達ならば、会話をしていても不思議はあるまい」

ルーカスの解説にぎょっとするも、彼らの視線の先に居るのは『威厳がない』と評判の私である。彼らの表情を見る限り、半信半疑といったところか。

「彼女が……?」

「ええ、事実ですよ」

脅えられても困るので、無難なお返事を。私が望むのは『魔導師に喧嘩売った!? やべぇ!』という状況ではなく、『言葉によって、プライド木っ端微塵』というものなのだから。

……性格が悪い? はは、今更ですね! 魔導師限定でビビるのではなく、こいつらが表に出て来られないようにしなければ、何を仕出かすか判らないじゃないか。

リーリエと付き合う中で、公爵家の弱みになるような情報を入手していないとも限らない。次代のため、消えていただきますよ?

「へぇ……わざわざキヴェラまで来て、どういったお話を?」

「キヴェラとイルフェナの共同事業について、ですよ」

嘘ではない。そこに罠も含まれるだけで。

「おや、それなのに守護役達が必要なのですか? ……貴女の方が付き添いではなく?」

「おい!」

「申し訳ございません、ルーカス様。ですが、イルフェナとの共同事業と聞けば、興味が湧くのも当然では? それに……彼女の守護役達は公爵家の者が大半と聞いています。ならば、魔導師殿の方が護衛を担っても、不思議はないでしょう?」

探りを入れてくる男は中々に、情報を得ているらしい。というか、『共同事業』という言い分を疑っているっぽい。もしくは、交渉を有利に進めるため、脅迫の意味で私が付いてきたとでも思ったか。

それに加え、『魔導師は世界の災厄』という名の通り、彼は私を単純に戦力として見ている模様。それらのことから、ルーカスの今後に関係があると予想をつけたのだろう。

なるほど、だから強気でいられるのか。『イルフェナの関わる共同事業が事実、もしくはルーカスの今後に関係することならば、この場で暴れまい』って思ってるわけね。

私は『キヴェラには力業で勝利をおさめた』と言っても過言ではないから、そう思うのは当然かもしれない。そこに『魔導師はエルシュオン殿下に懐いている』という情報が加われば、確かに、この場で何を言おうとも安全に思えるだろう。

普通に考えて、私が自分の意志でキヴェラにやって来るとは思わんよね。これまでのキヴェラの在り方から警戒心を募らせ、魔王様より公爵家の人間達を守れと命じられた……と考えた方が、自然だろう。

でもね、それは大きな間違いです。私は頭脳労働職であり、『嫌な方向に賢い』と評判です。

それでは早速、頭脳労働職の本領発揮といってみましょうか!

「彼らに護衛は必要ありませんよ? だって、私の守護役に選ばれるほどなんですから」

「は?」

「ですからね? 『キヴェラに力業で勝利できるような魔導師』を『抑え込める存在』が守護役なのですけど。……気づいていなかったんですか?」

お馬鹿さんねっ! と明るく言えば、男はぽかんとした表情になった。なまじ守護役達の見た目が良いので、一定数は彼らの強さを過小評価する連中がいるのだが……実際に目にすると、笑えるな。

「そうでなければ、守護役になる意味がないでしょう? 彼らを過小評価しているのか、それとも守護役という名目で交渉にあたる人材を連れて来たと思ったのかは判りませんが、どちらもはずれです。私が今回の共同事業に協力していることは事実ですし、この夜会に私自身が招待されたことも本当。ですが……」

そこまで言って、ちらりとアル達に視線を向ける。

「貴方が彼らの強さを疑ったこともまた、事実。先ほど仰ったように、守護役達は公爵家の人間が大半です。そんな家に生まれ、自身の努力によって今の地位に居る以上、当然、それに見合ったプライドがあるのですよ」

奴らのプライドは山より高く、その努力を馬鹿にされた場合、怒りは海よりも深い。公爵家の人間が自分より格下に過小評価されて、怒らないはずはないだろー?

勿論、この男にそんな意図はなかったと思う。だけど、私を『守護役達の護衛』なんて言っておいて、ただで済むはずはない。

「おや、貴方達には私が弱者に見えますか。ミヅキの能力が過小評価されたことも、腹立たしいですね」

「ほう……なるほど、俺達は魔導師を抑え込めるようには見えんか。公爵家の人間だからこの場に居る、と」

即座に反応したのはアルとクラウス。クラウスは目を眇め、アルは微笑んでこそいるが、目が笑っていない。

「私は弱者ではないと、自負していましたが……そうですか、それほどにか弱く見えるのですね」

憂い顔をわざわざ『作った』セイルが、溜息を吐き。

「つまり、俺達は主の命も果たせないように見えたと。ミヅキが俺達の護衛ならば、守護役を名乗る者達は彼女のご機嫌取りのように思われているということか?」

不機嫌そうなジークが直球で言い切った。

男にそんな意図はなかろうが、傍から聞いていると、ジークが言った意味にしか聞こえまい。身分的には私の方が公爵家の人間を守るべきなのかもしれないが、彼らは守護役――『魔導師の抑え役になれる実力と忠誠心があると、判断された者』。

そもそも、私は見た目が小娘。そんな奴に守られていると思われるって、騎士としては屈辱じゃないのかね?

「わ、私はそんなつもりではっ!」

「ですが、貴方の言い分ではそうなりますが。『魔導師に守られる程度の実力しかない騎士』という言い分が前提になった場合、彼らが守護役としての役目を果たすならば、『魔導師のご機嫌取り』しかありませんよ」

飛躍し過ぎと思わないでもないが、抑え込む実力がない以上、魔導師を誑かす以外にできることって何。奴らの顔が良い分、説得力は絶大じゃね?

自分の言ったことが予想外の事態を招いたと気づき、男は顔面蒼白だ。だが、そこを更に突くのが私であ〜る!

「イルフェナどころか、ゼブレストやカルロッサの公爵家まで敵に回して、大変ですね」

ジークは伯爵家の人間だが、父親である当主は王弟。宰相補佐様がいい笑顔で『やれ』と促しているので、公爵家として扱ってもいいだろう。

「身分を重視される方ならば判ると思いますが、彼らは公爵家の人間としても、騎士としても、馬鹿にされたと判断していますから、頑張ってくださいな」

「ひ……」

恐れ慄いたって、無駄だぞ? 自分で蒔いた種だ、自分で刈り取るがいい。